おそらく、僕だけ違うゲームをしている。

鵩 ジェフロイ

文字の大きさ
106 / 246
本編

140:妖精ってやつは……

 ダンジョン突入と同時に流れた通知の内容に対する違和感に首を捻る。ダンジョン『煤けた地下道』と通知が来たが、《解析》では『金壺の地下道』という名前だったはずだ。

 これはどういうことだろう?

 と、そんな事を考えている間にも、薄暗くてカビ臭い石造りの通路の先に何者かの影が浮かんでいた。

「ブゴッ!? ブゴオオ……!」

 多少凶悪な顔つきをした豚頭に、傭兵のような格好をした魔物が僕達の存在に驚いた様子を見せると、奥へと走り去っていく。これは事前にあぬ丸から聞いていた通りだ。


[オークウォリアー]
戦闘能力に長けたオーク。
数体の魔物を統率している事もあり、その場合は脅威度が上がる為注意が必要。
分厚い皮と脂肪、筋肉によって防御力がとても高く、攻撃は大振りで避けやすいが当たると危険。
分類:魔物
生息地:北方の山・中層、カトル東の森・深層
属性:土
弱点:刺突、遠距離物理、風属性
素材:牙、皮、足、肝、魔石(小)
状態:正常


 《解析》でも変わったところはとくに無さそうだった。強いて言えば、この辺りのフィールドの魔物と比べると二段くらい強そうな魔物、ということくらいか。

「今日も元気に逃げていきますわぁ」
「どうする? 追うか?」
『いや……というか……』
『我ら以外は気づいていなさそうであるな』
『ああ』


 皆の反応から多分気づいていないのだろうな、と思うんだが……僕達の感知には……。


『この入り口すぐの右の壁の奥に通路がある、と思う』
「えっ、マジ?」
「ああ、何かある」
「兄貴も分かるんすね! 流石っす!」
「ここー? ふんっ!」

 ドゴッ!!

 あぬ丸がすかさず壁に向かって正拳突きを叩き込む。とても重い音と衝撃が伝わってきたが、壁はびくともしない。

「あれぇ? このくらいの壁なら砕けてるはずなんだけどなぁ……」
『そ、そうなのか……すごいな』

 あぬ丸の拳は石壁くらいは軽く砕けるらしい。

「いや、ダンジョンだぜ? 普通の壁とは違って破壊不可とかなんじゃないか?」
「そっかー。まぁ、試してみただけよぉ」
『どうやら合言葉のようなものを“使わないといけない”ようだ』
「使わないといけない? 言わないといけない、じゃなくてですか?」

 向こうに通路があると思しき壁を見てみると、開き方も一応分かるようになっている。と、言っても多くの者はそれを見ても意味が分からないだろう。

『ああ。僕ならどうにか出来そうなんだが壁に触れないといけないようだ。……《変化》を解いてもいいか?』
「ダメだ」
『うぅん……』

 即却下されてしまった。どうしたものか。
 と、考えていると、バラムが壁の方に体を寄せて来る。何処となく自分の体で僕を隠すような位置どりをしているような……?

『ここからあの“根”を伸ばしたら触れた事にならねぇか?』
『む? ……ああ、出来るかもしれないな、やってみよう』

 確かにそれなら《変化》を解かずに壁に触れられるかもしれない。とはいえ、接触判定になるかは分からないのだが……。

 とりあえず技能を発動し、バラムの首元から黒い根がニョロッと出てくる。フクロウのサイズに合わせてか、若干人の姿で発動した時よりも直径が細くなっている……今どんな絵面になっているんだろうか。

