【書籍化&完結】おそらく、僕だけ違うゲームをしている。【2月中頃発売】

鵩 ジェフロイ

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本編

155:サバイバル開始

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 突然の大きな揺れと衝撃につんのめりそうになる。すぐにバラムが抱えてくれて何とかなりはしたが、揺れはおさまらない。
 上下左右にグワングワンと揺れている。

 ドガアァンッ!!

 そして、また一際大きな轟音が響いたかと思うと────。

「なんか水が大量に入ってきたぞ!?」
「ペッ、かっれ! ……って、これ海水か!?」

 板張りの壁に穴が開いて水が勢いよく流れ込んできて、近くにいたプレイヤーが頭から水を被ってしまった。
 そして、どうやらあの水は真水ではないようだ。

 しかも、1箇所ではなく、次々と穴が開いてしまっている。

「この揺れ方と状況から察するに、ここは船の中だった、ということでしょうか」

 妙に冷静な検証野郎Zが推察を口にする。

「あー……この後の展開ちょっと分かったかもぉ」
「俺もだわ……。割とお約束展開が好きだよなー、アルストって」

 あぬ丸とシャケ茶漬けは何か思い当たるものがあるのか、遠い目をして脱力している。……非常事態ではないのだろうか?

「トウノさんは大剣使いさんにしっかり掴まってれば多分大丈夫。アルプもこっちおいで」
「ピキュッ」
「そう、なのか? 分かった」

 よく分からなくはあるが、それならばと鍋の蓋のアドバイスに素直に従い、体に回ったバラムの腕を抱えようとすると。

「うわっ」
「しっかり掴まってろよ」
「あ、ああ……」

 バラムが片腕でヒョイっと僕を抱き上げ、目線がいきなり高くなる。……ここから、しっかり掴まるとなると、バラムの首しかないので、腕を回して抱きつく形で掴まる。

「ヒュー! 見せつけていくぅ!」
「くぅー、兄貴カッケー!!」
「……うぅん」

 あぬ丸とシャケ茶漬けの歓声にそういえば、いつもと違って不特定多数の目があることに今更思い至って少しいたたまれなくなる。フードを被っていて良かった。
 《認識阻害》もパーティ外のプレイヤーには効いていると信じよう。

『海であるかー。夜なら問題無いであるが、夜でないと海の力が強すぎて中々動きづらいのよなぁ』

 相変わらず肩でふくふくとしているシルヴァが緊張感の無い声音で言う。

「魚とかにも変身出来るのか?」
『我を誰だと思っておる『変幻』の称号を持っている以上出来るである! ……が、陸の上の動物以外は疲れるのよなぁ……』
「そうなのか」
『うむ! 他の異人達には内緒であるぞ!』

 イルカやクジラなど、海に棲む動物系なら変身しやすいのだろうか? などと考えていると────。

 ドガシャアアアアアアッ!!!!

「「「「「「!!」」」」」」

 壁に大穴が開き、一気に海水が流れ込み、プレイヤーを呑み込みだす。

「チッ!!」

 バラムは僕を抱えたまま大きく跳躍する。決して低くない天井近くまで跳び上がったところで、大剣を振り抜き、天井を破壊する。
 しかも、そのまま自由落下するのではなく、空中を蹴り、そのまま開いた穴の向こうへと出る。


 ────そこは大嵐の海のど真ん中だった。


「これは……」
『随分粗末な船であるな』

 検証野郎Zの推測通り、大嵐の中、碌な舵も帆もない粗末な船、それが僕達が転送された場所だった。
 しかも、もうほとんど浸水していて沈没まで秒読みだ。

「……この状況で生き残るのは無理では……?」

 この時点から“サバイバル”が始まっているのだとしたら、生き残る道が微塵も見えない。運の悪い何かを引いてしまったのだろうか。

『そうであるか? 他の異人達は幾分楽観的だったようであるが』
「っ! ……チッ」
「!」

 ここでバラムが自分の体の内側にしまい込むように両腕で僕をキツく抱え込む。僕の視界はバラムの肩越しに見える狭い風景が全てとなってしまったが、“最悪”の状況を把握するにはそれで十分だった。

