おそらく、僕だけ違うゲームをしている。

鵩 ジェフロイ

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本編

67:根っこは兄弟っぽい

 なんとドゥトワの商業ギルドのギルドマスターであるジェフとユヌの職業ギルドのサブマスターのギルは兄弟であるらしい。

 ……そう言われてみると、細長い体格や顔の造作が似ているかもしれない。

「兄弟だと思って見ると、結構似ているでしょう?」
「ああ」

 若干こちらの考えを見透かされていたようで、居心地が悪かったが、素直に頷く。

「ユヌにいる家族というのはギルのことだったんだな」
「ええ、そうなんです。頼りにされているのか何なのか、時々この上なく面倒そうなことはこうして私に丸投げしてくるんですよねぇ」

 口調は困った風だが、顔は穏やかな笑顔だったので、なんだかんだギルに頼りにされるのが嬉しいのだと見受けられる。
 破天荒そうなギルドマスターや癖の強い連盟幹部の手綱を握って取りまとめてそうな、しっかりした印象だったから、ギルの意外な一面だな。

「まぁ、それはさておき。こちらの翻訳本も大変価値のある物には変わりないので、お預かり出来るならしたいです。流通はかなり絞らせてもらうかもしれませんが……」
「ああ。元々ギルド所有の物を勝手に翻訳してしまったし、そちらの良いようにしてくれてかまわない」
「そもそも翻訳出来る者が現れるとはつゆほども思って無かったんですがねぇ……。まぁ、良いでしょう。トウノさんは資料に刻印する名義は偽名をお望みと聞きましたが合っていますか?」
「ああ」

 ギルと話した時に世に名前を知らしめることについて渋ったこともちゃんと伝わっているらしい。ギルド間の連携故なのだろうが、ジェフとギルの関係を知った後だと“兄弟仲が良いんだな”と思えてしまう。

 実際になんだかんだ仲良さげな雰囲気があるし。仲が良いのは良いことだろう。僕には兄弟がいないので詳しくは分からないが……しかし、いざという時に頼りにしてしまう親族ということであれば、僕にとっての叔父さんのようなものだろうか?

「名義を決める前にもう一つ、これは商業ギルドから依頼したいことがあるんですが、いいですか?」
「まず、聞くだけなら」
「ふふ、慎重な回答ですね。トウノさんは商いの才能もありそうだ」

 うぅん……そんなことは無いと思う。本が絡むと見境とか色んなものが行方不明になってしまうし。

「実は先の防衛戦の時にトウノさんが生産された鎮め札を定期的に卸していただき、こちらも流通させていただけないかのご相談です。勿論、報酬は払いますし、断っていただいてもかまいません」
「……うぅん」

 困った。何が困ったかと言うと、どう返答すればいいかに困っている。
 鎮め札は僕が作ったことを隠して広めた物だ。製作者が僕だと知っているのは、バラムとユヌのギルド連盟幹部と一部の職員のみ。

 勿論、ジェフも近隣の連盟幹部として知っていたり、ギルが教えた可能性もあるが……と思い悩んでいると。

「おい、何で鎮め札のことをこいつに聞くんだ」

 バラムが僕が製作したともしてないとも断定しない表現でジェフに返答してくれた。

「おや? ……ああ、私としたことが! 鎮め札の機密性と製作経緯については存じておりますし、私も秘密を守る側ですよ。ユヌのギルド連盟とも契約を交わしているのですが……契約上、その書面はお見せ出来ないんですよねぇ」
「……」

 うぅん、ギルが信頼しているらしいジェフを信頼しないわけでは無いが、やはり絶妙に胡散臭くて警戒を解きたくても解けない。まだ、僕が製作者だと認めるのは早計な気がする。

「……ふふ。やはり良いですね、トウノさん。それに鉄銹の大剣使い殿も中々……。申し訳ありません、少し戯れが過ぎましたね。この商談の成立可否に関わらず、鎮め札製作の秘密を守る契約は別途トウノさんと結ばせていただきますので、どうか鎮め札販売の相談をさせてください」
「……そういうことなら」
「ありがとうございます」

 ……こう、変に胡散臭い雰囲気を出してこなければもっと軽いスタンスで僕も了承出来たんだが。

「鎮め札は狂った魔物にしか効果が無いが、そんなに流通させる必要があるのか?」
「ふぅむ、トウノさんは異人でしたね。今回はユヌ近郊にまとまって大量発生しましたが、本来狂った魔物とは各地に何の前触れも無く突然出現するものなのですよ」
「そうなのか」

