異世界転生から500年、隻腕の仙人は忌竜憑きと旅をする

鵩 ジェフロイ

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戻らずのドゥルス山脈

第12話 剣の行方

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 ガラが石よりも硬い頭でぶちかまし、オレがちょこまか動いてペチペチ棒で叩いて禍精ダイモスから赤黒いマナを散らしていく。

 ……うん。
 まぁーーー、果てしねぇし、濡れてべちょべちょになった地面を駆けたり跳ねたりするもんだから泥だらけだ。

 ガラも仙獣なので仙気を操れはするのだが、複数同時に別々に操る、というのが苦手なようで、自分へ身体強化をするとほかのことがほとんどできなくなってしまうのが玉に瑕だ。
 とはいえ、ぶちかまし時にわずかに赤黒いマナが散るのでないよりは全然マシだろう。

「ヴォオォォォ……ヴオオオオアアア!!!!」

 オレが跳びあがってそこそこガラ空きの背中側から攻撃しようとしたところで、突然とんでもない大きさの咆哮をあげられ近場でモロに食らってしまう。

「ぐっ……うるせぇっ! ……っ、おわっ!?」

 直後、ものすごくいやな予感がして空中で無理くり身体をひねって軸をズラす。

 そんなオレの傍を赤黒い塊が通りすぎた。

 地面に着地したところですぐさま飛び退いて禍精からいったん距離をとる。

 今なにが起こったのか確認しねぇと、と禍精に目を向けると────禍精の背中から凶悪な足がもう一対生えていた。

 これで合計8本の足をもった熊……かどうかももうよくわからない形態だ。

「簡単に生やしてくれやがって……一本くんねぇ?」
『いってる場合か。手を動かせ』
「……はい」

 冗談なのに友だちがノッてきてくれない……こういうときこそ軽口をたたく余裕が必要だと思うんだけどなぁ。


 仕方がない、この切なさは禍精にぶつけよう。


 禍精が第二形態?になってもやること自体は変わらない。しかし、その難易度はあがった。
 背中に足が生えたことで、背中側の隙がほとんどなくなり、なんなら目も増えたのかってくらい執拗にオレを狙ってきた。

 それでもすべての攻撃をかわして赤黒いマナを禍精から引き剥がしていると……首元になにかキラリと光るものがあるのが目についた。

「ん? なんだあれ」

 気になったので、首元を頑張って狙ってさらに赤黒いマナを散らしていく。

「剣、か?」

 現れたものは剣の柄に見えた。禍精の首に深く突き刺さっているようだ。

 ……そういえば男が剣がないか気にしていたが、もしかしてあれがその剣か?
 どうやら男はただでやられたわけではなかったみたいだな。

 それにしても……。

『あの剣……並のものではないな』
「ああ、だな」

 男を拾ったときに装備していたものにはとくに変わった気配は感じなかったが、あれは違う。

 あれは、おそらく男が全力をだしてもダメにならないほどマナとの相性がよさそうで、そもそもどんな素材でできているのか想像もつかない。
 一見、銀と鉄のあいだっぽい金属質には見えるが。

 そして、これはなんていい表せばいいか悩むが、無機物であるはずなのに男と似た雰囲気を感じる。
 なんというか……まるで兄弟かなんかみたいな?

「とりあえず、よくわかんねぇけどマナの伝導性がめっちゃ高そうだから利用できねぇかな?」
『お前がそう思ったならやってみろ』
「なるべく足止めを頼むよ」

 ガラと簡潔にやることを伝え合って、再び二手にわかれる。

 今度はオレが囮になるために禍精の視界にしっかり入り続ける動きをとる。身軽さ重視で棒切れも今は腰に差した。
 これまでのペチペチ攻撃が相当うっとうしかったのか、すぐオレに注意が向けられた。

