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番外編
後記:とあるVR技術史研究者の評論本
『箱舟によって運ばれた新世界 -『Arca Storia』が未来のVR技術に与えた影響-』
(略)
────このように『Arca Storia』というゲームは、ワールドシミュレーション、グラフィック生成エンジン、感覚認知システムなどあらゆるVR技術の粋を結集し奇跡としか言いようがない偉業を成し遂げた。
その奇跡が今日我々が享受するサービスの礎となっているのである。
それがゲームという『遊び』から生まれてきたというところが非常に興味深い。
当時の開発記録を見てみると、皆本気で『自分の思い描く最高の異世界ファンタジーゲームを作りたい』という、ある意味で純粋な、ともすれば狂気的な欲望に突き動かされて取り組んでいたことが分かる。
そこには他者にどう思われたいかという視点が一切存在せず、ただひたすらに自己の欲望に忠実だ。
しかし、その一歩間違えば周囲へ甚大な被害をもたらしうるエネルギーを秘めた欲望こそが新たな、まさしく“世界”をこじ開けたのだろう。
そして、誰もが同じ欲望を持っているからこそ、それに強く共鳴し、パーソナリティを問わず多くの人々が魅了されていったのではないだろうか。
さて、これまでは本書のテーマである『Arca Storia』にまつわる技術とそれが我々の社会や生活に与えた具体的な影響に焦点をあてて述べてきた。
それらは当時持ちうる最高峰のものであったため、いくらでもその技術の活用方法があり、自然とさまざまな分野へ活用されていったように思われるだろう。
しかし人の習性上、まったく新しいものというのはときに過剰な反発や堅固な拒否反応を引き起こし、新技術の浸透というのは順調にいくことの方が少ない。
そのある種の防衛反応を乗り越え、浸透していく過程にはあるVR産業の『巨人』の存在に触れる必要があるだろう。
本書の筋とはやや外れるが、後記の戯れとして謎に満ちたその巨人について述べていきたいと思う。
その巨人とは『Arca Storia』の運営中期、または安定期と呼ばれる時期に共同運営として参画した、のちに『Faraway Place Enterprise(以下「FPE」)』となる企業の創業者、遠野嗣治氏である。
このFPEの参画によって、ゲームに対するこだわりの強い運営チームはその後も開発と運営に注力することができ、FPEはそこで作られた技術を他分野でも利用しやすい形に製品化し、手厚いサービスも含めて提供できる仕組みを構築していった。
そうして容易く導入できるものを増やしていき徐々に『慣れさせる』ことで、人々の防衛反応をときほぐしていったのだ。
その活動の結果は、普段我々が目にし、活用する無数のサービスにひっそりと刻まれたFPEの刻印を見れば明らかであろう。
フクロウと犬と山羊という三つの動物の頭の背景に紡錘がある特徴的な意匠をどこかで必ず目にしたことがあるはずだ。
そんなFPEとその創業者の遠野氏であるが、我々のような評論家や研究者の間では長年悩みの種である人物でもある。
遠野氏の人物像は、事業の明確さに比べてひどく曖昧だ。
遠野氏は事業として成した功績や名声、自筆の企画書や業務上必要なやり取りの記録は数多く残っているにも関わらず、ごくパーソナルな部分の記録が驚くほど少ない。
どんな見た目でどんな人格の人物だったのかについては人の数だけ想像上の遠野氏像があるという始末なのである。
その捉えどころの無さからVR界の『天使』とも『妖精』とも、さらには『怪物』ともたとえられ、また想像力豊かな者からは遠野氏という人物は存在せず『Arca Storia』の卓越した技術によって生み出されたAIだったのではないかという都市伝説まであるほどだ。
それは取引のあった数少ない経営者たちですら、遠野氏と直接会ったことはなく、仮想空間での社会活動が当たり前になりつつあった時代とはいえ、現実で活動していた痕跡がほとんど存在しないことに起因するのだろう。
それでも遠野氏の人物像について、少ない事実や比較的信憑性の高い説を述べていこう。
FPEは最終的にはさまざまな公共システムにも製品提供を成し遂げ、VR産業での不動の地位を獲得していく。
とくに医療や福祉の分野への導入は早く、これは遠野氏の親族が医療用機材や感覚認知分野の研究者であり、元々ゲーム開発にも協力していたという縁で円滑に推進していけたのだろうと言われている。
この親族は遠野氏の後見人でもあったようで、わずかに残る証言や記録をたどっていくと、遠野氏自身にもなんらかの身体的なハンディキャップがあった可能性があり、そのため現実に姿を現すことはできなかったのではないかという比較的信憑性の高い説もある。
