おそらく、僕だけ違うゲームをしている。

鵩 ジェフロイ

文字の大きさ
63 / 246
本編

97:揺籃編纂士トウノの旋律

〈技能《鉱物知識》のレベルが上限に達しました。技能《鉱物学》に成長させますか?〉
〈技能《鉱物知識》が上級技能《鉱物学》に成長しました〉


 時々鎮め札・中を補充しつつ、借りた本を読み終えた頃、ついに《鉱物知識》が《鉱物学》へと成長した。これで僕が覚えている『◯◯知識』系は全て成長したことになる。とはいえ、図書館にある本の内のほんの一部しか読んでいないので、これからまたどんなジャンルを読めるようになるのか楽しみだ。

 ひと通り技能成長などの確認をしている間にまた減っていた鎮め札・中を補充しつつ、返却だけでもしてくるか? などと考えていると、唐突に《勘破》に反応があり、背後に住民マーカーが現れる。

「……まぁ、こうなるよな」

 バラムが欠け月の写しから転移してきたようだ。周囲の状況を把握して少し遠い目をしながら言う。

「起きたか」
「ああ、少し予想はしていたが、とんでもない数になっていたな。朝起きてからずっと昇華し続けてるんだが、まだたくさんいる」
「こいつら、お前が寝てる間は潜んで出て来なかったんだぞ」
「そ、そうなのか……数が多過ぎると思ったんだ」

 バラムが気にかけてくれていたにも関わらず、彷徨う霊魂の数が多過ぎることが腑に落ちた。

 流石にこんな敷地内に彷徨う霊魂が溜まってしまっては図書館の老女からもまた何か反応があるだろうか? その為にも一度返却に行ってみた方が良いのかもしれない。

「図書館に本を返却だけしたいから、少しの間ここを見といてくれるだろうか?」
「俺は良いが、こいつらはどうだかな」

 そう言って顎で彷徨う霊魂達を示す。

「まぁ、置いておいても自分で使用してくれてるし、ちょっとなら大丈夫なんじゃないか?」

 一応、鎮め札・中の束に並んでいる彷徨う霊魂達にすぐに戻ると伝えてから、図書館へ入る。

「トウノ様、本日もお越しくださり嬉しゅうございます。ホホホ、表が大変賑わっておりますわね」
「一応、一体ずつ昇華してるんだが中々な……」
「ホホホ、以前レディから贈られた歌がお役に立てるかもしれませんわね」
「贈られた歌か……」

 それは『揺籃歌の断片』のことだろう。ここで言ってくるということは、なるべく早めに編曲を終わらせてみた方が良いのかもしれない。

「編曲はほとんど終わっているから、完成させて試してみよう」
「ホホホ、それがよろしいかと」
「ああ、助言ありがとう。あと、これらを返却したい」
「とんでもございませんわ。返却もありがとうございます。ホホホ、次にトウノ様が訪れる日が楽しみでございます」

 僕は返却したい本を老女へと渡す。新たな本は表の彷徨う霊魂達をどうにかしてから借りよう。


〈称号【博識】を獲得しました。スロットがいっぱいです。称号を入れ替えますか?〉


「む……」

 随分と久しぶりな気がする称号獲得通知が出た。称号の仕様からおそらく『◯◯学』にするのに必要な本を全て読んだことを老女に認識されたから獲得したのだろうが……僕を表現するのには仰々しいので控えで良いか。というか控えの称号も住民には普通に認識されている気もするし。

 ということで、最低限の用事を終えた僕は図書館を出て、欠け月の写しへと戻る。

「ふぅむ、これでも随分昇華されていったはずなんだが中々減ったように見えないな」
「多分、減ったそばから増えてるぞ」
「や、やっぱりそうなのか……」

 バラムの僕より鋭い諸々の感覚によると、やはり追加されていたらしい。これは早速老女の助言に従った方が良いかもしれない。

「図書館の老女から例の揺籃歌を活用した方が良いと助言を貰ったから、ささっと完成させてしまおうと思う」
「アレか……アレ聴いてると眠くなるんだよな……」

 前に『揺籃歌の断片』を弾いていた時は、いつの間にか眠っていて、自然覚醒するまで全く起きなかった。

「そういえばぐっすりだったな? なんだったら、家に戻っていてくれても……むぐっ」
「ここにいるに決まってんだろ」
「ほうか」

 僕なりに気遣ったつもりだったんだが余計なお世話だったのか、片手で両頬を少し強めに捏ねられてしまった。

 気を取り直して『揺籃歌の断片』の編曲を終わらせてしまおう。

 と、言ってもほとんど出来ているといえば出来ていて、あと少し何か物足りない気がしているだけなのだが。

 現状『揺籃歌の断片』と酒場で演奏した時の旋律を混ぜて少し明るめな印象にしているのだが……やはり、ほんの少し……ほんの少しだけ“あの曲”を取り入れてみようか……?
 他にこの世界の曲を知らないし。

