【書籍化&完結】おそらく、僕だけ違うゲームをしている。【2月中頃発売】

鵩 ジェフロイ

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本編

81:ドブネズミの洞穴

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 その日は時々〈睡眠〉や短時間のログアウトを挟みながら、ひたすら読書に耽った。

 小まめに図書館に通いつつ、植物に関する本棚の読めるだけの本をあらかた読み終わった頃には《植物知識》がレベル上限に達し、《植物学》に成長させることが出来た。
 今は動物に関する本に手をつけ始めている。

 そして、長い方のログアウト時間が迫ったところで、ジェフから何故かもう1体ペリカンゴーレムが届いた。こちらはアイテム受け取り専用のゴーレムのようで『ペリカンくん2号』と呼べば良いそうだ。送る用のペリカンくんとの見た目の違いとしては、ペリカンくんの頭に小さめのオウムがとまっていて、相手から何か送られて来た際にはこのオウムが喋って伝えてきてくれるらしい。

 ……一体どういう技術なんだ。《錬金術》も中々不可解な技能だと思う。そして、やはりこの受け取りを知らせる装置はオウムである必要は無いようだ。

 そこそこの大きさのあるペリカンのブロンズ像1体だけでも中々圧があったのに、2体ともなるとシュールさがここに極まっている。流石にこれ以上増えないことを願いたい。

 そして、何故この受け取り専用ゴーレムが設置されたのかと言えば、『ハスペ』名義で売り出した鎮め札と強壮の飴玉の売れ行きがかなり良いらしく、安定供給の為、受け取り専用ゴーレムによって素材や伝言もこの家でやり取り出来た方が効率的だとのことで送られてきた。

 ゴーレムが届いたのと同時に追加の鎮め札と強壮の飴玉を依頼されたが、その追加分はすでに納品している。
 そしてバラムに相談した上で、強壮活性の飴玉もサンプルとして送ったところ、ジェフからこちらも販売したいとのことだったので、契約が完了し次第、この飴玉も売り出される予定だ。

 既に所持金がとんでもないことになっているが、まぁ、あって困るものではないだろう。ただ、貨幣の循環という意味では定期的に何か大きめな買い物をした方が良いのかもしれない。受け付けているようなら図書館への寄付などしてみるべきだろうか? その辺の事情が分からないので、折を見てジェフにでも相談してみるのが良いかもしれない。

 などと、なんだかんだあったが、あぬ丸達との約束の日までは、そうして過ぎていった。


 *


 ゲーム内での待ち合わせ当日、僕とバラムは予定より少し早く『ドブネズミの洞穴』へ向かっていた。

 というのも、その食事処は既知の住民に紹介されないと場所すら分からないようになっているらしく、場所を指定してきたあぬ丸達は辿り着くことが出来るし、僕もバラムに案内されれば問題ないが、そうするとシャケ茶漬けだけが店に辿り着けないという問題が発生する。

 その解決策として、僕達は早めに食事処に行き、バラムがシャケ茶漬けを迎えに行くことになった。

 僕達と一緒に向かえばいいのでは?と提案したが、バラムに断固として断られてしまった。“お互い報連相を大事に”スローガンを持ち出して聞き出したところ、鎮め札やその他諸々の関係で僕個人には全く絞られていないが、探されている様子らしくあまり表通りに出て欲しくないとのことだった。

 さらには“エレメント”という次のイベントでメインに関わってくるだろう存在達も騒がしく、バラム的には僕に近づいて欲しくないらしい。
 この辺は僕の予想になってしまうが、エレメントの説明やファンタジー的によくある設定的にも、どこにでも存在する半分自然そのもののような存在と思われるので、もしそうだとしたらバラムが常時感じていた“不快な匂い”の内にこのエレメントも関わっている可能性が高い。

