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本編
188:確かに蒔いた種
「まぁ、以前からトウノさんの影響は少なくなく降り積もってはいたのですがねぇ、大きく動いたのはこの間の新商品でした」
そう言われてみると、深く考えることもなく思い当たるものがあった。
「……もしかして、この前大量に納品依頼があった気つけのハリセンか……?」
「ええ、そうです。きっかけはとある異人がとある人物に冗談半分でこのアイテムを使ったことから始まりました」
「ふぅん? …………まさか」
最初はとくに何も思わなかったが、気つけのハリセンはふざけたパーティーグッズのようでいてその効果は『精神系状態異常を解除する』これだけで、書かれている以上の制約は無い、実はかなり優秀な性能のアイテムだ。
このアイテムが、効果を発揮したとなると……。
「そう、その人物の“状態異常が解けました”」
「……それが教会関係者だった?」
「ご明察です! そして、その関係者がそこそこ立場も求心力もある親民派だったようでしてねぇ」
「な、るほど……」
何だかもう先が読めるというか……嫌な予感しかしない。
「自派閥の者の状態異常を解く為にそのたまたま気つけのハリセンを使った異人に詰め寄り、困り果てた異人から商業ギルドに相談してきましてねぇ。これは大変だとそこから私が入り、商業ギルドが代金を持つ形で気つけのハリセンを大量寄付したわけです」
「結果は、その派閥の人達も状態異常にかかっていたと?」
「ええ、残念ながら」
うぅん、なんてきな臭いんだ。
サラッとジェフが“寄付”として気つけのハリセンを流しているのは完全に親民派というのを支援しようとしているし……。
彼は生粋の商売人なので慈善事業で何の算段も無しに寄付をしたとはとても思えない。
……今は『親民派』という派閥名だけ出てきているが、他にも派閥があるのかもしれない。
「……その、状態異常を仕掛けた者は分かっているのか?」
「疑わしい候補はそれなりにいますが、まだ確証はありませんねぇ」
「そうか……」
……なんとなくだが、限りなくクロに近い者は既に目星はついていて、ジェフの言う通り証拠が足りないか、敢えて泳がせているか、どちらかな気がした。
「そして親民派が急速に力を取り戻し、その勢いに乗って我々西側の民衆や一部の異人の支持が盛り上がりましてねぇ。それまで主流だった王権派と主義主張の面でぶつかってしまったことで内部分裂してしまったのです」
「…………ちなみに親民派と王権派とは?」
まぁ、派閥名からなんとなく分かる気はするが、一応確認しておこう。
「王権派は、王族や高位貴族が参加する様々な祭祀を一手に担っている派閥でして、王族や高位貴族も教会から、主神アークトゥリアより統治する権利を授かっているという保証を得る為に王権派とは色々と“交流”があるようですねぇ」
ジェフは“交流”にたっぷり含みを持たせて言う。
「聞こえるところによると、王権派の司教以上にもなると中位貴族並みの資産を有しているとか」
「はぁ……」
王権派の内容を聞いただけで、色々と察するものがあり、頭を抱えたくなってくる。
「一方で王権派は貴族社会での活動に夢中になりすぎるあまり、民への奉仕が疎かになっているのでは? と異を唱える一派が現れましてねぇ」
「それが親民派だと」
「ええ、ただまぁ派閥名に関しては『我らは王権派である』などと言っているわけではなく、外野が勝手にそう呼称しているだけですがねぇ」
「なるほど」
まぁ、大体予想通りだった。
確かに、実際に神が存在することが確定しているこの世界で『王権神授』の証を立てられるのであれば、それは絶大な権威を持つだろう。
その証を立ててやる代わりに、自分たちもうまみを吸う、まぁ、現実の世界でもまま起きていることだ。
……しかし。
「そこからどうして異人を王都に入れるかどうかの話になるんだ?」
