【書籍化&完結】おそらく、僕だけ違うゲームをしている。【2月中頃発売】

鵩 ジェフロイ

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本編

55:ハイモの道具屋

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「……お前らも似たようなことしてんじゃねぇか、何が年上からのアドバイス、だよ」

 バラムが苦々しげな声でギルに言う。……何のことだろうか。そんなことより早くドゥトワに行きたい。

「そんなこと言って良いのかい? ここに君用の入館許可証もあるんだけどねぇ。というか君用のを用意するのに時間がかかったんだよ? そうかぁ、これはいらないかぁ」
「さっさと寄越せ」

 ギルがもう一つ封書を出すと、バラムは目にも止まらぬ速さでそれを半ばぶん取るようにして受け取っていた。

 それにしても意外だな。

「バラムも図書館に興味があったのか」
「ああ? ……お前、ここ程度の資料室だけでも自分がどうなったのか忘れたのか?」
「…………」

 バラムの言葉にここ、職業ギルドの資料室でどうなったのか。そして、図書館に行ったら自分がどうなるかまで考えて…………目を逸らした。

「どちらにしてもトウノ君にはストッパーが必要だったからねぇ」
「そういうことだ」
「……世話をかける」

 ここまで自覚してさえ、いざ図書館に行ってバッドステータスがつかない程度に自分を抑えられる自信が無かった。

「ちなみに、この封書は図書館以外で開封してしまうと許可が取り消されてしまうから注意してね」
「分かった」

 入れなくなっては困るので神妙に頷いて、封書をインベントリにしまう。

「それじゃあ、私からの話はこれで終わりだけど、トウノ君達からは何かあるかい?」
「うーん……あ、そうだ。ちょうど旧倉庫の本を一通り読み終わったから、一旦鍵は返す」
「え……ああ、そうか。トウノ君はあそこにある本の言語を習得したんだったねぇ……」
「それで、一応あそこの本を僕なりに翻訳してみたんだが……」
「……一応、確認させて欲しい」

 と、バラムに渡したものと同じ翻訳本を出現させてギルへと渡す。お叱りを受けたらこれは破棄して《解析》ログは……消せないから自主的に封印しよう。

「…………はぁ、またとんでもない遺産をこんなに簡単に……。これも商業ギルドでの手続きの際に見せるといいよ。もう……に丸投げしよう」
「? 分かった」

 持ち出し禁止の物を勝手に《解析》して翻訳したことに対してはとくにお咎めが無かった。良かった。
 疲れているのか、今日はギルの言葉がか細くて聞き取れないことが多い。

「ただし、これは個人ではあまり広めないようにだけして欲しいな」
「……分かった」
「まぁ、ラスティ君に渡すくらいならいいけどねぇ」
「……ああ」

 既に《酒酔》の勢いで渡してしまっているのだが……何故かバレている気がするのは気のせいだろうか。

「他に無ければこんなところで解散かな。ドゥトワへはいつ向かってくれても良いんだけど、向かう時は門番に伝えて欲しい。そうしたらドゥトワで商業ギルドが色々取り計らってくれるだろうからね」
「分かった」

