ゴーストバスター幽野怜

蜂峰 文助

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第三話『幽野怜と裏の世界』

【3】

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 呪いに対する対処は、なるべく早い方が良いという決断に至った。

 以前の依頼者――数端理恵の案件の際、本人が怜に相談へ来たと見るや、呪いの発動を早めたという過去がある。従って、今回の霊もそういった動きを見せないとも言い切れない。

 よって、前話から見て翌日の深夜に除霊を決行する運びとなった。


 それまでの間、身の安全保証の為、末代は怜の姉である幽野 冥に警護を受け廃校舎にて過ごしていた。

 もちろん、学校は仮病で休んだ。

 末代はごろんとベッドの上で横になり、ボーッと天井を見つめている。

 そして色んな事を考える。


 ――本当にぃ、イロノは助かるのぉ?

 ――あのリーゼントとアフロは無事に学校行けてるのかなぁ。

 ――こんな所で寝泊まりするなんて思ってもみなかったわぁ。

 ――長生き……出来たら良いなぁ……


 ――昨日の怜っち……かっこよかったなぁー……


「甘酸っぱい青春の匂いがするわ? 貴方からしら? この匂いの根源は?」

「ひっ!」

 ひっそりと末代の背後に現れた冥は、笑ってはいるが、額に血管を浮かび上がらせ、ぎゅーっと右手で末代の肩を掴んでいる。

「め、冥さぁん、びっくりしましたよぉー、それにぃ、肩ぁ痛いですぅ」

「あらあら、ごめんなさい。つい、ね……何やら如何わしい匂いがしたものだから、てへぺろ」

「てへぺろってぇ……あぁー……もしかして冥さんってぇ、ブラコンなんですかぁー?」

「……バカ言うんじゃないわよ、私がブラコンなんて……カブトムシの幼虫がクワガタになるくらい有り得ないわよ」

 冥は壮大な嘘をついた。

「例えが分かりづらいですぅ」

「ふっ、お子ちゃまには分からないでしょうね」

「いや、大人でも分かりづらいと思いますよぉ……何ですかぁ、カブトムシの幼虫がクワガタになるってぇ……」

「ま、そんな事はさておき、はいこれ昼食」冥は保健室の机の上にカレーライスを置いた。

 もちろん冥の手作りだ。

「あら、美味しそぉー! 冥さん、料理作れるんですねぇー」

「まあね、大人の女性なら当然の嗜みよ」

 ブラコン姉さんが胸を張って何か言っていた。

「いただきまぁーす」

 末代がカレーライスを一口食べる。「おっい、しぃー!! 何これ何これぇー! 何でぇ! こんなに美味しいカレーライス、生まれて初めて食べたわぁー! すっごぉーい!!」

