おそらく、僕だけ違うゲームをしている。

鵩 ジェフロイ

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本編

216:ツッコミどころが多すぎる

 やはり相当疲労していたらしく、ログアウトした後、ほとんど時差なく気を失うように眠った。

 さらには寝坊をして昼くらいに目覚める。

「うーん……検査以外でこんなに寝たのはいつぶりかな……」

 寝過ぎたとき特有の気だるさを感じながら、ぼんやりと部屋を眺める。

 塵が積もることもなく常に清潔な部屋と、窓の外には手入れの行き届いた庭が、そこにある。

「…………足りない」

 いつからこんなに強欲になったのか、最低限の生命維持と読書さえ出来ていればそれで良かった……はずなのに。


 目を閉じれば、暗闇だけが広がり何もない。


 もう、戻ることは出来ない。


 …………いや……?


「戻ろうとも思っていないか」

 口角が上がっているのを自覚しながら、ゲーム起動の操作をした。


 *


 アルストにログインし、目を開くとそこには────。

 広間中を元の壁が見えなくなるほど黒い根が侵食し、中央付近では高い天井から謎の光る粒が降ってきていて山になっていた。


 …………いや。


「どういう状況なんだ?」
「いつもより目覚めるのが遅かったな」

 頭の上から、低い声と柔らかい感触が降ってくる。
 僕もそれに応えようと、少し伸び上がって唇で顎に触れる。

「ん……少し寝坊してしまった」
「……ぐ。お前……俺がどんだけ……っ」
「うむっ! ……ふふ」

 呻いたバラムに頬を捏ねられる。
 僕は触れられているだけでいいので、バラムの気が済むまで身を任せる。

 しばらく頬を捏ねたり、いろんなところに口づけをされたり撫でられたりしながら、少し、身体が火照ってきた頃、ひとまず満足してくれたのか解放された。

「……言っておくが、まだ全然満足してねぇからな」

 満足していないらしい。

「ああ……そうだな」
「……あ?」
「そういえば、根は……まぁ、いつものように勝手に動き出したんだと思うが、この降ってきているのは何なんだ?」
「……知らん。お前が視た方が何か分かるだろ」
「それもそうだな。……よっ」

 バラムの言うことも尤もだと思ったので、ずっと抱えられっぱなしだった身体を起こす。……もしかして、僕が寝ていた間ずっと抱えていたなんてことは…………ないとも言い切れない。

 改めて広間を軽く見渡すと、こんなに生やした覚えのないほどの根が張っている。……まぁ、根の自由行動はもう、慣れた。道義に反する行いをしない限りは好きにすればいいだろう。
 よく見れば、広間の奥のレリーフは明らかに避けていて、少しも侵食していない。根にも文化的な価値を尊重する感覚があるのだろうか? それとも僕が壊して欲しくない意志を察してだろうか?
 ……分からない。

 そして、光る欠片が降り積もる山の前まで来ると……。

「これは……」

 それが何なのか、分かった。
 なんと初めて目にするものではなく、既知のものだ。


[秘文字の破片]
秘められし文字の破片。
粉々に砕けており、この状態では読むことが出来ない。

かつて、こめられた力が残っているが、御されていない力は害である。


「秘文字の破片……」

 まさかのものだった。この光る粒の山全部が秘文字の破片なのだろうか。

「…………あれか」

 バラムがとてつもなく苦々しい顔をする。まぁ、バラムがそういう反応になるのはそれはそうだろうと思う。

 そして《慧眼》のおかげか、少しだけ説明文が増えている気もするが、しかし……。

「一体なぜこれがここに……そしてこんな大量に?」
『む、この光る粒がなんであるか知っているのであるか?』

 何処からともなくぬるっとシルヴァが出現する。そういえば、先ほどまで何処にもいなかったような。……まぁ、落ち着かなくてその辺を散歩でもしていたんだろう。

 ……シルヴァには『秘文字の破片』について伝えていただろうか? いなかった気がする。

 ということで、掻い摘んで『秘文字の破片』を入手してきた経緯をシルヴァに伝えた。

『ふむ……主殿はこの破片を我らが取り込んでいたことで様々な支障が発生していたと考えているのであるな?』
「ああ、そうだ」

 この破片が混ざっていると決まって、読み取れる情報そのものがめちゃくちゃになっていた。そして、二人の様子を見るに、そのめちゃくちゃになっていた情報の影響が大いに表れていたと思う。

