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番外編
小話:バラムの帰郷 7
北へ進むにつれて気温が下がってきたからか、草の色が渋い色になりつつある野を進む。
ここまで来るとたまに血の気の多い魔物が僕たちに向かって来ようとするのだが……。
『皆ぐっすりであるなぁ』
僕に害意を向けた瞬間にすでに取り憑いている《幻梟》によって〈闇き閨〉が自動発動し、即戦闘不能となっている。
まぁ、AP、LP、MPを合算し、さらに月神からのお裾分けやその他諸々を受けて実質生命力である業ポイントはかなりの量になってはいるが、相変わらず紙防御なので攻撃によっては一撃掠ってしまうだけでも消し飛びかねない。
やはり、戦闘自体避けられるなら避けた方がいいだろう。
「……ん?」
ここで、僕の感知範囲ギリギリに二つの存在を感知した。《慧眼》によってそちらを向かなくても視えはするのだが……相手に、僕の反応を伝えるために振り向く。
普通の視力では見えない遥か彼方の丘の上には────一頭の馬と、それに跨る二つの人影があった。
そのうちの一つは、人影というには少々歪で、頭部の無い騎士風の者、もう一つは艶やかな瑠璃色を輝かせた細身の少年だった。
騎士風の者がこちらに向かって胸に拳を当て、前傾する。……礼、なのだろうか。
瑠璃色の少年も遅れて、僕から目を逸らさずに胸に手を当てていた。
そうしてしばらくの間のあと、彼らは僕の感知範囲外へ去っていった。
「…………」
────奥底に沈めた傷がじくじくと存在を主張する。
『ツグハル』
痛みに呑まれかけた思考を、優しく低い声が引っ張りあげる。確かな愛しい存在を感じることで、再び痛みを深い水底へと沈めた。
「……休むか?」
「ヒヒン……」
「いや……もう、大丈夫だ。行こう」
バラムだけでなく、アンバーにも心配をかけてしまったようだが、気を取り直して先へ進もうとアンバーに合図を出した。
次第に草が少なくなり、荒涼とした地を進むことしばらく。
職人の町『ユイット』前の石畳へと到着する。エリアボス戦だ。
ここのボスは『サイクロプス』。こちらもファンタジージャンルや神話に名高い一つ目の巨人だ。『巨人』というとこの世界には巨人族がいるが、魔物の場合はこうして『サイクロプス』や『トロル』と呼ばれ区別されているようだ。巨人族は2.5メートルほどの体躯だが、このサイクロプスの身長は15メートルほどらしい。でかい……。
攻略サイトによると、ここのサイクロプスは王都前のグリフォンよりも難敵と言われているようで、ただでさえ大きくて頑丈な上に、中々質の良い武具を装備しているのだとか。……職人の町の技術力を反映しているのだろうか?
「ということだが……」
「俺が出る」
大まかにここのエリアボスの情報を共有したところで、バラムが対処に立候補する。
『純粋な生命力と力比べであればお主が最適であろう』
「ですわね」
シルヴァとノーナは、それに異論はなさそうだ。
「僕も異論はないが、気をつけて」
「ああ」
ということでボス戦フィールドへと転移した先は、グリフォンのフィールドと違い、完全に岩場しかないフィールドとなっていた。空は暗く重い曇天だ。
「でかいな……」
そして探すまでもなく、見上げるような巨体が目の前に聳え立っていた。少し離れてはいるが、あの巨体ではこんな距離など些細なものでしかないだろう。
「ゴア……」
バラムが気負いのない様子で歩を進めると、サイクロプスが反応を示す。サイクロプスは裸に腰蓑という出立ちではあるが、肩あてと籠手、脛あてなどは革製の中々よさそうな防具をつけていた。手には巨大な鉄製の斧を持っている。
あの巨体のスイングとこの斧の質量が合わされば、特別な技能など使わなくても破壊的なパワーを生むことは一目瞭然だ。……殺意が高くないだろうか?
