おそらく、僕だけ違うゲームをしている。

鵩 ジェフロイ

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本編

167:仁義なき……

 何処からか生えてきた根が果敢にも《腐れの呪い》そのものだろう、グジュグジュとした部分に群がっている。

「……あれに触れて問題ないのだろうか?」
『問題は……普通にありそうであるな』
「うぅん……」

 そう、果敢にグジュグジュに群がってはいるが、触れたところから急速に朽ちているのが見える。しかし、僕が演奏を続けているので、朽ちたそばから新しい根が次々に向かっていっている、という状況だ。

『あれは、直接主殿から生えた根では無いであるが、問題は無いのであるか?』

 シルヴァが少し心配そうに僕の様子を窺ってくる。確かに、シルヴァのダンジョンの根は遠隔でも僕と繋がりがあって、経験値をやり取りしていたりするので、この根を伝って《腐れの呪い》の影響が僕にも伝染する可能性は十分に考えられる。

 演奏は続けながらしばし、自分に厭な変化は無いか注意深く探る。

「そうだな……今のところは大丈夫そうだ。シルヴァのように盟友契約の絆が無いからだろうか?」
『であるか。問題無いならばいいである。絆の有無はありそうであるな』

 とはいえ、今のところ問題無いだけで、これ以上はどうなるか分からない。《底根の根》で直接触れるのは……やめておいた方が良いだろう。

「しかし、この根達は何故こんな果敢にグジュグジュに挑んでいるのだろうか……」

 妙にアグレッシブで戸惑ってしまう。

『主殿がこの依代を浄化しようと意識しているからではないであるか?』
「なるほど?」

 ということは、意識を他に逸らさればこの無謀な特攻をやめさせることが出来るのか?と試してみる。

「……全然止まらないな」

 広間の別の場所やシルヴァなどに意識を向けてみるが、根がグジュグジュに挑むスピードは少しも変わらなかった。
 仕方がないので、秘技つきの演奏を続けて根の発育の維持をする他ない。

『何かこう……あの根達に使命感のようなものを感じるである』
「どうしてそこまで……」

 というか僕の根って僕の意志に関係なく動きすぎではないだろうか? ……まぁ、今のところ致命的に困ったことになったことはないので、かまわないと言えばかまわないのだが。


 そうして、全自動特攻で突っ込んでは朽ちていく根達を見守ることしばし。

 ある変化が訪れる。

「……なんか、グジュグジュが心なしか減ってきた……?」
『うーむ? 確かに、腐肉のようになっている部分が薄くなったような気はするであるな』

 根が群がる前の状態と比べると、グジュグジュとした部分が減ってきているように思える。シルヴァも同意見のようだ。

 それに朽ちていく根もだんだん少なくなってきて、新しく生えてくる根のスピードの方が上回って依代に群がる根が増えてきている。
 ……ウゾウゾとしていて、根の方も中々……生理的に苦手な人もいるかもしれない光景になっている。

『クハハッ! 主殿の根が禁呪をも呑み込もうとしておるわ! これだから主殿といるのは面白いのである!』

 シルヴァが鼻をボフンボフン鳴らして楽しそうにしている。

「呑み込む……このままいけばこの根が依代をなんとかしてくれるかもしれないのか?」
『我も主殿の根のことはあまり分からぬであるが、禁呪が押されているのも事実。クククッ、このまま押し通る他あるまい?』

 そう言うとシルヴァがニヤリと笑う。

「まぁ、そうだな。他にやれることも無いし、このままいってみよう」
『その意気である!』

 ということで、ハイパワー浄化セットの出力をさらに上げていく。ここまでくると流石にAPの消耗が激しいが、APが尽きたらしばらく休めばいいので、今はどんどん根という手数を増やしていこう。

 出力を上げたことで、さらにこの広間に出現する根は増え、もうここからではグジュグジュが見えなくなるほどに根で覆い尽くされてしまった。


 そうして演奏し続け、天井や側面の壁からも石を砕いて根が生えて四方八方から根が伸び、元々のガランとした広間が見る影も無くなってきた頃、僕のAPが尽きる。


「ふぅ」

 これ以上の演奏は《源を技に、技を源に》によってLPやMPをAPに変換して使用してしまう為、一旦演奏を止める。

『お疲れ様である、主殿。いやぁ、壮観であるな』

 変わり果てた広間を見て、シルヴァは何故か満足気だ。

 僕は広間の隅に移動し、中央の根が集中している部分を観察する。ハイパワー浄化セットの演奏による《編纂》が止まったことで、禁呪の力でこれらの根が朽ちてしまうかもしれないからだ。

『……ふむ。今のところは禁呪の力の影響は見られないであるな』
「そうだな」

 しばらく観察していたが、目に見える形での変化は見受けられなかったので少しだけ肩の力を抜く。
 周囲の確認と一緒にUIを確認すると、また満腹度と連続起床時間がレッドゾーンにギリギリなっていないかくらいになっていた。危ない。

「ここにいると時間感覚が狂ってくるな……。今は2日目のいつぐらいなんだろうか」
『もう日が暮れて大分経つであるな』
「……そんなに経っていたのか。外はどうなっているんだろう?」

 探索や人の姿になったとかいう巨大ジャガーの方は進展があったのだろうか。

『夜狗の小僧達は我らが漂着した地点とは反対側に何やら怪しき船団を見つけたようであるな』
「怪しき船団?」
『うむ。船上や付近の岸には武装した人系種族がそれなりにいるようである』
「……海賊か何かだろうか?」

 『船団と武装した人』ということで、思いついたものを口にしてみる。

『検証好きの異人が言うには“征服者”がどうのとかジャングルとジャガーがどうのとか言っていたであるが、我や夜狗の小僧にはよく分からなかったである』
「征服者? ふぅむ……」

 携帯食料をイベント用インベントリから取り出して齧りながら、多分検証野郎Zが言っていたのだろう言葉を頭の中で反芻してみる。

 征服者……ジャングル……ジャガー…………。

「ああ、なるほど」

 なんとなくだが、この島……というかこのイベントの舞台の元ネタに思い至った。
 このくらいであれば、世界史をちゃんと覚えていたり、色んな神話を嗜んでいたらすぐに気づく人も多いだろうか?

『む? 主殿は意味が分かったであるか?』
「まぁ、検証野郎Zが言いたいことは大体は。僕達の元の世界の過去との類似点が少しある、くらいのものだ」
『そうなのであるか。いずれは異人達の世界にも行ってみたいであるな!』
「……どう、だろうな」

 もしもシルヴァが僕達の世界に来たら……何だかんだ適応して楽しそうにやっていそうな姿が思い浮かぶ。……というところまで考えて、もう一人、意外と適応力が高い人物の顔が浮かぶ。


 …………僕を多分……とても大事にしてくれているその人物は、現実の僕の状態を知ったら、どう思うのだろうか?


『さぁ、ここは我が見張る故、主殿はそろそろ休むといいである』
「…………ああ、ありがとう。そうさせてもらおう」

 少し、気持ちの沈んだ僕を知ってか知らずか、シルヴァが珍しく僕の頬に鼻先をこすりつけてくる。湿った感触と熱い鼻息がくすぐったくて、頬が緩む。


 この感触が消えない内にさっさと休んでしまおうと、広間の隅に身を預けて目を閉じた。
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