おそらく、僕だけ違うゲームをしている。

鵩 ジェフロイ

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本編

199:ネタバレが過ぎる

 移動は、黒馬になったシルヴァにバラムが騎乗し、フクロウに《変化》した僕がバラムの首元に入るといういつもの移動パターンだ。

 こちら側は踏みならされた『道』と呼ばれるものがほとんどなく、ゴツゴツとした岩が目立つ丘陵地だった。意外と移動に苦戦しそうな地形だ。

 しかし、シルヴァはそんな地形をものともせず、軽快に進んでいく。……まぁ、途中でこの地形に適している山羊には変身していたが。
 バラムを乗せられるほどの山羊ということで、ダンジョンで再会したときくらい大きな山羊となっている。

 ……恐ろしげな大剣を背負った黒ずくめの剣士と、異様に大きなこれまた黒ずくめの牡山羊……。

『知らない人が目撃したら、新手の魔物か妖精の類だと思われそうだな』
『クハハッ、我は実際妖精であるがの!』

 それは確かに。ついでにこのメンバーで人系種族はいないので、割と反論出来ない。

 まぁ、感知範囲にはこの辺りに生息している動物や魔物以外の反応はないので、変に目撃されて噂されることはないだろう。

 そんなこんなで何事もなく順調に進むことしばし。

 雪山に近づいていくにつれ、気温が下がり、周囲の草木もまばらになっていき、岩場が目立つようになってくる。
 見上げれば、今にも雪が降ってきそうな鈍く重いくもり空だ。

「寒くないか?」
『大丈夫だ』

 バラムの首元にいることによるバラムの高い体温とフクロウの羽毛による保温効果は中々のものだ。まだまだ気温が下がっても余裕がありそうに思える。

「そうか……」

 表情をほんの少しやわらげた精悍な顔が近づいてきて、口でむにむにと食まれる。外気の冷えからか、バラムの吐息がことさらに熱く、くすぐったく感じて、羽毛全体を立てて膨らませてしまった。

「うぷ……は」
『んん……ちょっ』

 何故かその様にニヤリとしたあと、さらに熱い舌で舐められまくった。動物の毛繕いのようにベロンと。

『夜狗の小僧、主殿と戯れるのはその辺にするである。そろそろ“奴”の縄張りであるぞ』

 しばらくされるがままになっていると、ため息混じりにシルヴァが声をかけてくる。

「……チッ。言われなくても分かってる」

 渋々という感じで顔を上げる。

『奴とは……』
『うむ。雪山の麓にいついているというデュラハンである』
『ふぅむ。まだ雪山との距離はありそうだが、こんなところまで来るのか』
『そのようであるな。我のみで様子を窺ったときは関心が無かったのか、察知していても無視であったが』

 ここにいるデュラハンは精霊やエレメント系をやたら敵視しているとのことなので、同じ妖精であるシルヴァがスルーされるのはまぁ、納得だ。
 バラムが雪山の寒さ検証をした時は、技能なりなんなりで上手くデュラハンを避けていたので、敵視されるかどうかは分からないとのことだった。

 ただ、僕もバラムも精霊やエレメントを出来るだけ遠ざけられるような種族になっていると思うのだが、果たして。


『ん?』

 さらに進んでいくことしばし、《梟の視覚》と《慧眼》効果でさらに遠くまでよく見える視界に黒い影が過った。

 よく見ようと集中すると、その影は馬のような四足歩行の動物に乗った人、に見えるが……多分、首がない。
 となれば、あれが……。

『デュラハン、だろうか?』
「ああ。……向こうも、俺たちに気づいたな」
『であるな』

 バラムもシルヴァもそれぞれの感覚で察知出来ているようだ。

『……向こうから近づいては来ないようだな? 今のところは』
「油断するなよ」

 こちらに気づきつつも、向こうから距離を詰めてくる気配はない。まぁ、こちらは移動速度をそんなに下げていないので、どんどん距離は縮まっているのだが。

 距離が縮まるにつれて、デュラハンの姿もはっきりと分かってくる。そこだけモノクロ写真になったかのように色を失っていて、頭部の欠けた古ぼけたフルプレートアーマーが生気を感じない黒い影のような馬に騎乗している。

 ここで《慧眼》から得た情報を引きだす。


[忘我の首無し騎士デュラハン]
激しい無念と怒りを抱えて死んだものの霊魂から生まれるという妖精の一種。
自分が何者であったのか忘れてもなお、内に渦巻く無念と怒りで生ある者に死を与える。

この個体は精霊の気配を滅するように、エレメントの死を積み重ねている。

馬はいくら攻撃しても倒せず、騎士を攻撃して倒す必要がある。

生前は『忠義の騎士ダリウス』という只人族であった。

分類:妖精
生息地:北の丘陵地帯・深層
属性:闇
弱点:遠距離攻撃、光属性
素材:首無し騎士の長剣、首無し騎士の盾、首無し騎士鎧シリーズ、妖精結晶(中)、色褪せたボロきれ
状態:正常


 ……前から薄々思っていたが《慧眼》になってから、得られる情報の“ネタバレ感”がすごい。

 デュラハンの生前のくだりなどは、メタ読みをすると、周辺に残された手記やアイテム、他の関連NPCから話を引き出してはじめて得ることが出来る情報なのではないだろうか。

 当然、その過程を何もかもすっ飛ばしているので、名前だけ知らされても何がなんだか分からないのだが……いや、技能レベルが上がればそれすら注視するだけで把握出来そうな感覚がある。その感覚があること自体にめまいがする。

 ……まぁ、せっかく得た情報は一応、バラムとシルヴァにも伝えておく。

『まぁ、デュラハンは妖精の中では人から成ることが多かったであるが……その者すらも忘れている生前も見通せるとは益々面白いであるな!』
『正直もう引きっぱなしだ……』

 我が力のことながら。

『クククッ、誰よりも何よりも長じているのならいいではないか』
「……」

 シルヴァが愉快そうにしているかたわら、バラムは油断なくデュラハンを警戒している。

 どんどんとデュラハンへと近づく。デュラハンのわきを通らなければ、雪山の入り口へとたどり着けない、絶妙な位置どりだ。

 近づいていくにつれて緊張感が高まっていくが……今のところ敵意のようなものは感じない……気がする。

『……会話は可能なのだろうか?』

 会話が可能なら、より穏便に通れるかもしれない。

『大抵の妖精は可能であるが、デュラハンは言葉は解しても会話が出来るかは分からぬであるな』
『なるほど……』

 デュラハンという種の特性上、我を忘れている可能性が高いのだろう。

 そんなことを考えている間にも、少し間をあけてすれ違うところまで来た。……まだ、動く気配も、妖精にまでなる程だという激しい念などの類も感じ取れなかった。

『若いデュラハンよ。我の言葉は分かるであるか? 我らはお主の背後の山に行くのが目的だ。通させてもらうぞ』
『……』

 とりあえずシルヴァが声をかけてみるが、応答どころか身じろぎひとつない。

 埒があかないということで、歩みを再開する。


 不気味なほど静かな中、ゆっくりとすれ違う。


『……ん?』


 そこだけ切り取られて色をなくしたようなデュラハンの中に、何か“色”がチラついた気がした。


 僕達が打ち捨てられた関所にたどり着くまで、デュラハンは微動だにしなかった。
感想 295

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