おそらく、僕だけ違うゲームをしている。

鵩 ジェフロイ

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本編

103:僕なりの楽しみ方で

「昨日の通知だが……」


〈転生条件が満たされました〉


「うーん……」

 バラムから受けた特殊効果の内容で存在自体は知っていた『転生』とやらが出来るらしい。

 ……ただ。

「これしか通知が無くて、どうすれば良いのか全く分からないな……」

 今まで経験した技能の成長や職業の昇格だと、その場で選択肢が提示され、選択すればそのまま成長なり昇格なり転職なりが出来たが、今回はそれが全く無い。

「何がだ?」
「『転生』というものの条件を満たした、という通知だけ来て困惑しているところだ」
「転生……」
「何か知ってるか?」

 バラムが『転生』という言葉に反応して少し考え込んでしまった。これに関して、何かこちらの住民の常識的なものがあったりするのだろうか?

「……王族や貴族だけに秘儀が伝わっていて、転生している……らしい」
「ほぅ……らしい?」
「まぁ、俺たちには確かめようも無い眉唾な噂だがな。奴らが上位種族になってるのか分かる距離にまで近づくことなんて無ぇし」
「なるほど」
「ただまぁ、俺たちと関わることもある階級の奴らは上位種族って感じはしなかったな」
「ふぅむ」

 多分、『転生』がシステムとして存在する以上、その噂は大枠では合っているのでは無いだろうか?

「その噂で“秘儀”によって『転生』が出来るというのが条件を満たしていてもこの場で転生出来ない肝な気がするな」
「……貴族に接触するつもりか?」
「いや、とくには。何なら別に転生しなくても良いと思っている」
「……」

 現状、転生が僕のプレイスタイルに必要かどうかと言われると疑問だ。とくに不足も感じていないし。

 先ほどから少し固い表情だったバラムが表情を和らげる。

「……は、本を読むのに必要になったら初めて考える、か?」
「む」

 まさに次はそう言おうと思っていた。我ながら単純な行動原理だが、最近とくに時間を共に過ごしているバラムにはすっかり把握されてしまっているようだ。

「まぁ、そういうことだ。ということで、情報が得られたら運が良いくらいに思っておこう。図書館で何か分かる本を借りられるかもしれないし」
「ああ」

 ということで『転生』については一旦置いておくこととなった…………何となく、何処かの誰かがすぐにヒントを与えて来そうな気がするが……まぁ、その時はその時だ。




 それからは、何故かバラムに家の外にも出るのを渋られ1日が経過してしまった。

 しかし、かなりの彷徨う霊魂を昇華したとはいえ、その後の欠け月の写しの様子が気になったので、バラムと共に再度様子を見に行く。

 ……あの時ほどでは無いが、それなりにまた欠け月の写しの周囲に集まっていたのでさくっと昇華していく。やはりと言うか、霊魂達からは演奏による範囲秘技を期待されていた。まぁ、これくらいなら一回演奏するだけなので、かまわないが。

 ちなみに一度大きく共鳴して耐性がついたのか何なのか分からないが、霊魂達を昇華させても過剰に心細くなるようなことは無くなっていた。

 その後、図書館にも寄って行こうかと思ったが、バラムにすぐに家に連行されてしまい、本を借りることが出来なかった。

 ここのところはずっと手元に図書館から借りた本があったのだが、今は借りているものが無いので中々手持ち無沙汰だった。

 そこでふと、この町に来てからアンバーに会っていないことに思い至る。一度思い出すと、久しぶりに会って乗りたい気分になってきてしまった。

 確かバラムが厩舎に案内してくれるというようなことを言っていたと思うので聞いてみると、これについても少し渋られたが、次のログイン時、アルスト内では夕方になったら案内してもらう約束をとりつける。

 久しぶりのアンバーに会うのを楽しみにしつつログアウト……の前にバラムに捕まってまた脱がされてしまった……。


 *


 そんなこんなで1日のログイン上限ギリギリでログアウト。

 ……どうしても、先ほどバラムから受けた行為を思い出してしまう。落ち着かない気分になりながら、チラッと自分のアバターの下半身を見る。

 こっちとアルストのアバターは元の僕の髪や目の色以外はほとんど変えていないので似てはいる、似てはいるが……。
 そっと、本来なら性器があるだろう場所に触れてみるが、当然何の膨らみも無い。

 今まで性の事にほとんど興味が無かったというか、自分には無縁な事だと思ってあまり積極的に知ろうとして来なかったのだが、もう少し知識を得た方が良いんだろうか? ……勿論、保健で習うくらいの知識はあるが。

