おそらく、僕だけ違うゲームをしている。

鵩 ジェフロイ

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本編

116:念願のヴァイオリン入手

 魔楽器が必要ないと聞いてグウェニスが机に突っ伏してしまった。

「うぅん、申し訳ない……」
「そういや頼んでたのは魔楽器じゃなくて、普通の楽器だったな……」

 ハイモも少しバツが悪そうに髭を触っている。

「ま、ちょっと過剰に意気込んでたから落差が大きかっただけだ。その内立ち直んだろ。コイツを使ってくれれば俺たちはそれでいい」

 そう言ってヴァイオリンを顎で指す。

「……ああ、これは大事に使わせてもらおう」

 改めて、手に入れたヴァイオリンに《解析》を発動する。


[異界の弦楽器-ヴァイオリン-]
異なる世界の知識によってもたらされた小型の弦楽器。
優れた複数の素材と複数の腕の良い職人によって丁寧に作られており、品質がとても良い。
耐久力:D
品質:A
分類:楽器
効果:なし
素材:スプルースの木材、メープルの木材、エボニーの木材、イペの木材、馬の尾
製作技能:《木工》《細工》
製作者:ハイモ、グウェニス


「……やはり、代金を払わせてもらっても良いだろうか?」

 《解析》結果に本当にちゃんと作られたヴァイオリンである事が分かって、このまま貰ってしまうのが気が引けてしまった。

「いらんいらん。どうしてもと言うならグウェニスに引き続き出資してやってくれ。どこかの町に小さくとも店を開けられたら良いだろう」
「……分かった、そうしよう。余裕がある限りはこの店への出資も続けたい」
「ガハハ! 俺のとこはついでで良い、無理はしてくれるなよ」
「……ふ。ああ」

 ハイモのグウェニスに対する思いやりに温かな気持ちになりつい顔が緩む。確かに、個人で店が持てればグウェニスの腕ならば生計も立てられるかもしれない。

 ……ふむ、グウェニスの店か……。

「一先ずはこのヴァイオリンを魔楽器にして売れば良いんじゃないか?」
「……んぁい?」

 僕の提案に机に突っ伏していたグウェニスが顔だけ僅かに上げる。

「たまたま僕に魔楽器は必要無かったが、他にこの形の魔楽器が欲しい者はいるかもしれないと思ってな」
「……でも、これはトウノの考えた物だから、勝手に作れない……」
「いや、僕達異人の元の世界の物であって、僕の考えた物では無いから好きに作って貰ってかまわない」
「……そうなの?」
「ああ」
「確かに、この形なら工房で作ってる物でも無ぇから……まぁ、文句は出て来ても止める事は出来ねぇんじゃねぇか?」
「……そうかも……」

 グウェニスの上体が次第に上がって来る。段々気を持ち直してきたようだ。

「あとは楽器の型を増やすなら、僕達の世界の他の楽器に詳しかったり、求めている他の異人がいるかもしれないからギルドを通して募ってみても良いかもしれないな」
「おー……おー……!」

 イメージが湧いて来たのか、グウェニスが完全に起き上がり、表情もすっかり明るくなっていた。

「あくまで素人の思いつきだが。そうだな……ユヌなら職業ギルドのカーラという職員が異人関連や商売についても知恵を貸してくれるだろう」
「職業ギルド……カーラ……分かった、やってみる。感謝する」
「ああ。僕も少ないが出資で応援させてもらおう」
「てか、これ俺は楽器をグウェニスに作ってやる前提だな? まぁ、かまわねぇけどよ! どうせ、趣味だしな!」
「っ! 感謝……!」

 こうしてグウェニスの前途が少し明るいものになったところでハイモの道具屋を後にした。

 外に出るとすっかり日が傾いていた。

「各所に顔を出すだけで1日が終わってしまったな」
「おい、先に宿に戻れるか?」
「うん? ああ、もちろん」
「傭兵ギルドに顔を出して、遺跡周辺の情報を仕入れてくる」
「分かった」
「山羊、それまでこいつの傍を離れるなよ。何かあれば呼べ」
『言われなくても、である。情報収集に励むのだぞ!』