「ふむ……そこもかなり込み入った話になってしまうのですが、平たく言えば教会の王権派の景気がここのところ悪くなっていましてねぇ。そのせいで元々教会関係でうまみの少なかった貴族派の貴族や下位貴族の反発を押さえ込めなくなってきた……というところでしょうか」
「ふぅむ?」
何だか急にたくさん政治絡みの派閥情報が増えたが『貴族派』があるということは、おそらく反対派閥に『王族派』かそれに準じた名前の派閥があるはずだ。
王族派と王権派がズブズブな気配がするので、そりゃ反対派閥のうまみは確かに多くは無さそうだ。
「貴族派は異人達が現れた直後から、異人達の齎らす富や恩恵に注目していたんですが、王族派並びに王権派は異人の登用に消極的でしてねぇ。知っての通り都にそもそも入らせないほどの徹底ぶりだったんですよ」
「つまり……王権派の金銭的な力が衰えたところで親民派が力をつけ、その勢いに乗る形で貴族派が異人と交流を持とうとする動きが押さえきれなくなったのが今だと……」
「そういうことですねぇ」
それなりに長い説明だったが、変わらず涼しげな表情のジェフが一息つき、ティーカップに口をつける。
ふぅむ……ジェフは僕が要因などと言っていたが、元々こうなるような下地があり、時流の中でパワーバランスに変化が起きた瞬間、起動する時限爆弾のようなものだったのではないだろうか。
ただ、このようなシミュレーション的な世界の進行で起きた騒動をワールドクエストとするのがとても面白いと思った。やはり、変態的なゲームだ。もちろん、褒めている。
……しかし、異人が生み出す富は今のところ、貴族レベルの影響力を持つ教会を脅かすほどとはとても思えないし、イメージ的には教会も異人が利用することで金銭を得られるような気がするのだが……と、首を捻っていると、僕が考えていることを読んだかのようにジェフが言う。
「ふふふ……最初に『以前からトウノさんの影響は少なくない』と言ったでしょう?」
「まぁ……」
なんだろう、不穏な気配がする。
「あまり教会の既存事業を侵さないようには努めてきたのですが、やはり最初にトウノさんが作り上げた『鎮め札』は革新的でしたねぇ……」
「…………なる、ほど……」
僕は片手で顔を覆って天を仰いだ。
最初に鎮め札を作ろうとなった時にギル達が言っていたはずだ。
狂った魔物の弱体化や対処をするには、教会が囲っている聖属性の使い手に来てもらうしかないと。
そして、これまでの教会の主流である王権派の性格を考えるとまず間違いなく、聖属性の使い手を派遣するのに多額の報酬という名のお布施を要求していたのだろうと思う。
そこに鎮め札が登場するとどうだろう。
何なら防衛戦の時にはほぼ無償でばら撒いていた。まぁ、それはそもそも教会関係者がユヌまで中々来てくれないという非常事態だったのでまだ良いが、今も普通に安価に販売している。
……これは、確かに教会の資金源の一つをバッチリ奪っている、な。
「さらに言えば、今も時々現れる狂った魔物も力をつけた異人達がどんどん倒してくれていますねぇ。トウノさんのアイテムを使って」
「うっ」
ということは、その過程で異人から教会に流れるはずだった金すら僕が根こそぎ奪ってしまったということか。
「そこで今回の親民派の盛り上がりのキッカケですからねぇ……」
「……」
これは完全にやってしまっている。
確かに、これは僕が今回のワールドクエストを起こした要因と言われても仕方がない気がしてきた。
……というか、これって。
「……もしかして、教会の王権派から敵視されていたりするだろうか?」
僕、というよりハスペが、だが。
まぁ、どちらでも同じことだが。
「おや、流石のご明察ですねぇ! ちなみに言えば親民派からも感謝半分、抱き込み半分で繋ぎを取って欲しいと熱烈な依頼を受けていますよ!」
「…………ぐっ」
トドメを刺され、僕はガックリと項垂れた。
────────────
次話更新は1月4日(土)予定です。