 そういえば18歳になったばかりの時に気の良い研究員から「ライトでリアルめなの選んだから!」とアダルト動画が数本送られてきたのを思い出す。

 送ってきてくれたその人には悪いが、結局動画にも内容にもあまり興味が湧かずに観ていない。

「うぅん……アルスト世界独自の常識が結構あるし……情報を仕入れるならアルスト内での方が良いだろうか?」

 現実の知識を得たところで、僕がこちらでそういった事が出来る可能性は今のところほとんど無いのだし。

 そう結論づけてしばらくすると、強制入眠時間が訪れた。


 *


 そして次の日。

 生産物の追加納品依頼の可能性や、図書館前の欠け月の写しの様子を見る時間を設ける為に、夕方より少し早めの時間帯にログイン。

「ん?」

 まず、珍しいことにフレンドから2通もメッセージが届いていた。送り主はあぬ丸とシャケ茶漬けからで内容は2人共大体同じもので……。

 『イベントのシークレットポイント情報が追加されたばかりなのにとんでもない量のシークレットポイント稼いでるの知ってた?』というような内容だった。

「……はい?」

 全く心当たりが無かったので、すぐにイベント特設ページを確認すると、確かに『シークレットポイント』なるものが追加されており、そのポイントランキング1位に僕のプレイヤーネームが載っていて、ポイント数は2位とかなりの大差をつけていた。

「イベント関連のものには触れてないはずなのにどうしてこんなことに…………あ」

 事実、イベントポイントそのものは迫真のゼロポイントなのだが……とさらに確認してみると、シークレットポイントの獲得方法が『彷徨う霊魂を昇華させる』になっていた。

 …………彷徨う霊魂達ってイベントに関係してたのか……。

「……まぁ、いいか」

 昇華することで報酬が貰えるとなれば、無闇に放置したり、狂った魔物化させるプレイヤーが相当減ることが予想出来る。このシークレットポイント情報はこの辺りの安全にとっては良い方向に作用するんじゃないだろうか。

 ランキングの方は……割と今更感があるし、報酬も結晶の欠片や大欠片のみでイベントアイテムは手に入らず、オマケみたいなものだ。

 ということで、メッセージで教えてくれた2人にはお礼と、少し考えてから鎮め札・中をそれなりの数送った。あぬ丸の方は一緒に行動しているだろう鍋の蓋の分も添えて。
 まぁ、3人がこのことをどう思うかは分からないが、無闇に情報を広めるような人物では無いと思っているので問題無いだろう。

 メッセージの確認も終わったので、バラムとご飯を食べつつ、生産と納品、欠け月の写しに集まった彷徨う霊魂の昇華を済ませていった。

「準備が出来たなら行くぞ」
「ああ」

 厩舎まではフクロウになってバラムの懐の中に隠れて行くことになっている。まぁ、アンバーと触れ合うことが出来る条件として、バラムの指示には全て従う約束なので、否やはない。
 ……少し、町のいたるところにあるという色々な動物達のブロンズ像、もといジェフが作ったゴーレムは気になるが。それはまぁ、またの機会だな。

 そうしてバラムの懐で揺られることしばし。バラムから声がかかる。

「出て来て良いぞ」
『着いたのか』
「ああ」

 バラムの懐から顔を出すと、目の前に優しげな目をした栗毛の馬がいた。アンバーだ。

「ブルルッ」

 アンバーは顔を出したフクロウ姿の僕に口を近づけ、毛繕いするようにモミモミと口で軽く食んだ。

「ホー……『……僕だと分かるのか?』」
「ブルヒン」

 返事のようなものを含めて、多分僕だと分かっている気がする。本当に賢い馬だな。

「この馬場なら少し走ってもいいぞ」
『! そうか』

 ということで、アンバーを驚かせないように少し離れたところで変化を解除して再びアンバーに近づくと、フクロウにもしてきたように僕の胸のあたりの服をまたモミモミと食まれる。

「もう夜になってしまったが、少し乗せてくれるか?」
「ヒヒン!」

 アンバーから肯定のような反応があったので、バラムに馬場に出してもらって久しぶりの《騎乗》をする。
 バラムも他の馬に乗って傍らにやってきた。

「アンバー、いつものように任せる」
「ブルル」

 僕から唯一の指示を出すと、アンバーが駆け足で進み出す。頬に当たる風が少し冷たいが、アンバーから伝わる体温が高いのでちょうど良く感じる。

 これからはもう少しアンバーの元にも来たいなと思いつつ、しばらくの間、乗馬を楽しんだ。
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