不定期エッセイ キッドさんといっしょ。

ダイナマイト・キッド

文字の大きさ
1,179 / 1,319

【読書】小説 異世界居酒屋げん【感想】

しおりを挟む
蝉川夏哉さんという作家(富士そば愛好家)さんの本。たいへん売れているシリーズらしく、異世界居酒屋のぶ、というシリーズはドラマ化してコミカライズして、この異世界居酒屋げん、は漫画から小説になったという…掟破りの逆ノベライズ(サソリ固めみたいに言うな)である。

蝉川さんのTwitterをフォローして数年。本を買ってみたのは今回が初めてだ。
異世界モノが得意でないので、投稿サイトに出ている中には面白いものもあったけど基本的に手出ししないジャンルだった。けど、どうせ異世界モノで最初に買うなら蝉川さんのにしようと決めていた。

それで、この異世界居酒屋げんが出て少し経って、近所で昔からある本屋さん(豊川堂さん)を覗いてみたらちゃんと置かれていた。売れている。田舎の本屋さんで新刊が出てちゃんと並ぶって事は今日び余程ちゃんと売れているのだ。

で早速買って来たのが多分5月か4月。
以来さすが苦手ジャンルだけあってちまちま読んでいた。
結論から言うと「ストレスが無さ過ぎて不安になる」「あまりに優しく出来てて落ち着かない」というところ。料理は美味しそう、というか、読んだだけでそりゃ美味いわ、と思える描写がテンコ盛りで、読むと腹が減るという評判の通りだ。
で、その料理人とその娘、その彼氏、姉妹、客……みんなみんなみんなイイ人ばかりだ。

色んな人生を抱えてどうにか生きている、異世界の見た目のよろしい連中が、何故かぽっかりと繋がってしまった現世の居酒屋に集まって来る。そういうハナシ。
その客の一人一人にドラマがあって、それが親切に誤解やすれ違いの無いように進む。
行き違いも、言葉のアヤも、殴り合いの喧嘩も起きない。頑張ってる人は報われるし、辛い思いをした人、ひもじい思いをしている人はお料理や店の人々が癒してくれる。

…私はウツワが小さくて性格が暗いので
「コレ読んで救われるほどみんな生活キツいのか…?」
と、逆にケツの座りが悪くなってしまった。

面白いし、こんだけストレスなく書き連ねてあって、キャラも綺麗で素敵で個性的。異世界の街や人の名前は横文字。たぶんファイナルファンタジーに出て来るような見た目だろう。さらにお店の名前の由来なんか物凄い粋でカッコいい。出て来るメニューも豊富で、たとえばパンを焼くってだけでも人生や法律や芳醇な香りと味わいが浮かぶ物語がある。
色んな魅力のある作品だけど、クリーン過ぎて落ち着かなかった。
日頃どんなものを浴びてるんだ、と言われたらそれまでなんだけど、でも初めて活字の本を読む背伸び盛りの人とか、久しぶりに軽く何か読もうかって人とかを始め誰が読んでもストレスが無い。読みやすい、そして誰も不幸にならない。この本の間口は恐ろしく広い。

何度も言うけど「げん」で出て来る料理とおもてなしを受け止めるだけのウツワが私に無い、容量不足なのであって、コレが素直に楽しめる幸せ、豊かさったらない。
中盤からは店名の由来や、何故こうなったのか、も明かされる。

ただそこに行く前に、私は胃もたれしちゃったのでチビチビとお酒のつまみみたいに咀嚼していた。これは本当に技量と気配りと知識のいる作品だし、売れるわけだよ。
ただ何も起こらない、冒険しない勇者とか結婚しない令嬢とか長いだけのタイトルじゃなく、この一冊の本の中に詰まっているのは一人の料理人と、その家族や仲間の人生だ。

みんなの人生が少しずつ織り込まれていくみたいで、料理や店は装置と媒体なのだろう。
とても面白いし、エラソーに言うなら勉強になる。好きで買って読んだ小説で
勉強になるなあ
と思ったのは初めてかも知れない。もっと「うわおもしれえ!」とか「ナニ食ったらこんなもん思いつくんだ」「いいなあ椎名さんは」みたいな感想は色々持ったけども。

