おそらく、僕だけ違うゲームをしている。

鵩 ジェフロイ

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本編

91:白と銀の肖像

 本日もログイン。
 イベント中ではあるが、僕の周囲は相変わらずイベント感は無いので、いつも通りプレイしていこう。

 敷地内を確認すると、バラムは留守にしているようだ。
 誰にもおもねらなくて良いとはいえ、やはり傭兵稼業が性に合っているのか何かとフィールドに出たり、自分が選んだ依頼はこなしているみたいだ。

 とりあえずご飯を食べて満腹度を補充したら、まずはすっかり日課となりつつある生産と納品を行う。今もって売れ行きは落ちるどころか右肩上がりらしい。飴玉の素材も潤沢に送られて来るので、かなりの量を納品しているのだが、ログアウトして間が空いてしまうと必ず追加納品依頼が来ている状況だ。

 ほぼ全てのステータス割り振りポイントをAPに注ぎ込んでいる僕のAP量でさえ、一度回復を挟まないといけないというのだからその量は推して知るべし、だな。

 とはいえ、それほどかからず納品分の製作が完了する。そんな感じでまたあっという間に資金が貯まってしまうので、納品と共に出資依頼も出した。

 最後に、ギルドから許可を得た旧倉庫にあった本の翻訳本を聖属性は抜かずにありのままで生み出してインベントリにしまう。

「翻訳本よし、書状よし。じゃあ今日も図書館に行くか」

 いつものようにフクロウ化して離陸。そして、図書館前で着陸。

「む? 空気はこの前違和感があった時と同じだな。……むしろ強くなってる?」

 あの時は気のせいで片付けたが、どうやら気のせいでは無かったらしい。
 ……これは、バラムに連絡しておいた方が良いかもしれない。

『今大丈夫だろうか』
『……少し、待ってろ』
『ああ』

 バラムに短く用があることをウィスパーで伝える。向こうの状況が分からないので、一言だけ入れて、向こうから応答が来るのを待つ。

『どうした』
『実は……』

 この前は気のせいだと思った違和感がまだあるどころか強くなっていることをバラムに伝えた。

『……奴の反応は』
『奴……指輪か? いや、反応は無い』

 指輪を“奴”と呼ぶバラムもバラムだが、それで伝わってしまうのも何だかなぁと思いながら、返答する。

『これからそこに籠るんだろ?』
『ああ、そのつもりだが』
『日が暮れる頃に俺が迎えに行くから、それまで中にいろ』
『ふぅむ……そうだな。そうしよう』

 確かに図書館はこの外の敷地よりさらに外界との遮断感が強いので、この違和感がこれからどうなるにしても図書館の中まで影響してくることは無いように思う。バラムの言う通り、迎えに来てくれるまでは図書館で読書を楽しむとしよう。
 ここにはまだまだ読んでいない本がたくさんある。

 バラムとのウィスパーを終え自動で開く扉をくぐると、いつものように老女が出迎えてくれる。

「トウノ様、本日もお越しくださり嬉しゅうございます」
「ああ。以前ここに来た時に保留になっていた翻訳本とギルドからの書状だ。寄贈しても良いと許可を貰った」

 忘れない内にと、インベントリから翻訳本と書状を出して老女へと渡す。やけに恭しく受け取った老女は何処かうっとりとした表情で背表紙を撫でた。

「まあ……本当に素晴らしいですわ……レディもきっとお喜びになるでしょう……」
「そう、か……それなら良かった。あとこれの返却も頼む」
「ええ……ありがとうございます……」

 普段、感情の見えない老女の陶酔感に戸惑うが、喜んでくれたなら良かった。

「きっとここの本達もさらにトウノ様の手に取ってもらおうとするでしょう。是非本との良い出会いを楽しんでくださいませ」
「ほぅ」

 これは……今まで半透明になっていて触れなかった本が触れて読めるにようになったということだろうか? 僕の成長や必要な時に増えていくと説明されたが、こういった寄贈でも増えていくのかもしれない。

