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本編
121:ロマン技ぶっぱ
それから打ち合わせ通りに、フクロウに変化したままの僕は、僕より一回り大きい鳥へと変身したシルヴァの背に乗って上空から、バラムはそのまま地上から野盗の頭目へと近づく。
やはり鳥類の目というのは空からでも獲物を捕捉する為に優れているようで、かなりの高さに滞空していても天井が崩れた遺跡に佇む野盗の頭目がよく見えた。今は自分で《飛翔》していない為、より視る事に集中出来る。
野盗の頭目はとくに何をするでもなく、ただ静かに石造りの床に大雑把に腰を下ろしている。他の野盗達のような何時何者かに襲われるか、糧となる獲物はいないかと忙しなく辺りを見回すような落ち着きの無さが少しも感じられず、それが野盗としての自我が既に失われている証のように思えて不気味だった。
バラムが油断無く、野盗の頭目に近づいていく。
そして、野盗の頭目がバラムを認識し、腰を浮かしたところで〈淡き宵の訪い〉を発動する。
すると、ピタリと頭目の動きが止まる。
念の為《解析》で特殊効果が付与されているかどうか確認してからウィスパーでバラムに問題無く効果が付与された事を伝える。
様子を見ていると、バラムも大剣を抜き警戒しつつも検分していたようで、次の秘技使用を促してきた。なので、続いて〈惑う魂に慰めを与えん〉を付与する。
……やはり、これで昇華されたり、正気に戻る事はないようだ。
再び効果が付与されているかを《解析》で確認してから、今度はバラムの持つ大剣に意識を集中させて〈惑う魂に慰めを与えん〉をかけ、次に〈我が力を与えん〉を残APの半分を使って付与する。
すると、大きな大剣の刃がぽぅっと淡い光を放つのが上空からでも確認出来た。
『事前に打ち合わせた秘技は全て問題無く付与出来たと思う。……後は頼む』
『ああ。任せろ』
そう言うとバラムが大剣を大きく掲げる。そうすると、淡い光を放っていた刃が────。
『……目の錯覚か分からないんだが、刃が段々大きくなっているように見えるんだが……』
『気のせいでは無いである、主殿。あれは彼奴の《大剣術》の中でも最も威力が高いが隙もかなりある大技であるな』
『なるほど』
俗に言う『ロマン技』という奴か。確かに、両手で大剣を掲げて何秒も制止しているので、戦闘中にこの技を使う事が難しそうなのは僕でも分かる。
しばらく見ていると、刃は5倍強くらい大きくなっていた。
そこにさらに赤黒いオーラが追加されていく。
『ん? バラムの生命力が少し減っている……?』
ふと、視界の隅にあるバラムのLPバーが少し減っている事に気づく。さっきまでは満タンだったはずなので、この間に何者かから攻撃を受けたのかと焦って周囲を見回す。
『自分の生命力と引き換えに膂力を上げておるのだろう。野盗の頭目程度には贅沢な介錯であるが、これも時の運という奴であるのかのぅ』
『そう、なのか……』
シルヴァが緊張感の無い調子で言う。生命力と引き換えに膂力……おそらく攻撃の威力に関する値が上がるのだろうが、今までそんな技を使っていただろうか? 一角獣との戦いや《古ルートムンド語》の入門書を渡したりなど色々あったし、その中で新たに習得したのかもしれない。
そして、頭目に対して“運が良い”的なニュアンスで言っているのだと思うが、強制的に眠らされている間に好きなだけ準備をした特大の一撃で命を刈り取られようとしているというのに、運が良いという事は無いと思うのだが……。
と、考えている間にも巨大化が止まった刃がついに頭目に向かって振り下ろされる。
頭目に直撃した瞬間、光の爆発と共にとてつもない質量が激突したかと思うような轟音が響く。
光と土煙によって遺跡の中央部全体が覆われ、バラムと頭目の姿も確認出来なくなってしまう。いくら視力が良くても物理的に隠されてしまっては様子を窺う事は難しい。一応バラムのLPは徐々に回復はしていても減ってはいないので問題無いとは思うのだが……。
