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番外編
小話:バラムの帰郷 6
お互いに自制心を総動員して睦み合うのを一度にとどめ、連続ログイン時間を切るためのログアウトをはさんだ翌朝。
そういえば、少し訳すことが必要とはいえ『妖精の恋』という店名がプレイヤーの目に入れば話題になっていそうだなと軽く調べてみたところ、どこにもそんな情報はなかった。……というか、攻略サイトに載っている地図と僕が入れているエリアが合っていない。
……これは、アレか。住民に案内されないと入れないエリアにこの宿屋はあるということか。……そういえばあったな、そんな仕様。
常にこの仕様の影響下にある場所に引きこもっていすぎて、逆に忘れていた。
ということは、他にたどり着いたプレイヤーがいたとしても秘匿しているか、僕がはじめての来訪者なのだろう。他の大陸に行かずとも、細かい未踏の地はまだまだありそうだ。
そんなこんなで、宿とリャナンシーとも別れを告げて外に出れば、町は夜とはまた違った表情を見せていた。
明るい陽光の下には、町中を飾る色とりどりの花が咲き乱れ、花びらが舞っている。
花や彩りのある風景が好きな人にはとても楽しめそうだ。
……しかし。
「なんだか落ち着かないな」
なんとなく、居心地が悪い気がする。
「この町は昼はエレメントが活発なんだ。さっさと出るぞ」
「なるほど、それでこんなにも花々が咲き誇っているのか」
『昼は光に、夜は闇にこうも傾き共存しておるとは面白き町であるなぁ』
シルヴァが端的にまとめてくれた。そういうことのようだ。どちらにしろ、昼も夜も賑やかな町らしい。
僕たちはバラムの案内で裏路地を抜けながら東門から出てサンクシスを後にした。
さて、ここから東へまっすぐ進めば王都なのだが……。
「僕たちは王都に入れるのだろうか?」
「全員強力な認識阻害の手段がありますので可能でしょうが……高位天使が絡んできたら面倒でございますね」
「ここから北東の町に行けばいい。寄る必要はねぇ」
「ふぅむ……」
まぁ、僕も是が非でも王都を見たいというほどの興味はそこまでない。ないが、僕がここまで来ることもそうないと思うと……。
「周辺の月の写しの解放と、王都前のエリアボスを撃破していつでも入れるようにだけしておきたいんだが、どうだろうか?」
「…………いいだろう」
「それがよろしいかと」
『うむ!』
そういう方針になった。
ので、サクサクと月の写しを解放していき、王都前のエリアボスへと挑戦できる石畳に到着した。
「ここのエリアボスは……おおっ、グリフォンか」
グリフォンとは鷲の頭と前足に獅子の胴体、そして背中には大きな翼を持つ、ファンタジーものではお馴染みの幻想生物だ。その見た目の格好よさからとても人気があり、いろいろな紋章に採用されるほど権威や威厳の象徴とも言える。
王都前のボスに相応しい……のだろうか?