実際、現状の攻略組の盾職でも攻撃をまともに受け切ることはできないようで、逃げ回って撹乱しながら遠距離攻撃で鎧のない部分を狙うというのが一般的な攻略法のようだ。
ピシッ、パシッ、パチッ……
バラムが近づくにつれて、お互いの覇気が衝突しているのか空気が弾ける音がする。
『ふむ……我らは空から見物するとしようかの』
「……分かった」
ということで僕たちはバラムの邪魔にならないように、黒い鷲の姿になったシルヴァの背に乗って上空へと退避する。一応僕はフクロウに、ノーナはカラスになることで小型化、すぐに飛べるようにしている。
僕たちがそうして上空へ移動した直後────。
「ゴアアアアアアアアッ!!!!」
サイクロプスの咆哮が響き渡る。空間全体が揺れたように感じる。
「ガルアアアアアアアッ!!!!」
そして、サイクロプスに負けない咆哮がバラムからもあがった。この咆哮は……バラムの大剣のサーベラスなのか、それとも……?
それを皮切りに、サイクロプスが破壊的な一撃をバラムに向かって振りおろす。対するバラムは避ける素振りすら見せず、大剣をかまえて────振り抜いた。
ドガアアアンッ!!!
「ゴアアッ!?」
大きな爆発でもあったんじゃないかというような轟音と共に、サイクロプスがのけ反る。信じられないことに、バラムは正面からの力比べでサイクロプスに挑み、どうやら上回っているらしい。
「ゴ、ゴオオッ!!」
サイクロプスも驚いているようだったが、切り替えが早く、のけ反りから復帰する力を利用して、大地を大きく踏みつける。地面が大きく波打ち、さらには土属性の魔法によって無数の岩石の棘がバラムに襲いかかった。……空に退避していてよかった。
「シッ!」
バラムは大地の揺れに足をとられることなく、岩石の棘を時に避けながら、時になぎ払いながら、サイクロプスへと迫る。
「ゴアアアアアアアア!!」
サイクロプスも体勢を立て直し、バラムに向かって凄まじい斧の連撃を繰りだす。
ドガアアンッ! ガイインッ! バガアアンッ!
土煙が舞い上がるが、僕の視界の妨げにはならない。
バラムはこの嵐のような振り下ろし攻撃をすべて大剣で弾いていた。こんなものは破壊不可のサーベラスだからできる荒業だろう。
そして、片方は破壊不可の武器となれば────。
バキイイィィンッ!
「ゴアッ!?」
サイクロプスの斧の刃が大きく欠け、驚きからかフリーズした。
その隙をバラムが許すはずもなく、振り下ろして距離が近づいていた胴体に横なぎの攻撃を叩き込む。
「ゴオォォッ!!!」
恐るべきことに、サイクロプスの巨躯がわずかに浮き、尻もちをつくように倒れた。
「ゴ……ゴア……」
痛みからかそのまま動けずにいるサイクロプスの前でバラムは両手で大剣の柄を持ち、ゆったりと頭上に掲げる。
その大きな剣身に急速に赤黒いオーラが立ちのぼっていき────振り下ろされた。
「〈闇きへ送る葬狗〉」
ヴオォォン
────剣圧によって空気を切り裂いた音なのか、狗の鳴き声なのか分からない音のあとには、なにも残っていなかった。
〈エリアボス:サイクロプス撃破達成! 職人の町『ユイット』が解放されます〉
元のフィールドへと戻る。ちなみに素材はほとんど残っていなかった。……まぁ、別にかまわない。
それはともかく。
「最後のあの技は奥義か?」
「〈底無し穴の走狗〉が勝手に変化してた」
「……ああ……」
とても覚えのある現象だ。僕でいう秘技の〈闇き閨〉のようになんらかの条件を満たしていくことによって勝手に強化されていくタイプのものなのだろう。名前にも一部同じ言葉が使われているし。
「ここで少し馬を休ませたら……目的地へ行く」
「ああ」
バラムは戦闘の疲れも大した感慨も感じさせずに先を促す。このあたりはもう、バラムが幼少期を過ごした地域だと少しだけ聞いているのだが……。