 そう言ってから立ち上がる。今度は肩からバラムの手が外れていたので、難なく立ち上がれた。

「たまには元気な顔を見せてくれると私も嬉しいし、カーラ君達も喜ぶよ」

 執務室を出る際にギルからかけられた言葉と笑顔に、少しくすぐったさを感じながら頷き、執務室を後にした。


 ギルドカードの更新をしてから、裏口から出て足早に宿の方向へと歩き出す。早く、準備して図書館に行きたい。早く、本をたくさん読みたい。早く……。

 ……何だか過剰に興奮している気がするが抑えられずに前のめりに歩いていると、不意に腕を引かれる。振り向くと、バラムに腕を掴まれていた。

「おい、少し落ち着け」
「そう、言われても……早く、行きたくて……」

 胸が勝手にざわついてしまって自制が効かない。おかしいな、さっきまでは逸っていたとはいえ、普通だと思ったんだが……。

「仕方ねぇな……こっちだ」

 そう言うバラムに腕を引かれて裏通りのさらに細く暗い路地へと入ると、顎を掴まれて顔を覗き込まれる。

「……チッ。落ち着けてやるから口、開けろ」
「うん? んむ」

 言われた通りに口を少し開けるとバラムの口に覆われた。もう慣れたものと言わんばかりに僕の舌を絡めとって吸われる。

 ちゅっ、ちゅる、ちゅ……

 昨夜の熱を生み出すようなものでは無く、宥めるような、逆に熱を吸い上げるような動きに、変に力の入っていた体が解けていった。

「はぁ……」
「落ち着いたか?」
「……多分。何が何だか分からないが助かった」

 思考がはっきりして分かったが、さっきまで意識が何処か霞がかかったかのような状態だったように思う。

 バラムが忌々しげに口を開く。

「向こうも呼んでやがんだよ、お前をな」
「向こう?」

 ……図書館の『レディ・ブルイヤール』とやらがということか? 行ってみたらどういうことか分かるだろうか。

「は、そんなの待たせるだけ待たせときゃ良い。すぐに行くったって長い方の眠りとか色々あんだろ。他にこの町でやっときたいことは無いのか?」
「そう、だな……」

 冷静になってくると、屋外で密着しているのが気恥ずかしくなってきて視線を落とす。すると、首から下げた呼子笛が目に入った。

「あ、そうだ、この呼子笛……の製作者のところに行きたい」
「あ? 何でだ?」
「昨日酒場で手に取ったラベイカの製作者がこの呼子笛の製作者と同じだったのを思い出して……確かこの町の職人だったような?」

 もうずいぶん前のことのように思えるが、職業ギルドで町の情報を仕入れた際に、ラベイカと呼子笛の製作者、『ハイモ』という道具職人の名前があったはずだ。

「まぁ、馴染みの店だから案内は出来るが、何の用だ?」
「ラベイカの製作者ならそれに似た楽器のことを知ってたり、作れたりしないかと思ってな」
「ああ、何か昨日言ってたやつか。じゃあ今から行くか」
「いいのか?」
「言ったろ、これからはずっとお前と行動するって」

 そう言うと頬を軽くつねられ、手をとられる。

「こっちだ」

 バラムに手を引かれて路地を抜け、おそらく『ハイモ』の店があるのだろう方向へと歩き出す。

 ……自然に手を繋いで歩く形になってしまった。少し落ち着かないが……人目もほとんど無いし、いいか。


 裏通りを歩いていくことしばらく、そう時間をかけずに目的の店へとたどり着いた。
 裏通りのさらに奥まった場所にあり、一応看板らしきものもあるが、よく注意して見ないと見逃してしまいそうだ。
 そしてその看板には────。

 “ハイモの道具屋”

 とてもシンプルな店名がこれまた飾りっ気無く彫られていた。バラムは馴染みの店と言うだけあってか、何の躊躇いもなくドアを開ける。

「ジジイ、いるか?」
「あん?」

 薄暗い店内の奥に人影があったが、背が低い。しゃがれた声からして子供、というわけでは無さそうだ。

 奥の人影は僕達の入店にこちらを振り返る。

 背が低くはあるが全体的に筋肉が盛り上がっていて顔周りの毛量もとても多い。髭面で年もそれなりに重ねていそうな容貌だ。コノルを知っているから分かるが、きっと彼は小人族ではなく、ドワーフなのだろう。

 どこか不機嫌そうにも見える鋭い眼光だったが、バラムの姿を認めると幾分雰囲気が柔らかくなった。

「なんだ、鉄銹の坊主か。この間は随分とご活躍だったそうじゃねぇ、か……っておい、デートなら他あたれよ」
「デ……」

 彼の視線の先を見ると、僕とバラムの手が繋がれたままだった。……これは流石に恥ずかしい。慌てて手を離そうとするが、バラムにガッチリ掴まれていて離すことが出来なかった。

「は、関係無ぇだろ」
「ああ? 口の利き方が……ってお前ぇ、何か雰囲気変わったか?」
「かもな」
「ふぅん? で、今日は何の用だ? 冷やかしだったら叩き出すぞ」

 バラムと彼……がハイモで良いのだろうか?はかなり気安い関係なのか、2人のかけ合いにすっかり蚊帳の外だった。しかし、用があるのは僕なので話を切り出す。

「用があるのは僕の方で、その、酒場にあったラベイカの製作者に相談したいことがあって来た」
「酒場のラベイカ? ああ、そりゃ確かに俺が作ったもんだが」

 やはり彼がハイモで合っていたようだ。

「……もしかしてお前ぇ、昨日酒場でラベイカ弾いてた兄ちゃんか?」
「ああ、それはおそらく僕だと思うが」

 それを知っているということは、昨日あの酒場にハイモもいたのだろうか? ……全く気付かなかったな。《酒酔》は大分注意力を落とすらしい。

「おお! するってぇと、兄ちゃんがこの町の救世主か! そういうことは先に教えろよ坊主!」
「知るかよ」
「立ち話も何だ、相談とやらを聞かせてもらうから、奥へ入んな」

 一気に上機嫌になったハイモに案内されるままに店の奥へと入っていった。


 ……バラム、そろそろ手を離してもらっても良いだろうか。
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