何から何までお利口に出来ていて、それがちゃんと面白い。
こう言う感じでいいんだ、こっから逸脱したり色を変えたりするんだ。
基礎も味噌もなくモノを書き始めて、運よく拾ってもらったおかげで固定ツイートなんか載せてる私には無い物だらけで、だからこそ勉強に感じちゃってたのかも。
ケツの座りが悪いといえば勉強中の教室だろう。

キッドさんは不登校児だったので猶更だ。異世界に繋がってるスガキヤとかあれば入り浸ってたかも知れん(愛知県民だからネ)。

読みました!どれも美味しそうで、お腹減っちゃう!

とだけ言えば無難で、言う方も言われる方も幸せだろう。
だけどやっぱり、自分にとってコレが自分のモノであるかどうか、も明らかにしたうえで、思ったことをちゃんと書こうと思った。でも物語を全部テンから書いちゃうとネタバレどころか害悪、営業妨害なので…あくまで私の気持ちは、こうだったよと言いたかった。

エルトポとか悪魔のいけにえとか見たあとでローマの休日を見るようなものだ。

お店って外から見ると、ずっとそこにあって変わらないようだけどさ。
中は意外とゴタゴタっとして…夫婦親子バイト雇われ店長オーナー、色んな人が色んなこと言って揉めたりキレたりくっ付いたり離れたりしてるんだよね絶対。
それは私の行きつけの中華料理屋さんだって、店主夫婦はトシを取るし、息子夫婦が越してきたり近所に安い真っ赤な看板の中華料理屋が出来たりするし。
ずっと続いているお店や会社が順風満帆、何のトラブルもピンチもなく歩んできたわけがない。全日本プロレスも新日本プロレスも何度も潰れかかってるじゃないか。

そんで潰れたら残らなくって、忘れられて、いつか消えてなくなるんだ。

この本の最大のファンタジーは、そんなドラマとお店と人々が、紙に印刷されて残り、読者の脳裏にも残ること。なのかも知れない。

こんな物語を作って書いた蝉川さんは凄いけど、これ相当の負担がかかる筈だから…よその国やヒトのこともいいけど、もっと自分の心配をしてくれ。
私もTwitter見るのイヤになって最近、見てないけど、蝉川さんのこともちょっと心配だった。直接言うのも不躾だし、ココに書くのもヤラシイ話だけれども。

アンタ凄いよ、だからもっと自分の心配だけしたらいいのに。
私と3つしか違わないのに。何か健康に問題があるのか、なんなのかわからないけど。キツイとか、どうにかなってしまいたいと思う事があるのもわかるし、そもそも小説を書くなんてそういう気質の奴がやるもんだと思っている。自分もそういう時あるから。

Twitterでもやらなきゃやってられないのかも知れないけど、余計なお世話を重々承知で言うと、なんかもっと身近に話せる人やバカ言える人居ればいいのにな、と思うし、少なくともこの世の中で異世界の人々と心を通わせお料理に癒されるお話が書けるくらい追い詰められてるならあんなもん見てるだけ恐怖新聞ばりに寿命が縮む。

俺は初めての異世界ジャンルが蝉川夏哉って大秀才の本で良かったよ。
負けずに別方向に向かって私も走るよ。だから、なんかもうちょっとワガママで身勝手に思うくらいがきっとちょうどいいよ。と言いたい。
本の感想を書くつもりがどえらい大きなお世話を述べてしまったな。
ご気分を害したらすみません。
凄くいい物語を読みました。草平さんみたいなオヤジが居ればな、とも思います。
ウチの亡父も料理人だったけど、こんな甲斐性のある御仁じゃなかったもん。

富士そばもいいけど、たまには味噌煮込みうどんも食べてちょーよ。
そしてあのカレーうどんは愛知県民も納得の美味さでした。
若鯱屋は今すぐコラボするべきだ。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...