おそらく、僕だけ違うゲームをしている。

鵩 ジェフロイ

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本編

69:借家と……何だこれ

「さぁ、どうぞ入ってください」

 ジェフが小さな門を開き、僕達を民家の敷地内へと促す。
 門の中へ入って再び家を見上げる。外観は欧州辺りの古い民家といった感じで、煉瓦造りの外壁に屋根は三角になっていて、これまた僅かに張った蔦が良い雰囲気を出している。

「内装も気になるところでしょうが、まずは図書館への行き方を先にお伝えしましょう。こちらの庭側へどうぞ」
「……庭もあるのか」
「あまり大きなものではありませんけどね」

 そう言って家の裏手の方に行くジェフについていくと、想像よりも大分大きな庭があった。少なくともこの民家をもう1軒建てられそうなスペースはある。……これであまり大きくないとは……?
 と、首を傾げていると。

「こちら側の門から道に沿って行けばすぐに『レディ・ブルイヤールの図書館』に辿り着きます」
「そうなのか」

 なんというアクセスの良さ。……表通りからは大分離れているようだが、まぁ、僕にはこちらの方がありがたい。

「それでは家の中を案内しましょう」
「ああ。……もしかして商業ギルドは土地や建物の管理や斡旋もしているのか?」

 段々ジェフが不動産屋に見えてきたので、思ったことを質問してみる。

「ご明察ですねぇ。商いの場を提供、補助することも商業ギルドが主体で行っております。なので、ドゥトワはもちろんのこと、他の町の土地もご紹介が可能ですよ」
「それはすごいな」

 流石“商業”というだけあって、色々手広くやっているらしい。この分だと、次の町へ行かなくとも、ドゥトワである程度の品を揃えられたり、情報を得ることも出来そうだ。

「さぁ、こちらがこれからお2人が暮らす家になります。どうぞお入りください」
「……」

 ジェフが開錠したドアを開ける。……今何か含みのある言葉が聞こえた気がしたんだが……。釈然としないものの、とりあえず促されるまま家の中へと足を踏み入れる。

「……おおっ」

 目の前に広がる内装は、煉瓦造りの外壁とは打って変わって木材がメインで使われているようで、温かみのある印象を受けた。

 木材は使い込まれたもの特有の味が出ていて、正直言ってとても僕好みだ。

「少し手狭ですが、良い家でしょう?」
「ああ、とても」
「ふふ、気に入っていただけたようで何よりです」

 確かに大きいワンフロアになんとなく、ダイニングと暖炉付きリビングが家具の配置で何となく分かれているかどうかという感じだが、その大雑把さがむしろ落ち着く雰囲気を醸し出している気がする。

「鉄銹の大剣使い殿はいかがです?」
「…………静かなのは悪くない」
「それは良かった」

 バラムも気に入ったようだ。

「こちらが生活空間で2階が寝室兼個室が2部屋に一応もう1部屋個室があります」
「ふぅむ…………んん?」

 ジェフの説明を聞きながら、部屋を眺めていると、奥の方に妙に……いや大分存在感のある物が目に入った。

「大きな鳥……いや、ペリカンの……ブロンズ像?」

 近づいてよく見てみると、僕の胸の高さくらいまである……多分だがペリカンっぽい鳥を模したブロンズ像があった。妙にリアルな造形なのと大きさも相まってかなり威圧感がある。……目が怖い。
 この家からはかなり浮いているというか、内装やその他の家具と大分趣向が違う。

「ああ、それはアイテム転送ゴーレムです」
「アイテム転送、ゴーレム……」

 短い言葉の中に初めて聞く情報しか無かった。

「トウノさんには我々から納品依頼をすることが多くなりそうでしたので、わざわざギルドまで足を運ばずに済むように、こちらの家に設置させていただきました」
「な、なるほど……?」
「今は動力源である魔石を外しているので作動しませんが、このゴーレムの口にアイテムを入れれば、対になっているゴーレムの方へアイテムが届くという仕組みです。対のゴーレムは私直属の部下が管理しているのでご安心ください」

 この口、というかとても大きいクチバシの中にアイテムを……。

「少し試してみましょうか」

 と、ジェフが何処からか手のひらサイズの色のついた半透明の石を取り出して、ペリカン像……ゴーレムの胸元の穴にはめる。

 すると、目が光り出し、鳥独特の首の動きをしだすが……変化はそれだけだった。

「トウノさん、鎮め札か飴玉はありますか?」
「あ、ああ」

 素材不要ですぐに生み出せる鎮め札を束で出現させる。

「ペリカンくん、〈格納ストア〉」
「……っ!」

 僕が鎮め札を用意したのを見たジェフがゴーレムに向かって言葉を発すると、ゴーレムのクチバシがガバッと開いた。体長の半分ほどもあるようなクチバシがいきなり動いたので、かなり驚いた。迫力がすごい。
 あとやっぱり“ペリカン”なのか……あと“ペリカンくん”という名前なのか?

