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僕の好きなベレー帽
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僕は愛知県豊橋市に住んでいる。根っからのプロレスファンで、年に数回だけ大阪までプロレスを見に出かけるのが楽しみだった
だいたい前の日の夕方には着いて、そのままミナミに出ることが多い。ネットを通じて知り合った人や現地の友達と合流することもあるし、ひとりでフラッと出歩くこともある
なかで僕が一番お気に入りなのが、地下鉄の難波駅から御堂筋を上がってって少しするとある御堂筋三津寺という交差点を左に折れた、日宝三ツ寺会館だ。とにかく個性的なお店が多く、一時期はネットの紹介記事やテレビでも取り上げられたことがある
ある年の冬、例によってひとりでフラッと入ったのが三ツ寺会館の地下にある
BARプカプカ さんだった
店内は雑多な書籍、漫画、ポスター、楽器、ほか色んなもので埋め尽くされている。むしろ酒場らしいのはカウンターの中だけだ
まるで子供のころ近所に住んでた、物知りでちょっと影のある面白いお兄さんの部屋みたいで、そんなプカプカさんがいっぺんに気に入ってしまった。以来ひとりでも、仲の良い人とも、大阪に行くと必ずと言っていいほど顔を出すようになった
表題の通り、店主の橋本大吾郎さんはベレー帽がトレードマークで、僕はこの人と向かい合って映画や漫画、時々プロレスの話も、取り留めもなく話す時間がとても好きだ
大吾郎さんは物知りで物静かで、でも内なる情熱の青い炎が心の芯のところでめらめらと燃えている人だった。ヒトの話を決して遮らず、カウンターの中でお酒を作ったり好きな落語のプレイリストをいじったりしながら、時には腕組をして身を乗り出して、ふむふむと話を聴いてくれる。大吾郎さんの好きなものの話になると、今度は僕がふむふむと聴くことになる。何故、何が、どこで、いつから……お互いの好きなものを酒と一緒に酌み交わすような幸せなひととき。豊かである、とも言える
文化や文明の大きな流れの、支流の傍流のそのまた端っこの地下水脈で、それを肴に嗜む酒。その酒もまた連綿と続く文化であり、酒場というのも……とめどなく続く話を、時々遮る来客や廊下を行く酔客の声
プカプカさんは三ツ寺会館のなかではオープン時刻が早いので、真っ先に足を運ぶか、遅くまで開いている(午前2時になるとバーテンダーが美しくなる)ので一番最後に寄ることもある。いつも、いつでも、三ツ寺会館の地下で、僕を待っていてくれる目印のベレー帽
いま、大吾郎さんは病気を患って入退院を繰り返している。僕は僕で、なかなか大阪に行けないでいる。行けない理由は山ほどある。行きたい理由も沢山ある
その行きたい理由のデッカイ氷塊のひとつが、大吾郎さんに会いたいというものだ。プカプカさんは日々いろんな人たちが店に立って、そのともしびを守っている
いつか燃え尽きる長い長いロウソクでも、ずっと灯り続ける恒星のようなものであっても。僕にとって懐かしくあたたかな灯りが、この先も灯り続けてくれることを願ってやまない
メリークリスマス、ミスター大吾郎
また乾杯して、落語や映画の話しましょうね
良いお年を
だいたい前の日の夕方には着いて、そのままミナミに出ることが多い。ネットを通じて知り合った人や現地の友達と合流することもあるし、ひとりでフラッと出歩くこともある
なかで僕が一番お気に入りなのが、地下鉄の難波駅から御堂筋を上がってって少しするとある御堂筋三津寺という交差点を左に折れた、日宝三ツ寺会館だ。とにかく個性的なお店が多く、一時期はネットの紹介記事やテレビでも取り上げられたことがある
ある年の冬、例によってひとりでフラッと入ったのが三ツ寺会館の地下にある
BARプカプカ さんだった
店内は雑多な書籍、漫画、ポスター、楽器、ほか色んなもので埋め尽くされている。むしろ酒場らしいのはカウンターの中だけだ
まるで子供のころ近所に住んでた、物知りでちょっと影のある面白いお兄さんの部屋みたいで、そんなプカプカさんがいっぺんに気に入ってしまった。以来ひとりでも、仲の良い人とも、大阪に行くと必ずと言っていいほど顔を出すようになった
表題の通り、店主の橋本大吾郎さんはベレー帽がトレードマークで、僕はこの人と向かい合って映画や漫画、時々プロレスの話も、取り留めもなく話す時間がとても好きだ
大吾郎さんは物知りで物静かで、でも内なる情熱の青い炎が心の芯のところでめらめらと燃えている人だった。ヒトの話を決して遮らず、カウンターの中でお酒を作ったり好きな落語のプレイリストをいじったりしながら、時には腕組をして身を乗り出して、ふむふむと話を聴いてくれる。大吾郎さんの好きなものの話になると、今度は僕がふむふむと聴くことになる。何故、何が、どこで、いつから……お互いの好きなものを酒と一緒に酌み交わすような幸せなひととき。豊かである、とも言える
文化や文明の大きな流れの、支流の傍流のそのまた端っこの地下水脈で、それを肴に嗜む酒。その酒もまた連綿と続く文化であり、酒場というのも……とめどなく続く話を、時々遮る来客や廊下を行く酔客の声
プカプカさんは三ツ寺会館のなかではオープン時刻が早いので、真っ先に足を運ぶか、遅くまで開いている(午前2時になるとバーテンダーが美しくなる)ので一番最後に寄ることもある。いつも、いつでも、三ツ寺会館の地下で、僕を待っていてくれる目印のベレー帽
いま、大吾郎さんは病気を患って入退院を繰り返している。僕は僕で、なかなか大阪に行けないでいる。行けない理由は山ほどある。行きたい理由も沢山ある
その行きたい理由のデッカイ氷塊のひとつが、大吾郎さんに会いたいというものだ。プカプカさんは日々いろんな人たちが店に立って、そのともしびを守っている
いつか燃え尽きる長い長いロウソクでも、ずっと灯り続ける恒星のようなものであっても。僕にとって懐かしくあたたかな灯りが、この先も灯り続けてくれることを願ってやまない
メリークリスマス、ミスター大吾郎
また乾杯して、落語や映画の話しましょうね
良いお年を
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