ゴーストバスター幽野怜Ⅲ〜三つの因縁編〜

蜂峰 文助

文字の大きさ
62 / 62
エピローグ

【4】

しおりを挟む

 三途の川って、本当にあったんだ。

 穏やかな川のせせらぎ。
 咲き誇る花の香り。
 暖かくもなく、寒くもない、ちょうどいい気候。

 ものすごく、良い場所。

 死ぬ間際の現世……霊王が二体暴れ回っていた、あの地獄のような国とは、大違いだ。

 ふと、足を踏み入れてしまった霊が、ここに居たくなる気持ちも分かる。

 目の前にあるこの橋を、ついつい、渡ってしまいたくなる気持ちが分かる。

 まぁ……ウチの場合、引き返そうにも、引き返す道が、ないのだけれど。

 ウチが進めるのは前だけ。

 あの世へと続いているであろう、一本橋。

 果たしてこの先は、天国か地獄か。

 ふむ……いざ、こうやって、自分はどちらへ導かれるのだろうと考えた時、不安になっちゃうな……。


 ウチ……現世で良い行いしたっけ?


 いや、当然、自分ではしたつもりではあるのだけれど……。

 如何せん、それが、世界基準で見て、この世の理から見て、良いことばかりである、とは限らないし……。

 例えば、知らず知らずの内に踏み潰していた蟻を、悪行だと捉えられてしまったら?
 夜中に、ぷーんっと耳障りな蚊を、よくパシンと殺生してたけど、あれも悪行だとされてしまっていたとしたら?

 うーむ……そうだとしたら、ウチも大罪人なのかもしれない……。

 …………この橋、渡るの怖くなってきたな……。

 ここで、この居心地の良い場所で、しばらく川のせせらぎの音を聞いて、花を愛でるのも良いかもしれない。

 うん、そうだね。

 そうしよう。

 よっこいしょ、と座って、咲き誇る花の一輪へ手をかける。

 あまりに綺麗な花なので、ついつい引きちぎりそうになるが、これも一種の悪行に数えられてしまうと思い、慌てて手を引っ込めた。

 危ない危ない……危うく、三途の川でも悪行を積んでしまうところであった。

 ふむ……と、なると。いよいよ、ここでウチがすべき事は、橋を渡るくらいしかなくなってしまった。

 何もすることがない。

 仕方ない……勇気を出して、渡ることとしますかね……。


 そんな訳で、ウチは橋を渡ることにした。

 すると何故だろう……?

 脳内に、現世での出来事が、湯水のように、次々と思い出されてくる。

【銀丿軍隊】を倒せて良かった、とか。
 最後に、命吉さんから伝えてもらった言葉が嬉しかったな、とか。
 彩乃さんには、重いもの背負わせちゃったな、とか。
 皆に、辛い想いをさせちゃったな、とか。
 剣一郎は、【万物斬撃】を倒すことができたのかな? とか。
 怜や姫美ちゃんや、彩乃ちゃんたちと、高校生活送りたかったな、とか。

 後悔や、私の死んだ先の未来への不安が、次々と、私の脳裏を横切っていく。

 だけど……それ以上に、良いことも、楽しかったことも、横切っていく。

 怜たちと、『拳銃の悪霊』を倒した瞬間や。
 はじめて、霊王を撃破した瞬間。
 ゴーストバスター活動で、依頼人を助けた時の笑顔。
 プライベートでいうと、冥さん、見舞さん、遙さんと昔、女子会した時のこと。
 冥さんが、実の弟にガチ恋してるとカミングアウトされた時はドン引きしたなぁ……。
 あと……最近行った、皆との食事会も、楽しかった。
 それとそれと、学校生活も楽しかった。
 良い先生、良いクラスメイトにも恵まれた。

 うん…………我ながら、良い人生だったと思う。

 後悔はあるけど……すべてが終わった今、胸を張って、そう言える。


 残りの霊王は、必ず――――怜や冥さんたちが、倒してくれるはず。

 そんな輝く未来を信じて……私は、一足先に、この先で待っていることにしようではないか。

 この先が……天国なのか、地獄なのかは、分からないけれど。


 ん? 何やら、声が聞こえてきた。

 橋の向こうで……誰かが手を振って……ウチを呼んでる?

 二つの影……二人……?


