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番外編
小話:手強すぎる敵(上) ※バラム視点
本日2話更新の1話目です。
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俺とツグハルは今、黒衣のいけすかない女に呼び出され、本物の月を隠すように建てられた漆黒の城の一室に来ている。
そこには黒衣の女と黒山羊という知っている面子以外に一人、知らない奴がいた。俺は警戒度を一気に引き上げる。……ただ知らない相手だから、だけじゃなく、そいつが俺が警戒するに足る実力がある“匂い”がするからだ。
どうして、こんな奴と……内心で舌打ちをしながら黒衣の女を睨む。……が、どこ吹く風だ。……チッ。
ツグハルが相手の名乗りを聞いて、首を捻る。
「焦熱の門温泉の朱呑屋……がどんな用件だろうか」
「この度、闇を統べる新たな神の誕生と月の復活を契機にこちらにございます、支店再稼働の許可をいただけないかと」
「な、るほど……」
『羅刹』という種族だというそいつは、俺でさえ見上げるような大きな体躯を限界まで縮こまらせて、厳つい顔を柔和に崩してもみ手をしている。
ウィスパーでツグハルがノーナに何故こういうことで己が応対をするのか、と困惑していたが、いろいろと理由を聞き対処することを決めたようだった。
……まぁ、ツグハルは案外やりたいこと、やりたくないこと、とくに拘りがないことの線引きや意思表示はかなりはっきりしている。だから、ツグハルがやると言うなら俺もついていって危険から守るだけだ。
「再稼働、ということはすでにこちらに支店があると?」
「左様でございます」
「本店はどのあたりに?」
「光神の治める大陸より遥か東の小国、常夜の温泉街が一つ、焦熱の門温泉でございます」
「東の小国……」
ツグハルの瞳に興味が灯る。向こうもそれを察知したのか、気を良くしてさらに饒舌になる。
「ご興味がおありでしょうか! 遠き土地ではございますが、お越しいただいた際には我が街の総力をもっておもてなしさせていただきます」
手をもみながら目の前の机に突っ伏す勢いで頭を下げる。頭頂部の角がよく見えた。
ちなみに、こいつはそんな遠い土地からどうやってここに来たのかだが、その支店に元々繋いであった転移門のようなものから来たらしい。各地の闇に属する種族は多かれ少なかれこういう転移ルートを持っているとかなんとか。
……まぁ、この辺はあの女が把握してないわけがねぇか。
「……まだまだ異人の僕たちがたどり着くのは先になりそうだから気持ちだけ受け取っておこう」
「左様ですか。皆様が訪れる日を心よりお待ちしております」
「ああ。そうだな……ギルド連盟と協力、共生できそうなら支店の再稼働はかまわない。……と言ってもこちらはまだしばらく閑散としているだろうが」
とりあえずギルド連盟に投げることにしたらしい。こいつがよくやる手だが、負担が少なくなるやり方に異論はない。
「おお! ギルド連盟は我が街にもございますので、連携は願ってもないことです。いやぁ、しかし既に連盟が根を張っているとはさすがの機を見るに敏、ですなぁ! これほどの連盟の対応の速さにむしろ確信しましたぞ。先行投資をすべきであると!」
「そ、そうか。であれば、あとはそちらでよしなにやってくれ」
これでこの話は終わった────はずだった。
「ようこそ、お越しくださいました! まだ最低限の復旧のみでお恥ずかしい限りですが、従業員一同、誠心誠意おもてなしさせていただきます」
この前の羅刹の店主と、その他『鬼』系の種族と思われる者たちが整列して頭をさげる。
「ああ、世話になる」
『久々故、楽しみであるなー!』
「……」
……何故か、闇の世界にある支店だという温泉宿にツグハルと俺、そして山羊で泊まることになった。黒衣の女はいつの間にかいなくなっていた。……あいつ。
不思議なのは、ツグハルがそれなりに乗り気だったことだ。よく聞けば、この鬼たちの国は、現実のツグハルの住む国に近いものがあるとかなんとか。……それで、妙に興味を持っていたのか。
「ささ、早速お部屋にご案内しましょう」
店主の案内で、でかい異国風の宿の奥へと進む。……一応、今のところおかしな気配はない。
『では、我はこっちなのでな。主殿と夜狗は水入らずで楽しむと良いである!』
「み……ああ」
最奥の手前で山羊と別れた。山羊の言葉にツグハルが少し頬を染める。…………あん?
