ドMなんかじゃない

みきてぃー。

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7.過去と取引

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ピンポーン

「………」

インターホンの音で目が覚めた。

がちゃん、とドアの開く音。
遠くから聞こえる藤宮の「どうもー」とゆう声。


「………」

…まるでデジャヴ。

前にもこんなことあったな…なんて思いながら起き上がる。


「…起きた?」

藤宮がトレイを持ちながら、こちらに近づいてくる。

「うん…」

「とりあえず…食お」

「うん」

私はゆっくりと立ち上がった。
二人でソファに座る。

まだ頭が回らない。

気づいたのは、シャワーに入らずに寝たので化粧もそのまま、髪もベタベタだとゆうこと。

山姥のようなヤバイ顔になってること間違いなかった。

「…待って、やっぱシャワー先がいい」

「いいよ、俺も入ってないから。」

立ち上がりそうになった私を藤宮が制した。

「…それより、お前いつ来た?」

「ん、あの電話のあとすぐ」

「……そう」

藤宮は興味なさそうに返事をすると、トレイの上のご飯を食べ始めた。

また二人分頼んでくれたらしい朝食。

私も、おにぎりに手を伸ばした。


「俺、お前に聞きたいことあんだけど」

「何?」

化粧がヨレてグチャグチャの山姥のような私に何を聞こうとゆうのか。

「…昨日?この間?…お前、何があったの」

「は?」

「昨日だっけ?いつだか様子おかしかっただろ」

「またその話?別に何もないんだけど」

「………」

藤宮は、ムシャリと大きな口でおにぎりを頬張る。

「それに、アンタ話す気がないならいいって言ってたじゃん」

「…まあ。状況が変わったから」

「…どうゆうことよ」

私も負けずに、おにぎりを頬張る。


「…お前、誰が金庫盗ったのか知ってるだろ」

「……………は?」

おにぎりの米を懸命に噛み砕くことしかできない。

「……何言ってんの?知ってたら、とっくに言ってるでしょ」

「……じゃあ今言えよ」

「だから知るわけないでしょ」

二人の咀嚼音が、部屋に響く。


「……頼むから言ってくれない?これ見つからないと、蓮二さんもクロも俺もヤバイって。マジで締められるよ」

「…だから知らないってば」

「…薄情な奴。俺はお前のご主人様なのに。」

「…は、知らないわよ」

一心不乱におにぎりを頬張る。
藤宮はそんな私をチラチラと見てくる。

「………いいから言えよ。言った方がラクになる」

「うるさい。知らない」 

「…強情だし薄情だし、化粧ヨレてるし髪ぐちゃぐちゃだし、お前ブスだな」

「……はあ!?アンタ喧嘩売ってんの?…だいたい自分が何を喋らずに、私の話を聞き出そうってムシが良すぎるのよ」

「何?…じゃ何を言えばいいの?」

「………」

藤宮はまっすぐに私を見つめている。
できれば、こんなヨレヨレの顔見ないでほしい。


「………れい、って誰?」

「え?」

藤宮の細い目が丸くなった。

れい、の存在を私が知っていることに驚いている様子だ。


「寝言でいつも、れい、って呼んでるよ。」

「……嘘?」

「嘘じゃない。しかも一回や二回じゃないからね?三回が四回か五回か、そんくらい、もう何回も呼んでるの聞いたから」

…ま、五回は言い過ぎだけど…。

