おそらく、僕だけ違うゲームをしている。

鵩 ジェフロイ

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本編

217:最後の一文の切れ味

 ひとまず秘文字の破片を回収し、広間が再び広々とした空間を取り戻す。……根が生えまくっていることからは目を背けつつ。

「で、これからどうするんだ?」
「そうだな……まずは下準備だろうか」
「下準備?」
「ああ」

 指輪の向こうの存在が何故この山に僕を導いたのかだが……この広間が指輪の想定する目的地なのだろうと思う。
 そして、ここで僕に何をさせたいのかは……この広間に南西の遺跡と同じレリーフがあることで大体察せた。


 今が“その時”だと。


 ただ、それをやるのにもう少し準備がいるので済ませてしまおう。

「えぇと……とりあえず今から特級呪……危険物を出す」
「…………分かった」
『心するである』

 まずはバラムとシルヴァに注意喚起をしてから、インベントリから呪い子の心から呪いを取り出した時に倒した扱いになったのか得ていた『呪詛結晶』を取り出す。ちなみに、『邪眼』はシラーを倒していないからか得ていない。

 見た目は、シラーが持っていたものだったからか、《滞りの呪い》の影響か分からないが、呪い子シラーを彷彿とさせるような薄氷色をしている。
 色の印象だけで言えば、むしろ清くも思えるのだが…………。


[呪詛結晶(極大)]
呪いが凝結したもの。邪属性技能の触媒として使える。
禁呪を宿しても耐えうる強度と容積を誇る最高品質の結晶。

それ故に資格なきものが魅入られれば、たちまち怨嗟の贄となってしまうだろう。

耐久力:S
品質:EX
分類:触媒
入手方法:レベル150以上の巫人族の心、呪いの源の解明
効果:《呪い》(極大)、邪属性効果上昇(極大)、禁呪効果上昇(大)


 この通り、120%呪いの触媒だ。
 これを使えば、呪いの装備など簡単に生み出せるだろう。しかもかなり高レベルのものが。
 …………入手方法にとんでもない厄ネタが書いてある気もするが……まぁ、うん。

『クククッ、禁呪に二度も触れてきた我らで無ければ感じただけで大惨事の代物であるな』
「……」

 シルヴァの解説に肝を冷やす。……耐性の無い人は見るのもダメだろうな、と思ったが“感じる”こともダメらしい。
 ここが現状、限りなく封鎖された空間で良かった。心から。

 こんな危険物はさっさと無害にしてしまおう。
 ということで、少し気合を入れて〈我が力を与えん〉と〈汚れを濯ぐ〉のハイパワー浄化セットをかけつつ〈暗き水面の転影〉を使って『呪詛結晶』の効果反転を試みる。

「……っ」

 中々の反発を感じるが、空間を引っ張るような力技に比べたら軽いものだ。
 膨大なAP量でねじ伏せる。

『主殿に筋力は無いはずなのだが、異人達がよく言っている「脳筋」という言葉が浮かんだである』
「……能力値の暴力ではあるな」

 ……二人が何か言っているが……まぁ、スルーしよう。


[祝詞結晶(極大)]
祝いが凝結したもの。聖属性技能の触媒として使える。
源の力を宿しても耐えうる強度と容積を誇る最高品質の結晶。

それ故に心弱きものを、たちまち救世の徒へと変貌させる。

呪いが転じ祝いとなったが、結局のところ違いなど些細なものであろう。

耐久力:S 
品質:EX
分類:触媒
入手方法:レベル150以上の巫人族の心、呪詛結晶の効果反転
効果:《祝福》(極大)、聖属性効果上昇(極大)、源の力効果上昇(大)


 …………う、うーん。反転成功……出来ているのか? これは。

 これまでの感覚から、説明文の最後の一文は《慧眼》効果のおかげで読めているのではないかと睨んでいるのだが、その最後の一文が過去最高にひどい。
 これを考えたのが運営なのかAIなのかは分からないが、皮肉の切れ味がすごい。