また遠野氏は元々FPEを創業する以前より『Arca Storia』のサービス開始当初からのプレイヤーであり、このゲームのリアリティに感銘を受けたということは明言されている。
このことから遠野氏は『Arca Storia』の存続を強く望んでいたのではないだろうか。
何故、遠野氏の目的が最高峰の技術提供による利益や権力の拡大ではなく、一つのゲームの存続であったと言えるか。
それは『Arca Storia』運営後期、遠野氏が立ち上げた公益財団法人に本ゲームの運営権と運営スタッフが移譲されたことによって、営利サービスから非営利サービスとなり半恒久的なサービス継続が実現されたのち、遠野氏は表舞台から完全に姿を消したからだ。
まるで、目的は果たしたと言わんばかりに。
FPEもあっさりと後任に託し、公益財団法人も即座に代表の座を退いている。
その後は完全に消息を絶っており、遠野氏には研究者だった親族以外に血縁や配偶者がおらず、戸籍情報が実質完全不開示となっているため、約1世紀経過した今もいつ没したのかすら分かっていない。
そのミステリアスさがまた人々の想像力を刺激するのか、遠野氏は今も仮想空間のどこかで生き続けているという都市伝説が広まる要因ともなっている。
余談だが、遠野氏に「戸籍上の配偶者はいないが事実婚状態のパートナーがいた」というのは、遠野氏から信用を得て距離が近かった口の堅い経営者たちが唯一漏らした証言である。
そのパートナーとはとても仲睦まじかったようで「会うと特大の無自覚惚気を食らうからチャットで必要なやり取りだけする」というチャットの記録が残っている。
それを裏付けるように、外野から見れば喉から手が出るほどの資産を持つ独身者であるということで、あらゆる野心家たちが遠野氏と強い縁故を持とうと古今東西の美男美女を送りこんだとされるが、遠野氏はそのすべてを歯牙にもかけなかったという逸話も残っている。
このように謎に満ち、不思議と惹きつけられてしまう引力のある遠野氏であるが、こうした事実から人物像を推しはかるならば、あまり目立ちたがらず、ハマったゲームとパートナーを愛する素朴な人物だったように思えてならない。
最後に、誰もが知る事実を記して筆を置こうと思う。
────『Arca Storia』は、今も我々の『もう一つの世界』としてそこに在り続けている。
────────────
これにて番外編更新も一旦締めたいと思います。
番外編までお読みいただき誠にありがとうございました!
またなんらかのBL欲が爆発したら続きなのか、全然違う話なのか分かりませんが勝手に投稿しはじめるかと思いますので、性癖に合う!と思われましたらまたよろしくお願いいたします!(*´︶`*)
(略)
────このように『Arca Storia』というゲームは、ワールドシミュレーション、グラフィック生成エンジン、感覚認知システムなどあらゆるVR技術の粋を結集し奇跡としか言いようがない偉業を成し遂げた。
その奇跡が今日我々が享受するサービスの礎となっているのである。
それがゲームという『遊び』から生まれてきたというところが非常に興味深い。
当時の開発記録を見てみると、皆本気で『自分の思い描く最高の異世界ファンタジーゲームを作りたい』という、ある意味で純粋な、ともすれば狂気的な欲望に突き動かされて取り組んでいたことが分かる。
そこには他者にどう思われたいかという視点が一切存在せず、ただひたすらに自己の欲望に忠実だ。
しかし、その一歩間違えば周囲へ甚大な被害をもたらしうるエネルギーを秘めた欲望こそが新たな、まさしく“世界”をこじ開けたのだろう。
そして、誰もが同じ欲望を持っているからこそ、それに強く共鳴し、パーソナリティを問わず多くの人々が魅了されていったのではないだろうか。
さて、これまでは本書のテーマである『Arca Storia』にまつわる技術とそれが我々の社会や生活に与えた具体的な影響に焦点をあてて述べてきた。
それらは当時持ちうる最高峰のものであったため、いくらでもその技術の活用方法があり、自然とさまざまな分野へ活用されていったように思われるだろう。
しかし人の習性上、まったく新しいものというのはときに過剰な反発や堅固な拒否反応を引き起こし、新技術の浸透というのは順調にいくことの方が少ない。
そのある種の防衛反応を乗り越え、浸透していく過程にはあるVR産業の『巨人』の存在に触れる必要があるだろう。
本書の筋とはやや外れるが、後記の戯れとして謎に満ちたその巨人について述べていきたいと思う。
その巨人とは『Arca Storia』の運営中期、または安定期と呼ばれる時期に共同運営として参画した、のちに『Faraway Place Enterprise(以下「FPE」)』となる企業の創業者、遠野嗣治氏である。
このFPEの参画によって、ゲームに対するこだわりの強い運営チームはその後も開発と運営に注力することができ、FPEはそこで作られた技術を他分野でも利用しやすい形に製品化し、手厚いサービスも含めて提供できる仕組みを構築していった。
