おそらく、僕だけ違うゲームをしている。

鵩 ジェフロイ

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本編

88:新商品開発?

「うぅん? 一応僕の指の汚れだけを指定したつもりだったんだが……」
「むしろお前のその2つの技能使って控えめな効果になる方がおかしくねぇか?」
「…………」

 ……ぐ、何も反論が出来ない。

「あ、秘技にさっきのが追加されているな」


《古ルートムンド語》
秘技〈汚れを濯ぐ〉
消費AP:5
対象を指定して《編纂》で付与することで発動する。対象と対象が己に属すると認識するもの全てに発動する。

汚れを濯ぎ、浄める効果がある。


「……効果範囲とそれに対するコストが壊れてる系だった」
「だろうな」

 しかも今の対象“僕”が自分に属すると思っている判定もよく分からない。……まぁ、バラムとは盟友だったり特殊効果だったりで繋がりが色々とあるのでまだ分かるが、この借家にまでかかるのはどういう判定をしているのか……。

 チラッとペリカンくん達の方を見ると、少し錆びたりくすんでいた部分が綺麗になっていた。

 ……錆、と言えば。

「バラムの装備もこれで手軽に綺麗に出来るんだろうか?」
「まぁ、出来るんじゃねぇか? ……むしろ装備する時にかけたいが」
「どうしてだ?」
「お前の匂いがするから」
「……」

 バラムにとってこの秘技は香り付き消臭スプレーか何かだろうか?

「とはいえ、ここに戻らないと綺麗に出来ないというのもな。…………これもアイテム化出来れば持ち運び出来るだろうか?」
「また何か作るつもりか? ……“コレ”は良いが“アレ”はやめとけよ」
「……もちろんだ」

 “アレ”とは〈淡き宵の訪い〉という危険極まりない秘技のことだろう。知られるだけでも厄介そうなのに、アイテム化して誰でも手軽に使えるようにするなど正気の沙汰では無いくらいは、流石に分かる。

 ということで鎮め札を作った時の要領で諸々調整してみたものがこちら。


洗浄クリーン札]
特別な意味が込められた文字が綴られたお札。
使用した対象の汚れを落とす効果がある。
どんな汚れも落とすことが出来る。
使用回数:1/1
耐久力:E
品質:C
分類:効果付与アイテム
効果:汚れを落とす
素材:羊皮紙
製作技能:-
製作者:-


 こんなものだろうか。やはり今回も隠蔽と嘘で色々と誤魔化している。……何故か『どんな汚れも落とすことが出来る。』という文章だけは消すことも変更することも出来なかった。こんな強気に言ってしまって大丈夫だろうか。

「これでどうだろう」
「……お前の匂いがして良いな」

 とりあえず束で作ってバラムに渡した。まあまあたくさん渡したので早速1枚使ってみた感想がそれらしい。

「あとはエンチャントの原理を使えば……あれをこうして……」
「まだ何か作んのかよ」

 エンチャントからヒントを得てさらに僕の力を付与することで出来たのが────。


[鎮め札・中]
特別な意味が込められた文字が綴られたお札。
装備やアイテムに使用すると、狂った魔物をそれなりの間鎮める効果を付与することが出来る。
直接狂った魔物に使っても鎮める効果がある。
使用回数:1/1
耐久力:E
品質:C
分類:効果付与アイテム
効果:狂った魔物の鎮静(中)
素材:羊皮紙
製作技能:-
製作者:-


 少し効果の高い鎮め札も作ることが出来た。またエンチャントから着想を得た秘技も新たに追加された。


《古ルートムンド語》
秘技〈我が力を与えん〉
消費AP:3~
対象に《編纂》で付与することで発動する。消費するAPによって効力と効果持続時間が変動する。

己の力を付与することができる。


 もう少し頑張れば『上』効果の物も作れそうだが、これ以上は量産するには消費APが少々キツそうなのでそこは地道にまたAPを伸ばしていくか、何かもっと根本的な工夫が必要そうだ。

「……それも今作れるだけくれないか?」
「うん? ああ、かまわないぞ」

 バラムに頼まれた通り、AP上限ギリギリまで生み出した。オマケで自動回復を待って、少数だが鎮め札・上も渡した。

「…………上は使いたくないな」
「どうしてだ?」
「お前の匂いが濃い……」
「…………」

 気に入ったのか鎮め札・上をずっとすんすんと嗅いでいる。匂いが濃いとか言われるとすごく複雑な気分なので、出来ればやめて欲しいのだが、バラムの顔がとても満足気なので止められないでいる。

 流れで始まってしまった新作ラッシュが一段落したので、次は技能書を改めて確認する。
 技能書の方は技能を習得する過程を記しているので《古ルートムンド語》で記せば…………。