『ふむ。では今回は我が相手をするである!』
シルヴァがボス攻略の名乗りをあげる。
「ここは光神の加護が強いですから、おそらく横槍が入りますよ」
ノーナの言葉に今までの月への攻撃やたまにあるらしい天使の襲撃の報告を思い出して、確かに一理ありそうだと感じた。
……というか。
「別にボスに対して、一対一で挑まなくてはならないというわけではないんだが……」
ほとんどのプレイヤーはパーティプレイで力を合わせて一体のボスを撃破しているのだろうし、そもそもそういうバランスで調整されているのだから、皆で安全に倒せばいい。
『クククッ、そのくらい分かっておる。であるが、我も古の王の端くれ。心配無用である!』
黒馬姿のシルヴァが胸を反らせてボフーッと大きな鼻息をたてる。
そこまで言うならとこのボス戦はシルヴァに任せることになった。まぁ、危なそうだったら加勢すればいいだろう。
ということでボス戦用のフィールドへ転移すると、そこは草原と大きく高い岩が乱立したフィールドになっていた。空は雲ひとつない晴天で、風が強く吹いている。
『では、ゆくとしよう』
大きな山羊の姿になったシルヴァが前へと出る。すると────。
「クエエエエエエエッ!!」
岩場から凄まじい速さでシルヴァの前に立ち塞がったのは、鷲の頭と翼に四つ足のまさしくグリフォンだった。大きさはシルヴァよりも一回り大きい。
だが予想通り、このままとはいかないようだ。
晴天のはずの空から一閃の雷がグリフォンへと落ちる。普通の雷であればダメージを負うこと必至だが……。
「クエエエェェグルオオオオンッ!!!」
雷の光が収まったあとにいたのは、ダメージを負うどころか覇気や威圧感が増し、身体全体が光り輝きパチパチと電気のようなものを纏うグリフォンだった。元々持っていた風属性に、光属性と雷属性が大きく付与されたようだ。
大きさも《変化》したそのままのバラムくらいになっていて明らかにパワーアップしている。
……というか種族が『グリフォン』から『エルダーグリフォン』に進化までしていた。光に属する者たちがどれだけ僕たちに嫌がらせをしたいかが窺える。
エルダーグリフォンはギョロリとシルヴァを睥睨すると、なんの前触れもなくシルヴァに雷が落ちる。
しかし……。
『クククッ、天使共からもっと力をせびらなくてよいのか?』
「グルオ……?」
シルヴァにダメージはなく、黒い不定形のナニかに妖しく光る黄色い目が二つ浮かんだ状態になる。
「グルオオーーーーーッ!!!」
エルダーグリフォンは続いて、凄まじい風を起こしながら天高く飛翔すると、眩い閃光を撒き散らす。
闇属性に最も効く光だ。ピクシーなどの身体そのものが闇で構成されているような存在はひとたまりもなく、妖精もそれは同じはずなのだが────。
『その程度の光では我は滅せぬぞ』
愉快そうな重低音の声音がさまざまな方向から響く。
『お主も目を閉じ、夢も見よう。その安息の暗闇こそが我の住処よ────』
「グ……ルオ……」
変わらず閃光を撒き散らすエルダーグリフォンの様子が次第におかしくなる。フラフラと動き回り、何もない場所に雷や風の攻撃を放ちだす。そして、シルヴァが魔法で攻撃をしている様子はないのに、エルダーグリフォンのLPが徐々に減りだした。
属性攻撃をところかまわず撃つことで消耗したのか、撒き散らし続けた閃光も次第に弱くなり、エルダーグリフォンに何が起こっているのか、見た目にも分かるようになる。
エルダーグリフォンの瞳がシルヴァのような黄色い瞳になり、わずかに黒いもやも纏っている。シルヴァが視界を乗っ取り、なにか現実とは違う光景を見せてコントロールしているらしい。そして、その力のコストもエルダーグリフォンのLPを糧にしていてシルヴァは最低限の力しか使っていないという、味方ながら恐ろしい戦法だった。
そうして、脅威を正しく認識できなければ、対処などできようはずもなく、ただ生命の源を消耗させてエルダーグリフォンは命を散らした。
