おそらく、僕だけ違うゲームをしている。

鵩 ジェフロイ

文字の大きさ
87 / 246
本編

121:ロマン技ぶっぱ

 それから打ち合わせ通りに、フクロウに変化したままの僕は、僕より一回り大きい鳥へと変身したシルヴァの背に乗って上空から、バラムはそのまま地上から野盗の頭目へと近づく。

 やはり鳥類の目というのは空からでも獲物を捕捉する為に優れているようで、かなりの高さに滞空していても天井が崩れた遺跡に佇む野盗の頭目がよく見えた。今は自分で《飛翔》していない為、より視る事に集中出来る。

 野盗の頭目はとくに何をするでもなく、ただ静かに石造りの床に大雑把に腰を下ろしている。他の野盗達のような何時何者かに襲われるか、糧となる獲物はいないかと忙しなく辺りを見回すような落ち着きの無さが少しも感じられず、それが野盗としての自我が既に失われている証のように思えて不気味だった。

 バラムが油断無く、野盗の頭目に近づいていく。

 そして、野盗の頭目がバラムを認識し、腰を浮かしたところで〈淡き宵の訪い〉を発動する。

 すると、ピタリと頭目の動きが止まる。

 念の為《解析》で特殊効果が付与されているかどうか確認してからウィスパーでバラムに問題無く効果が付与された事を伝える。

 様子を見ていると、バラムも大剣を抜き警戒しつつも検分していたようで、次の秘技使用を促してきた。なので、続いて〈惑う魂に慰めを与えん〉を付与する。

 ……やはり、これで昇華されたり、正気に戻る事はないようだ。

 再び効果が付与されているかを《解析》で確認してから、今度はバラムの持つ大剣に意識を集中させて〈惑う魂に慰めを与えん〉をかけ、次に〈我が力を与えん〉を残APの半分を使って付与する。

 すると、大きな大剣の刃がぽぅっと淡い光を放つのが上空からでも確認出来た。

『事前に打ち合わせた秘技は全て問題無く付与出来たと思う。……後は頼む』
『ああ。任せろ』

 そう言うとバラムが大剣を大きく掲げる。そうすると、淡い光を放っていた刃が────。

『……目の錯覚か分からないんだが、刃が段々大きくなっているように見えるんだが……』
『気のせいでは無いである、主殿。あれは彼奴の《大剣術》の中でも最も威力が高いが隙もかなりある大技であるな』
『なるほど』

 俗に言う『ロマン技』という奴か。確かに、両手で大剣を掲げて何秒も制止しているので、戦闘中にこの技を使う事が難しそうなのは僕でも分かる。

 しばらく見ていると、刃は5倍強くらい大きくなっていた。
 そこにさらに赤黒いオーラが追加されていく。

『ん? バラムの生命力が少し減っている……?』

 ふと、視界の隅にあるバラムのLPバーが少し減っている事に気づく。さっきまでは満タンだったはずなので、この間に何者かから攻撃を受けたのかと焦って周囲を見回す。

『自分の生命力と引き換えに膂力を上げておるのだろう。野盗の頭目程度には贅沢な介錯であるが、これも時の運という奴であるのかのぅ』
『そう、なのか……』

 シルヴァが緊張感の無い調子で言う。生命力と引き換えに膂力……おそらく攻撃の威力に関する値が上がるのだろうが、今までそんな技を使っていただろうか? 一角獣との戦いや《古ルートムンド語》の入門書を渡したりなど色々あったし、その中で新たに習得したのかもしれない。

 そして、頭目に対して“運が良い”的なニュアンスで言っているのだと思うが、強制的に眠らされている間に好きなだけ準備をした特大の一撃で命を刈り取られようとしているというのに、運が良いという事は無いと思うのだが……。

 と、考えている間にも巨大化が止まった刃がついに頭目に向かって振り下ろされる。

 頭目に直撃した瞬間、光の爆発と共にとてつもない質量が激突したかと思うような轟音が響く。

 光と土煙によって遺跡の中央部全体が覆われ、バラムと頭目の姿も確認出来なくなってしまう。いくら視力が良くても物理的に隠されてしまっては様子を窺う事は難しい。一応バラムのLPは徐々に回復はしていても減ってはいないので問題無いとは思うのだが……。