「もしかして《古ルートムンド語》の技能書も作れたりするか……?」

 と、少し試そうとしてみて────やめた。

 何故かというと、作れないことは無いが圧倒的にリソースが足りなさそう、という感覚的な警告が鳴り響いたからだ。これを無視して強行すると取り返しのつかない“何か”を代替リソースとして持っていかれそうな気配がする。

 指輪も「やめておいた方がいい」と言っている気がするので、本当にやめておこう。

 多分、今の僕に安全に作れるのは初期技能までだろう。上級技能はまだ何とかなりそうだが、今強行するほど作りたいわけでもない。

「技能は出来る限り地道に獲得と成長をさせるのが一番、ということなのかもな」
「だろうな。というか、お前は時々思い切りが良すぎる」
「むぅっ、ほうか?」

 バラムに頬をむにむに捏ねられながら小言を言われる。話しづらい。

「ほういえば、げんほひゅうとくはじゅんひょうか?」
「あん?」

 流石に聞き取れなかったのか、捏ねる手を止めて聞き返してくる。

「言語習得は順調か?」
「あー……まぁ、技能が無い時に比べたらマシだが、やっぱ適性が無いのはキツいな」
「そうか……」
「ま、地道にやってく」
「ああ、僕も地道に入門書を作っていくとしよう」
「ああ」


 そうして、またドゥトワに来てからのルーティンの日々へと戻っていった。


 ちなみに、翻訳本の寄贈はしても問題無いという割とちゃんとした書状がジェフと、なんとギルの署名付きで送られてきた。翻訳本とこの書状を一緒に老女に渡せば良いようだ。

 また、新作の洗浄札と鎮め札・中のサンプルを送ったところ、これらも納品リストに加わることとなった。洗浄札の方は始めは〈クリーン〉と効果が被っていることと、比較的普及している魔術とのことでジェフの反応が芳しく無かったのだが、〈クリーン〉では綺麗にしきれないものにも効果があったとのことで、売り方を工夫すればいける、と最終的には乗り気になっていた。

 イベントの方は、僕の周囲ではあまりに開催されている気配が乏しい為、珍しく頻繁に掲示板などを確認しているのだが、エレメントやイベントエネミーとは別に、ドゥトワ近郊のフィールドで夜間に“徘徊型レアボス”が何体か出現しているとのことで賑わっている。

 何でも大きな牡山羊、馬、鷲のような3種類の姿が確認されているらしく、共通しているのは体表が真っ黒で目が黄色ということだ。

 今のところ3種類確認されていて、見た目も中々カッコいいとのことで、今回のイベントの隠し要素なんじゃないかとか、次のワールドクエストの仕込みなんじゃないかとか、何とかクエストを発生させれば従魔にしたり、召喚出来るようになるんじゃないかなど様々な憶測がなされている。


 …………いやぁ、一体どこの妖精なんだろうか。


 プレイヤーからは山羊、馬、鷲がそれぞれ別個体だと思われているようだが、おそらく、全て同一個体だろう。あの後軽く調べた妖精名や力の一部だという変化のアンクレットの効果から、姿を変えることが出来るようだから。


 *


 ログアウトしてしばらくぼんやりと過ごしていると、プライベートルームに訪問通知が来ていた。

 訪問者は叔父さんのようだったので、すぐに許可を出す。

「こうして会うのは久しぶりだなぁ! 相変わらずゲーム楽しんでいるようだね!」

 現実の叔父さんそっくりのアバターが入室してくる。……何もアバターでまで少し疲れたヨレヨレ感を再現しなくて良いと思うんだが……と思ってしまうほど、現実とそっくりなアバターだ。

「久しぶり。まぁ、バイトと読書以外とくにすること無いし、今はゲーム内での読書が楽しいし」
「そうかそうか! MMOなんだし他プレイヤーとの交流もしたりしてるか?」
「ああ。フレンド何人かと……まぁ、遊んだ」
「それは良いことだ! そういう交流をして欲しくて勧めたんだからなぁ」

 ゲーム内の食事処で喋るだけなのを想定はしていなさそうだが、立派な交流ではあるので問題は無いだろう。

「……ところで、その……ゲームをプレイしてて困ったこととか、叔父さんに相談したいこととかは……無いか?」
「とくに無いけど」
「本当に本当か?」
「うん」

 妙に相談事が無いか詰め寄ってくるが、本当に思い当たることは無い。
 首を傾げていると叔父さんがさらに詰め寄ってくる。

「嗣治……その、嫌だと思ったらちゃんと断るんだぞっ!」
「ん? うん」
「絶対だぞ!?」
「分かったって」

 何故今そういう念押しをしてきたのかよく分からないが、オンライン交流トラブルか何かの話でも聞いたのだろうか、と思いながら頷く。

 その後も叔父さんは終始ソワソワしながら、世間話や僕の体の状態を共有してから退室していった。

 疲労が溜まりすぎて情緒不安定になっているのだろうか? 叔父さんの仕事仲間に休みをとらせるように連絡しておこう。
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