おそらく、僕だけ違うゲームをしている。

鵩 ジェフロイ

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本編

76:霧の向こうの図書館

 そうしてバラムの要望を聞きながら《編纂》をして出来上がったのがこちら。


[狂騒活性の飴玉]
揺籃編纂士トウノの《編纂》によって生み出された飴玉。
使用すると、一定時間体力とスタミナが回復し続け、攻撃力がそこそこ上昇し、強靭と聖属性が少し上昇する。
効果が切れるとそこそこ怠くなる。
状態:良
品質:B
分類:食品
効果:満腹度+35%、一定時間体力回復(小)、一定時間スタミナ回復(小)、一定時間攻撃力上昇(中)、一定時間強靭上昇(小)、一定時間聖属性威力上昇(小)、効果終了後《倦怠感》付与(中)
素材:ライフポーション、携帯食料、バーバルボアジャーキー、投げナイフの攻撃力
製作技能:《編纂》
製作者:トウノ


「強壮活性の飴玉よりも切り札っぽくなったな」
「まぁ、良いんじゃないか」

 強壮活性の飴玉ですらバラムが使ったらレイドクラスの狂った魔物・トロル型に対して十分にソロ討伐出来そうな勢いだったのに、これを使わないといけない相手とは? そしてそんな相手が出てきたとして、プレイヤーに相手が出来るのだろうか。……まぁ、切り札はあるにこしたことは無いか。

「……当分必要無いかもしれないが、これ以上効力を上げるなら全体的に素材の質を上げないと難しそうだな」
「物足りなくなったら調達してくる」
「まぁ、その辺の判断は任せる」

 未だに一度もバトルをしたことがなく、出来ればこれからもしないで済むと良いなあと思っている僕には判断のしようもないからな。


 ……さて、お楽しみの前にすべきことは終わっただろうか。

「もう我慢の限界ってところか」

 やや呆れ顔をしながらバラムが言う。

「そうだな。これから『レディ・ブルイヤールの図書館』に行く」
「……はぁ。今日のところは時間になったら力ずくでも本から剥がしてやるから、存分に楽しめ」
「ふ、ああ。ありがとう」
「あとこれはお前が装備してろ」
「ん? ああ、変化のアンクレットか」

 そういえば、昨夜バラムの変化姿を見る為に渡してそのままだったな……うぅん、その後のことを少し思い出してしまい、少し頬に熱が集まった気がする。

 少し頭を振って気を取り直すと、変化のアンクレットを受け取って装備する。

「まぁ、僕の方が色々と恩恵がありそうだったからな」
「ああ、いざとなったら変化して隠れるか逃げるかしろよ」
「……善処する」

 あまり自信は無いが。

「じゃあ、準備するから少し待て」
「準備?」

 そのまま庭に出て行って来るだけだと思うんだが……と首を捻っていると、その場でバラムの装備がいつものフル装備になる。うん? ……ああ、盟友の絆レベルがまた上がってプレイヤーのようにインベントリから装備変更出来るようになったのか。

「フル装備だな」
「何があるか分かんねぇからな」
「……」

 “大剣が必要な図書館とは”と否定したいが、今までの出来事やマジカル案件を考えると言葉が喉まで出かかって止まる。

「……うん、備えあれば憂いなしというやつだな」
「良い言葉だな。じゃあ、行くぞ」
「ああ」

 僕達は勝手口から庭へと出て、その先にある図書館へと繋がる道へと進む。道の両側は林になっていて歩いていて中々気分の良い風景だ。祖父母の家の近所にもこういうところがあったな、と懐かしい気持ちにもなる。

「む、霧が出て来た……?」
「俺から離れるなよ」

 白い靄が出て来たな、と思う間も無く視界が白くなり5メートルより先はほとんど見えなくなってしまった。右手をバラムにとられる。

「……と、多分大丈夫だ。道は見失ってない」
「あ?」
「さっき《感知》が《勘破》に、《暗視》が《夜目》に成長してな……」

 と、ゆっくり方角を確かめつつ歩きながら成長した技能の詳細をバラムに伝えるととても大きなため息と共に「またわけが分かんねぇもんを……」という呟きが斜め上から聞こえてきた。

「《感知》は普通《生命感知》か《魔力感知》になる。俺は《嗅覚感知》だったが」
「まぁ、様子がおかしい技能になってしまったとは思うが、他に選択肢が無かったんだ……」
「……ふん、それでお前の安全度が上がるんだったら俺はそれで良いが」