 バラムは【夜狗の血族】という、おそらく生来持っていた称号がめちゃくちゃになっていたことで、嗅覚がおかしくなったり、能力が一部抑制されていたのだろうし、シルヴァはそのものではないが、自身を模った像のほぼ全ての情報がめちゃくちゃになっていたせいで、存在や意識そのものが封じられていた。

 それに追加された文にも「害である」とあったし。

『クククッ、我は元々、ちと人を怒らせすぎて封印はされていたのであるが、封印中もあった意識が突然途切れたのはこれが原因であったかぁ』
「「……」」

 まさかの封印は別件だった。
 怒らせすぎてって、一体何をしたんだ……。……『いたずら者ども』に書かれていたことを死に戻りの出来ない人たちにやっていたのだとしたら、確かに討伐か封印案件だったかもしれない。

「シルヴァはこの『秘文字の破片』について何か知っていることはないのか?」
『む? そうであるなぁ……まぁ、なんとなく予想はついているであるが、友が口止めをするのでな。あとのお楽しみである!』
「友……」

 シルヴァが『友』と称する存在……に繋がる指輪に目を向ける。……時折、シルヴァの口止めをしているのはどう判断すればいいのだろう。

 ……まさか、このゲームの運営側と繋がったりしているのだろうか。

 ……いや、そんなことを言ったら、この世界の住民は皆その可能性が出てきてしまうので、あまり考えたくない。

 そのことは置いておいても、そもそもこの地に僕を導いたのはこの指輪の向こうの存在だ。……本当に何がしたいのだろう。

 ────いや、僕に“何をさせたい”のだろう。

 ……気づけば、この指輪との付き合いもゲーム開始まもなくからではあるが、今をもって謎しかない存在だ。
 シルヴァと古い付き合いであることから最低でも古き妖精の部類ではあると思うのだが。


 ────“この先”で会うことが出来るのだろうか。


「……チッ。相変わらずいけすかねぇ……」

 バラムが低く唸るように言う。

 ……物言わぬ指輪状態でもこの相性のバラムと指輪の向こうの存在が、直接出会ってしまったらどうなってしまうのかという不安もある。


「とりあえず……これは回収するか」

 これから何をするにしても、ちょっと邪魔だし放置しておくわけにもいかないので、インベントリに収納する。
 ……元々少し埋まっていたとはいえ、スロット重複上限に二回も達して三つもスロットを使うことになってしまった。

「……ん? というかそもそも、この破片はどうしてここに降ってきているんだ?」

 ログアウトする前は影も形もなかったはずなのだが。

『おお、それを我も先ほどまで調べていたのだが、どうやら主殿の根がこの付近に埋まっている破片を回収してここに集めているようであるな』
「…………えぇ???」

 根の奇行には慣れたつもりだったが、まだまだだったらしい。

 しかも、何故この周辺にこれほど大量にあるのか、とか、何故僕が寝ている間に回収して集めようと思ったのか、とかツッコみたいことが次から次へと出てくる。


 とりあえず……現在進行形で回収中の破片を僕のインベントリに直接入れられないか念じてみた。また降ってきたものを一々回収するのは面倒だし、今までの経験から僕のインベントリに干渉することくらい出来るだろうと踏んでのことだったが…………あっさり出来た。

 むしろ、僕が認識するまで勝手にインベントリに突っ込まなかったのは気遣ってくれてのことかもしれない。


 根の意志って……成長するのだろうか?


────────────

(追記)
秘文字の破片情報について、バラムへは既にep.102で伝えているとのご指摘がありましたので、今話の反応を修正しております…!
ポカしてすいませんが、よろしくお願いします……!m(_ _)m

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