 それはともかく。さっさとこの壁をどうにかしてしまおう。


 僕は根を操作して目の前の壁に触れさせて────《古ルートムンド語》で“合言葉”を付与した。


 すると。


 目の前の壁が初めから何も無かったかのように消え去った。

「うおっ! 急に壁が消えたぞ!?」
「ほぁー、本当に何か見つけちゃったなぁ」
「……なんとなく、トウノさんのプレイの常を垣間見た気分だな……」

 皆には前触れもなく急に壁が消えたように見えたのだろう、驚かせてしまった。本当に根だけで触れた事になるのかは半信半疑だったので、僕も少し驚いている。

「結局その“合言葉”とは何だったんでしょうか?」
『……いや、もう開いたんだし、いいんじゃないか?』
「えー、気になるから教えてよー」
「おう、そこではぐらかされると余計に気になってプレイに集中出来ないぜ」
『そ、そうか……』

 僕は合言葉を伝えるのを躊躇うが、皆が気になっているというので仕方がないので伝える。


『うぅん……合言葉は“馬鹿が見る、豚のケツ”だ』
「「「「…………」」」」


 重い沈黙が降りる。
 合言葉は、この壁の仕掛けを見つけられずにオークウォリアーを追う者を揶揄した言葉になっていた。

「へーぇ? 随分と煽ってくれんじゃんー?」
「おうよ、しかも開く為にこの言葉を使わないといけないたぁ、舐めた真似してくれるよなぁ?」
「ここで煽られたらますます思うツボなような……」
「中々上手いことを言いますね」

 反応はまちまちだが、あぬ丸とシャケ茶漬けは若干カチンときている気がする。

『多分、これが『妖精が関係している』という所以だと思う』

 仕掛けや煽りの雰囲気からこれは妖精の仕業と見て良さそうだ。……妖精は他者を煽らずにはいられないものなのだろうか。と、何処かの黒山羊を思い浮かべる。

「ほーう? じゃあこの通路の奥に辿り着ければその妖精とやらに会えるのか?」
『それは……どうだろうな……』

 今のところ《勘破》の範囲に妖精らしきマーカーは無いが……。

「……まぁいる“匂い”はするな」
「おお、兄貴がそう言うならいるんすね! じゃあ、俺たちをコケにした落とし前つけてやりましょう!」
「俺は別にコケにされてねぇよ」
「あでっ!」

 バラムがシャケ茶漬けにローキックを入れる。痛そうだ……。

『うむ、我もこの先にいると思うである。それにしても煽り文句が少し幼稚であるな! もう少し捻っていかねば!』
『……』

 シルヴァも同族?の気配を感じ取っているようだ。そして、煽り文句の評価までしている。やはり妖精は煽ることが標準なのか……?

「よし! それじゃあこの先に進んでみますか!」
「新マップと妖精をボコすのワクワクするなぁ!」
「難易度が違うかもしれないから、油断しないようにな」
「この扉をどうやって開けたのかを知りたいところですが、それは落ち着いたら教えてください」
『そうしてもらえると助かる。何なら後で紙にまとめておこう』
「ああ、それは良いですね、お願いします」

 僕的にも文書化する方が思考を整理出来るし《編纂》で下書きとしても残せるので、今後検証野郎Zの気になる点を教える時は文書化するのが良いかもしれない。いつかまた資料としてギルドに提供出来るものがまとめられるかもしれないし。

「おい、妖精は油断ならねぇ相手だ。気を引き締めろ」
「うっす!」
「はーい」
「はい」
「ピキュッ!」
「ええ」

 流石、傭兵としてもベテランなバラムの一言で弛緩した雰囲気が引き締まる。

「そんじゃあ、突入!」

 あぬ丸が先陣を切る形で新たな通路へと突入した。


 そして中はと言うと……。


『前方5歩先と、8歩先の頭上に罠がある。突き当たりを左に行った先の行き止まりの左側の壁に隠し部屋だ』
「いやぁ、トウのんのおかげでスイスイですなぁ!」
「そういやこのパーティ、シーフ系がいなかったな……」


 そう、入り口の仕掛けは始まりに過ぎないと言わんばかりに隠蔽された罠や部屋がふんだんに仕込まれていたのだった。


感想 295

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? 表紙は自作です(笑) もっちもっちとセゥスです!(笑)

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)