 肩にフクロウ姿で乗っているシルヴァが翼をバサッと広げた感触がする。

「じゃあ行って来る」
「ああ」

 そう言うと、バラムは宿とは別の方向へ去って行った。




 宿に戻り、夕食も楽しんだところで増築したという僕の部屋で落ち着いている。
 以前泊まっていた部屋よりそこそこ広くなっていて、家具の種類も生活しやすいように増えていた。

 ちなみに、昼はバラムが開けてくれていたので気づかなかったが、今まで開けるのに苦心していた宿の扉も僕の力でも簡単に開くくらい建て付けが良くなっていた。これで僕1人での出入りも容易い。何気に一番出資した甲斐を感じたかもしれない。

 ……実の所、貯蓄は把握しているが、どれくらい出資していたのかはあまり把握していない。こんな部屋を用意されるくらいの額を稼いで出資していたのだろうか……と首を捻る。

 今度ジェフに問い合わせてみるか、と考えたところでペリカンくんの事を思い出したので、取り出して魔石を取り付けて起動する。すると、納品依頼が来ていたので内容と素材を確認しつつ生産を進める。イベントも終わったからか、鎮め札の方の需要は落ち着いてきたが、飴玉はまだまだ売れているらしい。そして洗浄札の需要がじわじわと上がっているようだ。

 生産物を送るついでに、これまでの出資状況を問い合わせる手紙を一緒に送った。

『ここの飯も美味であったが、我はやはりコレであるなぁ』

 と言いながら、普通サイズの山羊になったシルヴァが僕の力で染めた魔石をボリボリと食べている。シルヴァからはインベントリ同士でアイテムを送り合う機能を使ってたまにまとめて魔石が届くので、〈我が力を与えん〉を使った魔石を送り返している。
 その内の一つを食べているのだろう。

「……石なのによく食べれるな」
『最早この石以外を食べようとは思わぬが、魔石を食すのは人系種族以外では割と普通である』
「そうなのか」
『である』

 そんなシルヴァを眺めたりしつつ夜が更けていったが、バラムが帰って来る気配が無かったので、とりあえず2時間〈睡眠〉をとることにした。


 …………
 ………………
 ……………………


 目を閉じて、すぐ目が覚める。ゲーム内時計を確認するとしっかりと2時間経っていた。

「ん?」

 《勘破》で僕の部屋の前に誰か立っているのが分かった。そして感じるこの気配は……。
 扉を開けると、やはりバラムが立っていた。

「今戻ったのか?」
「……」
「……もしかして、僕が起きるのを待っていたか?」

 バラムがふっと目を逸らす。待っていたらしい。何故に……と思ったところで、ここは僕個人の新しい部屋なのでバラムは勝手に入れない事に気づく。……なるほどそれで……まぁ、僕の〈睡眠〉なら最短2時間で目覚めるから待てない事も無い、か?

「とりあえず……どうぞ」

 待っていたのにこれ以上待たせるのも申し訳ないので、まずは部屋へ招き入れる。ずっと借家にいたのでこういう事も久しぶりだ。

「それで何か用……んっ」

 バラムが入室したところで、僕が起きるのを待っていた用を聞こうとした言葉はバラムの唇によって阻止されてしまった。

 腕が腰に回り、もう片方の手で後頭部をガッチリと押さえられて若干足も浮いてしまい、バラムにされるがままとなる。

 唇を閉じる隙も無く、入り込んだ大きな舌に口内を嬲られる。もう口内の、僕が気持ち良く感じる所や弄られ方を知り尽くされてしまっているので、あっという間に体に熱を灯されてしまう。

「ん……ふ、ぅ……ん…………んん?」

 お互いの唾液が混ざり合って溢れそうになるのを頑張って飲み込んでいると、何だかいつもと違う感じがした。これは……何だろうか……?

「うわ」

 と、気を取られている内に抱え上げられて再びベッドの上へ。

「……トウノ」
「んっ」

 バラムの熱い吐息が耳に首にと吹きかけられ、熱を持った体が震える。……うーん、匂いも何だかいつもと違うような……?

 と、首を捻っていると、顎を掴まれて強制的に上を向かされる。

「おい、集中しろよ……」

 無造作な髪の隙間から言葉と同じようにどこか拗ねた表情と珍しい事に少し紅潮した顔が覗いていた。

 ……このいつもと違う感じ……僕自身は1回しか経験が無いので自信は無いがもしかして……。


「もしかして、酒か?」


 そして若干《酒酔》だったりするのか?
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