上 下
566 / 1,290

第560回。カオルちゃんのブラックブレイン

しおりを挟む
みんな、ブラックブレインって漫画を知ってるかな?
サガノヘルマーさんという漫画家さんによって週刊ヤングマガジンで90年代半ばごろから連載されていた可愛い女の子とグロテスクな邪進化人類がわんさか出てくる傑作で、未来の人類ヒテロ・サピエンスのエージェント・アガサ森田によって黒い脳みそ、
受波脳(ジュパノー)
を埋め込まれた男子高校生、宮前カオルの戦いを描いたエログロバトル漫画なのだ。

これを小学校のときにジャストミートで読んじゃったらそら性癖も曲がるわってぐらいの凄まじさ。
何しろ可愛い女の子はわんさか出てくるけど、そのほとんどが残酷に殺されたり、異形の怪物に捕まって自分も改造されちゃったり食われたりする容赦のなさ。
この手加減無用のストーリーに、個性的な邪進化人類どもが跳梁跋扈するさまがクセになる。

邪進化人類ってのはヒテロのエージェント・アガサ森田が言うところの、ヒテロに進化せずに別の道をたどってしまった人類のこと。
ヒテロが正史となるに至る前に別の進化を遂げられてしまうと、ヒテロの世界は消滅してしまう。だから、事前にその芽を摘むべく暗躍するのがアガサ森田たちであり、その尖兵として選ばれたのがカオルちゃんだったというわけ。ちなみに邪進化人類の萌芽もアチコチに色んな奴が居て、その探索と駆除の手間を省くようにアガサ森田の手によって時空が操作され、カオルの身辺で事件が起こりやすくなっているという説をどっかで見たけど本当だろうか。

のっけから人類は外骨格になるべきだ!という結論に至りトチ狂ってしまった科学者とその一家が出てくる。全身包帯グルグル巻きの美少女の正体は完全なる外骨格人間。
自分の妻を不完全な外骨格人間に改造し、より昆虫に近い形にしてしまうなどやりたい放題。
最後はその娘の一撃を食らって絶命し、母親も娘も…。

こんな風に救いも情け容赦もないお話が続くなかに、エロとギャグが混在する。
まさにカオス。
ヒテロ世界は肉の世界で、旧人類のあらゆるパーツは全て資源として利用されている。そのため、未来の地球は肉色の大地に覆われているというのがもう…とんでもないスケールでとんでもないことを考えているといえよう。
劇中でも損傷した延髄だけを抜き取って修復したり、そのためのルーペがおっぱいの形をしてたり、アガサ森田の頭のカバーをパカっと外すと本場ホンモノの受波脳や性感帯にもなるらしい触手が出たり、体のイメージを内側から破壊して外見まで変化させてしまい、人間がただの箱型の肉塊になったりとやりたい放題。これでも青年誌だからということで抑えていた部分があったとするならば恐ろしい話。

私が特に好きだったのは、その箱肉人間が出てくる鳥人間編と、カオルの妹が出てくる海洋生物編。
あとホモ・デジタリアンというヒテロ世界を脅かした邪進化人類との一連の戦い。
人間を機械の体にして未来の力で操り、そこから段々と機械人間を増やし、しまいにはホモ・デジタリアンと呼ばれるテレビに巨大な目玉がついたような存在になろうとしていた種族だ。
私のなかにずっとある頭クルクルパー小説、その世界にあるテレビに目玉、デジタル、無機質なものの内側のとんでもなく醜悪な肉と血と膿と臓物っていうのは、大多数がほぼ間違いなくこのサガノヘルマー先生の作り出した世界に影響を受けたものだと思う。残りは椎名誠さんと飴村行さんの小説とかだとも思う。

テレビ人間ことホモ・デジタリアンはヒテロ世界にも無機物をジジジっと出現させるほどの影響力を持っていて、つまり未来が変わってしまうと時空がねじれて、ヒテロ世界は消滅してしまうことになる。
デジげじっ編(敵ごとにそういうイカすサブタイトルがついてた。アリぷちっ編とかバイぶすっ編とか)では少年の体にホモ・デジタリアンの技術を埋め込んでゲジゲジみたいな触手を伸ばし相手に突き刺すことで自由に操れるようにしたり、操られた女教師が実に加虐心をくすぐるキャラだったり、美人は手あたり次第エッチな命令を下し、嫌いな奴らは片っ端から殺したり壊していく。この子供ゆえの遠慮のなさが逆に恐ろしかったりもして。
その次の(サブタイトルは忘れてしまった)潔癖症の女の子の話では、伊集院と呼ばれる同性愛者のストーカーや彼女に惚れた男を次々に人体実験にかけて自らも機械の体を手に入れてゆき、しまいには子宮とホモ・デジタリアンの時空が繋がっていることからカオルの受波脳がそこからホモ・デジタリアンの本拠地に飛び、テレビ人間たちを次々にぶっ壊していくという展開が繰り広げられた。表面は完全な無機物だが内部は臓物がみっちり詰まっており、痛みにのたうち回ることも出来ずただ巨大な目玉を充血させ悲鳴を上げることしかできない…って物凄く怖いというか恐ろしいというか。そしてしまいには、このホモ・デジタリアンの時空は消滅してしまうことになる。鳴り響く放送で最期の時を待つテレビ人間の気持ちを考えると、何とも言えない気分になる。
だって普通に夕方、公園のスピーカーから
「もうすぐこの時空は消滅します、しかしまだ望みはあります。希望を捨てずに運命の時を待ちましょう」
って放送が流れたらどうするよ。治安も秩序もへったくれもなくなるだろう。
逆に身動きどころか身じろぎひとつ出来ないテレビ人間が破滅を待つしかない、しかもそこには侵略者の末路ではなく恐らくその世界での普通の日常も数多く存在したわけで、それすらも容赦なく崩壊させる。
あのホモ・デジタリアンとの戦いは私的に見たブラックブレインという作品のピークの始まりで、そこから鳥人間までが物凄く面白かった。

いまは電子書籍や復刻版も出せたりする世の中なので、是非中野から再び21世紀の地球に、ブラックブレインの波が押し寄せてほしいものだと思います。
今度東京行ったらヘルマーランドに巡礼しなくては…!誰かキッドさんといっしょに中野行こ。
しおりを挟む

処理中です...