『天地ー!』
『おかえりー!』


 あ……。

 ウチは、一目散に走り出した。

 会いたかった…………父さんと母さんの元へ。

 橋を渡りきったあと、飛び込むように、二人へ抱きついた。




『ただいまっ!! お父さん! お母さん!!』



 この二人がいる以上――ウチは確信した。

 ここは、天国なのだと。

 確信した。

 最愛の両親に手を引かれ、ウチは、眩い光の中へと歩いていく。

 眩く、暖かい……光の中へ……。

 こうして……ウチ――――国獄 天地の人生は、幕を下ろした。

 

 現世の皆にも、こんな、光ある未来が訪れますように……。

 身勝手ながら、最後にそんなことを、ウチは願った。







【ゴーストバスター幽野怜Ⅲ~三つの因縁編~】了




 第4章【ゴーストバスター幽野怜IV~厄災の序章編~】に続く。
  ↓
※公開次第、こちらにURLを記載させていただきます。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

(ほぼ)5分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ5分で読める怖い話。 フィクションから実話まで。

都市伝説レポート

君山洋太朗
ホラー
零細出版社「怪奇文庫」が発行するオカルト専門誌『現代怪異録』のコーナー「都市伝説レポート」。弊社の野々宮記者が全国各地の都市伝説をご紹介します。本コーナーに掲載される内容は、すべて事実に基づいた取材によるものです。しかしながら、その解釈や真偽の判断は、最終的に読者の皆様にゆだねられています。真実は時に、私たちの想像を超えるところにあるのかもしれません。

霊和怪異譚 野花と野薔薇

野花マリオ
ホラー
その“語り”が始まったとき、世界に異変が芽吹く。 静かな町、ふとした日常、どこにでもあるはずの風景に咲きはじめる、奇妙な花々――。 『霊和怪異譚 野花と野薔薇』は、不思議な力を持つ語り部・八木楓と鐘技友紀以下彼女達が語る怪異を描く、短編連作形式の怪異譚シリーズ。 一話ごとに異なる舞台、異なる登場人物、異なる恐怖。それでも、語りが始まるたび、必ず“何か”が咲く――。 語られる怪談はただの物語ではない。 それを「聞いた者」に忍び寄る異変、染みわたる不安。 やがて読者自身の身にも、“あの花”が咲くかもしれない。 日常にひっそりと紛れ込む、静かで妖しいホラー。 あなたも一席、語りを聞いてみませんか? 完結いたしました。 タイトル変更しました。 旧 彼女の怪異談は不思議な野花を咲かせる ※この物語はフィクションです。実在する人物、企業、団体、名称などは一切関係ありません。 エブリスタにも公開してますがアルファポリス の方がボリュームあります。 表紙イラストは生成AI

残酷喜劇 短編集

ドルドレオン
ホラー
残酷喜劇、開幕。 短編集。人間の闇。 おぞましさ。 笑いが見えるか、悲惨さが見えるか。

1分で読める怖い話短編集

しょくぱん
ホラー
一分で読める怖い話を定期的に投稿しています。 感想などをいただけると嬉しいです。 応援よろしくお願いします。

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2026/1/17:『えれべーたー』の章を追加。2026/1/24の朝8時頃より公開開始予定。 2026/1/16:『せきゆすとーぶ』の章を追加。2026/1/23の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/15:『しばふ』の章を追加。2026/1/22の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/14:『でんしれんじ』の章を追加。2026/1/21の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/13:『こえ』の章を追加。2026/1/20の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/12:『あけてはいけない』の章を追加。2026/1/19の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/11:『みきさー』の章を追加。2026/1/18の朝4時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

【完結】大量焼死体遺棄事件まとめサイト/裏サイド

まみ夜
ホラー
ここは、2008年2月09日朝に報道された、全国十ケ所総数六十体以上の「大量焼死体遺棄事件」のまとめサイトです。 事件の上澄みでしかない、ニュース報道とネット情報が序章であり終章。 一年以上も前に、偶然「写本」のネット検索から、オカルトな事件に巻き込まれた女性のブログ。 その家族が、彼女を探すことで、日常を踏み越える恐怖を、誰かに相談したかったブログまでが第一章。 そして、事件の、悪意の裏側が第二章です。 ホラーもミステリーと同じで、ラストがないと評価しづらいため、短編集でない長編はweb掲載には向かないジャンルです。 そのため、第一章にて、表向きのラストを用意しました。 第二章では、その裏側が明らかになり、予想を裏切れれば、とも思いますので、お付き合いください。 表紙イラストは、lllust ACより、乾大和様の「お嬢さん」を使用させていただいております。

百物語 厄災

嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。 小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。

処理中です...