『煙が邪魔であるな。晴らすとしよう』
シルヴァがそう言うと、遺跡を中心として強い風が巻き起こり、瞬く間に土煙が散らされていく。
土煙の晴れたそこには、残心をとるバラムと体が黒くなり徐々に崩れ落ちていく頭目……だった残骸があった。その残骸もすぐに塵となって風に攫われ、跡形もなく消えてしまう。
そして、《勘破》でも僕達以外の存在を示すマーカーは一つも無くなった。
『もういいぞ。降りて来い』
『うむ』
バラムからの呼びかけを合図にシルヴァが降下を始め、着地する直前に山羊へと変身した。器用だな。
僕もシルヴァの背から飛び上がって、変化を解く。
「打ち合わせ通りとはいえ、本当に一撃とはすごいな。剣に纏わせていた赤黒いオーラは何だったんだ?」
「最近使えるようになった。生命力と引き換えに威力を上げるものだ」
「ほぅ」
『ふふん、我の言った通りであったろう!』
シルヴァが自慢げに鼻息をボフッと鳴らす。
「あ?」
「ああ、そうだな」
シルヴァの鼻梁を撫でつつ、改めて周囲をぐるっと見回してみると、天井と壁の上の方が崩れていて、これはこれで開放的である種の退廃的な魅力がある光景となっていた。
……防衛戦の後にバラムから聞いてはいたが、奥の壁にあっただろう立派なレリーフは上から半分は完全に崩れ、下の方も崩れた壁や天井が当たってしまったのか、虫食いのようになっている。
僕はこのレリーフが完全だった状態を知っているからこれがどんな図だったのか分かるが、元の図を知らなければ何なのか全く察する事が出来ない状態だ。
石碑があった場所にも大きな瓦礫が積み重なっている。
《暗視》でも全てが見えない暗闇の中では完璧に存在していて、光の下では大事な部分が崩れ去ってしまっているというのは、何とも推定闇系統の神の領域らしいと言うべきなのか。
まぁ、それはさておき。
「それで……これからどうするんだ? ここでもう適当に転生を願えば良いのか?」
『そうであるなぁ……出来れば夜を待ちたいところである』
「そうか。……まだ日没まで結構あるな」
多分、普通に戦えばそれなりに難敵だったんじゃないかと思う狂いかけの野盗の頭目を特効とも言える相性の良さもあり、一撃で屠ってしまった為、巻きで進行し過ぎてしまった感がある。
「とりあえず、ここにも転移出来るようにして来たらどうだ」
「む、確かに」
バラムが顎で指した方に欠け月の写しがあったので、触れて転移候補として使えるようにしておく。
「そういえば、防衛戦でここに転移出来るプレイヤーがそれなりにいる割には誰もここに来ないな?」
「奴らは新しい物好きのようだからな、今はほとんど港町か、そこの山羊のダンジョンに夢中なんじゃねぇか」
『うむ、今我のダンジョンは中々盛況なようであるぞ!』
「なるほど。ある意味タイミングが良い、のか? まぁ、そのせいで野盗が増えていたとも言えるのかもしれないが……」
『であるなー』
「まぁな。ほとんどの集団を潰したからまたしばらくは問題無いだろ」
掲示板や攻略サイトで察せられる『転生』の情報の無さからプレイヤーに知られると……まぁ、明け透けに言ってしまうと面倒そうなので良いタイミングだったようだ。
全体アナウンス案件だった場合は…………またその時考えよう。
「ふぅむ、そしたら夜まで少しだけ“異人の眠り”をしておこうか」
転生が始まったとして、どのくらい時間がかかるのか、何かこなさないといけない事があるのか、何も分からないので、出来る準備はなるべくしておこう。
「分かった。安全な寝床を作るから少し待て」
「ああ。ありがとう」
『では我も主殿が転生するに相応しい儀式場にする為に色々仕込んでくるとしよう』
「……ほどほどに頼む」
『ククク、期待すると良いである』
「いや、本当に……」
シルヴァの大昔の知識と技込みの転生とか本当にぶっ飛んだ事にしかならなさそうなので、本気で……ほどほどに頼む……。
