おそらく、僕だけ違うゲームをしている。

鵩 ジェフロイ

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本編

95:行列の出来る……

 欠け月の写しの傍らには一気に十数体の彷徨う霊魂が佇んでいた。黒い影がこれだけあると中々迫力がある。

 昨日の5体から次は倍以上……ちょっと増え過ぎでは無いだろうか? このペースだと次に確認する時が少し怖いが、この数がそのまま狂った魔物になってしまう方が怖いのでコツコツ光の球化していこう。

 これまでの経験から彷徨う霊魂達に認識されると、目の前に瞬間移動してくるようなので、もう欠け月の写し付近に降りてしまおう。……この数が一気に目の前に来られると流石に怖い。

 欠け月の写し付近に降り立つと同時に変化を解除する。

「……どうしてか分からないが、意識が一斉に僕に向いたのが分かるな……」

 僕の存在を認識した瞬間、すごく視線の圧を感じだす。よし、さっさと光の球化してもらおう。

 と、鎮め札を束で出したのだが────。

「何だろう……この残念感というか“それじゃない”と言われている気がする」

 うぅん……試しに鎮め札・中を出してみる。

「……すごく食いつきが良い……気がする」

 どういうわけか鎮め札・中の存在を知っていたかのように、それを見て霊魂達が湧き立った……ように感じた。多分、おそらく。

 ……仕方ない。僕が用意する分には少しAP消費が嵩むだけなので、鎮め札・中を使ってあげよう。それにエンチャント擬きの秘技を使う分だけ技能経験値が美味しい、と思っておこう。

「それじゃあ、順番にこれを使うから……って綺麗な整列だな……」

 鎮め札・中を掲げながら言うと、何も言っていないのに僕の前に1列に整列し始めた。結構意志が伝わって来るし、意外と自我があるのだろうか?

 とりあえず、鎮め札・中を使って一体ずつ彷徨う霊魂を光の球化させていく。


 “────い。────い。”


「……ふぅむ」

 また、微かに何かの声が聞こえてくる。相変わらず何処から聞こえてくるのかは分からないが、気のせいでは無さそうだ。
 霊魂を光の球化させる度に聞こえ始めた声を少し気に留めつつも鎮め札・中を使用していった。




「ホホホ、ご苦労様でした、トウノ様」
「……どうも」

 全ての彷徨う霊魂を光の球化させ、図書館の中へと入ると、いつものように老女が出迎えてくれたが、先ほどの僕の行動を見ていたかのように声をかけてくる。

「……勝手に霊魂達を光の球化して消してしまっていたが、ここの敷地内のことだし何か問題あっただろうか?」
「ホホホ、放っておいても良いことなど無い魂をトウノ様のお力で昇華していただいて助かっておりますわ」
「そうか」
「ですが、トウノ様を頼って増えているようですので、引き続きあの者達を見かけたら昇華していただきたいですわねぇ」
「分かった、そうしよう」

 どうやら僕が“光の球化”と勝手に呼んでいる状態は“昇華”と言うようだ。

 図書館からもお墨付きを貰った……というか、ある意味僕がいるせいでこちらに来る彷徨う霊魂が増えているようでもあるので、これまでのように見かけたら昇華していった方が良いのだろう。

 ……それにしても、僕を頼って、ということは彷徨う霊魂達の間で僕の情報が出回っているとでも言うのだろうか。先ほどの霊魂達も鎮め札の存在やグレードについて知っているようであったし。

 まぁ、それはさておき。

「今日は返却と貸し出しだけお願いしたい」
「ホホホ、かしこまりました」

 図書館に赴いた目的を遂げる。もう少しで《鉱物知識》も成長させることが出来そうだ。

 用事を終えて、図書館の外に出るともう日が傾き、空が茜色に染まっていた。

「……もういる」

 念の為、欠け月の写しの方を確認すると、既に彷徨う霊魂が2,3体増えていた。……この短時間でか?

 とりあえず昇華していくとして、このペースで増えられるとログイン中はともかく、ログアウト後が大分怖いんだが……。

 もう図書館の老女かバラムに鎮め札・中を渡して対処してもらうことも考えた方が良いのかもしれない。
 と、考えながら帰路についた。



 さて、バラムはまだ戻っておらず、日も暮れたので食事をとってから入門書作りと編曲を進めていこう。

「案外、編曲はもう終わりそうだな」

 素人の編曲なのでどうなるかと思ったが、あまりクオリティに拘らなければ、元となる旋律は既にあったのでそれなりなものが出来そうだった。

 少なくとも元のものよりは多少明るいというか、穏やかな子守歌っぽい曲になったのではないだろうか。

 対して、入門書はもう少しかかりそうだ。単純に一から作っているので物量が多い。あと、気を抜くと単語に効果が付いてしまいそうになって、それが発動しないように《編纂》するのに地味に時間がかかっている。
 まぁ、のんびりやっていこう。