「ヴォウオオオォォォッ!!!」

 気分的には「鬼さんこちら手の鳴るほうへ」と煽りたかったが、手が足りなくて鳴らせないのが残念だな。

 そして、オレを仕留めようと禍精が前のめりになって突進しようとしてきたところに────。

「ヴォガ……ッ!?」

 ガラ渾身の後ろ蹴りが禍精のあごにクリーンヒットした。

 並の魔物なら頭が弾け飛んでもおかしくない威力だ。さすがの禍精も相当効いたようで、前足を崩して硬直している。

 今がチャンスだ。

 オレは素早く禍精のうえに飛び乗り、首元に深く刺さった剣の柄を握る。
 直接禍精の内側に流しこめないかと、仙気を剣に流しこんだ。

「ぐっ……!」

 瞬間、ずろっととてつもなく不快な感覚が身体を駆け巡る。無遠慮にオレのなかのマナを、なければ生命力を吸われる感覚だ。

 オレ自身の保有マナは村の非戦闘職と同じかそれ以下というくらい少ねぇから、周囲から補填しないとまずい。

 余裕がないので心の中で「いきなり容赦なく吸いすぎだろ!」と叫ぶ。
 ……持ち主の男のマナ量を基準にでもしてんじゃねぇだろうな……。

「ヴォッ、ヴォオッ……!」

 必死にマナを取りこんで流しこんでいたが、禍精の硬直がとけはじめてきてしまった。このままここにいると背中に生えた足の餌食になってしまう。

 うーん、いったんこの剣を使う作戦はやめるかぁ。
 マナの伝導性がよすぎて下手をするとこっちが死にそうだし。


 そうして見切りをつけて飛び退こうとしたそのとき。


「キキーッ!」
「ん? ……はいっ!?」

 ヒエンの焦った声がきこえたのと同時にオレのうえに急速に迫る気配を感じて振り向けば────男が落ちてきていた。

「ちょ、まっ!」

 真っ直ぐこちらに落下してくる怪我人にオレはあわてて剣から手を外してマナをオレのうえにまわし、“風”に変化させて空気のクッションをつくる。

「ぐえっ」
「くっ……!」

 男は見事オレのうえに降ってきてクッションはあるもののそれなりの圧迫感にオレは間抜けな声をだす。
 男も傷に響いたのか苦悶の表情を浮かべている。これに関しちゃ自業自得だが。

「あんた、なんでこっちにきた!?」

 さすがに怪我人をかばいながら禍精とやりあう余裕はない。しかも今いるのはまさに男を狙う禍精の背のうえだ。

「わからない……」
「はぁっ!?」

 わからないのに崖から自分の命を狙う化け物のうえに飛び降りてきちゃったのか。

 さすがにキレていいかな……と考えていると男の手が伸びて、剣の柄を握る。

「わからないが……必要だと思ったんだ」
「!」


 わずかに金色の輝きを湛えた真摯な視線がオレを貫いた。


 ……素早く思考を“今”に戻して現状と切れる手札を把握する。

「……あんたがきたおかげで打てる手がある。……が、ひどいことになるぞ。主にあんたが」
「それで禍精をどうにかできるなら、かまわない」
「……そうかい」

 軽いつもりはないんだろうが、こういうことを即答するのはなんだかなぁと思う。

 ……しかしまぁ、ひどいことになるとはいってもせっかく手間ひまかけて助けた命を死なせるつもりはねぇから、たっぷり自分の選択を生きて味わってもらおうか。

「そのまま、剣を握っててくれ」
「ああ」

 オレは男が剣を握るうえから左手を重ねる。
 そして、男の膨大なマナをオレを介して仙気に変換してさっきの比にならないほどの圧力で流しこんだ。

 要は救命セックスでやった高圧洗浄機みたいなことをこの剣を介してやるってことだ。

 ……ただ、今回の目的は赤黒いマナの大きな塊を四散させることが目的だから……。

「ヴォッ……!? ヴァッ、ゴッ……!!」


 ────大きな炸裂音とともに、禍精が爆発した。


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