【書籍化&完結】おそらく、僕だけ違うゲームをしている。【2月中頃発売】

鵩 ジェフロイ

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番外編

小話:限界突破の条件

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 久しぶりにユヌにあるローザの宿屋の食堂で、温かな食事に舌鼓をうっている。

 隣にはもちろんバラムもいて、繁盛する時間帯をズラしているのでまったりとした空気が心地いい。

 最近はこの宿屋にもチラホラ他のプレイヤーが来ることもあると聞いていたが、今はいないようだ。それに、いたとしても僕たちを正しく認識できないだろう。


 というのは、こうして普通に、ローザたちを驚かさないように姿を見せれるようになるまでの試行錯誤にある。




 ある日、あぬ丸とシャケ茶漬けから「言おうかどうか迷ったけど、だいぶ『名状しがたい何か』に見える」と言われてはじめて、とある問題を認識した。

 どうやら今の僕は、羽やら触手やら通常の僕やらが揺らめきながら混ざり合って見え、意図せず正気度チェックをしてしまっているらしい。

 幸い、装備が変わってからはほとんど闇の世界か僕の世界、デキマの力で各地の書庫の片隅にだけ行っていたので、ほとんど身内以外の目には触れていないはずだ。
 それに各地の書庫に行ったときは〈凝滞〉の力で空間を少しズラしていたので、よほど空間に対して感知能力が高い者以外は分からなかったはず…………なのだが、ときどきデキマが気まぐれに人を通していたな……。まぁ、これについては何か問題があればデキマに任せよう。


 ということで、羽衣の《認識阻害》をもう少しコントロールできないか手持ちの技能や持ち物を確認し、その中の一つ、意志あるヴァイオリン『ストラウス』の持つ効果の一つである《過ぎし日の面影》に着目した。

 これは普通のヴァイオリンだった頃の見た目に擬態できる効果なので、ストラウスのように僕も過去のどこかの時点のステータスや種族のように見せられればいいのではないか、ということだ。

 『過去』ということでデキマも呼んでいろいろと試行錯誤したところ、羽衣についたフクロウの仮面に《過ぎし日の面影》に近い効果をつけ加えることができた。
 自分の過去の見た目やステータスを〈凝滞〉で薄皮にして被る、みたいなイメージだ。

 ついでに、僕が許可しない限り周囲の情報から算出した平凡なNPCの一人、としか認識できないようにもなっている。これはノーナに強く推されて付与した。


 これは中々いいものができたし、この原理はいろんなことに応用できるかもしれないと達成感に浸っていると、珍しくバラムからも同じことがしたいと相談があった。


 ……確かに、バラムも以前と比べるとだいぶ威圧感も装備の特別感も増しているので必要だろう。


 ということで、僕の力を魔石に注ぎこむと出来る『碧錆玉』に羽衣につけたものと同じ効果をつけることができたので、それを戦闘の邪魔にならないようにチョーカーにして渡した。
 碧錆玉は効果を加えた瞬間、僕の羽衣についたフクロウを模した面と同じ形になって、変更できなくなっていた。……別に問題は無いが。


 そうして無事、僕もバラムも転生直後くらいの見た目とステータスに見えるようになり、密かに許可を出した者以外には、とるに足らないただの一住民として認識される……はずだ。


 そんなこんなで、こうしてローザの宿での食事も楽しめている。




「あ?」

 食後のホットミルクを飲みながらまったり読書を楽しんでいると、バラムが唐突に何かに反応を示す。
 気になったので本から顔を上げてたずねてみる。

「どうかしたか?」
「いや、顔馴染みの奴らが……たぶん、ここに向かって来てる」

 バラムは『不可解』という顔をしているが、緊迫感はさほどないので、警戒しなくてもいい相手なのかもしれない。となると……。

「ふぅん? ここでのバラムの顔馴染みと言うと、傭兵仲間だろうか?」
「……まぁ、そんなところだ」

 『傭兵仲間』という単語に微妙に居心地悪そうにしていたが、否定はしなかった。

 僕も《慧眼》の感知に少し集中すれば、真っ直ぐ宿屋に向かってくる傭兵装備の住民NPC二人組を捉えることができた。
 バラムに視線を移すと頷いたので、二人に僕を認識できるように許可をだす。

 ……よく視てみれば、その内の一人はどこか見覚えがある。どこだっただろうか…………。

「ああ、遺跡調査で関所に行ったときの」

 最初のワールドクエストの遺跡調査で関所に行ったときに、コミュニケーションとしての軽い背中叩きに僕が貧弱すぎてダメージを負った、あの時の傭兵が今こちらに向かっている傭兵の一人だった。