まぁ確かに、僕の1日のログイン時間の期限もあるので、僕たちは足早に町へと向かった。
……旅の終わりは近い。
ここまで来るとたまに血の気の多い魔物が僕たちに向かって来ようとするのだが……。
『皆ぐっすりであるなぁ』
僕に害意を向けた瞬間にすでに取り憑いている《幻梟》によって〈闇き閨〉が自動発動し、即戦闘不能となっている。
まぁ、AP、LP、MPを合算し、さらに月神からのお裾分けやその他諸々を受けて実質生命力である業ポイントはかなりの量になってはいるが、相変わらず紙防御なので攻撃によっては一撃掠ってしまうだけでも消し飛びかねない。
やはり、戦闘自体避けられるなら避けた方がいいだろう。
「……ん?」
ここで、僕の感知範囲ギリギリに二つの存在を感知した。《慧眼》によってそちらを向かなくても視えはするのだが……相手に、僕の反応を伝えるために振り向く。
普通の視力では見えない遥か彼方の丘の上には────一頭の馬と、それに跨る二つの人影があった。
そのうちの一つは、人影というには少々歪で、頭部の無い騎士風の者、もう一つは艶やかな瑠璃色を輝かせた細身の少年だった。
騎士風の者がこちらに向かって胸に拳を当て、前傾する。……礼、なのだろうか。
瑠璃色の少年も遅れて、僕から目を逸らさずに胸に手を当てていた。
そうしてしばらくの間のあと、彼らは僕の感知範囲外へ去っていった。
「…………」
────奥底に沈めた傷がじくじくと存在を主張する。
『ツグハル』
痛みに呑まれかけた思考を、優しく低い声が引っ張りあげる。確かな愛しい存在を感じることで、再び痛みを深い水底へと沈めた。
「……休むか?」
「ヒヒン……」
「いや……もう、大丈夫だ。行こう」
バラムだけでなく、アンバーにも心配をかけてしまったようだが、気を取り直して先へ進もうとアンバーに合図を出した。
次第に草が少なくなり、荒涼とした地を進むことしばらく。
職人の町『ユイット』前の石畳へと到着する。エリアボス戦だ。
ここのボスは『サイクロプス』。こちらもファンタジージャンルや神話に名高い一つ目の巨人だ。『巨人』というとこの世界には巨人族がいるが、魔物の場合はこうして『サイクロプス』や『トロル』と呼ばれ区別されているようだ。巨人族は2.5メートルほどの体躯だが、このサイクロプスの身長は15メートルほどらしい。でかい……。
攻略サイトによると、ここのサイクロプスは王都前のグリフォンよりも難敵と言われているようで、ただでさえ大きくて頑丈な上に、中々質の良い武具を装備しているのだとか。……職人の町の技術力を反映しているのだろうか?
「ということだが……」
「俺が出る」
大まかにここのエリアボスの情報を共有したところで、バラムが対処に立候補する。
『純粋な生命力と力比べであればお主が最適であろう』
「ですわね」
シルヴァとノーナは、それに異論はなさそうだ。
「僕も異論はないが、気をつけて」
「ああ」
ということでボス戦フィールドへと転移した先は、グリフォンのフィールドと違い、完全に岩場しかないフィールドとなっていた。空は暗く重い曇天だ。
「でかいな……」
そして探すまでもなく、見上げるような巨体が目の前に聳え立っていた。少し離れてはいるが、あの巨体ではこんな距離など些細なものでしかないだろう。
「ゴア……」
バラムが気負いのない様子で歩を進めると、サイクロプスが反応を示す。サイクロプスは裸に腰蓑という出立ちではあるが、肩あてと籠手、脛あてなどは革製の中々よさそうな防具をつけていた。手には巨大な鉄製の斧を持っている。
あの巨体のスイングとこの斧の質量が合わされば、特別な技能など使わなくても破壊的なパワーを生むことは一目瞭然だ。……殺意が高くないだろうか?