「ふふふ、そうでしょうそうでしょう、味は分かる子みたいねぇ、思ってたよりもやるわね、あなた」

「はぁー……?」末代は首を傾げつつカレーライスを食べる。

 ぱくぱくと食べる。

 そしてカレーライスも残りわずかになった頃。

「これ本当に美味しいですぅ、隠し味とかあるんですかぁ」

「ふふん、よくぞ聞いてくれました」冥は大きく胸を張る。その慎ましい胸部を。


「実は隠し味に ナポリタン を入れてるの、ふふふ、皆には内緒よ」


「…………」

 末代は思った。


 カレーライスの隠し味にナポリタンって、どういう事? と。



 そして時は過ぎ、夕方になる。

「怜っち遅いですねぇ、てゆぅかぁ、どこ行ってるんですかぁ?」

「同僚に今回の件を手伝ってくれるようお願いしにいってるのよ」と冥が答える。

「同僚ですかぁ……そっか、イロノの為に、ごめんなさいですねぇ……」

 と、少し沈んだ表情の末代。それを横目で見つめる冥。

「……あなた意外と普通のメンタルしてるのね」

「はぁ? それはどういう意味ですかぁ?」

「いえ、見た目はTheギャルって感じで馬鹿っぽいのに、なかなかどうして、意外と礼儀もしっかりしてるし……なんて言うかこう……ギャップがあるわね」

「……まぁ元々、イロノこういうタイプの性格じゃないしぃ、呪いのせいでやんちゃになっちゃったぁみたいなぁ?」

「ま、一人称が名前な時点で痛い所はあるのでしょうけどね」

「……でもイロノ、昔は本当にこんなんじゃ無かったんですよぉ? 本当に……日サロとか言ってなかったからぁ、肌もこんなガングロじゃなくてぇ真っ白だったしぃ」

「ふぅん……」

「でもぉ、今のギャルっぽいイロノも好きだからぁ、別に昔に戻りたいとかは思わないけどぉー」

「良い心がけだわ、そうよね、過去の自分を超える事を目標に人生は歩いて行かないとね。幾ら過去の自分が偉大でも、その時の自分に戻ろうとしちゃったら後退してるも同然だものね。むしろ悪化とも言えるわ。人間、日に日に成長して行かなければならないのに、過去の自分に戻りたいだなんて愚かだわ」

「そうですねぇ……でも、イロノは過去の自分に戻りたいとは思わないけどぉ……――


 生まれて来なければ良かったのにぁ、とは思っちゃう。たまにねぇ」


 末代彩乃が生まれて来なければ――


 両親は死なずに済んだかもしれない。

『呪い』の形式上――それは有り得た話だ。

 末代はそれを申し訳ないと思っている。


 心の底から――ごめんなさいと思っている。


「あなた……やっぱり馬鹿ね。あなたの両親は呪いの事を知ってるのにも関わらず、あなたを産んだの。何故だか分かる?」

「え? 何で……とはぁ?」

「決まってるじゃない――


 あなたに出会いたかったからに決まってるじゃないの」


「ま、まぁ……そう、だろうけどぉ……」

 むしろ、呪いを掛けられているのにも関わらず、出来ちゃったから産んだ等という頭の悪い展開ではない事を祈る末代だった。

「出来ちゃったな訳ないでしょ、もしそうなら※下ろすんじゃない?」

「とんでもない事言っちゃいましたよこの人ぉ! この小説が炎上したらどう責任取ってくれるんですかぁ!!」

「精々片手で数えるぐらいの人しか読んでないし大丈夫よ」


 メタ的な話はさて置いて。

 冥は真剣に言う。「あなたの両親、子供が欲しくないなら確実に避妊はしてたでしょ」と。

「何らかの事故で出来ちゃったしちゃった場合、仕方なしに産むという選択肢を選ぶと思う? 仕方なしに産んで、呪いを受け継がせたりすると思う? しないでしょ? 自分達も死ぬの分かってるのよ? にも関わらず、出来ちゃったから産む事の方が無責任で、人道から外れた行為だと、私は思うもの」

「そ、そぉかなぁ……?」

「そうよ、だからこそあなたは――


 望まれて産まれた子なのよ」


「そっかぁ、そうだと良いなぁ……」

「あなたの両親、笑ってた?」

「え? えぇ……笑ってた、わぁ」

「それが何よりの証拠よ」

「あ……」末代は思い出した。両親の、満面の笑顔を――


 まるで自らにかかっている呪いを、忘れているかのような満面の笑顔を。


「それにきっと、あなたの両親は、その笑顔であなたに伝えたかったんじゃない?」

「伝えたかったぁ……?」

「呪いにかかって、残りわずかしかない命でも――



 こんなにも笑顔で人生を謳歌出来るんだよ――って」


「…………」

「ま、これは一つの希望的観測だけどね」

「うん……」

「けど、どうせもう真実は分からないんだから今私が言った事を真実だと思い込んじゃっても良いんじゃない?」

「うん、ありがとぉ冥さん……そうするわぁ」

「だからあなたは生きないとねぇ? 両親の分まで」

「うん」末代は頷いた。

 その目は、決意に満ちている。

 彼女は心に決めたのだ――生きる、と。


 そして日が暮れて行く。
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