おそらく、僕だけ違うゲームをしている。

鵩 ジェフロイ

文字の大きさ
71 / 246
本編

105:罠と再会

 一角獣とバラムがお互いにとてつもない威圧感を放って対峙している。バラムが庇うようにしてくれているおかげでいくらか楽になったが、まだ《恐怖》状態から脱せていない。

『貴様……夜狗……そのものでは無いが血が混じっているのか。醜悪な気配をさせおって』
「その言葉そっくりそのまま返してやるよ……こいつに会う前みてぇな不快な匂いだ。このクソ馬」

 バラムの怒気に呼応するように錆色の禍々しいオーラが激しく揺らめく。あれは敵を倒せば倒すほどの攻撃力が上がる効果のオーラだったと思うが、ここに来るまでに何かを屠りながら来たのだろうか。あとは微かに混じるエフェクト的に『強壮活性』か『狂騒活性』の飴玉を食べている気がする。

 対する一角獣の方も何かの技の前兆か煌めく青いオーラを纏い、敵意をバラムに向けている。……うぅん、少し前に穏やかな表情のアンバーと会っていたからか、馬もこんな険しい表情が出来るものなのか、と微妙な気分になる。厳密には馬ではなく一角獣でおそらく精霊っぽいのだが。

『貴様のような駄犬、さっさと排除してくれるわ……ぐっ!?』

 ガキィンッ

 何かの魔法を放とうとするのをバラムが斬りかかり阻止をする。そしてそのまま、反撃の隙を与えまいと連撃を重ねていく。大剣を振るっているとは思えないスピードだが、攻撃力や重さは大剣そのものなので、受ける側にとってはとんでもない衝撃だろう。

『ぐっ! がっ、ぐぅっ、このっ!』

 一角獣はバラムの猛攻を何とか角でいなしている。向こうもやられっぱなしではなく、水で出来た柱のようなものや鎌のような刃を無数に生み出して攻撃しているが、バラムは的確に受けると不味そうなものは避け、食らってでも攻撃に回った方が良いものは受け、と瞬時に判断している。

 攻撃の応酬を繰り広げることしばし、先に己に利があるインファイトを仕掛けたバラムの有利に傾きつつあった。一角獣の方は魔法を放つのに有利だろう中距離の間合いを空けたがっているが、バラムがそれを許さず張り付いている。

『ぐうぅっ! ……くくっ、くはははは! 我との間合いをそんなに詰めて良いのか?』
「あ? ……なっ!」

 攻防を繰り広げている間に随分と遠くに行ってしまい、バラムと一角獣の会話はギリギリ聞き取れるかどうかだが………………遠くに?


 ────その時、視界の端を緑色のオーラが掠める。


 その方向を見ると、一角獣が僕目掛けて突進してくるところだった。一角獣はもう一体いた……?

 まだ《恐怖》による行動不能が解けておらず、秘技も使えなければ避けることも出来ない。

 ただ、普通に死に戻るだけなら良いのだが、一角獣がこちらに突きつけてくる角の輝きに何やら嫌な気配がする。

 僕はその角が体に刺さろうかというところをただ見ていることしか出来ず────。


「っ、トウノ!!」


 ────浮遊感の後、視界が真っ暗になった。



 ……
 …………
 ………………ん?




 痛覚はずっとフル解放のままなので、突き刺される際の痛みも相当だろうな、と構えていたのだが、いつまで経っても痛みが訪れない。


『間一髪であったな、主殿』


 一角獣のものとも違う、渋い重低音な声が聞こえた。……この声は。

「黒山羊……?」
『今は山羊では無いがな、また会えて嬉しいぞ主殿』
「えっ……うわっ!?」

 周囲を確認すると地面が随分と下にあり、かなり驚いた。どうやら僕は今、黒い大きな鳥の背に乗って空を飛んでいるらしい。……お、落ちたりしないだろうか……とよく見ると、何か黒い靄で腰が固定されていた。

 鳥の頭がチラッとこちらを向いて、黄色い目を細めていた。体表と目の色で鷲の形をとった黒山羊だと確信する。

『さて、動揺した夜狗の小僧を安心させる為にも奴らを蹴散らしてから降りるとしよう。主殿、しっかり掴まっているのだぞ』
「あ、ああ」

 未だ激変し続ける状況を上手く飲み込めていないが、とりあえず明快な指示に従って姿勢を低くして掴まると、それを確認した黒山羊が急降下する。
 ……鳥が飛ぶ感覚はフクロウ変化で多少慣れているので逆に気分が落ち着いてきた。