 そこには、見上げる程に大きな壁のような大波が今にも僕達とこの沈みかけの船を呑み込もうとしているところだった。


 暗く底の無い大きな“口”が直近に迫り────僕達は呑み込まれた。


 直後、大きな衝撃を受けて、上も下も何もかも分からなくなり真っ暗闇の中、ただ沈む感覚だけは知覚出来た。

 そして、意識も深い闇へと沈んでいく……。



 …………
 ………………
 ……………………
 …………………………。



 ……冷たい、終わりのない暗闇の中を揺蕩っている。
 もう、ずっと前から“そう”しているから慣れている。多くを望まなければ、それなりに快適だ。


 ……そのはずなのに。
 何かが欠けている気がするのは何故なのだろう。感覚は仮初のものしか感じないはずなのに、その“場所”がひどく疼いている。


 欠けている何かを探して手を伸ばせば何か変わるだろうか? ……しかし、僕の手は自由に動かせただろうか?


 ……やってみたことがないから、本当に動かないのかどうかも分からないことに気づく。

 じゃあ、とりあえず試してみようと、腕を意識して伸ばしてみる。

 自分の腕や体すら見えないほどの暗闇過ぎて腕がちゃんと上がっているのかすら分からないが────。

 っ!

 突然、腕に強い衝撃を感じて、驚きに思考が硬直する。しかし、僕の手は反射的にそれを掴んでいた。

 
 ────そして、生温く湿った感触を顔に感じた。



 …………
 ………………
 ……………………
 …………………………。


「う……ん……」

 意識が急浮上する。
 やや重い瞼を開けると、眩しさに目を眇めてしまう。

「起きたか、何ともないか」
「……うわっ。あ、ああ……多分……問題無い」

 体を起こすと、強い力で肩と顎を掴まれる。強制的に向かされた方を見ると、バラムが酷く心配そうな顔で僕を覗き込んでいた。

 ……僕も、その眼差しと肌に触れる熱い手にホッとして、自分の手を重ねる……。

「…………お前……」
「そういえば、ここは何処だ……? あと、シルヴァや皆は……」

 落ち着くと今の状況がどうなっているのかが気になってくる。確かイベントに参加したと思ったら、粗末な船の中にいて、あっという間に海に呑み込まれたはずだが……。

 と、辺りを見回すと、どうやら僕は白い砂浜に寝転がっていたようだ。その先は強い日差しを受けて輝く青い海が広がっている。

 背後を振り返ると、鬱蒼とした木々があり、ジャングルの入り口といった感じだった。

「ここは何処かは……分からん。だが、異人達は『ここがイベント会場ね、りょ』だとか『遭難演出からのサバイバル開始は様式美』だとか言ってたぞ」
「ああ、なるほど」

 つまり、あぬ丸やシャケ茶漬けは船の中にいると分かった時から、イベントで紹介されていたジャングルのある何処かに漂着することを予想していたのだろう。

 さらによく見ると、他にも漂着したプレイヤーがチラホラといる。まだ、倒れていたり、起き上がって周囲を確認していたりと様々だ。

「山羊はあそこで異人を救助する、っつーのは建前で遊んでやがる」
「うん?」

 バラムが顎で示した方を見ると、どうやら海の方にも漂っているプレイヤーがいるらしく、真っ黒で大きな鳥がそのようなプレイヤーを掴んでは浜まで運んで適当に放る、ということを繰り返していた。

 ……何となく、砂浜にどうやったらプレイヤーが面白い格好で突き刺さるか試行錯誤している気がするが……まぁ、救助は救助、ということで。

 というか『徘徊レアボス』として有名な姿を惜しげもなく晒しているが、ここは普段フィールドとは別空間なのに出現してしまうのは、中々おかしなことになってしまうが、良いのだろうか?
 と、考えていると。

「ぶはっ! 徘徊レアボスが何でこんなところに!? イベント空間でも徘徊してくるんですか!?」
「シルヴァってんだっけ? 運営も人気を察知してお助けNPCにでもしたんかな」


 ……なるほど、そう考えるのか。というか、プレイヤーがそう考えると見越して姿を現しているとしたら、シルヴァは本当に異人の観察と理解が深い。


 そうしてしばし、光り輝く海岸を切り裂くような漆黒の影の奇行を眺めていたのだった。


────────────

次話更新は11月29日(金)予定です。
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