「……チッ。覚えてなくてもいいんだよ、そんなこと」

 バラムの反応からも間違いないだろう。

 そして、二人組はすぐに宿屋に到着したようで、宿屋の扉が開く。

 何かを探すように食堂を覗き、僕たちを認めると、無骨な表情が明るいものに変わる。

「ほーら! やっぱり今日はここにいただろ?」
「そうだな」

 そう言って顔を知っている方の傭兵がバラムを指差して言う。やはり、目的はバラムだったようだ。
 バラムが舌打ちをして顔を顰めながら、立ち上がって二人の傭兵と僕たちの席の間に立つ。

「何の用だ」
「久々だってのに、そんな心底嫌そうな顔をするなよ~」
「逢瀬を邪魔をする気はなかったんだが、お前たちに少し聞きたいことがあってな」
「あん?」

 バラムが反応したのと同時に、聞き耳を立てていた僕も首を捻る。……「お前“たち”」?

 どうやら傭兵たちは僕とバラムに用があったらしく、とりあえず立ち話もなんなのでテーブルを挟んで向かいの席についてもらった。

「そういえば、編纂士殿にはまだ名乗ってなかったよな? 俺はネッドってんだ、よろしく」
「俺はオーウェンという。故郷の救世主に会えて光栄だ」
「あ、ああ……。『トウノ』と呼んで欲しい。知っているかもしれないが異人だ」

 忘れた頃に『救世主』と呼ばれるこの称号効果的なものを何とかしたい。……無理だろうか。

 顔を知っている軽妙な調子の傭兵がネッドで、落ち着いた印象の初対面の傭兵がオーウェンというようだ。

 腕を組んだバラムが先を促す。

「で?」
「俺はお前……と一緒にいるトウノを見つけるまでが仕事だから野次馬!」
「帰れ」
「やだ☆」

 なんともテンポが良い二人のやりとりは、気のおけなさが窺える。

「俺がネッドに頼んだんだ。実は、俺はお前たちが盟友契約を結んだ少しあとにある異人と盟友契約を結んだんだが……」
「ほぅ、そうなのか」

 なんとオーウェンはプレイヤーと盟友関係にあるらしい。ということは……。

「聞きたいこととはそれ関係だろうか?」
「そうだ。お前たちが『限界突破』とやらをしているのだろう?」
「…………まぁ、そうだな。僕たち以外にもいるかもしれないが」

 一瞬どう答えようか迷ったが、オーウェンはほぼ確信しているようだし別に知られてもどうなることでもないので正直に答えた。

「俺の相棒から盟友契約の絆には『限界突破』なるものが存在すると聞いてな。どうにかその手がかりみたいなものがあれば情報を乞いたい」
「俺たちが知るかよ。お前たちの中で深めるもんだろ」
「その通りなんだが、行き詰まっていて相棒が密かに気に病んでいてな……どうにかしたいのだ」
「なるほど……」

 確かに、盟友契約の『限界突破』についてはアップデートの際にネタバレ的に記載されてしまっていた。そのプレイヤーもそれで知ったのだろう。

 しかし『限界突破』の仕方が分からない、と。

「僕たちも気づいたら限界突破をしたという報せが来ただけだから、詳しい条件は分からないのだが……」

 通知があった周辺でなにがあったか思い返す。


「「…………」」


 ……いや、さすがに肉体関係が条件ではないと思いたい。盟友契約は伴侶と結ぶ場合もあるとはいえ、そうでないことももちろんあるだろう。

 となると、考えられるそれっぽいことは……。

「自分の最も深い部分をさらす……とかだろうか」
「最も深い部分……」

 僕の言葉をオーウェンが繰り返す。


「目を背けたい暗いものすべて……そしてそれを受け入れられ、また相手のそれも受け入れる」


 ……なんかスラスラと出てきたが、僕は何を言っているのだろう。

「なるほど、な。……何をすればいいのかは見えてきた気がする」
「そ、そうだろうか?」
「お前だけがやっても意味ねぇぞ?」
「ふっ……分かっている。俺たちも生半可な関係ではない」

 静かなオーウェンの瞳には強い自負が宿っていた。

「ふん、そうか」

 それを見たからか、バラムはそれ以上なにも言う気はないようだ。


 ネッドが「ラスティはトウノにいろいろとさらしたのか~」とバラムを茶化し、テーブルの下で熱い攻防戦があってローザに怒鳴られていたが……まぁ、些細な戯れだろう。

 そうして少し世間話を交わしたあと、ネッドとオーウェンは去っていった。



 オーウェンと盟友のプレイヤーがその後どうなったのかは知らないが……いつか部屋に扉がひとつ増えているといいな、と思った。



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