 黒山羊は僕がいた方ではなく、バラムの方の一角獣目掛けて飛んでいく。

『ぐがっ!』

 地面スレスレで山羊へと姿を変えると大きな2本の角で一角獣を弾き飛ばした。

「おいっ、無事か!?」
「あ、ああ……この黒山羊のおかげで無事だ」

 バラムが僕の元に飛んで来る。僕の無事を確認すると、安堵の表情を浮かべ

「そうか……あの時の黒馬か?」
『我の言った通り再会はすぐであったであろう、夜狗の小僧』
「……チッ」

 ……そう言えば聞くタイミングを逃していたが、バラムと黒山羊は数日前にフィールドで共闘していたんだったな。

『くっ……失敗か。しかも醜悪な気配が増えるとは目障りな』
『漆黒の体に黄色の目……それにあの力……兄者、奴はもしや……!』
『ぬ? …………まさかオロバスか! 貴様、とうの昔に滅んだはずでは無いのか!?』

 2頭の一角獣が合流し、こちらを見て何か驚いている。おそらく黒山羊を見てだと思うのだが……オロバス? プーカでは無いのか?

『その名は主らが勝手に呼んでいるだけだろう。我はプーカ、もしくは夢魔ナイトメアだ』

 夢魔……そうなのか。

『それに身動きが取れなかっただけで滅んでなどおらぬ。ふふん、この主殿に解放されてな。とっくに自由の身であるわ!』
『何……? しかもどうやって入ってきた!? 貴様なんぞ引き込んでいないぞ!』
『我は夢魔ぞ? 幻想ゆめの領域に入り込むなんぞ造作も無いわ! ……友の呼び声と導きのおかげでもあるが』

 最後、若干小声になっていたが……『友』……? 僕は右手の人差し指にはまった指輪を見る。……そう言えば本に飲み込まれる時に指輪が強く反応していた気もする。あれは黒山羊を呼んでくれていたのか。

 ……指輪から「来るのが遅い」という気配を感じる。手厳しい。

『はっ! だが随分と弱々しい姿じゃないかオロバス。貴様らを葬ってそこな果実を愛し子としてくれるわ!』

 一角獣達から再び闘気が巻き起こる。黒山羊の背にいるからか、今回はほとんど影響を受けることは無かった。

 ……うぅん、さっきからおそらく僕を指して『果実』や『愛し子』などと言われると背筋がゾワゾワとするのでやめて欲しい。僕をその……ソレにしたいとさっきから主張しているが、響き的に柄では無いし、なりたく無いので他を当たってくれないだろうか。

『ふん、主殿を愛し子程度に留めるなどなんと勿体無い事か。……主ら、戦いの最中にそんな悠長にしておって良いのか?』
『何だと?』
『兄者!』

 ドオオォンッ!!!

『ぐおおおっ!!』
『ぐあっ!』

 いつの間にか一角獣達の裏に迫っていた、バラムが痛打を叩き込む。

 バラムの不意打ちの為に黒山羊は敢えて一角獣達の気を引く為に会話を続けていたのだろうか?

『ぐっ、この只人族風情が……!』
『兄者! がっ! ……このっ!』

 今までの会話から兄弟らしい一角獣の、兄の方に狙いを定め追い詰めるバラムを弟の方が横から攻撃しようとするが、それを地面から突如生えた黒い槍が阻む。

『ククッ、我がいるのを忘れるでないぞ!』
『お前はオロバスを抑えろ、こいつを片付けたらオロバスを仕留める!』
『おう!』

 弟一角獣がこちらに狙いを定めて突っ込んで来る。

『主殿、彼奴をしばらく引きつけるでの、しっかり掴まっているのだぞ』
「分かった」
『うむ。ほぅれ、我について来れるかのー!』

 そう言うと黒山羊は跳ね上がり、そのまま鷲へと変化して空へと飛び立つ。

『舐めるな!』

 弟一角獣が緑色のオーラを纏ったかと思うと空を駆け、こちらに肉薄してくる。……よく見たらこちらの一角獣の角は緑色の宝石のようで、多分だが風属性を持っているようだ。

『その程度か? ずっと寝ていたというのに、欠伸が出そうである』
『この、ちょこまかと……!』

 おちょくるような言動で弟一角獣の神経を逆撫でして、彼の注意をバラム達の戦いから引き剥がしていく。

『どうした高度が出ておらんぞ~。その属性結晶の角は飾りであるか?』
『貴様っ!!』

 息を吸うように弟一角獣を煽っていく。……そういえば、掲示板でエレメントを煽り倒していたとか書いてあったような……?


 注意を引く為どうのというよりこれが黒山羊の通常運転なのかもしれない。

 そう思えてきた。
感想 295

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? 表紙は自作です(笑) もっちもっちとセゥスです!(笑)

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)