 バラムも僕と同じような着地をしていた。まぁ、気ままにプレイする身だ、便利で安全になるならそれで良いだろう。

「道もしっかり分かってんのか?」
「ああ、霧と前に進む道とを分けて認識出来ている。バラムは?」
「視界は見えてる通りだが、直感と匂いで辿り着けそうであるな」
「流石だな」

 こう認識出来てみると、あの借家に辿り着く前の霞もこれほど濃くは無かったが、同じようなものだったのかもしれない。進む資格、能力の無い者を遠回しに……しかし確かに拒む霧だ。

「む、もうすぐ着きそうだ」
「ああ」

 いくら頭の中でマップ化された道が分かるとはいえ、何の変哲もない石ころや障害物は分からないので慎重に目的地に向かって歩くことしばらく。おそらく移動距離的には徒歩5分というところで、目的地へと辿り着いた。

 辿り着くと同時に霧が急速に晴れていく。かなり開けた場所になっていて、目の前にはその広い土地に見合った大きな館……ともすれば城のようにも見える建物が静かに佇んでいた。

「欧州のシャトー……のような感じか?」

 周りの林とシャトーの絵画のような美しい風景に感心していると、軽く右手を引かれる。

「おい、あそこ」
「うん? …………何で欠け月の写しがこんなところに……」

 バラムが顎で示した方を見ると、シャトーの前の小さな水の出ていない噴水の前に淡く光り、光の塵を溢す欠け月があった。

 これが何を示すのかと言えば────。

「ここはドゥトワの町の中では無いということか……?」
「備えあれば憂いなし」
「確かにな……」

 ……気に入ったんだろうか、そのことわざ。

「うーん……とりあえず触っておくか」
「町側を通らずに借家のすぐ裏に転移出来るのは良いな」
「……不法侵入的なものにならないか?」
「あの男ならこれも把握してるだろうから大丈夫だろ」
「ああ……それは確かに」

 ジェフが直々に紹介し、図書館へ繋がっていることも知っているのに、ここの欠け月の写しの出現を把握していないとは思えない。

「むしろ、これを使った移動を推奨されている、まであるか?」
「だな。ま、問題無いなら良いだろ」

 そう言いながら2人で欠け月に触れて転移ポイントを解放する。名前はしっかり『レディ・ブルイヤールの図書館』となっており、ここから丘の上の廃寺院に転移が出来そうだった。もちろん今はしないが。

 転移ポイントの解放も済んだので、建物の扉の前へと移動する。

 この外観を見た後だと、“図書館”というより“館”とか“屋敷”と呼ぶ方がしっくり来る気がするな、と考えながらどうやって来訪を告げようかと考えていると────勝手に扉が開いた。

 その先には、こちらに頭を下げた乾いた白髪を簡素に結った老女がいた。感知出来る範囲で意志のある存在はこの老女1人のようだ。

「ようこそおいでくださいました、トウノ様、バラム様。さぁ、お入りください」

 頭を上げた老女に促されて屋敷の中へ入ると、開いた時と同じようにひとりでに扉が閉まった。……自動ドア?

「失礼ですが、入館許可証を拝見させてくださいませ」
「ああ」

 僕とバラムは未開封の封書を老女へと渡す。む、自動《解析》が発動した。どうやら僕の封書にだけ《霧の誘い》という特殊効果……というには少し弱いものが付与されていたようだ。

 ……ユヌの職業ギルドを出た後……いや、封書を手にした時から少し変になっていたのはこれのせいだったのかもしれない。

 老女が受け取った封書を手で撫でる。すると、封書が霞のように崩れて、宙に文字が広がる。

「確かに。開封もされなかったようですねぇ。では……」

 と、その霞がそれぞれ僕達の方へと向かう。バラムは僕を庇うように前に出るが、霞は僕達にぶつかると霧散して消えた。

「そちらがあなた方の図書カードになります。紛失した場合はこの婆にお申し付けを」

 図書カード?どこにそんなものが……と、気づくと手にギルドカードに似た、乳白色で僅かに虹色に光る不思議な素材のカードが僕の手の中にあった。


[霧の図書カード]
『レディ・ブルイヤールの図書館』の図書カード。
これがあれば、図書館への立ち入りと一部の本を借りることが出来る。
耐久力:C
品質:EX
分類:道具
効果:立ち入り場所の判定、閲覧物の判定
素材:レディ・ブルイヤールの力
製作技能:《具象化》
製作者:レディ・ブルイヤール


 うーーーん、《具象化》……かぁ。
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