おそらく、僕だけ違うゲームをしている。

鵩 ジェフロイ

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本編

197:馬力アップの成果

 バラムにじっくり身体をほぐされ、モヤっとした心もどこかへ溶けだしていってしまった。
 次の日、火属性の魔物素材を手に入れるために、バラムは黒馬になったシルヴァに乗って出立する。

 飛竜の集団営巣地は馬を使って最短でも片道二日はかかるそうなので、帰りは最寄りの欠け月の写しによる転移でいいとしても、討伐も含めると三日から四日はかかりそうだが……まぁ、僕の方もちょうどログアウト時間なので、ちょうどよく時間を潰せるだろう。


 ということで現実時間での翌日。
 流石にまだ帰って来ないだろうからと、起きてすぐにはログインせずに、久しぶりにニュース配信を見てみたりしながらしばらくぼうっと過ごした。


 *


 前回のログインからゲーム内時間で二日と少し経っただろうかという頃にログイン。

「……」

 ……《慧眼》の感知範囲によると借家の敷地内にふたつのマーカーがある。……バラムとシルヴァだ。
 どうしてこの時間にここにいるのか色々と考えが巡るが……まぁ、本人たちに聞くのが一番かと、ふたりがいる一階のリビングへと向かう。

 降りてきた僕にそれぞれ思い思いに寛いでいる風のふたりが声をかけてくる。

『いつもより遅い目覚めであるな、主殿』
「……何も問題はないのか?」
「……いや、それはこちらのセリフなんだが。南東への素材確保になにか問題でもあったのか?」

 忘れ物でもしたのか、南東行きを中断する問題でも起きたのかと問う。

「そんなもん、とっくに終えて帰ってきたところだ」
「えっ。いや……結構遠かったんじゃないのか?」

 バラムとシルヴァの実力ならば、飛竜の群れが相手でも戦闘自体は問題ないとは思うが、それでもどうしようもない距離と移動時間というものがあると思うのだが……。
 
『主殿の力でパワーアップした我ならあの程度の道のりなど半日程度でたどり着くである!』

 シルヴァが鼻息をボフーッといきおい良く出しながら自慢げに言う。

「よく言う。自分でも力量を把握してなかっただろうが」
『細かいことはいいではないか』
「そういうことか」

 主にシルヴァの能力アップで、片道の移動時間を大幅短縮できたようだ。……それでも若干納得出来ないところがあるが……まぁ、シルヴァが言うように『細かいことはいい』のかもしれない。

 そして、問題がなかったということは。

「火属性の素材も確保できたのか」
「ああ」
『楽勝だったであるな』

 そう言って、バラムが自分のインベントリから赤い鱗皮や飛膜、魔石など、様々な飛竜のものだったと思われる素材を取りだして見せてくれた。

 そのうちの飛膜に触れてみるとじんわりと温かい。

「ふぅん……火属性だからか温かいんだな…………って、熱っ!」
「気をつけろ」

 ずっと触れていると、一気に痛みを感じるほどの熱さになり、バラムに素早く手をとられて離される。幸い、火傷とまでにはなっていない。

『クククッ、少し違うとはいえ、主殿には植物的な側面もあるであるから、火には注意であるな』
「うぅん……」

 “植物的な側面”…………それは“根”ということだろうか。現実のイメージ的には一番水分を常に吸い上げている為、燃えづらい印象なのだが、こちらだとざっくり“植物”扱いなのだろうか。

 それはさておき。

「じゃあ、あとはベイヴィルに素材を持ちこめば良いのか」
『であるな!』

 ということで、ワールドクエストが始まってから一番引きこもりやすいドゥトワの借家から、こっそりユヌのローザの宿屋へと移る。
 まぁ、僕がフクロウになってバラムの懐で息を潜めれば、人目を避ける移動はそれほど難しくはない。

 人の姿でいる時も、フードを被ることを忘れなければ《認識阻害》と《幻梟の夢渡り》の凶悪コンボでそれなりに安全なはずだ。

 ベイヴィルの仕立て屋へはすぐに指定素材から、使えそうなら使って欲しいと毛皮以外の素材も多めに渡した。
 ベイヴィルは変わらぬ柔らかな物腰だったが、呼び寄せたという家族が若干ひっくり返りそうになっていた。……ま、まぁ、高齢のベイヴィルが動揺していなさそうで良かった。年の功、というやつだろうか。

 防寒着が出来るのを待つ間は、基本的には宿屋の僕専用の部屋で借家と変わらぬ引きこもり態勢となっている。
 ユヌにはほとんど教会関係者が来ることはないとのことだが、念の為、食事は食堂ではなく、部屋に運んでくれることになった。

 ローザと旦那さんへ、まだまだ余っている蟹を僕たち以外にも振る舞って欲しいと渡したら随分喜んでくれた。ユヌの地理上、海産物は中々入手ハードルが高いようだ。

 …………カトルで海産物を仕入れて、プレイヤーのインベントリで運んでユヌで売ればそれなりの商売になりそうだろうか?
 ……うーん、これぐらいなら既にやっている人がいそうではある。ただ単に、ローザの宿屋がそれをまだ利用していないだけなのかもしれない。
 まぁ、ある程度信用できそうならカーラが両親へ紹介するだろう。

 カーラと言えば、宿屋で会った。ギルド以外で会うのは何気にはじめてだ。
 そういえば、今まで宿屋では会ったことがなかったが、蟹料理に釣られてギルドを早引けしてきたらしい。
 ……結構グルメなのだろうか?

 そこで、グウェニスと魔楽器パーティの現在の状況も聞くことが出来た。
 カーラもとい、ギルド審査に通り、次にグウェニスとソリが合うかを確かめて、まずは一つ製作してみることになったそうだ。

 確かに、グウェニスは人と合う合わないが少し激しそうではあったので、ソリが合うかを確かめるのはいい手だと思った。
 ギルド側も、グウェニスとの付き合いが浅い、というのもあるかもしれない。これからギルド側だけでグウェニスと合う合わないも判断出来るようになれば、この確認は省いても良さそうではある。

 ともかく、順調そうで何よりだ。

 カーラにギルドに対するお礼の手紙とギル宛の飴玉、それに碧錆玉をいくつか渡した。今のところ僕しか生み出せないものだし、生み出したものはほとんどシルヴァの胃袋に収まっているので、希少な石、ということにはなるだろう。

 碧錆玉は……なんとなくあの灰色の女傑、ギルドマスターがよしなに使ってくれそうな気がする。


 そんな感じで、引きこもっている割にはドゥトワにいた時よりも賑やかな日々を送り、ゲーム内で二日後にはベイヴィルから防寒着完成の知らせが届いた。
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