 魔物知識や今まで読んだ資料の中に狂った魔物の生息地や特定の出現エリアの情報が無かったのはこの為か。

「そしてそれは魔物大襲撃の後も変わっていないことが最近分かりましてねぇ。トウノさんもお分かりでしょうが、狂った魔物は危険な相手です。それを弱体化出来るアイテムが手に入れやすくなるというのは、我々の命を守るのにとても重要なことなのですよ」

 人好きのする笑顔が鳴りをひそめ、真剣な表情でジェフはそう語った。真剣な表情が一番ギルと似ている気がするな……町やそこに暮らす人への愛着みたいなものが最も似ている部分、ということなんだろう。それならもう断る理由は何も無い。

「分かった。すぐに大量に作れるから定期的に卸すのも問題ない」
「ありがとうございます……。それに、他の異人からも問い合わせが多かったのでね、助かります! それでは! 資料の方と合わせて流通と秘密保持の契約、報酬を受け取る口座開設など進めてまいりましょう」

 話がまとまったと見るや、パッとまた人好きのする笑顔に戻ってさくさくと契約を進めだすジェフ。切り替えが早い。そして、流れるように様々なことが処理されていく。仕事が早い。そしてサラッと口座開設もされたが、ギルドと名のつく施設ならどこでも利用出来るらしい。うん、便利だな。


〈商業ギルドから納品クエストを受注しました〉


 システム的にもクエストとして認識されたようだ。

「そういえば、トウノさんは鎮め札以外のものは生産されてるんでしょうか?」
「えっ…………まぁ、してないこともないが……」
「ほぅ」

 ジェフの目の奥がキラッと光った気がするのは気のせいではないだろう。

『あの飴玉を出す気か?』

 バラムからウィスパーが飛んできた。……なるほど、これだと目の前の相手に聞かれずに密談が出来るのか。……僕よりプレイヤー機能を使いこなしてきてないだろうか?

『ああ、まぁこの際だし……』
『……聖属性を抜くなら良い』
『あー……それはその方が良いな。分かった』
『俺の分は抜くなよ』
『うん? まぁ、分かった』

 方針が決まったので、僕は聖属性を抜いた強壮の飴玉を出現させる。あの廃寺院の黒山羊にたくさん捧げてしまったので原材料の量が心許ないが、試食分くらいは作れた。

「今は手持ちがこれしか無いんだが、こういう物も最近は作っている」
「おや、意外な物が出てきましたね。拝見します」

 ジェフはそう言って僕から飴玉を受け取り、色んな角度から観察しだす。一通り観察し終わると、飴玉を口の中へと入れた。

「ふむふむ、なるほど……甘くて美味しいですね」

 と、言いながら余った紙に何やら書き込んでいく。

「こちら私の《鑑定眼》で見た飴玉の結果ですが、トウノさんの把握しているものに相違無いでしょうか?」

 ジェフから差し出された紙の内容を確認すると、僕の《解析》結果から『素材』と『製作技能』の項目が無く、代わりに『市場価値』と『評価額』という項目が追加されたものだった。
 鑑定系技能だとこうなるのか。

「僕には『市場価値』と『評価額』は分からないが、その他は概ね相違無い」
「確認ありがとうございます。こちらも卸していただけるなら是非お願いしたいですね。原材料を伺っても?」
「ああ、ライフポーションと携帯食料だが……携帯食料については固形の食べ物なら何でも良いと思う」
「ほぅ、何ともお手軽な原材料ですねぇ。少し色をつけても十分求めやすい値で流通させることが出来るでしょう。継続回復はそういうポーションもあるにはあるんですが、かなりお高めでしてねぇ。ふふ、これは需要がありますよぉ」

 おそらくだが、今のジェフは“商売人の顔”になっている。

「……継続回復ポーション製作者達の取り分が減ったりしないだろうか?」
「おや、そういう視点もあるとはますます素晴らしい。そこは我々が上手く調整させていただきましょう。ポーションの効果とも重複させることが出来るようなので、おそらくそれほど問題にはならないかと」

 そうして、強壮の飴玉も定期的に卸すことと、これも秘密保持の契約をジェフと結んだ。


〈納品クエストが更新されました〉
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