そう言われてみると、深く考えることもなく思い当たるものがあった。
「……もしかして、この前大量に納品依頼があった気つけのハリセンか……?」
「ええ、そうです。きっかけはとある異人がとある人物に冗談半分でこのアイテムを使ったことから始まりました」
「ふぅん? …………まさか」
最初はとくに何も思わなかったが、気つけのハリセンはふざけたパーティーグッズのようでいてその効果は『精神系状態異常を解除する』これだけで、書かれている以上の制約は無い、実はかなり優秀な性能のアイテムだ。
このアイテムが、効果を発揮したとなると……。
「そう、その人物の“状態異常が解けました”」
「……それが教会関係者だった?」
「ご明察です! そして、その関係者がそこそこ立場も求心力もある親民派だったようでしてねぇ」
「な、るほど……」
何だかもう先が読めるというか……嫌な予感しかしない。
「自派閥の者の状態異常を解く為にそのたまたま気つけのハリセンを使った異人に詰め寄り、困り果てた異人から商業ギルドに相談してきましてねぇ。これは大変だとそこから私が入り、商業ギルドが代金を持つ形で気つけのハリセンを大量寄付したわけです」
「結果は、その派閥の人達も状態異常にかかっていたと?」
「ええ、残念ながら」
うぅん、なんてきな臭いんだ。
サラッとジェフが“寄付”として気つけのハリセンを流しているのは完全に親民派というのを支援しようとしているし……。
彼は生粋の商売人なので慈善事業で何の算段も無しに寄付をしたとはとても思えない。
……今は『親民派』という派閥名だけ出てきているが、他にも派閥があるのかもしれない。
「……その、状態異常を仕掛けた者は分かっているのか?」
「疑わしい候補はそれなりにいますが、まだ確証はありませんねぇ」
「そうか……」
……なんとなくだが、限りなくクロに近い者は既に目星はついていて、ジェフの言う通り証拠が足りないか、敢えて泳がせているか、どちらかな気がした。
「そして親民派が急速に力を取り戻し、その勢いに乗って我々西側の民衆や一部の異人の支持が盛り上がりましてねぇ。それまで主流だった王権派と主義主張の面でぶつかってしまったことで内部分裂してしまったのです」
「…………ちなみに親民派と王権派とは?」
まぁ、派閥名からなんとなく分かる気はするが、一応確認しておこう。
「王権派は、王族や高位貴族が参加する様々な祭祀を一手に担っている派閥でして、王族や高位貴族も教会から、主神アークトゥリアより統治する権利を授かっているという保証を得る為に王権派とは色々と“交流”があるようですねぇ」
ジェフは“交流”にたっぷり含みを持たせて言う。
「聞こえるところによると、王権派の司教以上にもなると中位貴族並みの資産を有しているとか」
「はぁ……」
王権派の内容を聞いただけで、色々と察するものがあり、頭を抱えたくなってくる。
「一方で王権派は貴族社会での活動に夢中になりすぎるあまり、民への奉仕が疎かになっているのでは? と異を唱える一派が現れましてねぇ」
「それが親民派だと」
「ええ、ただまぁ派閥名に関しては『我らは王権派である』などと言っているわけではなく、外野が勝手にそう呼称しているだけですがねぇ」
「なるほど」
まぁ、大体予想通りだった。
確かに、実際に神が存在することが確定しているこの世界で『王権神授』の証を立てられるのであれば、それは絶大な権威を持つだろう。
その証を立ててやる代わりに、自分たちもうまみを吸う、まぁ、現実の世界でもまま起きていることだ。
……しかし。
「そこからどうして異人を王都に入れるかどうかの話になるんだ?」
「ふむ……そこもかなり込み入った話になってしまうのですが、平たく言えば教会の王権派の景気がここのところ悪くなっていましてねぇ。そのせいで元々教会関係でうまみの少なかった貴族派の貴族や下位貴族の反発を押さえ込めなくなってきた……というところでしょうか」