 そして次の日。

 途中で商業ギルドからまた追加の納品依頼が来て対応していた為、借りた本は全て読めていないので今日は図書館に行く用自体は無いが、彷徨う霊魂の方が不安なので様子だけ見に行くことにする。

「……少し予想はしてたが、倍くらい増えてるな」

 これまでのことから予想、というか覚悟はしていたが、やはり彷徨う霊魂が欠け月の写しを中心に数十体佇んでいた。

 まだ少し日が高い中、数十体の黒い影というのは色々ミスマッチで怖さよりもむしろ少し可笑しさを感じる。

 ただこの数を一体ずつ昇華するのはそこそこ時間がかかりそうだな。こう、一度にまとめて昇華出来ないものか……。

「秘技ならまとめていけるか……?」

 クリーン擬きの件があるので、1回の秘技で範囲に効果が適用されないか確認してみたが……出来なかった。
 ふぅむ、〈惑う魂に慰めを与えん〉という文章が単体指定な印象があるからだろうか。範囲指定のような“力ある言葉”を思いつけば、一気に彷徨う霊魂達を昇華出来そうだが……。

「まぁ、鎮め札でコツコツ昇華していこうか」

 ということで、通常版鎮め札を出すと……また“それじゃない”という空気を感じたので、ため息を吐いて鎮め札・中を出す。妙にこだわりが強いな霊魂達。

 その様子を見て、秘技で昇華させてしまったら、秘技で昇華してくれと詰め寄られそうな光景がありありと浮かんだので、範囲に適用出来なくて良かったのかもしれない。




「あん? こんな時間にここで何やって……って、ああ」
「む、戻ったのか」

 全体の半分ほど昇華し終わったところで、背後の欠け月の写しから唐突に人影が現れる。ここに転移して来れるのは、今のところ僕とバラムだけであるはずなので現れたのはもちろんバラムだ。

 バラムはこんな日が落ちかけている時間に欠け月の写し付近にいる僕を見て疑問に思ったようだが、すぐに事情を察してくれたらしい。

「効果が高い方使ってんのか? お前なら普通の方を湯水のように出せんだろ」
「通常版を出すとあからさまにガッカリ感というか、“それじゃない”感を出されて仕方なく、な。一応こちらももう少し効率良く作れるようにもなったし」
「生意気な……」

 バラムが若干苦々しいような、呆れたような複雑な表情を浮かべている。彷徨う霊魂が一応は同情に値するような存在であるので、悪態をつききれないようだ。

「ところで、フィールドは問題無さそうだったか?」

 昇華作業はしつつ、バラムの方の様子を聞く。

「まぁ、狂った魔物が出たから無いこともないが、対処出来る範囲だったな」
「そうか」

 やはり狂った魔物は出てしまったようだ。

「あとは…………あー、いや、何でもねぇ」
「うん? そう言われると気になるが」

 バラムにしては珍しく歯切れが悪い。何かあったのだろうか。

「いや……あれだ、外じゃ彷徨う霊魂は多くても3体ずつくらいしか見かけねぇぞ」

 うーん、何か話題を逸らされた気がするが……話したくないならまぁ、いいか。

「そうなのか。鎮め札のグレードのことと言い、どうも彷徨う霊魂達の間で情報共有がなされている気がするんだが、どうなんだろうな」
「…………まぁ、お前の元に行きたい気持ちは分からねぇでも無い、無いが……」
「む」

 バラムに後ろから抱き締められる。

「今夜から長い方の眠りだろ? それが終わったら俺だけかまえよ」
「ふ、変化してないのに犬みたいだな」

 バラムの言葉と様子が、祖父母が飼っていた犬の“かまって”アピールを彷彿とさせて可笑しくなった。

「かまってくれるんなら犬になってもいい」
「そ、そこまでか……。まぁ、あとはこの1体で終わりだ」

 そうして最後に残った彷徨う霊魂を昇華させる。

「はぁ……少し離れただけでもこの匂いが嗅げないとなると落ち着かねぇ」
「ん……」

 首筋に顔を埋められ、かかる吐息や低く掠れた声がくすぐったくて背筋が震える。


 “──び─い。──わい。────い。──ろ─い”


 徐々にハッキリと聞こえるようになってくるも、出どころの分からない声を聞き、無性に心細くなる。

 何故バラムもいるこんな状況でそんな心境になるのか分からなかったが、後ろから抱き締めてくる大きな温かさに無意識の内に体を寄せていた。
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