【書籍化&完結】おそらく、僕だけ違うゲームをしている。【2月中頃発売】

鵩 ジェフロイ

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本編

15:壁ドン(強)

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「うん?どうかしたかい?」

 おっと、アナウンスに気を取られていたらしい。

「いや、今しがたアナウンス……天の声的なものでこの町の防衛に貢献しろと聞こえてきて気を取られていた」
「ほう……、神託のようなものかな?」
「そこまでは分からないが……。おそらく異人全員に同じものが聞こえたと思う」
「なるほど。ということは異人達はこの町の防衛に積極的になってくれると見ていいのかな?」
「全員とは言えないが、大半はそうだと思う。とくに今も活発に動いてる者はより積極的になるかと」

 有り体に言ってしまえばゲーム開始後初めての大規模イベントになるだろうから、そりゃ活発にプレイしている者たちからすれば、待ちに待ったお祭り的な認識だろう。

「それはとても助かるね。こう言っては何だけど、異人達は死んでもすぐに復活するから、襲撃の際の主力になってもらえるとすごく助かる」
「むしろ戦闘職の異人は金を払ってでも前線を望むはずだ」
「なるほどなるほど、ちなみに参考までにどう言った報酬があると異人のやる気に繋がるか聞いても?」
「そうだな……。今はとにかく成長機会とより良い装備かそれを揃える為の資金が欲しいんじゃないだろうか。身の安全は多少度外視してでも」

 ゲーマーならもう少し的確な要望を出せたのかもしれないが、僕ではこのくらいが限界だ。しかし、まだゲームが始まりたてなのでプレイヤーが欲しているものの差はそんなに無いだろう。

「ふむ、君の意見を参考に異人向けの依頼の報酬を少し見直してみるよ。いやぁ、君には助けられっぱなしだね」
「そんなことは」
「もう夜が明ける頃だし、君も疲れているだろうからこのくらいにしておこうか」

 確かに、そろそろログアウトしなければならない時間だ。

「……ギルの方がこれから大変なのでは」
「はは、まぁね……。でも非常事態だからそれなりの人員や補給を回してもらえる予定だよ」
「まぁ、書類整理なら手伝おう」
「心配してくれてありがとうね。でも君にはまた別のことを頼むかも?」
「?」

 そのような会話をして、次に起きるくらいの頃合いに連絡するとのことだったので了承してから部屋を出た。



 一旦資料室に寄って腰を落ち着けてから、諸々確認タイム。まずはクエストリザルトから。


 【職業ギルド指名クエスト】
依頼内容:ギルドに集められた情報をまとめて資料を作成し、ギルドへ提出
依頼者:始まりの町『ユヌ』の職業ギルド

クエスト達成!
 
詳細なまとめと考察を提出したことで、住民が町の危機を初期段階で察知することが出来た。

評価:S++(報酬増加)
報酬:50000G、職業ギルドランク上昇、ユヌの防衛力上昇(小)、ユヌ近郊安全度上昇(小)、旧倉庫の入室許可、ユニーク称号


 先ほどのギルとの会話の要約のような内容だった。どちらかというと、ほぼタイムラグ無しで齟齬の無いクエストリザルトを作れるシステム側がおかしい気がしている。やはり変態……(褒め言葉)。

 ついでにチュートリアルクエストの【クエストを達成しよう】【クエスト報酬を受け取ろう】もここでクリアしていた。

 評価は最高ランクを示すアルファベットにさらに「+」が2つついているが、これは達成ラインを大きく上回った場合につくようだ。効果は報酬の上乗せらしい。

 そして、先ほどギルドから贈られた【森碧】という称号はユニーク……他プレイヤーと被ることがない唯一無二の称号のようだ。


 リザルト確認が一通り終わったので、カーラのところに行ってギルドランクを上げたら今日はログアウトすることにしよう。

 1階へ降りると、受付に人が溢れていた。……あー、ワールドクエスト関連か。

 さて、どうしようか。皆忙しそうだから日を改めようかな。

「あ、トウノさん! お疲れ様です! すぐにランク更新しちゃいますのでギルドカードを預かってもいいですか?」
「うん? ああ、頼む」

 カーラの方から声をかけてくれ、手早くランク更新をしてくれた。

「はい、これで更新完了です。カードをお返ししますね。裏口使っていかれますか?」
「いや、皆忙しそうだから今日は正面口から出よう」
「そうですか、今は大通りも人が多いので気をつけてくださいね」
「分かった。じゃあまた」

 人にぶつからないように慎重に通り抜けてギルドを出ると、大通りもプレイヤーと思しき人で溢れかえっていた。

 ゲーム開始直後かそれ以上の混み具合だろうかと横目に見ながら宿屋へ向かう路地に入ろうとしたところで、突然肩を強く引かれた。

「うっ」
「ねぇ、アンタ何してんの? そこ入れないとこだよーってあれ? 今入れてた? 何で?! ヤッバ、新しい攻略情報発見しちゃった感じ?! ツイてるなー俺!」

 肩を引かれた方を見ると、言動からプレイヤーだろうエルフアバターの青年が捲し立ててきた。微妙に言葉も視線もこちらを見ていない様子なのが奇妙だ。

「あ、今配信してんだけど、俺のこと知らない? アルストライバーの中だと結構有名だと思うんだけどさ! ってかアンタこの前ギルドの奥にも入ってたよね?! どうやったら入れんの? 教えてくんない?」

 あらぬところを見ていたのは生配信をしていたかららしい。よく見たら配信アイコンがあった。
 それはそれとして。

「とりあえず、手を離し……」
「あのギルドの女の子ともよく話してるよね? あっ、あの子攻略すると色々解放されるとか? うわー、ありそー! でもあの子とりつく島が無いんだよなー!」

 こいつ人の話を聞く気無いな……と察してからは掴まれている肩が少し痛いから手を離してくれないかな、と思いながら話が終わるのを待っていた、が────。

「そうだ、とりまフレンドにっへぶぅっ!!」


 突然の悲鳴と共に目の前から配信プレイヤーが消えた。

「えっ、うわっ!」

 直後、視界いっぱいに大きな影が出てきたかと認識した頃には、地面から足が浮いていた。
 中々の速さで大通りが遠ざかっていくのが見える。

「な、何っ」

 何となく、誰かに抱えられて路地の奥に向かっていることは分かったが、展開が急すぎてついていけない。

 やがて一つ目の角を曲がると、壁に勢いよく押し付けられた。背中側を強く打ち、肺の空気が強制的に押し出されて苦しい。

「かはっ……、……ぁ」

 どうにか腕一本で自分を壁に押し付けている相手を見上げると、その人物は宿屋で何度か会った鎧の男だった。


「馬鹿か、お前」

 不機嫌な低い声が降ってくる。

「自分が周りからどう見られてるか、もう少し把握しろ」
「? 何の話…………っ」

 問いかけようとすると、押し付ける圧力がさらに上がり、全身がピリピリしだす。

「こういう目に合いたく無かったらな」

 いつの間にかすぐ目の前に男の兜があった。暗くて兜の向こうは何も見えない―――。


 どのくらいそうしていたのか分からないが、不意に頬を一筋撫でられる感覚があった後、腕を外されて解放された。

 僕を解放した男は、もう用は無いとばかりに踵を返す。

「けほっ……忠告ありがとう。気をつけてみる」

 少し……いや、大分乱暴だったが、言っていること自体は真っ当な忠告のように思えたので、一応声だけかけてみた。返事は期待していない。

 予想通り、反応が無いまま男は立ち去っていった。



 ……方向的に目的地が同じっぽいのが、若干気まずいが。
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