 後退りしようとして、何か障害物に当たったかと思うと、いつの間にかすぐ後ろにバラムがいて、腕が僕の腰に回っていた。
 バラムがジロリとジェフを睨む。

「おい……」
「ペリカンくんに戦闘指示は組み込まれてませんから、危険はありませんよ。さぁ、ペリカンくんの口の中にその鎮め札を入れてみてください」
「……」

 僕は恐る恐るクチバシに腕を伸ばして、鎮め札を半ば放る形で入れる。
 少しの間の後、ゆっくりとクチバシが閉じて、ペリカン特有のクチバシの下にある喉袋が少し膨らんでいた。……あれ?

「ブロンズ製に見えるのにどうやって膨らんでるんだ……?」
「ふふふ、作動している間はまるで生き物のような柔軟性を得るのですよ」
「なるほど……?」

 これはあれだな、マジカル案件か。

「これで後は『ペリカンくん』と名前を呼んだ後に〈送るセンド〉と言えば、格納した物が対のゴーレムに送られます。さらに追加したい場合は先程の〈格納〉の指示を出してください。やってみますか?」

 幾分輝いた笑顔で僕に促してくる。……ゴーレムの話題になってからジェフのテンションが若干高い気がする。とりあえずやらないと引き下がらなさそうなのでさっさとやってしまおう。

「あ、ああ……ペリカンくん、〈格納〉」

 僕の指示に再びゴーレムのクチバシがガバッと開く。閉じる時はゆっくりなのに開く時は何でこんなに勢いがあるんだ……。
 もう一度鎮め札を生み出して中へ入れると、また少しゴーレムの喉袋が膨らんだ。

「これはどのくらい格納が出来るんだ?」
「余程重い物や大きい物で無い限り、結構な数量を格納出来ますよ。トウノさんに今回依頼している物は1回で全て格納することが出来るでしょうねぇ。」
「そうなのか」

 ギルドへ足を運ばずにその量を一気に転送出来るのは中々便利かもしれない。

「ただゴーレムは中々燃費が悪くてですねぇ、結構な頻度で中サイズの魔石を消費してしまうんですよ」

 中サイズの魔石……魔石(中)のことか? 魔石は魔物を倒すと手に入るものだが、この辺りの魔物から手に入る魔石は小サイズまでだったと思うので、確かに結構コストは高そうだ。

「まぁ、鉄銹の大剣使い殿がいればいつでもいくらでも手に入るでしょうが」
「そうなのか?」
「……まぁ、必要ならな」
「お2人ならゴーレムの燃費の悪さもあまり問題にならなさそうだったのもあり、こちらに置かせていただいた次第です」
「なるほど」

 ひと通りゴーレムの解説の受けた後、ある予測をたててペリカンくんに《解析》をしてみた。


[アイテム転送ゴーレム]
ペリカンの形をしたアイテム転送ゴーレム。アイテムを対のゴーレムへ送ることが出来る。一方通行な為、受け取る機能は無い。
意志のあるものを格納することは出来ない。
識別名の後に登録された指示コマンドを発声することで、その指示通りに動作する。
ペリカンの形である必要は無い。
動力残量:42/50
耐久力:B
品質:A
分類:魔導ゴーレム
識別名:ペリカンくん
指示:〈格納〉〈送る〉〈返すリターン〉〈休止ポーズ
素材:ペリカンのブロンズ像、魔石(大)
製作技能:《錬金術》
製作者:ジェフリー


 やはり、製作者はジェフだったか。というかペリカンの形である必要は無いのか……。

「……何でペリカンだったんだ?」
「おや、やはりトウノさんにはバレてしまいますか。アイテム転送ゴーレムは通常箱型なんですが、ちょっと変わった物を作ってみたくてペリカンのブロンズ像を使ってみたんですよ」
「そうなのか……」
「ふふ、中々不評でしたねぇ」

 おかしそうにジェフが笑う。
 ……ジェフの《錬金術》が独特なのか、《錬金術》自体が独特なのか判断がつかない。

 そして、《解析》で先に見てしまってはいたが、他の指示内容やアイテム以外は格納出来ないことを僕に伝え、その他にも家の裏口から庭に出れることや、寝室を案内してジェフはギルドへと戻っていった。


 ……とりあえず、ペリカンくんは入れた物を取り出してから〈休止〉してもらった。
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