おそらく、僕だけ違うゲームをしている。

鵩 ジェフロイ

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本編

120:見敵即秘技

 僕が相手の出方を窺っていては、一撃で行動不能にされてしまう可能性が極めて高いと一角獣とのあれこれで学んだ。だから、敵性マーカーを感知した瞬間に〈淡き宵の訪い〉を発動させようと意気込んだ結果────。

「お前……」
『いやぁ、先手を取れれば凄まじい技であるなぁ』

 僕達から少し距離を空けた茂みに〈淡き宵の訪い〉によって強制的に眠らされた野盗が転々と転がっていた。
 その内の1人に近づいて様子を確認すると、顔つきはいかめしいがその表情はとても楽しそうだ。

『自分の望む結果の夢を見ているはずだが、どんな夢を見ているんだろうか?』
『ん? 主殿は此奴らの夢は見れないであるか?』
『……他人が見ている夢を見る事なんて出来ないだろう』

 シルヴァがさも見れて当然、というように言うがそんな事は無いだろう。……無いよな?

『主殿ならいずれ見れるようになると思うであるが……まぁ、今回は我が投影してみよう』

 すると、僕達の目の前に突然黒い靄が渦巻いたかと思うと楕円形を成し、その中に映像が映し出される。

 映し出されたそれは、誰かの主観視点となっており、血を流したバラムとシルヴァが地に倒れ伏していた。周囲の茂みから野盗と思われる者達がバラム達に群がる。この視点の持ち主も一緒に近づく。

“ヒャハハハッ! 見た事が無ぇほどデカい馬だな! これでしばらく飯に困らねぇぜ!”

 どうやらバラムとシルヴァを倒したという結果を夢に見ているらしい。

『仮に我を倒せたとしても尋常の種族が食えるような肉にはならんと思うが……まぁ、此奴の都合の良い夢であるしな』

 シルヴァの肉……まぁ……確かに、ファンタジー物語でも妖精の肉を食しているイメージはあまり無い。あったとしても何か、酷く呪われそうなイメージがある。

 その後も周囲にいた他の野盗の夢も覗いてみたが、似たり寄ったりな内容だった。野盗と言うのは食料不安というのが常に付き纏っているらしい。

「もう良いだろう。始末するぞ」
『…………ああ、分かった』

 秘技の効果が切れない内に、バラムの大剣とシルヴァの魔法による槍が野盗達の命を刈り取った。彼らはプレイヤーでは無いので、骸もその場にずっと残り続ける。

 ……今は安全が確保出来ていないので出来ないが、何処かで落ち着いたら〈惑う魂に慰めを与えん〉の効果のある演奏をしたいかもしれない。

 せめて死した後は安らかでいられるように。

「問題無いか?」
『……ああ、問題無い。今後も敵性の気配を感知したら秘技を使う』

 先程の野盗の夢にあった、バラムとシルヴァの骸が脳裏を過ぎる。バラム達があのように冷たい骸になる可能性を少しでも減らせる手段を持っているなら、使う事は躊躇わないでいこう。

 その後も数度、野盗の集団と出くわし、僕の秘技で無力化してバラムとシルヴァでとどめを刺す、という流れで危なげなく目的地へと進んでいく。

 それにしても。

『野盗の数というのはこんなに多いものなのか?』
『……いや。こんなに多いのはそうあることじゃねぇ』
『ふぅむ?』

 どうやらこの野盗の数は尋常では無いらしい。……一度ワールドクエストの舞台となった事でもうそこまで大層な事は起こらないだろうとたかを括っていたが、そんな事は無かったようだ。

『本来、己が生き残りさえすればいいならず者共が潰し合わずにいるということは、理由は一つしかあるまい』
『ああ』
『それは?』

 バラム達は見当がついているようだが、僕には分からない。

『主殿、ならず者共をまとめ上げるには絶対的な力と恐怖でしかありえないであるよ』
『……つまり、手を組んでいる野盗の数に比例してその頭目の実力が知れる、ということか?』
『そういうことであるな。我らが遅れをとるなどそうそう無いであろうが主殿はか弱いからの、油断は禁物である。気を緩めるでないぞ、夜狗の小僧』
『言われなくても分かってる』