藤宮は最初ポカンとしていたが、すぐにいつもの淡々とした無表情に戻った。


「…前に五年前の事件のこと知ってる?って聞いたの覚えてる?」

「あー、うん」

いつだかに聞かれたが、よくわからないその事件。
紫音やクロに聞いてみようと思って、すっかり忘れていた。

「…怜はその事件で、死んだ俺の幼馴染…みたいなもんかな」

「………」

え?死んだ?
…怜さんはもうこの世にはいないのか。

単なる元カノ、とゆうわけではなさそうだ。


「…怜は五年前にこのグループのキャバ嬢として働いていたんだけど…その、自殺したんだよ」

「え?あそこのキャバ嬢だったの?…でも自殺って、どうして」

「…その真相を探るために、俺はこのグループの黒服になったんだよ」

おにぎりを頬張りながら、なんだかスゴイことを発言してくるではないか。

「…そう。で、なんかわかったの?」

「怜が自殺した日に店に来ていた客についてはとっくに調べ上げていて、そこからアフターにいき、その場所まではわかってるんだけど…遺体が見つかった川原までの足取は未だ不明だ」

なんだか急にスゴイ話をブッ込んでくるではないか。

藤宮は淡々と話し続ける。

「最初から話すと…当時、大学生の俺たちは田舎から上京してくる際、お互いにお金がなかったからルームシェアすることにした。」

「ふうん、付き合ってたのね。」

「いや。付き合おうと明言したことはない。…確かに俺たちは昔から曖昧な関係だった。」 

…実に、藤宮らしいと思った。

…まあ藤宮に限らずに、男は曖昧な関係が好きだ。


「お互いに大学も違うし、すれ違う日々だったがある時、怜の異変に気付いた。どんどん日に疲れて果て、精神をすり減らしていくようにやつれていって。問い詰めたら、いつのまにか大学やめてた」

「…え、なんで?」

「…その時はそれ以外は何も喋らなかったんだ。だから怜を尾行してみたら、このキャバクラで働いていたことがわかった。…すぐにやめろと言ったよ。」

「なんで大学やめてまで、キャバクラで?」

「…俺も問いただしたけれど、怜はどうしても金が必要だから、と言って聞いてくれなかった。金が必要な理由は教えてくれなかった。…それからもじわりじわりと怜はたしかに壊れて行った。でも俺はどうすることもできなかった。」

「………」

「そんな矢先だったんだ。怜が死んだのは。
…だから俺はすぐにここの黒服になって、いろいろ調査した。何故怜は自殺しなければならなかったのか。…それでもよくわからなかったんだ。当時、怜を知っていた客や黒服、辞めた大学の友達に聞いて回っても、怜は大きな問題を抱えているように見えなかった、とみんなに言われた」

「じゃあもっと仲良い誰か、キャストとかに聞いたら何かはわかりそうだけど」

「…ああ、当時からナンバーワンの一条乃依とは仲良かったらしいが、彼女はずっと口を閉ざしていて怜に関しては何も話してくれない。乃依に迫ってみたけどほとんどだめだった。乃依はヒナゲシとゆうホスト一筋で、貢ぐために仕事してるくらいの女だから、色目を使って俺が迫っても全然靡かない。何も話してくれないよ」

「…そう。」

色目使ったのね…。
そして靡かないくせに、あの時紫音のバーで、ヤることはヤッたのね。 

…と、まあそこはいいとして。


「じゃあ他の子は?」

「怜は染井吉野関係者は乃依以外とはあまり接点がなかったらしい。一応その乃依が好きなヒナゲシってホストの所にも行って、怜のことを聞いたけれど見たこともないって言われた」