 よし、微妙だったらやめて他の案を出せば良いだけだと結論づけ、インベントリからラベイカを取り出した。




 曰く付きの“あの曲”もとい、このゲームのオープニング『世界を希う調べ』の旋律をほんの少しだけ取り入れてみたところ────。

「すごくしっくり来た……」

 完成した、というのが確信出来るほど、最初からこの世界に用意された曲なのではないかと思うほどにしっくりと来る曲が出来た。

「完成したのか」
「ああ、多分……」
「完成してから、その曲からお前の匂いがしてきたぞ」
「曲から匂い……」

 とは? まぁ、バラム独自の感覚なんだろう。この反応からしてもこれで完成で良いようだ。


〈新たに力のある旋律が生まれました。旋律の名前が自動生成されます……………………〉


 ん?


〈技能《揺籃編纂士トウノの旋律》を獲得しました〉


 んん????


《揺籃編纂士トウノの旋律》
消費AP:-(連携技能、演奏時間依存)
連携技能:《編纂》、《古ルートムンド語》
聴いた者の望みに共鳴し、寄り添い、微かではあるが確かに道を示す旋律。
旋律に《編纂》で《古ルートムンド語》の秘技を付与することが出来る。旋律の届く範囲内に付与効果が発揮される。秘技付与時に1回分のAPを消費し、旋律を奏で続ける限りAPが消費される。旋律が止まるか、APが不足するまで効果が持続する。


「……いや……うーーーーーん……まぁ……まさにこの状況を解決するのにうってつけのものではあるが…………うぅん」

 曲が何故か僕の職業と名前のついた技能化したことが些細なことに感じるほどの大問題がある。

「範囲効果にする技能と《編纂》と《古ルートムンド語》が連携するのはとんでもなさ過ぎる」
「さっきから様子がおかしいぞ、どうした」
「それが……」

 僕は曲を完成させてから数分足らずで追加されたとは思えない濃い情報を説明しながら《揺籃編纂士トウノの旋律》の《解析》結果を文書として生み出してバラムに渡す。それを読んだバラムは……。

「…………」

 無言で片手で顔を覆って天を仰いでしまった。気持ちはとても分かる。

 この技能で〈惑う魂に慰めを与えん〉を使うのは良いんだが、〈淡き宵の訪い〉も適用されるのがとんでもない。大して使っても行き詰まってもいないのに勝手に大幅強化されていく。最早怖い。何なら弱体化されても全然かまわない。

「まぁ……いざという時以外使うなよ……」
「それは勿論……」

 バラムと頷き合って改めて〈淡き宵の訪い〉もんだいじの取り扱いを再確認する。


 さて、少々話がズレたが、これでここにいるたくさんの彷徨う霊魂の昇華を加速出来ないか試してみるとしようか。

 インベントリからラベイカを出して、先程完成したばかりの曲を弾き始める。ここに《編纂》とはどうすればいいんだ?と思いつつ、一応旋律に《編纂》するイメージで使ってみると、出来た。……ただ、どういう原理かは全く分からないが。

 旋律に秘技の効果が乗ると同時、音の届く範囲内の彷徨う霊魂の影がみるみる薄くなり、やがて光の球へと変わっていく。

 日が傾いて薄暗くなっていたのもあってかなり壮観な、幻想的な光景となっている。視線操作でスクショしておこう。たまに演奏練習していた成果か、演奏には余裕がある。

 ただ、音の届かない範囲もそれなりにあるので、館の周りを歩きながら演奏を続け、しばしラベイカの音色と昇華の光の幻想的な光景に浸った。
感想 295

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? 表紙は自作です(笑) もっちもっちとセゥスです!(笑)

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)