おそらく、僕だけ違うゲームをしている。

鵩 ジェフロイ

文字の大きさ
25 / 246
本編

59:旅立ち

 『転生』────攻略サイトで検索してみても、記載されたページは見つからなかった。

 ただまぁ、メタ的な推測はある程度出来る。

 他のゲームやラノベ設定を調べてみた結果、候補は2つある。1つは、転生することで今まで積み重ねたステータスがリセットされるが、ステータスの限界値や成長率が増幅するパターン。ビルドの組み直しも出来ることがあるようだ。もう1つは、魔物で言う『進化』のように種族が変化し、その種族に合わせてステータスやスキル・魔法などの能力、姿などが変化するパターンだ。

 “選択肢分岐”という言い方から、後者を指しているような気もするが。

 もしくは、この2つの候補の合わせ技ということもあるかもしれない。

「……まぁ、今考えても仕方無いし……その時に望むプレイが出来そうな選択をすればいいか」

 もしくは、他のプレイヤーが転生方法を見つけて検証結果がある程度出揃ってから考えるでも良いだろう。


 自分のアバターの確認が一段落したところで、見計らったように現実世界から着信が入った。

〈応答〉コマンドを選ぶと、宙にウィンドウが出現し、ボサボサ髪に分厚いメガネをかけた中年の男性が表示される。

「やあ! 嗣治、すっかりゲームを楽しんでいるみたいだね! ハマっちゃったかー?」
「まぁ……」

 ゲームを開始してから、連続ログイン制限解消時間と睡眠時間以外のほとんどをアルストプレイにあてているので「ハマって」いるのは確かだろう。

「いやぁ、まさか読書にしか興味が無かった嗣治が廃人レベルでゲームをするなんてなぁ!」

 廃人……そこまででは無い、と思いつつ、時間が有り余っている為にプレイ時間だけは多いのは確かだしな……と何とも言えない気持ちになる。

「その話は良いから……バイトの依頼なら早く送ってきてよ」
「ありゃ、お見通しかー! ちょっと……研究資料を清書する時間が無くて、締切も迫っててなー……バイト代弾むからよろしくー!」
「はいはい」

 直後、その研究資料とやらのデータが届く。相変わらず研究内容は専門用語が多すぎてよく分からないが、清書したり出典をまとめて記載したりすればいいだけだ。何年か前からお小遣い稼ぎのアルバイトとして、時々似たような作業をしているので慣れたものである。

 …………バイトは結構久しぶりのはずだが、この作業自体はあまり久しぶりに感じないな……と、少し遠い目になる。

「今日出来るところまでで良いからー! 落ち着いたらまたそっちでお茶でもしよう! じゃあな!」
「分かった。叔父さんも仕事はほどほどに」
「うっ……善処しよう!」

 叔父さんがあからさまに目を逸らしたところで、通話が終了する。

 さて、逆にこっちではいくら集中しようが、満腹度を考えなくて良いし、睡眠も強制的にとらされるので、サクッとバイトを終わらせて余った時間はドゥトワ前のボス戦を調べたり、こっちの本でも読むとしよう。

 そして、明日からまたアルストをプレイしていこう。


 *


 宿屋のベッドで目を覚ます。
 この大分慣れてきた……気に入っている光景とも今日でしばしのお別れだ。

 机の上の木彫りの置物をインベントリにしまい、逆にムートンのマントを取り出して装備する。最後に部屋を見回す。

 よし。

 《感知》によると扉の前で待っている住民マーカーがある為、その人物が痺れを切らす前に部屋を出る。扉を開けると、いつものフル装備……から兜だけが無いバラムがいた。

「待たせたか」
「3日な」
「……」
「冗談だ」

 ……その割には目が本気な気がしたんだが。

 バラムの後について、食堂へ向かうとローザと旦那さんがおり、バラムがいつも座る席には湯気がたっている食事が用意されていた。

「おはよう! 腕によりをかけて作ったから、まずは召し上がれ!」
「ああ、今日も美味しそうだ」

 席に着いて「いただきます」と言って食事に手をつける。うん、温かくて美味しい。

「ちょっと……何て顔してんだい、まぁ、これから頑張んな! ほら、アンタも冷めない内に食うんだよ」
「……っせぇな」

 後ろで何やらローザとバラムの声が聞こえるが、今はこの温かな食事に集中するとしよう。


「じゃあ、これお弁当。今回はアンタ達2人分用意しといたからねぇ。気をつけて行くんだよ!」
「ああ、戻ったらまたよろしく頼む」

 ローザから僕とバラムの2人分の弁当を受け取って挨拶をする。厨房にいる旦那さんとも目礼をして宿を出た。

「職業ギルドにも寄って行きたいな」
「通り道だ。好きにしろ」
「ああ。……兜は被らないのか?」
「歪んじまったからな」
「新しい物を用意しなかったのか?」
「とくに必要ってわけじゃない」
「……そうだろうか?」

 あの兜のおかげであの魔物の攻撃から頭を守れたのでは無いだろうか。まぁ、戦いのプロであるバラムが必要無いというならそうなの、か?