 ということは、エレメントとバラムは敵対とまでいくのかは分からないが、相性がすこぶる悪い、くらいはあるんじゃないかと考えられる。

 しかしまぁ、別にエレメントと接触しなくても今のところしたいプレイに支障は無いので、ちゃんと納得した上でバラムの要望を全面的に飲むことにした。

 あとは何故表通りに行かなければエレメントと関わらなくて済むのかは……どういう原理かは分からないが、多分『ドブネズミの洞穴』という店がバラム側に近いから、というところだろうか。以前のバラムが多少過ごしやすく気に入っていたほどだし。

 ということで、待ち合わせより少し早めに『ドブネズミの洞穴』へと到着した。ちなみに道中は、裏通りの中でも薄暗く細い道を通り、借家からは結構近いところにあるようだ。

 外観は何かの店とはとても思えないような、廃墟の小さな勝手口という雰囲気だ。そんな風なので、もちろん店名を示す看板のようなものは無い。……ただし、《勘破》によるとブラウンラットという動物が、出入り口を監視するように取り囲んでいるのが分かった。
 “ブラウンラット”つまり、ドブネズミだ。

 …………衛生面は本当に大丈夫なのだろうか。一応、念の為入れておいたインベントリ内の治癒ポーションをつい確認してしまう。

「ここに立て」
「ああ」

 粗末な扉の前に立ったバラムに促されて、隣に並んで立つ。すると……。

「チュウ」

 扉の上部にある庇のような出っ張りに一際大きなブラウンラットが現れ、バラムと僕を見下ろす。

「チチ……チチ……チュウ、チュウ?」

 ブラウンラットはバラムを見て頷い……たように見え、僕を見て首を傾げる。

「俺の連れだ」

 それに対してバラムがそう答えると、何処からか引きつった笑い声が微かに聞こえた気がした。

「チュ」

 やがて、ブラウンラットが再び頷くと何処かへと走り去っていった。……それだけではなく、周囲のブラウンラットも去ったようだ。…………僕の入店が許されたのだろうか?

「入れ」

 その認識で合っていたのか、バラムが粗末な扉を開けてくれたので、僕はそのまま入店した。中は光源の弱い間接照明のようなものしか無く、普通の視界だとかなり薄暗く感じそうだった。

 ……ただ、意外と清潔そうな、というか美味しそうな香りのする空間のようだ。まぁ、ここですえた匂いとかされても困るのだが。

「ヘッヘッヘ、随分とご無沙汰でやしたねぇ、鉄銹のダンナ」

 店の奥から歪んだ笑みを浮かべた禿頭とくとうの中年男性がやってきた。バラムに挨拶をし、僕へ視線を移す。

「こちらはお初にお目にかかりやすねぇ、鉄銹のダンナのお連れさんとあっちゃあ、色々サービスさせていただきやすのでどうぞご贔屓に……ヘッヘッヘ……」
「ああ、僕は……」
「こいつのことは“森碧”でも“編纂士”でも適当に呼べ」

 名乗ろうとしたらバラムに遮られてしまった。

「へへへッ、承知しやした。あっしのことも店主でもオヤジでもドブネズミでも、好きにお呼びくだせぇ。さ、ダンナ方、こちらへどうぞ」

 そんなバラムの様子もさして気にとめることもなく、店主は席を案内してくれた。見たところ、席は全て個室になっているようだ。なんか、こう……秘密の会合とかに都合が良さそうな気配がとてもする。

 内装も中世のアウトローな者達が利用する酒場のようなダークなアンダーグラウンドな雰囲気がある。好きな人は好きそうだ。

 案内された個室の円形のテーブルとそれを囲むように配置された座席の一つに腰を下ろす。

「俺は少しだけ出る。……分かってるな?」
「ヘッヘッヘ、承知しておりやすよ」
「……」

 何かバラムと店主が怪しいやり取りをしているが、バラムはシャケ茶漬けを迎えに行く為にすぐに店を出て行った。

 あぬ丸へは店に到着したこと、シャケ茶漬けには今バラムが向かったことを伝えるメッセージを送る。


 皆が揃うまで暇なので、時間を潰す為に図書館で借りた本の内の一冊を取り出した。

 ふふん、常に未読の本を持てるようになったのがとても良い。


────────────

話のタイトルの書き方を少し変えてみました。
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