不定期エッセイ キッドさんといっしょ。

ダイナマイト・キッド

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武装警察103分署

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鷹樹烏介さんの新作小説が出たので、予約して取り寄せてもらっていました。
近所の老舗書店・豊川堂(ほうせんどう)さん。の本店。
散歩がてら受け取りに行ったり、ついでに他にも本を見たり買ったりするのが最近の楽しみです。

で武装警察103分署。
首都東京を直撃した天変地異からの復興のため、カジノを誘致してリゾート開発するつもりだった場所が諸々の理由から頓挫し崩れかけの廃墟群だけが残された。
その一帯は案の定、凶悪犯罪と犯罪組織の巣窟になってしまい、交通を遮断することで封じ込めには一応成功したものの、極限まで悪化した治安は従来の警察組織では太刀打ちが出来ない有様であった。

そこで、新たに特殊な警察署を設置して対抗していたのだが、相変わらず苦戦を強いられていた。志願し年季まで勤め上げたものには特典が与えられ、さらにスコアと称して凶悪犯を捕まえたら賞金も加算されるこの武装警察に、アメリカから一人の男がやって来た。
表向きは、アメリカアルコール・タバコ・火器および爆発物取締局との人事交流だが、その実態は日本で外国マフィアに雇われ潜伏中の凄腕の殺し屋、通称「決闘者(デュエリスト)」を、その手で殺すため。
名前は長野文四郎。アメリカ各地を巡業していたガンショーの一座の末裔で、父親は西武最強のガンマンと謳われたエル・サムライ(同名のプロレスラーとは無関係)。そしてその父の仇こそ、決闘者だった。

と、まあこれがあらすじ。
内容は主人公で凄腕のガンマンにして様々な格闘技、戦闘術に長けた文四郎と103分署の仲間たち、ヒロインで作中随一の無法者・風間に小倉・阿仁の凸凹コンビがマフィアを相手に撃って殴って爆発させる。ただただ真っすぐ素直に読んでいける痛快な作品です。

読み始めて数ページで抱いた、この作品に対する感想。この一冊の本に、というべきか。
それは
(あっコレは、この一冊じゃ絶対終わらんな)
だった。鷹樹さんの作品での冒頭といえば、事件の始まりだったり事態の説明だったりで……必ず2人組が色んな方法で死ぬ場面。今回も、ああコイツら生きて帰れねえんだろうなあ。と思っているうちに、健闘するものの帰らぬ人となった。

その分量や、文四郎と決闘者の因縁の深さに対して舞台となる103分署の管轄内で起こっている出来事のスケールが合わない。このマフィアどもを潰してゆくことで決闘者を炙り出し、最終的に決着をつけたいという文四郎の思惑と、暴れるだけ暴れてスコアを荒稼ぎしたい風間・小倉・阿仁の思惑が終始一貫合致していることで危ない橋をジープでぶっ飛ばすような物語が進んでゆく。が、幾らぶっ飛ばしても、これでは収まらんだろう。
そう予見させるぐらいのスケールと根深い業のようなものを、早速感じさせてくれる。

つまり、何も心配せず一気に読め!というGOサインが出た。
ってことだ。

文四郎が103分署に加わって、風間や小倉・阿仁とぶつかり合い、やがて危うい信頼関係を築きながらそれぞれの心持が動いてゆく。人間ドラマは正直そのぐらいだ。
あとは4割が銃撃戦(ドンパチ)、3割が殴り合い、残りの3割でその下準備をしている。という大変わかりやすい内容となっている。

警察組織の複雑さ、悪化する一方とは言えまだまだ平和な日本の現状、なぜ犯罪組織の温床となるような事態に陥ったのか。その政治的経済的要因なんかが最初に述べられているけれど、これも恐らく可能な限り簡単に書いてくれている。
さらに凄腕の殺し屋には可愛い女の子がつきもの、というわけなのか(違うと思うけど)文四郎がアメリカに残して来たアンナちゃんのことがふと読者の頭をよぎるくらいで。

あとは昭和の東映か80年代のハリウッドかと言わんばかりの凄まじい描写が続く。
が、皮肉な描写も多い。
問題を起こし、または問題のある雇い主のせいで悪事に手を染めている外国人たちが、しかしカタギとされている一般人よりも健全で、平和な暮らしを手に入れているところ。
制度を悪用し搾取する奴がカタギで、犯罪組織の隠れ蓑になっている団体もある。
敵のマフィアにも色んな連中が揃っていて、一筋縄ではいかぬヤツばかり。

それぞれの事情、それぞれの人生を背負った戦いがずっと続く。
食うか食われるか、食われたら終わり。勝っても戦いは終わらない。負けてハラワタを食い破られるまで。そんな残酷な世界であるにも関わらず、思わず文四郎も感心しそうになってしまう。

ドンパチもボコスカも無い、要するに退屈になりがちな場面を描くのにそうした程よく頭を使わせる描写が入っているのが上手いなあと思いました。
お陰で最終決戦の舞台になった「ベトチ」の本拠地は自分も一時期そこに住んでたってぐらいハッキリと間取りや配置がわかったし、そこがぶっ壊されたり、そこで戦ってたりする有様も、まるで見てきたように浮かび上がる。

無頼漢と無法者ばかりが出て来る小説なのに、真面目で親切で実直な作品。

あとこれは個人的な話も混じってるけど、新宿の酒場で直に聞かせて頂いた、文字通りマジの死の淵から戻って来た小説家・鷹樹烏介という男が描く種々様々な「死にざま」は一読の価値ありです。
人間は簡単に死ぬ。でも、その死を軽んじていないところが、鷹樹烏介さんの作品のいいところ。

読んでいるうちに小倉や阿仁のキャラクターに愛すべきところ、情のやり場が見えて来て。
途中で離脱したり、自分の生き方や性質に疑問を持ったりするところも好きでした。
二人とも生きてこの本が終わって良かった。小倉っていう大男は、前にも出て来た気がしますが同一人物とまでは言わないまでもお気に入りのキャラクターや名前だったりするのかな。

ガーディアン、第四トッカン、銀狐は死なず、そして103分署と。
どのヒロインも圧倒的に癖が強くて魅力的なのもいい。
みんな凄く強いのに、可愛く見えたり弱点があったり。
そのバランスの良さ。今作も健在です。

内容はハードだけど、読者には優しい一冊です。
暴力とか犯罪ものでも普通に読む人、それ系が好きな人、あと映画で言うと
ダーティハリーとニューヨーク1997とポリスストーリーを足してコマンドーとか西部警察で割ったような描写が脳髄で炸裂する
感じかな。そういうのを求めていらっしゃる方にはぜひオススメします。

祥伝社から発売中。

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