と、なんだかあまり叶う気がしない望みを抱きながら、バラムが用意してくれた簡素な天幕の中でフードを被ってログアウトした。
────────────
お好きなロマン剣技を思い浮かべていただければと(*´︶`*)
やはり鳥類の目というのは空からでも獲物を捕捉する為に優れているようで、かなりの高さに滞空していても天井が崩れた遺跡に佇む野盗の頭目がよく見えた。今は自分で《飛翔》していない為、より視る事に集中出来る。
野盗の頭目はとくに何をするでもなく、ただ静かに石造りの床に大雑把に腰を下ろしている。他の野盗達のような何時何者かに襲われるか、糧となる獲物はいないかと忙しなく辺りを見回すような落ち着きの無さが少しも感じられず、それが野盗としての自我が既に失われている証のように思えて不気味だった。
バラムが油断無く、野盗の頭目に近づいていく。
そして、野盗の頭目がバラムを認識し、腰を浮かしたところで〈淡き宵の訪い〉を発動する。
すると、ピタリと頭目の動きが止まる。
念の為《解析》で特殊効果が付与されているかどうか確認してからウィスパーでバラムに問題無く効果が付与された事を伝える。
様子を見ていると、バラムも大剣を抜き警戒しつつも検分していたようで、次の秘技使用を促してきた。なので、続いて〈惑う魂に慰めを与えん〉を付与する。
……やはり、これで昇華されたり、正気に戻る事はないようだ。
再び効果が付与されているかを《解析》で確認してから、今度はバラムの持つ大剣に意識を集中させて〈惑う魂に慰めを与えん〉をかけ、次に〈我が力を与えん〉を残APの半分を使って付与する。
すると、大きな大剣の刃がぽぅっと淡い光を放つのが上空からでも確認出来た。
『事前に打ち合わせた秘技は全て問題無く付与出来たと思う。……後は頼む』
『ああ。任せろ』
そう言うとバラムが大剣を大きく掲げる。そうすると、淡い光を放っていた刃が────。
『……目の錯覚か分からないんだが、刃が段々大きくなっているように見えるんだが……』
『気のせいでは無いである、主殿。あれは彼奴の《大剣術》の中でも最も威力が高いが隙もかなりある大技であるな』
『なるほど』
俗に言う『ロマン技』という奴か。確かに、両手で大剣を掲げて何秒も制止しているので、戦闘中にこの技を使う事が難しそうなのは僕でも分かる。
しばらく見ていると、刃は5倍強くらい大きくなっていた。
そこにさらに赤黒いオーラが追加されていく。
『ん? バラムの生命力が少し減っている……?』
ふと、視界の隅にあるバラムのLPバーが少し減っている事に気づく。さっきまでは満タンだったはずなので、この間に何者かから攻撃を受けたのかと焦って周囲を見回す。
『自分の生命力と引き換えに膂力を上げておるのだろう。野盗の頭目程度には贅沢な介錯であるが、これも時の運という奴であるのかのぅ』
『そう、なのか……』
シルヴァが緊張感の無い調子で言う。生命力と引き換えに膂力……おそらく攻撃の威力に関する値が上がるのだろうが、今までそんな技を使っていただろうか? 一角獣との戦いや《古ルートムンド語》の入門書を渡したりなど色々あったし、その中で新たに習得したのかもしれない。
そして、頭目に対して“運が良い”的なニュアンスで言っているのだと思うが、強制的に眠らされている間に好きなだけ準備をした特大の一撃で命を刈り取られようとしているというのに、運が良いという事は無いと思うのだが……。
と、考えている間にも巨大化が止まった刃がついに頭目に向かって振り下ろされる。
頭目に直撃した瞬間、光の爆発と共にとてつもない質量が激突したかと思うような轟音が響く。
光と土煙によって遺跡の中央部全体が覆われ、バラムと頭目の姿も確認出来なくなってしまう。いくら視力が良くても物理的に隠されてしまっては様子を窺う事は難しい。一応バラムのLPは徐々に回復はしていても減ってはいないので問題無いとは思うのだが……。
『煙が邪魔であるな。晴らすとしよう』