 僕のか弱さに関しては否定しようのない事実なので、僕もより一層《勘破》や梟の感覚に集中するとしよう。



 それから注意深く進む事しばし、あと少しで遺跡に到着する、というところまで近づくことが出来た。今回は馬の足があるので、野盗の集団を片付けつつであっても前回よりもかなり早く目的地へと辿り着いた。

『おい、ここから少し先でお前も敵を感知出来ると思うが、一旦手は出すな』
『む? 分かった』

 バラムから見敵即秘技を抑えるようにという指示があった。とはいえまだ《勘破》には何の反応も無いが……あ、たった今1つのマーカーが現れた。
 どうやら今までの行動から、バラムは僕の感知範囲をかなり正確に絞り込んでいるらしい。とりあえず指示通りに秘技の発動は控える。

『……遺跡に1人、か』

 そして、そのマーカーが存在している場所はまさにあの遺跡の中心部に1人でいるようだった。《解析》が発動していないので、感知出来る範囲内に隠れた存在はいなさそうだ。
 確かに、これは少し警戒を強めるのが良いかもしれない。状況的に考えれば、遭遇した野盗達の頭目の可能性が高いだろう。

『《解析》はしてもいいだろうか? 多分だが、相手に察知されることは無いと思う』
『いいだろう』

 バラムの了承を得たので、早速未だ姿が分からないマーカーに対して《解析》を行う。


[狂いかけの野盗の頭目・ディック]
彷徨う霊魂を取り込み負の念に呑まれ、生きながらにして魂が変質しつつある者。完全に変質すると狂った魔物となる。
本来よりも凶暴性や力が増している。
変質が進行し、手遅れな状態。
分類:只人族
生息地:-
属性:無
弱点:聖属性
素材:魔石(極小)
状態:-
特殊効果:《惑い》


『これは……』
「どうした?」

 僕は《解析》結果を口頭で説明する。いつものような紙面化だと今の状態のシルヴァは見づらいからな。

「…………」
『ほぅ』

 まず、遺跡の中心部にいるのは野盗の頭目であることは間違いないらしいが……《解析》の項目がそもそもバラムやプレイヤーという人系種族を《解析》した時の項目ではなく、魔物を《解析》した時の項目となっている。

 ……それが“手遅れな状態”と記載されている事の証左なのだろうか。まだ分類では只人族とあるのが何とも言えない気持ちになる。

 そして何より────。

『……人が、狂った魔物になる事があるのか……』
『人だけではない、全ての形ある者がなる可能性を孕んでいるである。命ある者だけでなく、な』
『そうだったのか』

 この世界の……おそらく闇系統の神が担っていたであろう、死後の魂を導くシステムが機能不全を起こしている現状が、想像以上にこの世界にとってまずい状況なのでは無いかと思えてきた。

 きっかけさえあれば、この世界で知己を得た人達も、この野盗の頭目や狂った魔物にならないまでも彷徨う霊魂になってしまうかもしれない。……あの霊魂達の残留思念のようなもの……あれと共鳴してしまった時に感じた思念はとても強烈だった。あんな思いを知己を得た人達にはして欲しくない。

『ともかく、主殿の《解析》結果が確かなのであれば、最早主殿の力を以てしても昇華する事が出来まい。ひと思いに命を絶ってやるのがせめてもの慰めとなろう』
『やはり“手遅れ”とはそういう事なのか……』
『であるな』
『……とりあえず、こいつがいる以上無茶はしたくねぇ。より安全な策を練るぞ』
『無論である』

 そうして、狂いかけの野盗の頭目と接敵した際のそれぞれの行動手順を入念に打ち合わせし、遺跡の中心部へと向かった。

 と言っても、バラムとシルヴァだけであればそれほどの難敵では無いので、メインは僕の安全を確保する為の打ち合わせであったが……。

 ……世話をかける。
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