「ふぅむ?」
何だか急にたくさん政治絡みの派閥情報が増えたが『貴族派』があるということは、おそらく反対派閥に『王族派』かそれに準じた名前の派閥があるはずだ。
王族派と王権派がズブズブな気配がするので、そりゃ反対派閥のうまみは確かに多くは無さそうだ。
「貴族派は異人達が現れた直後から、異人達の齎らす富や恩恵に注目していたんですが、王族派並びに王権派は異人の登用に消極的でしてねぇ。知っての通り都にそもそも入らせないほどの徹底ぶりだったんですよ」
「つまり……王権派の金銭的な力が衰えたところで親民派が力をつけ、その勢いに乗る形で貴族派が異人と交流を持とうとする動きが押さえきれなくなったのが今だと……」
「そういうことですねぇ」
それなりに長い説明だったが、変わらず涼しげな表情のジェフが一息つき、ティーカップに口をつける。
ふぅむ……ジェフは僕が要因などと言っていたが、元々こうなるような下地があり、時流の中でパワーバランスに変化が起きた瞬間、起動する時限爆弾のようなものだったのではないだろうか。
ただ、このようなシミュレーション的な世界の進行で起きた騒動をワールドクエストとするのがとても面白いと思った。やはり、変態的なゲームだ。もちろん、褒めている。
……しかし、異人が生み出す富は今のところ、貴族レベルの影響力を持つ教会を脅かすほどとはとても思えないし、イメージ的には教会も異人が利用することで金銭を得られるような気がするのだが……と、首を捻っていると、僕が考えていることを読んだかのようにジェフが言う。
「ふふふ……最初に『以前からトウノさんの影響は少なくない』と言ったでしょう?」
「まぁ……」
なんだろう、不穏な気配がする。
「あまり教会の既存事業を侵さないようには努めてきたのですが、やはり最初にトウノさんが作り上げた『鎮め札』は革新的でしたねぇ……」
「…………なる、ほど……」
僕は片手で顔を覆って天を仰いだ。
最初に鎮め札を作ろうとなった時にギル達が言っていたはずだ。
狂った魔物の弱体化や対処をするには、教会が囲っている聖属性の使い手に来てもらうしかないと。
そして、これまでの教会の主流である王権派の性格を考えるとまず間違いなく、聖属性の使い手を派遣するのに多額の報酬という名のお布施を要求していたのだろうと思う。
そこに鎮め札が登場するとどうだろう。
何なら防衛戦の時にはほぼ無償でばら撒いていた。まぁ、それはそもそも教会関係者がユヌまで中々来てくれないという非常事態だったのでまだ良いが、今も普通に安価に販売している。
……これは、確かに教会の資金源の一つをバッチリ奪っている、な。
「さらに言えば、今も時々現れる狂った魔物も力をつけた異人達がどんどん倒してくれていますねぇ。トウノさんのアイテムを使って」
「うっ」
ということは、その過程で異人から教会に流れるはずだった金すら僕が根こそぎ奪ってしまったということか。
「そこで今回の親民派の盛り上がりのキッカケですからねぇ……」
「……」
これは完全にやってしまっている。
確かに、これは僕が今回のワールドクエストを起こした要因と言われても仕方がない気がしてきた。
……というか、これって。
「……もしかして、教会の王権派から敵視されていたりするだろうか?」
僕、というよりハスペが、だが。
まぁ、どちらでも同じことだが。
「おや、流石のご明察ですねぇ! ちなみに言えば親民派からも感謝半分、抱き込み半分で繋ぎを取って欲しいと熱烈な依頼を受けていますよ!」
「…………ぐっ」
トドメを刺され、僕はガックリと項垂れた。
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次話更新は1月4日(土)予定です。
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(ムーンライトノベルにも掲載しています)