そうして容易く導入できるものを増やしていき徐々に『慣れさせる』ことで、人々の防衛反応をときほぐしていったのだ。
その活動の結果は、普段我々が目にし、活用する無数のサービスにひっそりと刻まれたFPEの刻印を見れば明らかであろう。
フクロウと犬と山羊という三つの動物の頭の背景に紡錘がある特徴的な意匠をどこかで必ず目にしたことがあるはずだ。
そんなFPEとその創業者の遠野氏であるが、我々のような評論家や研究者の間では長年悩みの種である人物でもある。
遠野氏の人物像は、事業の明確さに比べてひどく曖昧だ。
遠野氏は事業として成した功績や名声、自筆の企画書や業務上必要なやり取りの記録は数多く残っているにも関わらず、ごくパーソナルな部分の記録が驚くほど少ない。
どんな見た目でどんな人格の人物だったのかについては人の数だけ想像上の遠野氏像があるという始末なのである。
その捉えどころの無さからVR界の『天使』とも『妖精』とも、さらには『怪物』ともたとえられ、また想像力豊かな者からは遠野氏という人物は存在せず『Arca Storia』の卓越した技術によって生み出されたAIだったのではないかという都市伝説まであるほどだ。
それは取引のあった数少ない経営者たちですら、遠野氏と直接会ったことはなく、仮想空間での社会活動が当たり前になりつつあった時代とはいえ、現実で活動していた痕跡がほとんど存在しないことに起因するのだろう。
それでも遠野氏の人物像について、少ない事実や比較的信憑性の高い説を述べていこう。
FPEは最終的にはさまざまな公共システムにも製品提供を成し遂げ、VR産業での不動の地位を獲得していく。
とくに医療や福祉の分野への導入は早く、これは遠野氏の親族が医療用機材や感覚認知分野の研究者であり、元々ゲーム開発にも協力していたという縁で円滑に推進していけたのだろうと言われている。
この親族は遠野氏の後見人でもあったようで、わずかに残る証言や記録をたどっていくと、遠野氏自身にもなんらかの身体的なハンディキャップがあった可能性があり、そのため現実に姿を現すことはできなかったのではないかという比較的信憑性の高い説もある。
また遠野氏は元々FPEを創業する以前より『Arca Storia』のサービス開始当初からのプレイヤーであり、このゲームのリアリティに感銘を受けたということは明言されている。
このことから遠野氏は『Arca Storia』の存続を強く望んでいたのではないだろうか。
何故、遠野氏の目的が最高峰の技術提供による利益や権力の拡大ではなく、一つのゲームの存続であったと言えるか。
それは『Arca Storia』運営後期、遠野氏が立ち上げた公益財団法人に本ゲームの運営権と運営スタッフが移譲されたことによって、営利サービスから非営利サービスとなり半恒久的なサービス継続が実現されたのち、遠野氏は表舞台から完全に姿を消したからだ。
まるで、目的は果たしたと言わんばかりに。
FPEもあっさりと後任に託し、公益財団法人も即座に代表の座を退いている。
その後は完全に消息を絶っており、遠野氏には研究者だった親族以外に血縁や配偶者がおらず、戸籍情報が実質完全不開示となっているため、約1世紀経過した今もいつ没したのかすら分かっていない。
そのミステリアスさがまた人々の想像力を刺激するのか、遠野氏は今も仮想空間のどこかで生き続けているという都市伝説が広まる要因ともなっている。
余談だが、遠野氏に「戸籍上の配偶者はいないが事実婚状態のパートナーがいた」というのは、遠野氏から信用を得て距離が近かった口の堅い経営者たちが唯一漏らした証言である。
そのパートナーとはとても仲睦まじかったようで「会うと特大の無自覚惚気を食らうからチャットで必要なやり取りだけする」というチャットの記録が残っている。
それを裏付けるように、外野から見れば喉から手が出るほどの資産を持つ独身者であるということで、あらゆる野心家たちが遠野氏と強い縁故を持とうと古今東西の美男美女を送りこんだとされるが、遠野氏はそのすべてを歯牙にもかけなかったという逸話も残っている。
このように謎に満ち、不思議と惹きつけられてしまう引力のある遠野氏であるが、こうした事実から人物像を推しはかるならば、あまり目立ちたがらず、ハマったゲームとパートナーを愛する素朴な人物だったように思えてならない。
最後に、誰もが知る事実を記して筆を置こうと思う。
────『Arca Storia』は、今も我々の『もう一つの世界』としてそこに在り続けている。
────────────
これにて番外編更新も一旦締めたいと思います。
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