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第618回。キッドさんはダイナマイト・キッドが好き。

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皆様こんばんは!
ダイナマイト・キッドです。

最近、おんなじフリーダイヤルから何度も電話がかかってきます。
その都度着信拒否登録をするのに毎回かかってきます。
設定が間違ってる…?なんでこっちがそんな気をもまなくちゃならねえんだ!誰だ!!
でも出てやらねえ!どうせあれだろ、楽天でウッカリ申し込んだしじみのサプリとかだろ。
鬱陶しい、高速ブレーンバスターからのストンピング乱れ撃ちでぐったりしたところをダイビングヘッドバッドで仕留めてやろうか。
このフルコースでピンと来た方はダイナマイト・キッドのファン。私じゃなく元祖、オリジナル、というか世間一般で言う伝説のプロレスラー、ダイナマイト・キッドのこと。

私もその一人で、もうずっと小さなころから大好きだ。たぶん生まれて初めて見たプロレスラーだし、生まれて初めてファンになったプロレスラーだ。
あれは、まだ幼稚園ぐらいの頃だった。当時の私は鉄道と仮面ライダーBLACK RXとウルトラマンが好きで、当時衛星放送のBS11でウルトラマンタロウの再放送をやってたんでそれを欠かさず見ていた。けどその放送は予告編も流れず、しまいには終盤のドルズ星人&うろこ怪獣メモール辺りでパタっと放送が停まってしまった。んで、そんなときにレンタルビデオ店で一本のビデオテープを見つけた。
そこには沢山の名前と数字がズラっと並び、その中に
ウルトラマン
と確かに書かれていた。ので、それを借りてみたらコレがビックリ。
確かにウルトラマンなのだが、それはメキシコからやってきたプロレスラーのウルトラマン。
実際のウルトラマンには似ても似つかないデザインだが、対戦相手のタイガーマスクとの好勝負も相まって中々の見ごたえがあった。
要するにパッケージにズラっと書かれた名前や数字は、リングネームと年号と会場と60分1本勝負、とかそういうのだったわけだ。

が、私の運命はこのすぐあとに決まった。
タイガーマスクVSウルトラマンのほかにも沢山収録されていた試合のうちのひとつ。
それが、タイガーマスクVSダイナマイト・キッドだった。
背丈はそんなに大きくない、特にあの頃のプロレスラーからしたら相当小柄な部類にはいるのに、筋肉はモリモリを通り越して
表面張力の限界
などと言われるほどの発達ぶり。髪型は坊主刈りだったりロン毛だったり、始終しかめっ面だが端正な顔をしている。幼稚園児でもイギリス人だとわかるユニオンジャックのロングタイツ。
そして何より良かったのが、その胸板や背中が凄く綺麗だったこと。胸毛や腋毛が全然ない。
私は女性の、特に可愛いと思うひとの腋毛は大歓迎だが男のムダ毛は割と嫌いで、自分のでも嫌なぐらいだ。だからプロレスラーでも力士でも出来れば毛むくじゃらじゃない方がイイ。
80年代の筋肉レスラーはみんな綺麗な肌をしていて、ダイナマイト・キッドもそのご多分に漏れずといった感じだった。

この戦う貴公子とも言われるほどの美しい肉体とハンサムフェイスの持ち主はしかし、下手な怪獣や悪役レスラーより凶暴で手が付けられない暴れん坊だった。
しつこい反則を繰り返す如何にも悪党といったレスラーよりもよっぽど乱暴だし、その激しい打撃でタイガーマスクをボッコボコにしてしまった様を見て私はすっかり魅了されてしまったのだ。

一般的なプロレスの試合とは、やはりレスリングの興行であるという名残からお互いに組んで始まることが多い。もちろん打撃もタックルも関節技も何でもありだから飛びかかろうが腕を掴もうが蹴飛ばそうがなんでもいい。
ダイナマイト・キッドもそんなレスリングの本場イギリスでみっちり修行した実力派でありながら、試合ではそういうところを滅多に見せなかった。
ゴングが鳴るや否や飛び出して取っ組み合って、あとはこめかみや二の腕の血管がメロンみたいになったまま暴れまわる。時々、高度なサブミッションや返し技を見せたり、本人の著作によれば試合中にコッソリと裏技を仕掛けられたが返り討ちにした、とある。能ある鷹は爪を隠すというわけだ。
場外乱闘でも容赦はしない。マットも何も敷いていない体育館のただの床の上に脳天から相手(主にタイガーマスク)を突き刺してしまうこともあれば、観客席とリング周辺を仕切るフェンスがぐにゃりとひん曲がるぐらい叩き付けたり、椅子でもカサでも使えるものは何でも使って相手(主にタイガーマスク)をブン殴る。
ウルトラマンに釣られてレンタルしたら怪獣より恐ろしい男がいた…!

しかし悲しいかな、コレは84年ごろ、ダイナマイト・キッドの絶頂期の姿であった。
私が彼に気付き、そして物心ついたときには、すでに彼はピークを過ぎていた。
あの表面張力の限界と謳われ、血管がメロンみたいになった筋肉には多量のステロイドが使用されていたという。本人の著作によれば常用していたどころか他の巨漢レスラーと真っ向から勝負するため通常の何倍もの量を使用し、しまいには競走馬用のステロイドまで使った(流石に死にかけたらしい)という。

では、あの肉体も、素晴らしいファイトも、全ては偽りのまがい物だったのか。
私はそうは思えない。
少なくとも、そこにダイナマイト・キッドとなった一人の男がいた。
そして彼は強く、美しく、カッコよかった。
ダイナマイト・キッドはその後、長年の激闘がたたって体が不自由になってしまった。
そして現在では恐らく、もう話すことも立ち上がることも出来ないのではないだろうか。

しかしキッドの伝説は永遠にマットの歴史に刻まれたのだ。
もう彼の事はそっとしておいてほしい。
しかし語り継いでほしい。
私は私なりの理由が合ってダイナマイト・キッドを名乗った。なぜこの名前を選んだかと言えば、あの
ダイナマイト・キッド
という男に、結局のところ今でも夢中だからだ。

私は私で、エッセイでも文学でも文芸でもイケ好かねえ連中を蹴りまわして、言いたい放題暴れてやろうと思っている。
くすぶったこともあるけれど、私の心のPURE DYNAMITEの導火線には今でも火がついているのだ。

それでは、またあした。
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