おにぎりを食べ終えて、藤宮の手が止まる。

「…それと。死んでからわかったことだけど…怜には借金があった」
 
「え…」

「大した額ではなかったけど…キャバ嬢やってて、借金って不自然だろ?…何かにハマってない限りは」

「……」

でも、だとしたら。
それはもう、ほとんど答えが出てるのではないだろうか。

この世界で働く理由は人それぞれだが、借金がある女のその金の使い道はだいたい決まっている。


「でも決定打がないんだよ。幼馴染だから怜の両親のこともよく知ってる。怜の親に…自殺の真相がわかるまでは地元には帰りませんって言って出てきたから」

藤宮の手が、テーブルの上のタバコに伸びる。

「…だーれも怜のことも知ってるって奴が乃依以外に不自然なくらいいない。その乃依すらも話してくれない。…お手上げなんだわ」

藤宮が吐き出す白煙を見つめる。

…私に返す言葉など見つからない。
怜さんは藤宮にとって、ただの元カノとかそんな単純な存在ではないらしい。

そして誰も不自然なくらいに怜さんのことを口にしたがらないのは、何か強い力が働いているとしか思えなかった。


「……で、俺の話せるのってここまでだけど。…お前はどーなの?金庫盗んだ奴、知ってんだろ?」

この件といい、藤宮の件といい、寝起きの頭にガンガンと容赦なく響いてくる。

考えるほどに頭が痛い。

紫音が染井吉野に来たのが五年前、怜さんが自殺したのも五年前。

私とクロがこのグループに来る5年前に、一体なにが…。


「……うん。まあ、たしかに、知ってるよ」

仕方なく、静かに私は答えた。

「でも。誰かは言えない」


藤宮は、はぁ~とため息をついた。

「ここまで話したのに、お前は言わないのね~。蓮二さんやクロや俺がどうなってもいいんだね。…俺が消されたらお前のせいだからな」

「消されるって…」

「ケツ持ちのヤーさんたち、この件に関して完全にキレちゃってるからね。…あーあ、落とし前つけろ!とか言われて、俺が殺されたら、お前のことあの世から呪ってやるからな」

「…あの世で怜さんに会えるならそれもいいんじゃない?」

藤宮がギロリとこちらを睨む。

ヤバイ、さすがに失言だったか…


「……ふざけんなよ、お前。」

藤宮はまだおにぎりをチマチマと食べる私をソファに乱暴に押し倒した。


「…なに、」

「何言ってんの?…死んだら、お前に会えねーだろ」

「…え、…」

藤宮はそう言って、乱暴に私の衣服を剥ぎ取っていく。

「何、やめてって…。シャワー入ってないし!」

「知るかよ。会えなくなる前に思い切り犯してやる」

あっとゆうまに下着を脱がされた私。
露わになった秘部に藤宮は思い切り吸い付いてきた。


「ぁ、やめ……汚いって……」

どんなに抵抗しようとも、藤宮のその乱暴な愛撫は止まらない。

「臭い、から、……やめ、…ぁ!」

舌で転がされて、ワケがわからなくなる。

途端に何も考えられなくなる。
 

「…もういいから…何も考えなくていいから……そうやって感じてて」

藤宮がそう言って、次は指での愛撫をする。

「…お前は俺の前だけで、そうやって鳴いてればいいの」

ニタリと、笑う。
そう言いながらも、藤宮の手つきはだんだんと優しくなる。

愛おしそうに、頭を撫でられる。

何故この人は私にそんな優しい顔をするのだろう…


「………ごめん、…」

「何が?」

「…あなたは私にいろいろ話してくれたのに。…でも、どうしても誰なのかだけは、言えないの…ごめん」

藤宮は、はあ~と困ったように笑いながら、ため息をついた。

「………じゃあ。まあいいから、それより今、何が欲しいか素直に言ってみて」

そう言うと、藤宮の指が私のナカに入ってきて、いつものように掻き回す。

「……!ぁ、ぁ、ん」

「何が欲しい?」

「………ぁ、やめ、」

「言えたら許してあげる」

激しくなる手つき。
意地悪く、でもどこか優しく笑う。

その激しい手とは裏腹に、もう片方の手で私の頭から頬を優しく撫でる。


…怜さんは、何故この人の差し伸べられた優しい手を取ることなく、死んでしまったのだろう。

そうぼんやりと考えるも、快楽に堕ちていく私のこのだらしない身体では何も考えられない。


「……挿れてほしい?」


耳元でそう囁かれる。

私はコクンと小さく頷く。

「じゃあ、ちゃんとおねだりして。なんて言えばいいのかこの間教えたでしょ?」










「……おちんちん…ください…」



「…はい、よくできました」
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