「さ、こちらが常夜桜の間でございます。何かございましたら仲居に遠慮なくお申し付けを。それでは、ごゆっくりお過ごしください」
店主は最奥の部屋へ俺たちを通すと、今までの押しの強さが嘘のように、あっさりと気配を薄くして立ち去った。部屋の前に控える『仲居』とやらも極限まで気配を薄くしている。
「あ、靴は脱ぐのか。……当たり前か」
ツグハルがそうつぶやいて、ごく自然に靴を脱いで部屋に入っていく。
……俺にも脱げと? ……気配の薄い仲居からの視線を感じる。まぁ、今となっては靴くらいなくても戦闘に問題はないからいいが。
「おお……!」
遅れて部屋に入れば、ツグハルが窓の外の庭を見て感嘆の声をあげていた。並んで見てみれば……まぁ、確かに薄紅色の花が咲いた木と、そこから散る花びらや湯気をあげる池などがいい感じに見えなくもない、か? と、思った。
ツグハルが妙にソワソワとしながら、頬を染めて言う。
「バラム……早速、その、入ってみるか?」
ツグハルの匂いの中の甘さが強くなる。……こういう匂いをさせるときは、意識的にしろ、無意識にしろ、俺を誘っているときだ。
「……どこに?」
「温泉に」
「……あ?」
ツグハルが指差した先には、外の庭、湯気のたつ池があった。
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俺とツグハルは今、黒衣のいけすかない女に呼び出され、本物の月を隠すように建てられた漆黒の城の一室に来ている。
そこには黒衣の女と黒山羊という知っている面子以外に一人、知らない奴がいた。俺は警戒度を一気に引き上げる。……ただ知らない相手だから、だけじゃなく、そいつが俺が警戒するに足る実力がある“匂い”がするからだ。
どうして、こんな奴と……内心で舌打ちをしながら黒衣の女を睨む。……が、どこ吹く風だ。……チッ。
ツグハルが相手の名乗りを聞いて、首を捻る。
「焦熱の門温泉の朱呑屋……がどんな用件だろうか」
「この度、闇を統べる新たな神の誕生と月の復活を契機にこちらにございます、支店再稼働の許可をいただけないかと」
「な、るほど……」
『羅刹』という種族だというそいつは、俺でさえ見上げるような大きな体躯を限界まで縮こまらせて、厳つい顔を柔和に崩してもみ手をしている。
ウィスパーでツグハルがノーナに何故こういうことで己が応対をするのか、と困惑していたが、いろいろと理由を聞き対処することを決めたようだった。
……まぁ、ツグハルは案外やりたいこと、やりたくないこと、とくに拘りがないことの線引きや意思表示はかなりはっきりしている。だから、ツグハルがやると言うなら俺もついていって危険から守るだけだ。
「再稼働、ということはすでにこちらに支店があると?」
「左様でございます」
「本店はどのあたりに?」
「光神の治める大陸より遥か東の小国、常夜の温泉街が一つ、焦熱の門温泉でございます」
「東の小国……」
ツグハルの瞳に興味が灯る。向こうもそれを察知したのか、気を良くしてさらに饒舌になる。
「ご興味がおありでしょうか! 遠き土地ではございますが、お越しいただいた際には我が街の総力をもっておもてなしさせていただきます」
手をもみながら目の前の机に突っ伏す勢いで頭を下げる。頭頂部の角がよく見えた。
ちなみに、こいつはそんな遠い土地からどうやってここに来たのかだが、その支店に元々繋いであった転移門のようなものから来たらしい。各地の闇に属する種族は多かれ少なかれこういう転移ルートを持っているとかなんとか。
……まぁ、この辺はあの女が把握してないわけがねぇか。
「……まだまだ異人の僕たちがたどり着くのは先になりそうだから気持ちだけ受け取っておこう」
「左様ですか。皆様が訪れる日を心よりお待ちしております」
「ああ。そうだな……ギルド連盟と協力、共生できそうなら支店の再稼働はかまわない。……と言ってもこちらはまだしばらく閑散としているだろうが」
とりあえずギルド連盟に投げることにしたらしい。こいつがよくやる手だが、負担が少なくなるやり方に異論はない。
「おお! ギルド連盟は我が街にもございますので、連携は願ってもないことです。いやぁ、しかし既に連盟が根を張っているとはさすがの機を見るに敏、ですなぁ! これほどの連盟の対応の速さにむしろ確信しましたぞ。先行投資をすべきであると!」
「そ、そうか。であれば、あとはそちらでよしなにやってくれ」
これでこの話は終わった────はずだった。
「ようこそ、お越しくださいました! まだ最低限の復旧のみでお恥ずかしい限りですが、従業員一同、誠心誠意おもてなしさせていただきます」
この前の羅刹の店主と、その他『鬼』系の種族と思われる者たちが整列して頭をさげる。
「ああ、世話になる」
『久々故、楽しみであるなー!』
「……」
……何故か、闇の世界にある支店だという温泉宿にツグハルと俺、そして山羊で泊まることになった。黒衣の女はいつの間にかいなくなっていた。……あいつ。
不思議なのは、ツグハルがそれなりに乗り気だったことだ。よく聞けば、この鬼たちの国は、現実のツグハルの住む国に近いものがあるとかなんとか。……それで、妙に興味を持っていたのか。
「ささ、早速お部屋にご案内しましょう」
店主の案内で、でかい異国風の宿の奥へと進む。……一応、今のところおかしな気配はない。
『では、我はこっちなのでな。主殿と夜狗は水入らずで楽しむと良いである!』
「み……ああ」
最奥の手前で山羊と別れた。山羊の言葉にツグハルが少し頬を染める。…………あん?
「さ、こちらが常夜桜の間でございます。何かございましたら仲居に遠慮なくお申し付けを。それでは、ごゆっくりお過ごしください」
店主は最奥の部屋へ俺たちを通すと、今までの押しの強さが嘘のように、あっさりと気配を薄くして立ち去った。部屋の前に控える『仲居』とやらも極限まで気配を薄くしている。
「あ、靴は脱ぐのか。……当たり前か」
ツグハルがそうつぶやいて、ごく自然に靴を脱いで部屋に入っていく。
……俺にも脱げと? ……気配の薄い仲居からの視線を感じる。まぁ、今となっては靴くらいなくても戦闘に問題はないからいいが。
「おお……!」
遅れて部屋に入れば、ツグハルが窓の外の庭を見て感嘆の声をあげていた。並んで見てみれば……まぁ、確かに薄紅色の花が咲いた木と、そこから散る花びらや湯気をあげる池などがいい感じに見えなくもない、か? と、思った。
ツグハルが妙にソワソワとしながら、頬を染めて言う。
「バラム……早速、その、入ってみるか?」
ツグハルの匂いの中の甘さが強くなる。……こういう匂いをさせるときは、意識的にしろ、無意識にしろ、俺を誘っているときだ。
「……どこに?」
「温泉に」
「……あ?」
ツグハルが指差した先には、外の庭、湯気のたつ池があった。
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