『煙が邪魔であるな。晴らすとしよう』

 シルヴァがそう言うと、遺跡を中心として強い風が巻き起こり、瞬く間に土煙が散らされていく。

 土煙の晴れたそこには、残心をとるバラムと体が黒くなり徐々に崩れ落ちていく頭目……だった残骸があった。その残骸もすぐに塵となって風に攫われ、跡形もなく消えてしまう。

 そして、《勘破》でも僕達以外の存在を示すマーカーは一つも無くなった。

『もういいぞ。降りて来い』
『うむ』

 バラムからの呼びかけを合図にシルヴァが降下を始め、着地する直前に山羊へと変身した。器用だな。

 僕もシルヴァの背から飛び上がって、変化を解く。

「打ち合わせ通りとはいえ、本当に一撃とはすごいな。剣に纏わせていた赤黒いオーラは何だったんだ?」
「最近使えるようになった。生命力と引き換えに威力を上げるものだ」
「ほぅ」
『ふふん、我の言った通りであったろう!』

 シルヴァが自慢げに鼻息をボフッと鳴らす。

「あ?」
「ああ、そうだな」

 シルヴァの鼻梁を撫でつつ、改めて周囲をぐるっと見回してみると、天井と壁の上の方が崩れていて、これはこれで開放的である種の退廃的な魅力がある光景となっていた。

 ……防衛戦の後にバラムから聞いてはいたが、奥の壁にあっただろう立派なレリーフは上から半分は完全に崩れ、下の方も崩れた壁や天井が当たってしまったのか、虫食いのようになっている。

 僕はこのレリーフが完全だった状態を知っているからこれがどんな図だったのか分かるが、元の図を知らなければ何なのか全く察する事が出来ない状態だ。

 石碑があった場所にも大きな瓦礫が積み重なっている。

 《暗視》でも全てが見えない暗闇の中では完璧に存在していて、光の下では大事な部分が崩れ去ってしまっているというのは、何とも推定闇系統の神の領域らしいと言うべきなのか。


 まぁ、それはさておき。


「それで……これからどうするんだ? ここでもう適当に転生を願えば良いのか?」
『そうであるなぁ……出来れば夜を待ちたいところである』
「そうか。……まだ日没まで結構あるな」

 多分、普通に戦えばそれなりに難敵だったんじゃないかと思う狂いかけの野盗の頭目を特効とも言える相性の良さもあり、一撃で屠ってしまった為、巻きで進行し過ぎてしまった感がある。

「とりあえず、ここにも転移出来るようにして来たらどうだ」
「む、確かに」

 バラムが顎で指した方に欠け月の写しがあったので、触れて転移候補として使えるようにしておく。

「そういえば、防衛戦でここに転移出来るプレイヤーがそれなりにいる割には誰もここに来ないな?」
「奴らは新しい物好きのようだからな、今はほとんど港町か、そこの山羊のダンジョンに夢中なんじゃねぇか」
『うむ、今我のダンジョンは中々盛況なようであるぞ!』
「なるほど。ある意味タイミングが良い、のか? まぁ、そのせいで野盗が増えていたとも言えるのかもしれないが……」
『であるなー』
「まぁな。ほとんどの集団を潰したからまたしばらくは問題無いだろ」

 掲示板や攻略サイトで察せられる『転生』の情報の無さからプレイヤーに知られると……まぁ、明け透けに言ってしまうと面倒そうなので良いタイミングだったようだ。

 全体アナウンス案件だった場合は…………またその時考えよう。


「ふぅむ、そしたら夜まで少しだけ“異人の眠り”をしておこうか」

 転生が始まったとして、どのくらい時間がかかるのか、何かこなさないといけない事があるのか、何も分からないので、出来る準備はなるべくしておこう。

「分かった。安全な寝床を作るから少し待て」
「ああ。ありがとう」
『では我も主殿が転生するに相応しい儀式場にする為に色々仕込んでくるとしよう』
「……ほどほどに頼む」
『ククク、期待すると良いである』
「いや、本当に……」

 シルヴァの大昔の知識と技込みの転生とか本当にぶっ飛んだ事にしかならなさそうなので、本気で……ほどほどに頼む……。


 と、なんだかあまり叶う気がしない望みを抱きながら、バラムが用意してくれた簡素な天幕の中でフードを被ってログアウトした。


────────────

お好きなロマン剣技を思い浮かべていただければと(*´︶`*)
感想 295

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? 表紙は自作です(笑) もっちもっちとセゥスです!(笑)

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)