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本編
164:必ずしも必要なわけではなかった
『……ア……』
声が、聞こえる。
『ヨアル……』
何となく、前も聞いた気がする。
『ヨアル……シ……ラル…………』
「ん……ヨアル?」
聞こえた単語を復唱してみる。……何だか頭がぼんやりしている気がする。
『起きたであるか、主殿』
「……もしかして寝ていたか?」
『ほんの少しであるが』
「そうか……」
どうやら、外套に包まっている間に少しの間眠ってしまったというか……意識を飛ばしてしまったらしい。
うぅん、イベント空間に来てからこんなことばかりだな。
しかし、今度は今までで一番記憶がハッキリしている。
「ヨアル……」
『うむ?』
「いや、先ほど見た夢で唯一ハッキリ聞き取れた単語のようなものだ」
『おおっ! ならば何かのヒントになるのではないか?』
「うん? ……ヒント……そうか、ヒントか……」
僕は解読に使っていた手帳に書き写した文字に目を向ける。
────すると、足りなかったピースがハマったかのように、ぼんやりとしていた文字の意味が徐々に形を成して……。
「この文字は『夜』という意味なのか」
『む! 解読出来たであるか!』
「ああ。と言ってもまだ一文字だけで言語習得にも至っていないんだが」
『一文字でも解することが出来たのなら、主殿ならこの先は容易いのではないか?』
「どうだろうな……善処はするが」
解読出来たといってもまだたくさんある内の一文字だ。ここから難なく解読出来るまでにはまだ何文字も地道に解読するしかないだろう。
ただまぁ、分かりやすく前進はしたので、先程より気分は軽い。元々の目的である休憩も十分とれたので、解読作業を再開しよう。
そして、解読しやすそうな感触のある文字をまた書き写しながら《解析》にかけることしばし。
〈これまでの行動から技能《ウロタワン語》を獲得しました〉
「ふぅ。何とか2日目の内に言語を習得出来たな」
『うむ! 流石主殿であるな! して……そもそも我らは何をすれば良かったであるか?』
「えぇと……謎を、解く……んだったか?」
『そうだったであるな! ……で、謎とは……?』
「……『図柄の謎を解こう』とあるが……確かに具体的にどうすればいいのかまだ確認出来てなかったな……」
『まぁ、もうこの文字は読むことが出来るのであるから、簡単なのではないか?』
「それは分からないが……」
と、僕は周辺の《ウロタワン語》と思われる象形文字を眺めて“意味”の方に目を向けてみる。
「うぅん……夜……の主、にして全ての母の座すところ……」
『ふむふむ。印象としてはこの領域を統べるような存在でありそうであるな』
「そうだな。このイベントの内容から推測すると『黒曜天母』のことかもしれない」
『うむ、その存在がこの先にいる、というところであるかのぅ』
「ああ」
ただ、これだけだと“謎”の部分が何も分からないので、他の図柄にも目を向ける。
「星……を夜の主に戻せ……?」
『む、何かそれっぽい言葉が出てきたであるな』
「ふぅむ……?」
改めて正面の壁の方を見ると《ウロタワン語》が記されつつも、かつての遺跡のレリーフのように絵的に表現されているようにも見えた。
ここの中に“夜の主”を示すものがあり、どうにか“星”を戻せばいいのだろうか……? と、正面の壁に触れると────。
ズズッ……
「っ! これ動くのか……」
正面の壁の《ウロタワン語》はマス目状に区切られていると思ったら、その区切りに合わせて移動出来るようだった。
なるほど。これはスライドパズルのようになっていて、このパズルを解け、ということなのかもしれない。
………………あれ。
「もしかして《ウロタワン語》を習得しなくても何となく動かしていれば解けた……?」
『………………まぁ、主殿に新たな知が増えたと思えば、良きことである!』
そこそこの沈黙の後、シルヴァは良いように言ってくれているが、これは完全に僕の確認不足というか、視野が狭くなっていたというか……。
《古ルートムンド語》と同じようにすれば良いと勝手に思ってしまっていた。
「うぅん……パズルの難易度がいくらか下がったと思えば、良いか……」
『うむ! その意気であるぞ!』
ということで、早速パズルに手をつけよう。
文字の意味を理解出来ている分、あるべき形を目指してスライドさせていけばいいだけだ。
……やればやるほど、図柄の意味を分かってなくても解くことが可能そうだというのが分かり、少し切ない。