〈エリアボス:エルダーグリフォン撃破達成! 王都が解放されます〉
無事、戦闘終了の通知が流れて、元のフィールドへと戻ってきた。進化していたことで素材もより上質なものを得られてホクホクだ。
『クハハッ! 他愛なかったであるな!』
「貴方は対抗手段がなければそもそも傷つけることもかないませんからね」
『うむ、高位天使ほど光神に近くない限り天使にも遅れはとらぬである!』
そう言うと得意げに鼻息をボフンッと鳴らす。確かに、それは得意げにしていいことだな、と納得する。
ということで、今まで反則的にデキマの支配する書庫の中だけは入れていた王都だが、これである程度自由にいろいろな場所に出入りできるようになった。
「おい、とっとと次に行くぞ」
「ああ、そうだな」
とはいえとくに用はないし、いらぬ諍いを起こさないためにも王都へは寄らずに次の目的地、北東にあるという職人の町『ユイット』へと向かうことにする。
────────────
現在ダンジョンでプレイヤーを相手にしているシルヴァは、魔石を核にしたゴーレムを並列思考で本人が操作している感じ
すでに適度に倒されてはいるけど、高難易度コースをそのうち出しそう
そういえば、少し訳すことが必要とはいえ『妖精の恋』という店名がプレイヤーの目に入れば話題になっていそうだなと軽く調べてみたところ、どこにもそんな情報はなかった。……というか、攻略サイトに載っている地図と僕が入れているエリアが合っていない。
……これは、アレか。住民に案内されないと入れないエリアにこの宿屋はあるということか。……そういえばあったな、そんな仕様。
常にこの仕様の影響下にある場所に引きこもっていすぎて、逆に忘れていた。
ということは、他にたどり着いたプレイヤーがいたとしても秘匿しているか、僕がはじめての来訪者なのだろう。他の大陸に行かずとも、細かい未踏の地はまだまだありそうだ。
そんなこんなで、宿とリャナンシーとも別れを告げて外に出れば、町は夜とはまた違った表情を見せていた。
明るい陽光の下には、町中を飾る色とりどりの花が咲き乱れ、花びらが舞っている。
花や彩りのある風景が好きな人にはとても楽しめそうだ。
……しかし。
「なんだか落ち着かないな」
なんとなく、居心地が悪い気がする。
「この町は昼はエレメントが活発なんだ。さっさと出るぞ」
「なるほど、それでこんなにも花々が咲き誇っているのか」
『昼は光に、夜は闇にこうも傾き共存しておるとは面白き町であるなぁ』
シルヴァが端的にまとめてくれた。そういうことのようだ。どちらにしろ、昼も夜も賑やかな町らしい。
僕たちはバラムの案内で裏路地を抜けながら東門から出てサンクシスを後にした。
さて、ここから東へまっすぐ進めば王都なのだが……。
「僕たちは王都に入れるのだろうか?」
「全員強力な認識阻害の手段がありますので可能でしょうが……高位天使が絡んできたら面倒でございますね」
「ここから北東の町に行けばいい。寄る必要はねぇ」
「ふぅむ……」
まぁ、僕も是が非でも王都を見たいというほどの興味はそこまでない。ないが、僕がここまで来ることもそうないと思うと……。
「周辺の月の写しの解放と、王都前のエリアボスを撃破していつでも入れるようにだけしておきたいんだが、どうだろうか?」
「…………いいだろう」
「それがよろしいかと」
『うむ!』
そういう方針になった。
ので、サクサクと月の写しを解放していき、王都前のエリアボスへと挑戦できる石畳に到着した。
「ここのエリアボスは……おおっ、グリフォンか」
グリフォンとは鷲の頭と前足に獅子の胴体、そして背中には大きな翼を持つ、ファンタジーものではお馴染みの幻想生物だ。その見た目の格好よさからとても人気があり、いろいろな紋章に採用されるほど権威や威厳の象徴とも言える。
王都前のボスに相応しい……のだろうか?
