おそらく、僕だけ違うゲームをしている。

鵩 ジェフロイ

文字の大きさ
130 / 246
本編

164:必ずしも必要なわけではなかった

『……ア……』


 声が、聞こえる。


『ヨアル……』


 何となく、前も聞いた気がする。


『ヨアル……シ……ラル…………』



「ん……ヨアル?」

 聞こえた単語を復唱してみる。……何だか頭がぼんやりしている気がする。

『起きたであるか、主殿』
「……もしかして寝ていたか?」
『ほんの少しであるが』
「そうか……」

 どうやら、外套に包まっている間に少しの間眠ってしまったというか……意識を飛ばしてしまったらしい。
 うぅん、イベント空間に来てからこんなことばかりだな。

 しかし、今度は今までで一番記憶がハッキリしている。

「ヨアル……」
『うむ?』
「いや、先ほど見た夢で唯一ハッキリ聞き取れた単語のようなものだ」
『おおっ! ならば何かのヒントになるのではないか?』
「うん? ……ヒント……そうか、ヒントか……」

 僕は解読に使っていた手帳に書き写した文字に目を向ける。

 ────すると、足りなかったピースがハマったかのように、ぼんやりとしていた文字の意味が徐々に形を成して……。

「この文字は『夜』という意味なのか」
『む! 解読出来たであるか!』
「ああ。と言ってもまだ一文字だけで言語習得にも至っていないんだが」
『一文字でも解することが出来たのなら、主殿ならこの先は容易いのではないか?』
「どうだろうな……善処はするが」

 解読出来たといってもまだたくさんある内の一文字だ。ここから難なく解読出来るまでにはまだ何文字も地道に解読するしかないだろう。

 ただまぁ、分かりやすく前進はしたので、先程より気分は軽い。元々の目的である休憩も十分とれたので、解読作業を再開しよう。



 そして、解読しやすそうな感触のある文字をまた書き写しながら《解析》にかけることしばし。



〈これまでの行動から技能《ウロタワン語》を獲得しました〉



「ふぅ。何とか2日目の内に言語を習得出来たな」
『うむ! 流石主殿であるな! して……そもそも我らは何をすれば良かったであるか?』
「えぇと……謎を、解く……んだったか?」
『そうだったであるな! ……で、謎とは……?』
「……『図柄の謎を解こう』とあるが……確かに具体的にどうすればいいのかまだ確認出来てなかったな……」
『まぁ、もうこの文字は読むことが出来るのであるから、簡単なのではないか?』
「それは分からないが……」

 と、僕は周辺の《ウロタワン語》と思われる象形文字を眺めて“意味”の方に目を向けてみる。

「うぅん……夜……の主、にして全ての母の座すところ……」
『ふむふむ。印象としてはこの領域を統べるような存在でありそうであるな』
「そうだな。このイベントの内容から推測すると『黒曜天母』のことかもしれない」
『うむ、その存在がこの先にいる、というところであるかのぅ』
「ああ」

 ただ、これだけだと“謎”の部分が何も分からないので、他の図柄にも目を向ける。

「星……を夜の主に戻せ……?」
『む、何かそれっぽい言葉が出てきたであるな』
「ふぅむ……?」

 改めて正面の壁の方を見ると《ウロタワン語》が記されつつも、かつての遺跡のレリーフのように絵的に表現されているようにも見えた。

 ここの中に“夜の主”を示すものがあり、どうにか“星”を戻せばいいのだろうか……? と、正面の壁に触れると────。


 ズズッ……


「っ! これ動くのか……」

 正面の壁の《ウロタワン語》はマス目状に区切られていると思ったら、その区切りに合わせて移動出来るようだった。

 なるほど。これはスライドパズルのようになっていて、このパズルを解け、ということなのかもしれない。


 ………………あれ。


「もしかして《ウロタワン語》を習得しなくても何となく動かしていれば解けた……?」
『………………まぁ、主殿に新たな知が増えたと思えば、良きことである!』

 そこそこの沈黙の後、シルヴァは良いように言ってくれているが、これは完全に僕の確認不足というか、視野が狭くなっていたというか……。
 《古ルートムンド語》と同じようにすれば良いと勝手に思ってしまっていた。

「うぅん……パズルの難易度がいくらか下がったと思えば、良いか……」
『うむ! その意気であるぞ!』

 ということで、早速パズルに手をつけよう。

 文字の意味を理解出来ている分、あるべき形を目指してスライドさせていけばいいだけだ。

 ……やればやるほど、図柄の意味を分かってなくても解くことが可能そうだというのが分かり、少し切ない。

 そんなこんなで“星”を表す文字を一番上に配置出来たところで、スライドパズルをあるべき場所に大体配置出来たんじゃないかと思う。
 ……のだが。

『とくに何も起こらないであるな』
「ふぅむ? まだ何か足りないのかもしれないな……ん?」

 星を夜の主に戻せば良いんだから……と考えていたところで、その“夜の主”は実のところ、この正面の壁の何処にいるのだろうと思う。

 改めてスライドパズルの周囲や、側面の壁を見てもあまりヒントになりそうなものは無かった。


 ……が《ウロタワン語》を習得してから《勘破》で気になる……というか、この先の空間を若干感じることが出来ている。


 空間は“下”に続いている。


 ということは。

「星を戻すべき夜の主は地下にいる……」

 しかし、スライドパズル自体はこれでぴったり配置出来ているはずだ。なので……。

「全体をひっくり返すとか…………お」

 壁に両手をついて、全体を動かせないかと力を加えてみると、マス目の盤面全体が僅かに動く感触があった。

 動く方向に合わせていけば、星の位置をひっくり返すことが出来そうだ。

 ズズズズ……

『このような仕掛けもあったのであるな! うーむ、我もこういう絵解きを作ってみたいであるなー』

 ……シルヴァがまたおそらく自分のダンジョン経営の改良について考えているが……その内、ダンジョンというより脱出ゲームもあるテーマパークのようになってしまうのではないだろうか? ……まぁ、いいか。


 そうして、パズル全体が180度回転したところで────。


 ゴゴンッ


「『!』」

 パズルの盤面が壁の奥に引っ込んでいってしまったかと思うと、壁全体が地面へと下がる。

 そして、無くなった壁の先には、感じていた通りさらに下へと続く階段があった。

『おおっ! 道が開けたであるな!』
「ああ」

 イベントエクストラクエストの説明文を確認すると「不思議な図柄の謎を解こう」の文章が消えて「先へ進もう」となっているので、この階段を降ればいいようだ。

『我の分体から先へ進むことも伝えたである』
「助かる」

 相変わらずウィスパーは不通気味なので、こちらの状況をシルヴァの分体経由で伝えてくれたようだ。

『それでは、進むであるか』
「ああ」

 ということで、再びシルヴァの背に乗り、階段を降っていく。


 ────妙に生温く甘ったるいような、生臭いような空気を感じながら。
感想 295

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? 表紙は自作です(笑) もっちもっちとセゥスです!(笑)

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)