 いつも通り、裏口からギルド内へと入る。今は朝方だが、カーラはいるだろうか? なんとなく夜勤をしているイメージがある。

「あっ、トウノさん! もしかして今日発たれるんですか?」
「ああ、カーラにも随分世話になったから挨拶をと思って」
「ふふ、ありがとうございます! またいつでも立ち寄ってくださいね」
「ああ……ギルは?」
「ギルさんは、今仮眠中で……」
「そうか」

 防衛戦が終わっても相変わらず忙しいようだ。ゆっくり休んで欲しい。あと、ギルへの差し入れとして、強壮の飴玉をいくつかカーラに渡した。

「あ、それとユヌとドゥトワの間にある東の平原で、最近異人さん同士の襲撃や戦闘が報告されてるので気をつけてくださいね……大剣使いさんがいれば大丈夫だとは思いますが」
「そうなのか。忠告ありがとう、気をつける」

 と、言っても僕に抵抗する力など無いに等しいが。それにしても異人同士の襲撃……PKプレイヤーキラーというやつか。ううん、余ったランキング報酬アイテムをバラムに渡した方が良いか……? まぁ、バラムにも僕にもあまり必要じゃなかったから余ってるのだし……その時はその時か。

 ユニーク装備は僕以外装備出来ない上にほとんどのプレイヤーには何の魅力も無い性能だしな。その他の物も僕にとっては思い入れがあるが、他のプレイヤーから見れば奪うまでもない些末な物ばかりだろう。

「じゃあ、ドゥトワに行ってくる」
「はい! 気を付けてくださいね」

 笑顔のカーラに見送られて、ギルドを出る。

「終わったか」
「ああ、待たせた」
「こっちだ」
「……」

 てっきり、手を繋がれるのかと思ったが、バラムはそのまま歩き出す。……何を待っているんだ、僕は。

「ああ、そうだった」
「っ!」

 丈夫な革の感触が手を覆う。

「馬で行くから、門までの間な」
「べ、つに……」

 ううん、顔に熱が集まってる気がするな、と考えていると、ふと視界に影が差した……と認識した時には口に何かの感触があった。

「兜が無きゃ、こういうことも出来るしな」

 と言ってバラムはニヤリと笑う。思わず半目になってしまう。

「……キザだな」

 そんなことを言うタイプだっただろうか……?

「は、お前からそんな感想を引き出せたなら上々だな」
「何が……」
「良いから、行くぞ」

 と、少し強めに手を引かれて歩き出す。そして向かってる方向に違和感を覚える。

「東門に行かないのか?」
「あんな目立つところから出る必要無ぇだろ。ただでさえ異人殺しがいるってのに」
「なるほど」

 “異人殺し”……バラムなりのPKへの呼び方だろう。
 確かに、平原に出てしまえば遮蔽物が無い為、どうあっても目についてしまうが、用心するに越したことは無いか。バラムだけなら問題にならないが、僕は足手まといもいいところなのだし。

 どうやら進む方角的に北門の方に向かっているようだ。人通りのほとんど無い道を抜けると、最低限の大きさの門の前に2頭の馬が用意されていた。
 その内の1頭に見覚えがある。あの栗毛はもしかして……。

「ブルル」
「ん、僕の事覚えてるのか?」
「ヒヒン」

 近づくと、馬の方から僕に鼻先を寄せてくれた。どうやら遺跡調査の時と同じ馬のようだ。

「はは、兄ちゃん、随分とアンバーに気に入られてんだなぁ」
「この馬はアンバーと言うのか」
「ああ、気立てが良くて賢い牝馬ひんばよ」

 もう1頭の手綱を引いてきた男性がそう教えてくれた。

「アンバー、今回はドゥトワまでよろしく」
「ブルル」
「ふ、今回も頼りにしている」
「ブルヒン」

 言葉など分かるはずも無いが、都合良く返事と受け取って《騎乗》する。

「これからドゥトワに向かう」
「あいよ。ギルドに伝えておこう」

 バラムも既に《騎乗》しており、馬を引いてきた男性にドゥトワへ向けて発つことを伝えていた。

「行くぞ」
「ああ」

 またいつかのように、バラムの後について、門をくぐってフィールドへと出た。
 前と違うのは、今回は先へ進む道のりだということだ。


 ……それにしても、PK云々はもしかして“フラグ”というやつだろうか?
感想 295

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? 表紙は自作です(笑) もっちもっちとセゥスです!(笑)

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)