『ふむ。では今回は我が相手をするである!』
シルヴァがボス攻略の名乗りをあげる。
「ここは光神の加護が強いですから、おそらく横槍が入りますよ」
ノーナの言葉に今までの月への攻撃やたまにあるらしい天使の襲撃の報告を思い出して、確かに一理ありそうだと感じた。
……というか。
「別にボスに対して、一対一で挑まなくてはならないというわけではないんだが……」
ほとんどのプレイヤーはパーティプレイで力を合わせて一体のボスを撃破しているのだろうし、そもそもそういうバランスで調整されているのだから、皆で安全に倒せばいい。
『クククッ、そのくらい分かっておる。であるが、我も古の王の端くれ。心配無用である!』
黒馬姿のシルヴァが胸を反らせてボフーッと大きな鼻息をたてる。
そこまで言うならとこのボス戦はシルヴァに任せることになった。まぁ、危なそうだったら加勢すればいいだろう。
ということでボス戦用のフィールドへ転移すると、そこは草原と大きく高い岩が乱立したフィールドになっていた。空は雲ひとつない晴天で、風が強く吹いている。
『では、ゆくとしよう』
大きな山羊の姿になったシルヴァが前へと出る。すると────。
「クエエエエエエエッ!!」
岩場から凄まじい速さでシルヴァの前に立ち塞がったのは、鷲の頭と翼に四つ足のまさしくグリフォンだった。大きさはシルヴァよりも一回り大きい。
だが予想通り、このままとはいかないようだ。
晴天のはずの空から一閃の雷がグリフォンへと落ちる。普通の雷であればダメージを負うこと必至だが……。
「クエエエェェグルオオオオンッ!!!」
雷の光が収まったあとにいたのは、ダメージを負うどころか覇気や威圧感が増し、身体全体が光り輝きパチパチと電気のようなものを纏うグリフォンだった。元々持っていた風属性に、光属性と雷属性が大きく付与されたようだ。
大きさも《変化》したそのままのバラムくらいになっていて明らかにパワーアップしている。
……というか種族が『グリフォン』から『エルダーグリフォン』に進化までしていた。光に属する者たちがどれだけ僕たちに嫌がらせをしたいかが窺える。
エルダーグリフォンはギョロリとシルヴァを睥睨すると、なんの前触れもなくシルヴァに雷が落ちる。
しかし……。
『クククッ、天使共からもっと力をせびらなくてよいのか?』
「グルオ……?」
シルヴァにダメージはなく、黒い不定形のナニかに妖しく光る黄色い目が二つ浮かんだ状態になる。
「グルオオーーーーーッ!!!」
エルダーグリフォンは続いて、凄まじい風を起こしながら天高く飛翔すると、眩い閃光を撒き散らす。
闇属性に最も効く光だ。ピクシーなどの身体そのものが闇で構成されているような存在はひとたまりもなく、妖精もそれは同じはずなのだが────。
『その程度の光では我は滅せぬぞ』
愉快そうな重低音の声音がさまざまな方向から響く。
『お主も目を閉じ、夢も見よう。その安息の暗闇こそが我の住処よ────』
「グ……ルオ……」
変わらず閃光を撒き散らすエルダーグリフォンの様子が次第におかしくなる。フラフラと動き回り、何もない場所に雷や風の攻撃を放ちだす。そして、シルヴァが魔法で攻撃をしている様子はないのに、エルダーグリフォンのLPが徐々に減りだした。
属性攻撃をところかまわず撃つことで消耗したのか、撒き散らし続けた閃光も次第に弱くなり、エルダーグリフォンに何が起こっているのか、見た目にも分かるようになる。
エルダーグリフォンの瞳がシルヴァのような黄色い瞳になり、わずかに黒いもやも纏っている。シルヴァが視界を乗っ取り、なにか現実とは違う光景を見せてコントロールしているらしい。そして、その力のコストもエルダーグリフォンのLPを糧にしていてシルヴァは最低限の力しか使っていないという、味方ながら恐ろしい戦法だった。
そうして、脅威を正しく認識できなければ、対処などできようはずもなく、ただ生命の源を消耗させてエルダーグリフォンは命を散らした。
〈エリアボス:エルダーグリフォン撃破達成! 王都が解放されます〉
無事、戦闘終了の通知が流れて、元のフィールドへと戻ってきた。進化していたことで素材もより上質なものを得られてホクホクだ。
『クハハッ! 他愛なかったであるな!』
「貴方は対抗手段がなければそもそも傷つけることもかないませんからね」
『うむ、高位天使ほど光神に近くない限り天使にも遅れはとらぬである!』
そう言うと得意げに鼻息をボフンッと鳴らす。確かに、それは得意げにしていいことだな、と納得する。
ということで、今まで反則的にデキマの支配する書庫の中だけは入れていた王都だが、これである程度自由にいろいろな場所に出入りできるようになった。
「おい、とっとと次に行くぞ」
「ああ、そうだな」
とはいえとくに用はないし、いらぬ諍いを起こさないためにも王都へは寄らずに次の目的地、北東にあるという職人の町『ユイット』へと向かうことにする。
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