 しかも呪詛結晶の説明文を知っている状態で読むと、さらに切れ味が増す。

 ……最後の一文の言う通り、結局は特級危険物ということに変わりはないのだろう。


 うん。こんなものはさっさと素材にしてしまおう。


 ということで、さらにインベントリからヴァイオリンを取り出す。

 ……職人の技によって作られたこれに、素人の僕が手を入れてしまうのは抵抗があるが、これからやることには、僕の持てる力全てが注がれた相棒が必要だ。

 覚悟を決め、《底根の根》を繊維状にして纏わせていく。

 そして、その黒い繊維の波の中に祝詞結晶を放り込む。大きく波打ちはしたが、他にリアクションは無かったので、多分ちゃんと取り込めたのだろう。

 さらに、空の右手を出して、待つ。

 瞬きの間の後、そこに卵くらいのサイズの木彫り像が出現する。僕が《変化》するフクロウによく似た姿が模られている。
 ……そういえば、僕の《変化》もシルヴァが復活したタイミングで再び使用出来るようになっていた。禁呪の特性をモロに受けてこの技能だけ使えなくなっていたようだ。


 しばらく手中の木彫りの像を眺めた後……少し上に跳ね上げれば、夜の森に飛び立つように黒へと消えていく。


 あとは、僕の持っている力全てと血を注ぎこむだけだ。

『もうすっかり血も軽く素材扱いであるなぁ。確かに極上の素材であることに変わりはないのだが……仕える身としては複雑である』
「変な癖がついちまったな……」
『お主とずっと一緒にいたせいであるかのぅ』
「どういう意味だ、てめぇ」
「…………」

 何一つ否定出来ないので、これもスルーを決め込もう。


 やがて、黒い繊維の波が途切れ収縮していった先に────一つの黒いヴァイオリンが宙に浮いていた。


 それは、ひとりでについっと滑るように移動し、僕の手に収まる。

 遠目には光も吸い込むような黒に見えていたが、近くで見ると、見る角度によって無数の輝きが暗闇の中にきらめいて見えるような、不思議な色合いになっている。

 そして、ヴァイオリン本体の頂点部分、スクロールの形が蔦を咥えたフクロウの意匠になっていた。
 よく見れば、弓のスティック部分にも蔦が巻きついているような、地味だが繊細な細工がされていた。

 ……うん、良いな。


[深き森の渡界提琴ストラウス]
底根族の縁覚編纂士トウノの技によって作られた特別な弦楽器。
その弦から奏でられる旋律は境界を越えて響き渡る。

製作者を慕う遺志が混ざった為、意志があるかのように振る舞うかもしれない。

製作者と、製作者との絆ある者以外の者が手にすれば自己の境界を失って世界にとけてしまうだろう。

耐久力: S (底根族の根と血によって修復可能)
品質: EX
分類:楽器
効果:梟の界渡り、梟降ろし、過ぎし日の面影
素材:異界の弦楽器-ヴァイオリン-、底根族の根、底根族の血、祝詞結晶(極大)、木彫りの像/スコップオウル
製作技能:《編纂》《古ルートムンド語》《底根の根》
製作者:トウノ


《梟の界渡り》
消費AP:-(渡る境界により変動)
適した旋律を奏でることで、境界を渡ることが出来る。

《梟降ろし》
消費AP:-(降ろす能力と数によって変動)
自身の旋律を奏でることで、旋律が届いたものに自身の力の一端を一時的に付与出来る。

使用可能技能:《縁覚編纂士トウノの旋律》
付与可能能力:《底根の根》《慧眼》《歴史学》《健啖》《巧演》《腐朽》《凝滞》

《過ぎし日の面影》
『異界の弦楽器-ヴァイオリン-』の見た目と一部能力を制限した状態になることが出来る。
※この状態でも、製作者と製作者との絆ある者以外が手にすると自己の境界を失う。


 ……………………まぁ、この後やることには申し分ない能力だろうか。

 特級危険物を使ってしまった影響なのか、僕と、多分だが盟友契約を交わした者以外がこのヴァイオリンに触れると“世界にとけて”しまうらしい。
 具体的にどうなってしまうのか全く想像もつかないが…………永遠に分からないままでいいやつだろう。

 さらに、《過ぎし日の面影》で擬態のようなことが出来るのはありがたいが……悪用すればとてつもなく邪悪なトラップになってしまわないか? これ。……必要な時以外は出さないようにするのが吉か……やはり、普通のヴァイオリンをもう一丁製作依頼するのが良いかもしれない。

 そして、根を使った以上、意志があるのはほぼ確定なのでこれについては今更だ。


 あとは《梟降ろし》の付与可能能力もなんだか落差が激しい。《慧眼》や元禁呪の力関連……とまぁ《底根の根》は有用だろうが…………宴会などで役立つだろうか、《健啖》。


 いや……《底根の根》も宴会枠だろうか。



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前話のep.216を少し修正しております。
感想 297

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