そんなこんなで“星”を表す文字を一番上に配置出来たところで、スライドパズルをあるべき場所に大体配置出来たんじゃないかと思う。
……のだが。
『とくに何も起こらないであるな』
「ふぅむ? まだ何か足りないのかもしれないな……ん?」
星を夜の主に戻せば良いんだから……と考えていたところで、その“夜の主”は実のところ、この正面の壁の何処にいるのだろうと思う。
改めてスライドパズルの周囲や、側面の壁を見てもあまりヒントになりそうなものは無かった。
……が《ウロタワン語》を習得してから《勘破》で気になる……というか、この先の空間を若干感じることが出来ている。
空間は“下”に続いている。
ということは。
「星を戻すべき夜の主は地下にいる……」
しかし、スライドパズル自体はこれでぴったり配置出来ているはずだ。なので……。
「全体をひっくり返すとか…………お」
壁に両手をついて、全体を動かせないかと力を加えてみると、マス目の盤面全体が僅かに動く感触があった。
動く方向に合わせていけば、星の位置をひっくり返すことが出来そうだ。
ズズズズ……
『このような仕掛けもあったのであるな! うーむ、我もこういう絵解きを作ってみたいであるなー』
……シルヴァがまたおそらく自分のダンジョン経営の改良について考えているが……その内、ダンジョンというより脱出ゲームもあるテーマパークのようになってしまうのではないだろうか? ……まぁ、いいか。
そうして、パズル全体が180度回転したところで────。
ゴゴンッ
「『!』」
パズルの盤面が壁の奥に引っ込んでいってしまったかと思うと、壁全体が地面へと下がる。
そして、無くなった壁の先には、感じていた通りさらに下へと続く階段があった。
『おおっ! 道が開けたであるな!』
「ああ」
イベントエクストラクエストの説明文を確認すると「不思議な図柄の謎を解こう」の文章が消えて「先へ進もう」となっているので、この階段を降ればいいようだ。
『我の分体から先へ進むことも伝えたである』
「助かる」
相変わらずウィスパーは不通気味なので、こちらの状況をシルヴァの分体経由で伝えてくれたようだ。
『それでは、進むであるか』
「ああ」
ということで、再びシルヴァの背に乗り、階段を降っていく。
────妙に生温く甘ったるいような、生臭いような空気を感じながら。
声が、聞こえる。
『ヨアル……』
何となく、前も聞いた気がする。
『ヨアル……シ……ラル…………』
「ん……ヨアル?」
聞こえた単語を復唱してみる。……何だか頭がぼんやりしている気がする。
『起きたであるか、主殿』
「……もしかして寝ていたか?」
『ほんの少しであるが』
「そうか……」
どうやら、外套に包まっている間に少しの間眠ってしまったというか……意識を飛ばしてしまったらしい。
うぅん、イベント空間に来てからこんなことばかりだな。
しかし、今度は今までで一番記憶がハッキリしている。
「ヨアル……」
『うむ?』
「いや、先ほど見た夢で唯一ハッキリ聞き取れた単語のようなものだ」
『おおっ! ならば何かのヒントになるのではないか?』
「うん? ……ヒント……そうか、ヒントか……」
僕は解読に使っていた手帳に書き写した文字に目を向ける。
────すると、足りなかったピースがハマったかのように、ぼんやりとしていた文字の意味が徐々に形を成して……。
「この文字は『夜』という意味なのか」
『む! 解読出来たであるか!』
「ああ。と言ってもまだ一文字だけで言語習得にも至っていないんだが」
『一文字でも解することが出来たのなら、主殿ならこの先は容易いのではないか?』
「どうだろうな……善処はするが」
解読出来たといってもまだたくさんある内の一文字だ。ここから難なく解読出来るまでにはまだ何文字も地道に解読するしかないだろう。
ただまぁ、分かりやすく前進はしたので、先程より気分は軽い。元々の目的である休憩も十分とれたので、解読作業を再開しよう。
そして、解読しやすそうな感触のある文字をまた書き写しながら《解析》にかけることしばし。
〈これまでの行動から技能《ウロタワン語》を獲得しました〉
「ふぅ。何とか2日目の内に言語を習得出来たな」
『うむ! 流石主殿であるな! して……そもそも我らは何をすれば良かったであるか?』
「えぇと……謎を、解く……んだったか?」
『そうだったであるな! ……で、謎とは……?』
「……『図柄の謎を解こう』とあるが……確かに具体的にどうすればいいのかまだ確認出来てなかったな……」
『まぁ、もうこの文字は読むことが出来るのであるから、簡単なのではないか?』
「それは分からないが……」