実際、現状の攻略組の盾職でも攻撃をまともに受け切ることはできないようで、逃げ回って撹乱しながら遠距離攻撃で鎧のない部分を狙うというのが一般的な攻略法のようだ。
ピシッ、パシッ、パチッ……
バラムが近づくにつれて、お互いの覇気が衝突しているのか空気が弾ける音がする。
『ふむ……我らは空から見物するとしようかの』
「……分かった」
ということで僕たちはバラムの邪魔にならないように、黒い鷲の姿になったシルヴァの背に乗って上空へと退避する。一応僕はフクロウに、ノーナはカラスになることで小型化、すぐに飛べるようにしている。
僕たちがそうして上空へ移動した直後────。
「ゴアアアアアアアアッ!!!!」
サイクロプスの咆哮が響き渡る。空間全体が揺れたように感じる。
「ガルアアアアアアアッ!!!!」
そして、サイクロプスに負けない咆哮がバラムからもあがった。この咆哮は……バラムの大剣のサーベラスなのか、それとも……?
それを皮切りに、サイクロプスが破壊的な一撃をバラムに向かって振りおろす。対するバラムは避ける素振りすら見せず、大剣をかまえて────振り抜いた。
ドガアアアンッ!!!
「ゴアアッ!?」
大きな爆発でもあったんじゃないかというような轟音と共に、サイクロプスがのけ反る。信じられないことに、バラムは正面からの力比べでサイクロプスに挑み、どうやら上回っているらしい。
「ゴ、ゴオオッ!!」
サイクロプスも驚いているようだったが、切り替えが早く、のけ反りから復帰する力を利用して、大地を大きく踏みつける。地面が大きく波打ち、さらには土属性の魔法によって無数の岩石の棘がバラムに襲いかかった。……空に退避していてよかった。
「シッ!」
バラムは大地の揺れに足をとられることなく、岩石の棘を時に避けながら、時になぎ払いながら、サイクロプスへと迫る。
「ゴアアアアアアアア!!」
サイクロプスも体勢を立て直し、バラムに向かって凄まじい斧の連撃を繰りだす。
ドガアアンッ! ガイインッ! バガアアンッ!
土煙が舞い上がるが、僕の視界の妨げにはならない。
バラムはこの嵐のような振り下ろし攻撃をすべて大剣で弾いていた。こんなものは破壊不可のサーベラスだからできる荒業だろう。
そして、片方は破壊不可の武器となれば────。
バキイイィィンッ!
「ゴアッ!?」
サイクロプスの斧の刃が大きく欠け、驚きからかフリーズした。
その隙をバラムが許すはずもなく、振り下ろして距離が近づいていた胴体に横なぎの攻撃を叩き込む。
「ゴオォォッ!!!」
恐るべきことに、サイクロプスの巨躯がわずかに浮き、尻もちをつくように倒れた。
「ゴ……ゴア……」
痛みからかそのまま動けずにいるサイクロプスの前でバラムは両手で大剣の柄を持ち、ゆったりと頭上に掲げる。
その大きな剣身に急速に赤黒いオーラが立ちのぼっていき────振り下ろされた。
「〈闇きへ送る葬狗〉」
ヴオォォン
────剣圧によって空気を切り裂いた音なのか、狗の鳴き声なのか分からない音のあとには、なにも残っていなかった。
〈エリアボス:サイクロプス撃破達成! 職人の町『ユイット』が解放されます〉
元のフィールドへと戻る。ちなみに素材はほとんど残っていなかった。……まぁ、別にかまわない。
それはともかく。
「最後のあの技は奥義か?」
「〈底無し穴の走狗〉が勝手に変化してた」
「……ああ……」
とても覚えのある現象だ。僕でいう秘技の〈闇き閨〉のようになんらかの条件を満たしていくことによって勝手に強化されていくタイプのものなのだろう。名前にも一部同じ言葉が使われているし。
「ここで少し馬を休ませたら……目的地へ行く」
「ああ」
バラムは戦闘の疲れも大した感慨も感じさせずに先を促す。このあたりはもう、バラムが幼少期を過ごした地域だと少しだけ聞いているのだが……。
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