ゴーストバスター幽野怜

蜂峰 文助

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第三話『幽野怜と裏の世界』

【10】

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 翌日――


「おっはよぉー! 怜っちぃ!」

「ん? あー……何だ末代さんかー。おはよー」

 ヤンキーの巣窟――山ノ下高校の校門前で、怜と末代は出会した。

 怜のやる気のない返事に、ムッとなる末代。「何よ何よぉー、あれ程の夜を共にした仲じゃなぁい、もっとイロノと会えたら喜びなさいよぉー」

「……あれ程、ねぇー……まー、ボクにしたらあの程度は日常茶飯事だからねー……特に何ともー……」

「アレが日常茶飯事ってぇ……あなたよく生き残っていられてるわねぇ……シンプルに尊敬するわぁ……」

「まー、でもさー」

 怜は言う。


「君が無事で良かったーっていうのはー、素で思ってるよー」


 と、あっけらかんと言った。

 末代は「そぉっ」と嬉しそうな笑顔。

「えいっ」と、彼女は怜の手に腕を回した。

 怪訝な表情を作る怜。「えっとー……何してんのー?」

「えへへぇ! お礼よ、お礼ぃ! どう? 恋人気分味わえるぅ?」

「ぜーんぜん」

 即答だった。

 まるでリスの如く両頬を膨らませた末代は「怜っちデリカシーなぁーい、本当ノーデリカシィー、やばぁーい」と不機嫌になる。

「はいはーい」


 等と、たわいのない話を続けていると「うわっ!」「幽野だ!」と、二人の横から怜を畏怖する声が掛けられた。

 二人が視線を移すと、そこには――


 幽野組の創設者達――リーゼントの善通寺とアフロの風呂敷だった。


 そんな二人からその様な言葉が発せられた為、目を丸くする末代。からかっているのかと思い、二人に近寄って行くと……

「おい末代! お前危ないからやめとけ!」
「そうだそうだ! アイツには近付くな!」

 と、二人から本気のトーンで注意のような言葉を受ける。

「えぇ?」と、困惑する末代。

「ど、どうしたのぉ二人共ぉ!? アレだけ怜っちの事慕ってたじゃなぁい。幽野組とか作ってさぁ! ほらほらぁ、冗談言ってないでこっち来なさいよぉ」

 二人の手を引っ張る末代だが、対する善通寺と風呂敷はそんな彼女の手を振り払う。

「え……」


「や、やめろよ気持ち悪い! オレ達があんなおっかねぇ奴慕う訳ねぇだろ!?」
「な、何だよ幽野組って! バカじゃねぇの!?」


 嘘ではない、本気のリアクションだった。

 二人は本気で、怜の事を嫌っている――畏怖している。


 ここで怜が「行こー、末代さーん」と末代を呼ぶ。

「え? あ……う、うん……」走って追い付くと、怜に問い掛ける。「ね、ねぇ……アレ、何が起こったのよぉ、まさかあの男子小学生の霊に何か――」

「いいやー違うよー」と怜は即答。

「アレはボクの御札の力だよー」

「え? って事はぁ……彼らが豹変したのってぇ……怜っちのせぃ……?」

「まー、そういう事だねー」

「何でそんな事を!? あの二人は本当にあなたの事を尊敬――」

「今回の事で分かったでしょー? ボクに関わるとろくな事にならないんだよー……特にー、表の世界の住人にとってはねー」

「そ、そんな事ないよぉ! だって――」

「だってもどってもないよー、結果ボクに関わってー彼らが危険な思いをしたのは事実だもーん……ひょっとしたら彼らはあの時――


 死んでたかもしれないからねー」


 そう、男子小学生の霊に三人が襲われた際、怜の到着がもう少し遅れていたら、二人は……善通寺と風呂敷は、地獄へ引き摺り込まれていたかもしれない……

「そっかぁ……」

 末代は納得した。

「怜っちはぁ、大事な仲間をこれ以上傷付けたくないって事ねぇ」

「まさかー……ただ煩わしいだけだよー」

 怜のその言葉は、嘘であるとすぐに分かった。

 彼女には分かるのだ――


 怜に救われた――末代彩乃。彼に命を救われた彼女には……


 怜が簡単に、人を切り捨てたりする人間ではないと……彼女は知っている。

 彼ら二人を自分から引き離したのは、優しさからであると……彼女は知っている。


 でも……

「裏の世界の人間ってぇ……悲しいねぇ……」

「…………まー、裏も裏で悪くないからねー、別にそう思い込む事ないって感じかなー?」

 ここで末代は、気になった事を質問する事にした。

「イロノの記憶は消さない……よねぇ……?」

 そう、恐る恐る、問い掛けた。

「しないよー」怜は即答だった。

「え! えぇー!? 何でぇー!? リーゼントとアフロの記憶は消したのにぃ、何でイロノのは消さないのぉー!? もしかしてぇ、イロノに惚れたぁー!?」

「バカー」

「痛い」頭を小突かれた末代。

 怜が回答を述べる。いともあっさりと述べる。「だって君は――」


「依頼者だからねー」


「え?」


「ゴーストバスターってさー、依頼者の記憶は消しちゃいけないんだよー」

「何でぇ?」

「それはねー――


 覚えてたらちゃんと反省して、予防になるでしょー?」


 例えば――軽い気持ちで幽霊の出ると噂のトンネルに肝試しに行き、幽霊に取り憑かれた際、例え除霊しても、記憶を失ったらまた同じ事を繰り返してしまう可能性があるからだ。

 そして、また怜に依頼して来る……

 その繰り返しを防ぐ為、予防として、依頼者には記憶を残しておくのだ。


「なるほどぉ! じゃあイロノの記憶はそのまんまなんだぁ、良かったぁー」

 イロノは、ホッと胸を撫で下ろす。


 だがしかし……彼女にとって、これは忘れた方が良い物語かもしれないが――


『呪い』をかけられていた人生だった。

 大切な人を殺された。
 自分も殺されかけた。
 身体を乗っ取られかけた。

 彼女の過去は……それはもう――

 永く……哀しい……過去だった。


 けれど彼女は、その記憶が消えない事を喜んでいる。

『呪い』によってもたらされた辛い過去よりも――

 大切な人――彼女の母や父との楽しい思い出や……


 運命の出会いとも言える、山奥の廃校舎に住む、同級生でもあり、ゴーストバスターでもあるその男――


 幽野怜との出会いを――その奇跡を、記憶に残しておきたいのだ。


「えへへぇ……ねぇ、怜っちぃ、イロノねぇ……怜っちのおねぇさんに教えて貰ったんだぁ」

「姉さんにー? 何をー?」

「フフフ、それはねぇ、希望的観測ってやつみたいなんだけどぉ――」


 ――呪いにかかって、残りわずかしかない命でも――こんなにも笑顔で人生を謳歌出来るんだよ。


「イロノ、この言葉好きなんだぁー、例え希望的観測でもぉ、イロノの前でかぁさん達、凄い笑顔だったからぁ、凄い楽しそうだったからぁ――一応、この言葉は適応するよねぇ」

「うん、そーだねー」

「だからぁ、呪いが解けてぇ、ちゃんとイロノは命が尽きる迄生きれる身体になった訳だからぁ、イロノはもっと幸せにならないといけないよねぇー――



 おかぁさんとおとぉさん達の分まで……ね」


「……分かってんじゃーんー、その心意気だよー頑張れー」

「うん! 頑張るぅ」と、末代はガッツポーズを取った。



 因みに。

 末代は呪い解呪後――長生きをする為……験担ぎとして、


 タバコをやめたそうだ。
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