おそらく、僕だけ違うゲームをしている。

鵩 ジェフロイ

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本編

156:虎穴に入らずんば

 目まぐるしい展開で始まったイベントだが、この島?ジャングル?を舞台に生き残れば良いらしい。

 とりあえず、バラムに急かされて岩場と大きな体に隠されながら《変化》をして、フクロウの姿の時の定位置となりつつある、首元の鎧の隙間にスポッと収まる。

『む、目が覚めたであるか、主殿! 大事ないであるか?』
『ああ。……姿を見せて良かったのか?』

 空中で大きな鷲の姿を霧散させたシルヴァが、ネズミの姿となってバラムの肩に現れる。大きな鷲だけに注目していたプレイヤーは見事にシルヴァの姿を見失っている。

『最初は主殿を陸へ運ぶ為にやむなしかと思ったのであるが……クククッ、何やら都合の良い勘違いをしているようだったのでな、乗らせてもらったである』

 やはり、プレイヤーが勘違いしているのを把握しての大胆な行動だったようだ。
 それはともかく。

『僕を陸へ運んでくれたのか』
『うむ! まぁ、漂着してから疾風の如き速さで見つけたのは夜狗の小僧であるが。こういう時、夜狗の能力は役立つであるな!』
『そうなのか。2人共ありがとう』
「ああ」
『うむ!』

 バラムが首元にいる僕に鼻先を埋めて深く呼吸する。
 また吸われているが、助けてもらったばかりなので好きにしてもらおう。……口でも食まれだして少しくすぐったいが……まぁ、いい、か。

『そういえば、あぬ丸達の姿が見えないが……』
『あの者達なら森の中を探索しに行ったである。“パーティウィスパー”の方でやり取り出来るのではないか?』
『む、そうか』

 シルヴァに言われて、パーティウィスパーが使えるかもしれないのを思い出す。……前からだが、本当にどっちがプレイヤーなのか分からないな。

『皆、今どうしているだろうか』
『ん? あっ、トウのんも無事目が覚めたんだぁ』

 パーティウィスパーで問いかけたところ、すぐに応答があった。

『トウノ君……兄貴どうしてる?』
『うん? ああ、とくに変わりはないが』
『あれ、そうか』
『じゃあ、今何してるのー?』
『今か? 今は……フクロウに《変化》した僕を吸っているが……』
『あっ、ハイ』
『兄貴……おいたわしや……』
『うん?』

 何故か妙にあぬ丸達がバラムの様子を気にかけている。

『トウノさんが中々目を覚まさなくてすごく心配してる様子だったから、良かったなってことだ』
『なるほど……』

 よく分かっていない様子の僕を察してか、鍋の蓋が僕が目覚める前のバラムの様子を教えてくれた。どうやら思っていた以上に心配をかけてしまったようだ。……なんかもう、羽を食べられてるような気さえするが、それで気が済むなら大人しく食べられていよう。

『ところで探索していると聞いたが、どんな状況なんだ?』
『現状この辺りに漂着したプレイヤーの中では、私達が戦闘力のバランスが一番良い、となったので探索兼斥候を買って出ました』
『安全そうな拠点候補なり何なりが見つかればいいなーって感じで探してるー』
『と言っても、他に探索してるパーティもいるし、皆食料や拠点用資材確保に動いてくれてる』
『そうなのか』

 確かに、どんな危険が潜んでいるか分からない環境の中では、多少のリスクを受け入れた威力偵察は必要だろうし、サバイバルという以上、最初の日没までに速やかに拠点や食料の確保をすることが重要な気がする。この辺り“お約束”を把握しているあぬ丸達らしい行動の速さだ。

『予想以上に純戦闘職が少なかったな。それに結構……個性的なメンツが集まってる気がする』
『私たちがその最たるものだったりするんじゃないー?』
『『…………』』
『確かにそうかもしれませんね。差し詰め色物サーバー、といったところでしょうか』

 あぬ丸の言葉に自然と視線を遠くに彷徨わせてしまうが、検証野郎Zは気にする風でもなく的確に僕達が薄々感じていたことを言葉にする。

 それに正統派な戦闘職ビルドのプレイヤーが少ないというのも、それなりの戦闘職プレイヤーがバトロワに参加しているというのもあるだろうが、僕がバラムやシルヴァと参加している為のバランス調整故、ということもあるだろう。

『そんで今はねー、豹柄……っぽい猫ちゃんを追いかけてるとこ!』
『豹柄っぽい猫?』

 それは……豹ではなく?

