不定期エッセイ キッドさんといっしょ。

ダイナマイト・キッド

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第592回。あぶくのはなし

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あぶくが好きだ。
クレイジーケンバンドの「あぶく」
という歌のイメージが一番近いかもしれない。
シャボン玉やバブルではなく、あぶく、というのがいい。

水の底から上を見て、ごぼごぼ、と浮かんでいく大小いくつかの丸と丸。
そういうあぶく。

青い青い、雲はあってもなくてもいい。そういう空に浮かんでいるところをよく思い浮かべる。
空にあぶくを思い浮かべる、という言い方がちょっと綺麗か。

ぽっかーーーーん、と音がしそうな青い空を見上げていると、自分の顔の位置から遥か高くまであぶくがのぼってゆく気がして。
海と空、水と自分の境目がなくなって、そこを分け隔てて消えてゆくのがあぶくで。
あぶくが消えたところをずっと見ていると、自分もあぶくになって空に浮かんで消えてゆける気がしないか。

頭クルクルパー小説なんてものを自分で書いてて自分で思うけど、空とか海とか水の中とか好きだなあ。
あまり山の中とかそういう描写が出てこないな。
山も好きで、バイク持ってた頃はよく一人でツーリングに行ったし、今でも車でドライブすることがある。愛知県は結構な田舎が残っていて、窓を開けて走ると濃密な緑の匂いがして好きなんだよな。
今の時期は四谷の千枚田っていって段々になった田んぼが稲刈りの時期で見ごろなんだ。その千枚田を抜けてトンネルを抜けてもっともっと山奥に行ってみたいんだよ。

何年か前に随分走ったし、ゼンリンで地図を書く仕事してた時に歩き回った土地もあるから、断片的な記憶だけが残ってる。それを繋げていきたいと思ってるんだけど、ガソリンも高いし、今は仕事で日がな一日トラック走らせてるからかそんなに運転したいと思わないんだよなあ。
そうは言っても知多半島行ったりしてるのは、やっぱ知らない土地だからなんだろうな。

知らない土地を初めて走ると面白いし、その次にはここを曲がってみよう、この坂をのぼってみよう、って思うから暫くは楽しいけど、いつの間にか知らなかった道が目に馴染んで記憶に染みついていく。
んで飽きるんだけど、また何年かしたら記憶がおぼろげになるんで改めて走る。
なくなってる建物があったり、コンビニやお店が出来てたり、分譲住宅になってたり……下手すると新しい道路が出来てたりする。特に愛知の山奥は新東名だとか佐久間バイパスだとか今も色々作ってるんで、そのために他のフツーの道路が奇麗に広げられていたりするし。

海と空に飽きたら、山と空でもいいよな。
ゼンリンの調査で延々と山道を歩いて、空を見上げて、梅雨時だったんでどんよりしてたり雨降ってるときもあったけど、あの道をもう一度バイクで走った時はよく晴れてて。
ああ思い出した、旧富山村のあたり、三沢小学校ったかな?あの辺りを走ってて。
ながーーーい坂道の向こうに入道雲があってさ。

なんだ、結構思い出すもんだな。

山奥の狭い道路の両脇から生い茂った木立がぐーっと上に向かって縮小されていって衛星写真みてえになって一面の緑になった画面から浮き上がるようにあぶくがぼわっと出たらいいよな。

海と空が好きなのは、何が切っ掛けなんだろう?
昔から好きなんだけど、別に海のそばで生まれ育ったわけでも、海で何かあったわけでもない。
昔サーフィンやってたお姉さんが波に流されてっちゃったのをどうにか助けたんだけど、そのあとで一緒に海に行ってた同級生の大野に邪魔されたのを未だに忘れてなかったりはするけど。アイツ元気かな大野。
落語家になるって張り切ってたんだけどその日ずいぶん悪酔いして絡んで来たり一人でベラベラつまんねえこと喋ってたんであんよにアツいのを一発くれて居酒屋の駐車場に放置して以来会ってねえな。
まあ死にゃあしねえか。アイツの事だ。

そんな風に、随分仲が良かったり一緒にいたのがいつの間にか会わなくなる人もいるし、今有難いことに遊んでくれる人やここを読んでくれる人とも、そのうちそんな風に潮が引くように離れたり、また引き寄せられたりするんだろうな。まあ、同じ人に前と全く同じに引き戻されることはまずないけども。
そんな風に寄せたり引いたりしてるもんをイチイチ悩んだり気に病んでも仕方がねえんだけども、寄せるか引くかしかねえもんだから悩むしかねえんだよな、波にのまれているうちは。

今年もあんなに暑かった夏がなんとなく終わってさ、冬になったら早いなあなんて言うんだぜ。もう半年、もう1年、どんどん過ぎてく。
いま32歳だけど、なんかまだ22歳からそんなに考え方とか行動力とか変わってない気もする。進歩がないってのもどうかとは思うし、自分で思ったより経済力がないけども(笑)
むしろ22歳の頃よりやりたいことが多いし、行きたい場所も、会いたい人も多い。
いつかそうやって一つ一つ知らない道を歩いて走っていって、そこに浮かぶあぶくの見上げてはまた一人の部屋に帰って、空の青い青い向こう側に消えちゃったあぶくを思い出して、何かの形にして書き残しておけたらいいなと思うよ。
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