 まぁ、読める本が増えたのは良いことだ。早速今日も読書を楽しんでいこう。




「────♪」
「ん?」

 あと何冊か読めば《魔物知識》も成長させられそうなところまできたところで、ふと何か聴こえた気がして、意識が本の世界から浮上する。

 まだバラムが迎えに来る時間ではないし、どことなく、聴こえてくるのは若い女性の声な気がする。なので、老女でも無いのではないかと思う。

「────♪」

 また聞こえた。やはり気のせいでは無いらしい。
 よく耳をすませると、発生源は入り口とは反対側の奥の方だ。

「────♪」

 何処から聴こえてくるのか気になり、誘われるように声の発生源へと向かうと、天井まで埋め尽くすほどの本棚が途切れ、ポッカリと空いたスペースに大きな絵画がかけられていた。
 ……何度かこの部屋を見て回っているが、こんな場所にこんなスペースや絵画はあっただろうか?
 まぁ、今までの情報から、この図書館の主は認識阻害や領域を分けるといったことが得意なのではないかと推測出来るので、この現象もその一つなのかもしれない。

 改めて突然現れた絵画に意識を向けると、それは2人の若い女性が描かれた肖像画だった。片方は椅子に座っていて、その傍らにもう片方の女性が立っている。

 座っている方の女性は絹のような白髪に紫の瞳、薄く笑みを湛えた淑やかな印象で大きな鐘型の白い花を一輪持っている。立っている方の女性は立ち姿からして凛としていて、波打つ見事な銀色の髪と同じく銀色のとても意志の強そうな瞳で前を見据えていた。

 服装は白髪の女性は中世貴族のようなドレスなのに対し、銀髪の女性は貴族的なのは変わらないが、男物の服装をしていて『男装の麗人』という言葉が浮かぶ。

「ふぅむ…………銀髪の女性の方は何故か初めて見た気がしないな……」

 銀髪の方の女性がどうしてか見覚えがある気がして首を捻っていると────白い何かがひらりと絵画から落ちてきた。

 ……何を言っているのか自分でも分からないが、絵画から抜け出してきたようにしか見えない。

 恐る恐る落ちた物を確認すると、それは1枚の紙と一輪の大きな白い花だった。ちょうど絵画の中の女性が持っているのと同じような花だ。
 ────濃厚な、嗅いでいると頭が痺れるような、霞がかかってくるような甘い香りを感じる。

「ホホホ、レディがここまでお与えになるとは。流石はトウノ様でございます」

 いつの間にか背後にいた老女の声を僕はぼんやりと聞く。レディから与えられた。この白い花を。
 ということは────。

「この……座っている方の白髪の女性がレディ・ブルイヤール、なのだろうか……?」

 ひどくぼんやりとして言葉がまとまらないが、何とかこれだけは聞いておきたいと、どうにか口にする。

「ホホホ……ええ、こちらのお座りになっている方こそ、この館の主『レディ・ブルイヤール』でございます」
「そう、か……」
「その花はレディからのトウノ様の寄贈に対する感謝のお心でしょう。けれど、あまり長いことその香りを感じることはお勧め出来ませんわ」
「この花……」

 老女が言うにはこの花の香りがこの“ぼんやり”の原因らしい。確かにこれ以上嗅いでいると意識を失ってしまいそうなので、さっさとインベントリにしまう。この図書館を出たらまた《解析》をしよう。

 インベントリにしまうと、少しずつ調子が元に戻ってきた。やはりあの花が原因だったようだ。

「む、そういえば紙も落ちてたな」

 白い花の強い印象で忘れていたが、花と一緒に紙も落ちていたんだったと、確認すると、そこには五線譜に点が疎らに書き込まれていた。

「楽譜か……ん、《古ルートムンド語》では無いのか。……いや、それが普通か?」

 曲名の欄には《古ルートムンド語》……ではなく、普通に現在この世界で使われている言葉で曲名が記されていた。

 その曲名は────。


 “揺籃歌の断片”


 うーん……何となく仮の曲名として記してある、というニュアンスだろうか。
 それよりも『揺籃』か……揺籃歌という言葉自体は子守歌の別の言い方としてあるようなので、偶々なのかもしれないが、不思議な縁を感じる。

 まぁ、これも家に戻ってからラベイカで確認してみようとインベントリにしまって────肖像画に一度目礼してから、背を向けた。
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