『うん、豹柄に似てるんだけど、多分違うんだよねぇ。なんだったかなー?な柄のヤマネコサイズの猫ちゃん。私の《動物学》でもよく分からないから何としても調査しないとねぇ!』
『まぁ、他に目ぼしいものも無いから俺達も一緒に追いかけてるところだ』
『そうなのか……罠とかでは……』

 職業補正も入っているあぬ丸の《動物学》でも正体不明なのは、イベント用空間というメタ的なことも考えると何とも怪しい。

『可能性はありますが、現状では何とも言えませんね』
『ま、虎穴に入らずんば虎子を得ずの精神で突き進んでるところよ!』
『追いかけてるのは似て非なる豹柄の猫ちゃん……似非豹猫かもだけどねぇ』
『長いよ』

 あぬ丸達も危険な可能性は承知の上で、追いかけているようだ。まぁ、事前のお試しパーティプレイで中々バランスが良く、臨機応変に対応出来ることは確認済みだからこそなのだろう。

『なるほど……僕達も合流した方がいいだろうか?』
『いや、そっちに兄貴とシルヴァパイセンがいるから戦闘出来る組が総出で探索出来てるところがあるんだ。だから、俺達が探索を切り上げるまではそっちにいてもらえると助かる!』
『そうか、分かった』

 ということで、一旦あぬ丸達とのウィスパーでの会話を終了する。

『僕達……というよりバラムとシルヴァはこの辺りで戦闘が発生しそうな時に対応して欲しいとのことだったが、僕はどうしようか……』
「お前はここで大人しくしてろ。……まだ本調子じゃねぇだろ」
『………………う』


 バラムに図星を突かれて呻いてしまう。


 あの船の難破はただのイベントの導入だと分かってはいるのだが、目が覚めてからどうにも力が出ない。
 そのことが僕が目覚めるのが遅れたことや、他に要因があるのかは分からないが……とにかく調子が出ないことをバラムに察されてしまっているらしい。

「お前のことで、俺に隠せると思うな」
『……ああ』

 バラムが安心させるようにフクロウ姿の僕に口づけを落とす。

「調子が戻るまでこの中で休んでろ。この辺りで何かあったら山羊が適当にあしらう」
『いや、それだと異人達の勘違いと矛盾するであるから、お主が何とかするである』
「ああ? 別にどうでもいいだろ」
「……」

 何か押し付け合いが始まってしまった。


「俺はこいつを守るんだよ」
『仕方ないであるなぁ。この姿で分からないように魔法を使うであるから、我の魔法の射程まではお主が移動するのだぞ』
「……チッ。いいだろう」

 ネズミの姿でも器用にやれやれといった表情を見せるシルヴァとバラムの間で妥協点が見つかったようだ。

「ほら、もしもの時は起こしてやるから、少し寝てろ」
『む……そうか?』
「ああ」
『うぅん……』

 折角のイベントなのに開始早々すぐ寝るというのも……と思ったが、この隙間のバラムの体温が心地良くて大分瞼が重い。

『この後も6日間ここで過ごすのだ、今は無理しない方がいいである』

 シルヴァからも諭されてしまう。

『そう、か。じゃあすまないが少し休ませてもらう』
「ああ」
『ここは我らに任せるである!』

 ということで、僕は鎧の隙間の中にさらに入り込むように体を縮こまらせる。強い日差しからも遮られて、幾分楽になった。


 ドクッ……ドクッ……


 バラムの力強い鼓動が聞こえる。


 規則的なその音に誘われるように僕の意識はすぐに微睡んでいった。
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