おそらく、僕だけ違うゲームをしている。

鵩 ジェフロイ

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本編

239:シューティングスター

 ということで、かなり限定的ではあるが、闇の世界の見学会となっている。……ここは、月と黒い川と城の裏側しか見えないので。

「それにしてもー、あのアナウンスのタイミングは本当に偶然だったの?」
「その、はずだが……」
「ふーむ、これは怪しいねぇ」
「うぅん……」

 怪しいのは僕ではなくてネーヴェクリフなのではないだろうか……。

「皆、王都に入れるようになったばかりだってのに、王都を楽しむどころじゃなくなってたなぁ」
「カワイソウニー」
「私はジャルグから聞いて、なんとなく察しましたが」
「俺もアルプと、あぬ丸の宝器経由でオセロメーから説明を受けて納得したけど」
「俺はその時はなんにもなかったけど、多分トウノ君と兄貴とパイセンが何かやったんだろうなーとは思ってたぜ! ……パイセンが増えてるとは思ってなかったけど!」
「なんだ、皆察せてたんじゃないか……さっきの放心状態はなんだったんだ」
「いや、予想してるのと実際に見るのとではやっぱ実感が違うっていうか……」

 まぁ、この面々は僕やバラム、シルヴァのことを他のプレイヤーの中では一番知っているし、この世界の住民からいろいろ情報を仕入れるポジションを築いているので、推測はしやすかったのは納得だ。

「さっきの光神サイド?の話云々で言うと、教会は魔界と魔王がどうとか悪魔がなんとかーとか言ってたよぉ」
「……アルプが攻撃されそうで怖いんだよな……」

 ……確かにアルプは異人がイメージする『悪魔』の見た目にかなり近いので、今は無闇に姿を見せるのは危ないかもしれない。

『なに、少し力をつければ姿を自在に変えられるようになるであろう』
「そうなのか……」

 シルヴァの言葉に鍋の蓋がホッとした様子だ。ちなみにアルプは種族は『レッサーナイトメア』となっている。……この進化の先にシルヴァがいるのだろうか?

『クククッ、魔王はともかく魔界とは、時の流れとはかくも様々な認識を変容させるものなのであるなぁ』
「まぁ、己が陣営に都合のいいことしか囀らない天使と定命の人の間でのみ語り継がれたのなら変容もするでしょう」

 先ほどから皮肉の切れ味がいちいち鋭い妖精組が愉快そうに言う。

「魔界っていうのは全然違うのー?」
『であるなぁ、魔物というのは魔力を源とする動植物であるだけ故、魔力を源とする人種族、魔人族の国は知っているである。が、魔人族の系譜が開いた世界は存在するかもしれぬが、知らないである』
「! へぇ~! 動物と魔物ってそういう区別なんだぁ!?」
「魔界が存在するかは不明。しかし、魔人族の王という意味での魔王がいる可能性はあるということですか」
『うむ。まぁ、大昔の話故、今はどうなっているか分からぬであるがな!』
「はぇー、無限に面白い話出てくるっすね!」

 僕も知らない話だったので興味深く聞いた。……いかにいろいろすっ飛ばしてここに来てしまったかがよく分かる。アルストにはまだまだ知らない世界が広がっている。

「それじゃあ『悪魔』はどういう感じなんすか?」
「『悪魔』は天使とそれに恭順している者が、敵視した者をそう呼ぶだけですわ。天使の中でも破戒的な者もそう呼ばれたりと実に曖昧なものです」
「『悪魔』という種族はいないということですか?」
「ええ」

 またもや知らないアルスト内独自の話だ。こっそりメモしておこう。こういうものが集まってきたら闇の世界視点の価値観などをまとめた資料や、神話……とまではいかなくても寓話集を作ってみてもいいかもしれない。

「ぶっちゃけ、異人の想像する魔界と魔王城は全然ここでいいけどねー」
「「ほんとそう」」
『クククッ、それを狙って造ってみたのよ。ちょうど良い、お主らの『ラスダン』のイメージを言ってみるのだ!』

 そんな感じでシルヴァとあぬ丸達が和気あいあいと情報交換をしている。……妙に手慣れているので、普段もこうしてフレンドリーに接して情報を仕入れているのかもしれない。

 ここで、ノーナからウィスパーが入る。

『我が君、ギルド連盟の契約書をわたくしとディーで確認しまして、そのままで問題ないかと』
『む、そうか。ありがとう。清書して僕からジェフに送っておこう』
『ええ。我が君が生み出した聖なる紙と文字というだけで、人が手にするには過ぎたるほどに効果は絶大でしょう』
『そ、そうか……』

 なんだか不穏なことを言われるが……ゾーイやゾーイクラスの人が扱う分には問題ない……と、思う……たぶん、おそらく。

 ということで、インベントリ同士のアイテム交換機能で下書きと契約書を返してもらう。


 ────と、ここで、突如僕の感知範囲に何かが飛び込んできた。


「「『!』」」

 バラム、シルヴァ、ノーナもほとんど同時に反応し、気づけば僕はバラムに抱えられていた。シルヴァとノーナは月と僕たちのいる範囲に魔法なり糸なりで半球状の結界を張る。


 その間にも“何か”は僕たちの元に急接近し────。


 ベチンッ!


 ……月から生えた黒い……尻尾のような、触手のようなものにたたき落とされた。

「「「『……』」」」
「……え、なにごとー?」
「……月から何か生えなかった?」
「焦げ臭いですね」
「おいおい、まさか光神サイドが本格的に仕掛けてきたのか?」

 あぬ丸たちがヒソヒソと何か言っているが……とりあえず月にたたき落とされた物体を確認する。落ちてくる時も何やら燃えているように見えたが、黒焦げてプスプスと燻っている音が聞こえる。

 とりあえず《慧眼》で情報を得て────。

「えっ」

 予想外すぎる情報に驚いた。

「あれは……異人だ」
「「「えっ!?」」」
「名前は……龍星……?」
「「「はぁ!?」」」

 どこかで聞いたことがあるような……? というか、あぬ丸たちは心当たりがあるような反応だ。
 僕が首を捻っていると、あぬ丸が助け舟を出してくれた。

「あれだよー、防衛戦の時にトウのんが見てた双剣使いの配信者」
「………………ああ、あの人か」

 すっかり忘れていたが、確かにあの時見ていた配信者はそんな名前だった。しかし……装備どころか“すべて”が黒焦げになっているため、元々どんな容姿だったのかまるで分からない状態となっている。

 ……今も消えずに存在しているということはLPが残っているということなのだと思うが、とてつもない高所から落ちてきたうえにこの惨状で何故死に戻りしていないのか不思議だ。

「この者……“罰”が刻まれていますわ」
「罰……」

 ノーナの言葉に改めて龍星を見てみると『特殊効果』の欄に《陽獅子の劫罰》とあった。


《陽獅子の劫罰》
陽獅子の天使へリオネが与えた罰。
情熱的で苛烈な彼女の愛が深いほど、怒りに変わったときの罰は重くなる。
特殊効果:光属性の加護消失、光属性封印、一部ステータス消失、一部ステータス封印、一部の施設利用制限


「うわぁ……」

 特殊効果によるデバフがとんでもないことになっている。しかも、通常のデバフではないので、時間経過や通常の回復技ではおそらく取り除けないだろう。おそらく、僕の《編纂》か《月ノ眼》なら解除できるとは思うが。


 ……あと、なんだろう……こちらも『痴情のもつれ』の気配がする。



────────────

次話更新は2月28日(金)予定です。
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