シルヴァがそう言うと、遺跡を中心として強い風が巻き起こり、瞬く間に土煙が散らされていく。
土煙の晴れたそこには、残心をとるバラムと体が黒くなり徐々に崩れ落ちていく頭目……だった残骸があった。その残骸もすぐに塵となって風に攫われ、跡形もなく消えてしまう。
そして、《勘破》でも僕達以外の存在を示すマーカーは一つも無くなった。
『もういいぞ。降りて来い』
『うむ』
バラムからの呼びかけを合図にシルヴァが降下を始め、着地する直前に山羊へと変身した。器用だな。
僕もシルヴァの背から飛び上がって、変化を解く。
「打ち合わせ通りとはいえ、本当に一撃とはすごいな。剣に纏わせていた赤黒いオーラは何だったんだ?」
「最近使えるようになった。生命力と引き換えに威力を上げるものだ」
「ほぅ」
『ふふん、我の言った通りであったろう!』
シルヴァが自慢げに鼻息をボフッと鳴らす。
「あ?」
「ああ、そうだな」
シルヴァの鼻梁を撫でつつ、改めて周囲をぐるっと見回してみると、天井と壁の上の方が崩れていて、これはこれで開放的である種の退廃的な魅力がある光景となっていた。
……防衛戦の後にバラムから聞いてはいたが、奥の壁にあっただろう立派なレリーフは上から半分は完全に崩れ、下の方も崩れた壁や天井が当たってしまったのか、虫食いのようになっている。
僕はこのレリーフが完全だった状態を知っているからこれがどんな図だったのか分かるが、元の図を知らなければ何なのか全く察する事が出来ない状態だ。
石碑があった場所にも大きな瓦礫が積み重なっている。
《暗視》でも全てが見えない暗闇の中では完璧に存在していて、光の下では大事な部分が崩れ去ってしまっているというのは、何とも推定闇系統の神の領域らしいと言うべきなのか。
まぁ、それはさておき。
「それで……これからどうするんだ? ここでもう適当に転生を願えば良いのか?」
『そうであるなぁ……出来れば夜を待ちたいところである』
「そうか。……まだ日没まで結構あるな」
多分、普通に戦えばそれなりに難敵だったんじゃないかと思う狂いかけの野盗の頭目を特効とも言える相性の良さもあり、一撃で屠ってしまった為、巻きで進行し過ぎてしまった感がある。
「とりあえず、ここにも転移出来るようにして来たらどうだ」
「む、確かに」
バラムが顎で指した方に欠け月の写しがあったので、触れて転移候補として使えるようにしておく。
「そういえば、防衛戦でここに転移出来るプレイヤーがそれなりにいる割には誰もここに来ないな?」
「奴らは新しい物好きのようだからな、今はほとんど港町か、そこの山羊のダンジョンに夢中なんじゃねぇか」
『うむ、今我のダンジョンは中々盛況なようであるぞ!』
「なるほど。ある意味タイミングが良い、のか? まぁ、そのせいで野盗が増えていたとも言えるのかもしれないが……」
『であるなー』
「まぁな。ほとんどの集団を潰したからまたしばらくは問題無いだろ」
掲示板や攻略サイトで察せられる『転生』の情報の無さからプレイヤーに知られると……まぁ、明け透けに言ってしまうと面倒そうなので良いタイミングだったようだ。
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転生が始まったとして、どのくらい時間がかかるのか、何かこなさないといけない事があるのか、何も分からないので、出来る準備はなるべくしておこう。
「分かった。安全な寝床を作るから少し待て」
「ああ。ありがとう」
『では我も主殿が転生するに相応しい儀式場にする為に色々仕込んでくるとしよう』
「……ほどほどに頼む」
『ククク、期待すると良いである』
「いや、本当に……」
シルヴァの大昔の知識と技込みの転生とか本当にぶっ飛んだ事にしかならなさそうなので、本気で……ほどほどに頼む……。
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(ムーンライトノベルにも掲載しています)