おそらく、僕だけ違うゲームをしている。

鵩 ジェフロイ

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本編

241:偲び逢う

 へリオネの言葉にバラムの殺気が振り切れそうだが……とりあえず、ほんの少しだけ待ってもらおう。

「真の姿も何も、この状態がそうとしか言えないのだが……」

 今が《変化》も何もしていない状態だし、フクロウになる以外に別の姿などない。

『主殿の力を見せろと言いたいのであるよ。根などを出せば満足するであろう』
「そうなのか?」

 ということで、シルヴァに言われた通りに根を出してみる。……なんか、増えたというか、屈強になったというか。とくに指定せずに出した根がもの凄く多く、精力が満ちている。

「……」
「……」

 へリオネの反応がない。……まだ、足りないのだろうか? うーん……付属品系で言うとあとは羽衣の《羽変化》しか思いつかないが……天使の前で三対の翼を出すのは少し問題がないか? と、思いつつ、何かあっても幻梟が発動するだけかと、バラムに少しだけ離れてもらって《羽変化》を発動する。

 星々が瞬く半透明の影のような三対の翼に、足元には蠢く黒い根……というか触手。……コズミックホラー感が増した気がする。これは「おぞましい」と形容されても仕方がないか。

「その姿……神にも匹敵するのに神ではない、だと言うのに狂ってもいない……なんなのだ、お前は……」
「そんなことを言われても……」

 僕にも分からない。
 神になる機会はあったが、蹴ってしまった。

「一応、月神の管理者ということになっているが……」
「……」

 ……違う、そうじゃない、という顔をされた。

「見ての通り我が君は大変温厚で理性的な方ですわ。貴女方の非礼も軽く流しておいでです。感謝なさい」
「……あれは、主の意志でも私の指示でもない」
「貴女の立場でその言い分が通るとでも?」
「……チッ。まぁ、力を利用されているようだしな……」

 そう言って、へリオネが軽く手をあげると、月に降り注いでいた光の雨が止んだ。

『クククッ、せっかくの便利な力の供給源であったのに残念であるなぁ』

 おそらく自分より格上であろう相手にも煽っている。ブレない。

「というか、先ほどから我が君を見定めるために来たみたいな体でいますが、貴女の用はそこの異人にあるのでしょう?」

 ノーナの目線の先には、全身黒焦げ……を通り越して炭化していそうな龍星が倒れている。……なんならへリオネは龍星の直上に浮かんでいる。

 龍星の話題になった途端、へリオネの厳粛な顔がわずかに歪む。

「……私が散々目をかけていたというのに、加護を返上するなどと……」
「はぁ……その加護、そこの異人は望んでいたのですか?」
「……陽獅子の加護だぞ、皆望んで止まない」
「そういうところですよ」

 つまり、加護を与えた時点でへリオネは龍星を気に入っていたが、龍星が望んだり喜んでいたかは微妙なところということか。
 ……勝手に何かをつける云々はノーナもあまり他人のことは言えないと思うのだが……沈黙は金、ということで。

「異人を縛ることは、真の意味では不可能なことは貴女も分かっているでしょう。ここまでして拒まれたなら諦めなさい」
「……ぐ」

 心なしかしょんぼりしてしまった。
 それぞれをよく知らないのに言うものではないのかもしれないが、現状のイメージとしてはへリオネは情深いが厳格で傲慢なところがあり、龍星は配信のときのイメージから言うと魅力的でノリも良いが、自分のこだわりは全く譲れないところがありそうだ。……あまり、相性が良くなかったのかもしれない。

「貴女も懲りませんね、加護を与えた相手に拒まれるのは何度目ですか」
「……うぐぐ」

 ……何度もあったのか。相性が良くない者を好きになってしまう人……ではなくて、天使なのかもしれない。

「まぁ、手が空いたらまた愚痴くらいは聞きましょう。とりあえず今は引き下がりなさい。せっかく解放された同胞が貴女の熱で消し飛んでしまいますわ」
「………………………………仕方あるまい」

 ためにためて絞り出す。これはまだ未練が強く残っていそうだ。
 というか、先ほどから聞いているとノーナとへリオネは陣営的に険悪な関係なのかと思ったが、意外とそうでもなさそうだ。むしろ、だいぶ仲が良さげに思える。

 へリオネが渋々龍星の直上から離れ、浮上していく。

「あ、すまない。少し待ってくれ」
「……なんだ」

 思いついたことがあり、僕はへリオネを引き止める。バラムへ目を向けると、仕方ないという顔をしつつも頷いてくれた。ゆっくり翼の効果で浮遊しているへリオネに近づく。バラムも《月追い》の技能で傍についてきている。