と、僕は周辺の《ウロタワン語》と思われる象形文字を眺めて“意味”の方に目を向けてみる。
「うぅん……夜……の主、にして全ての母の座すところ……」
『ふむふむ。印象としてはこの領域を統べるような存在でありそうであるな』
「そうだな。このイベントの内容から推測すると『黒曜天母』のことかもしれない」
『うむ、その存在がこの先にいる、というところであるかのぅ』
「ああ」
ただ、これだけだと“謎”の部分が何も分からないので、他の図柄にも目を向ける。
「星……を夜の主に戻せ……?」
『む、何かそれっぽい言葉が出てきたであるな』
「ふぅむ……?」
改めて正面の壁の方を見ると《ウロタワン語》が記されつつも、かつての遺跡のレリーフのように絵的に表現されているようにも見えた。
ここの中に“夜の主”を示すものがあり、どうにか“星”を戻せばいいのだろうか……? と、正面の壁に触れると────。
ズズッ……
「っ! これ動くのか……」
正面の壁の《ウロタワン語》はマス目状に区切られていると思ったら、その区切りに合わせて移動出来るようだった。
なるほど。これはスライドパズルのようになっていて、このパズルを解け、ということなのかもしれない。
………………あれ。
「もしかして《ウロタワン語》を習得しなくても何となく動かしていれば解けた……?」
『………………まぁ、主殿に新たな知が増えたと思えば、良きことである!』
そこそこの沈黙の後、シルヴァは良いように言ってくれているが、これは完全に僕の確認不足というか、視野が狭くなっていたというか……。
《古ルートムンド語》と同じようにすれば良いと勝手に思ってしまっていた。
「うぅん……パズルの難易度がいくらか下がったと思えば、良いか……」
『うむ! その意気であるぞ!』
ということで、早速パズルに手をつけよう。
文字の意味を理解出来ている分、あるべき形を目指してスライドさせていけばいいだけだ。
……やればやるほど、図柄の意味を分かってなくても解くことが可能そうだというのが分かり、少し切ない。
そんなこんなで“星”を表す文字を一番上に配置出来たところで、スライドパズルをあるべき場所に大体配置出来たんじゃないかと思う。
……のだが。
『とくに何も起こらないであるな』
「ふぅむ? まだ何か足りないのかもしれないな……ん?」
星を夜の主に戻せば良いんだから……と考えていたところで、その“夜の主”は実のところ、この正面の壁の何処にいるのだろうと思う。
改めてスライドパズルの周囲や、側面の壁を見てもあまりヒントになりそうなものは無かった。
……が《ウロタワン語》を習得してから《勘破》で気になる……というか、この先の空間を若干感じることが出来ている。
空間は“下”に続いている。
ということは。
「星を戻すべき夜の主は地下にいる……」
しかし、スライドパズル自体はこれでぴったり配置出来ているはずだ。なので……。
「全体をひっくり返すとか…………お」
壁に両手をついて、全体を動かせないかと力を加えてみると、マス目の盤面全体が僅かに動く感触があった。
動く方向に合わせていけば、星の位置をひっくり返すことが出来そうだ。
ズズズズ……
『このような仕掛けもあったのであるな! うーむ、我もこういう絵解きを作ってみたいであるなー』
……シルヴァがまたおそらく自分のダンジョン経営の改良について考えているが……その内、ダンジョンというより脱出ゲームもあるテーマパークのようになってしまうのではないだろうか? ……まぁ、いいか。
そうして、パズル全体が180度回転したところで────。
ゴゴンッ
「『!』」
パズルの盤面が壁の奥に引っ込んでいってしまったかと思うと、壁全体が地面へと下がる。
そして、無くなった壁の先には、感じていた通りさらに下へと続く階段があった。
『おおっ! 道が開けたであるな!』
「ああ」
イベントエクストラクエストの説明文を確認すると「不思議な図柄の謎を解こう」の文章が消えて「先へ進もう」となっているので、この階段を降ればいいようだ。
『我の分体から先へ進むことも伝えたである』
「助かる」
相変わらずウィスパーは不通気味なので、こちらの状況をシルヴァの分体経由で伝えてくれたようだ。
『それでは、進むであるか』
「ああ」
ということで、再びシルヴァの背に乗り、階段を降っていく。
────妙に生温く甘ったるいような、生臭いような空気を感じながら。
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(ムーンライトノベルにも掲載しています)