「これをアークトゥリアに」
「……これはっ」

 僕がインベントリから取り出したものに、へリオネが目を見開く。

 僕の手には、僕が作ったものとは思えないほど白く輝く小物入れサイズの箱だ。装飾も細かな金細工が緻密に施されていて、気品が溢れている。


[偲び逢う自鳴琴オルゴール
底根族の深根環柢編纂士トウノの《編纂》と光神の化身の涙から生み出された自鳴琴。

夢を見ない者さえも夢へと誘う旋律が奏でられる。旋律を耳にした者の望む夢を見ることができる。

使用された素材の格に合わない者が耳にすると、永遠に夢と癒しの虜となる。

耐久力:S
品質:EX
分類:宝器
効果:秘技〈闇き閨〉発動 ※再使用期間1年。
素材:光神の化身の涙、底根族の根、底根族の血、碧血継ぎの月光
製作技能:《編纂》《古ルートムンド語》《底根の根》《深根環柢編纂士トウノの旋律》《梟の界渡り》《月ノ眼》
製作者:トウノ


「……こんな、ものが」

 へリオネが驚愕しつつも手を出したので、そっと自鳴琴を渡す。

「格が合わない者が聞くと大変なことになるようだから、慎重に扱って確実に渡して欲しい」
「…………」

 情報にある通り、アークトゥリア以外にはめちゃくちゃな危険物なので。

「……これを私から主へ渡せと言うのか」
「ああ」
「……私が主へ渡さずに破棄したらどうする」
「それでも僕はかまわない。主へ渡すか渡さないかは貴女が決めてくれ。まぁ……取り扱い注意だから、いらないなら僕に返すか貴女の力で滅して欲しい」
「……」

 これは本当に僕が勝手に作って託したものなので、仮にアークトゥリアに届かなくてもどちらでもいい。届かなかったら届かなかったで、今と何も変わらないだけだ。

 ただ、ノーナと仲の良い、傲慢だが厳格なこの天使は、仰ぐ主の貴重な素材が使われたものを破棄できるのだろうか、という心算は少しある。

 へリオネが苦い顔をして唸るようにつぶやく。

「……本当に、おぞましく、恐ろしい奴だ」

 へリオネが自鳴琴を大事そうに抱え、今度こそ飛び立ち、闇の世界から陽光が去っていった。

 彼女はきっと、主の元へ届けてくれるだろう。

「ツグハル」
「ああ」

 どこまで離れても見える陽光を見送っていると、バラムに抱えられる。邪魔なので《羽変化》は解除し、完全に身体を預ける。バラムは宙を蹴り、地面へと着地した。

「いつの間にあのようなものを用意されていたのですか」
「化身の涙をバラムから渡されて、いろいろとこねくり回していたんだ」
「まあっ……目や肌は灼かれませんでしたか?」
「……そんなにひどいことにはならなかった」

 眩しすぎて目がつぶれるかとは思ったが。

『主殿、主殿。あれはどういうものなのだ?』

 シルヴァが先ほどの自鳴琴に興味津々といった感じだったので、情報を見せる。

『ほぅ……これは……』
「……我が君はアークトゥリアが眠らないことをご存知だったのですか?」
「えっ」
「ご存知なかったのですね……」
「あ、ああ」

 アークトゥリアが眠らないなど初耳だった。……そもそも神に睡眠がいるのかも分からないが。

『夢とは我や主殿が操るように闇の領分なのである。であるからアークトゥリアは夢を見ぬし、夢の入り口たる睡眠をすることもないのである』
「なるほど」

 光そのものと言っても良さそうなアークトゥリアが闇に属する力を使えないのは納得と言えば納得だ。

「そのアークトゥリアさえもほんの一時、夢へと誘い得る宝器……畏敬の念を抱きますわ」

 少し久しぶりにノーナから恭しく礼をされる。

「逢いたい者に逢えたらいいな、くらいの感覚で作ったんだが、そんな大それたものとは……」
『クハハハッ! それが我らが主殿よな!』
「ですわね」

 シルヴァが楽しそうに笑い、ノーナも袖を口元にやっている。和やかな空気に、僕も頬が緩むのを感じた。


「おい、ところでこいつはどうするんだ?」

 バラムが黒焦げの龍星を顎で指して言う。
 ……忘れていた。

 龍星とコミュニケーションをとるためにフレンドになりメッセージで《陽獅子の劫罰》を外そうか聞いたところ、なんと「そのままでいい」という返答だった。「天使の『劫罰』を背負っている」という厨二的に“おいしい”設定を逃す手はないとかなんとか。
 ……やはりへリオネとは相性が良くないように思える。

 しかし、いつまでも月の付近に置いておくわけにもいかないので、シルヴァにギルドを最初に誘致する予定の土地に運んでもらった。ここから反対側の世界の端だ。
 ジェフに許可証と契約書を送るときに、龍星のことも頼んでしまおう。

 いずれ、そこに来やすいような入り口を作ろうかと思っている。変なところから来られるよりは分かりやすい入り口があれば、出入りをコントロールしやすいだろうということで。

 月の写しの出現位置もこちらならばある程度好きに出来るので、どういう配置にするかノーナが調査中だ。


 そんなこんなでいろいろなことにカタがつき、闇の世界に再び静寂と平穏が訪れた。


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