おそらく、僕だけ違うゲームをしている。

鵩 ジェフロイ

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番外編

小話:1周年記念イベント -準備-

本日2話投稿分の2話目です。

────────────


 さて、『使者』の演出まわりはあらかた決まって、運営に提案して承諾をもらったので、あとはイベント開催を待つだけなのだが……。


「どうしてこんなことに……」
「俺がききてぇよ」


 僕の呟きに僕の腰と手に腕をまわしているバラムがため息混じりにいう。

 今、僕たちはお互いに身体を密着させてステップを踏んでいる。

 いわゆる社交ダンスというやつだ。

 もうひとつの大きなイベントとして『舞踏会』があると伝えるとノーナが「それではお教えします」と有無をいわさずダンスレッスンが始まってしまった。

 そしてまぁ……どうやらプレイヤーと盟友関係であれば住民NPCも参加できるようだと伝えると、バラムもレッスンを受けることになってしまった。
 しかもリード役として僕よりも厳しく指導を受けてしまっている。

 シルヴァは人型でしかできないダンスは興味がないのか、とばっちりを避けたのか、さっさとどこかへいってしまった。

「我が君がついていけていませんよ、貴方がリードするのですからもっと我が君の動きとリズムに寄り添いなさい。夜狗よ」
「ぐっ……」

 僕がステップをトチると、バラムに叱責が飛ぶ。

「僕が運動音痴なばかりに、すまない……」

 申し訳なくて、視線をさげる。
 姿勢をキープしないとまた指導されてしまうし、なにより不恰好だからな。
 せめて姿勢だけはキープしようと努めている。

「……いや。《舞踏》を獲得すればなんとかなるだろ」
「ああ。今少しつき合ってくれ」

 行動経験値で《舞踏》を獲得できれば、もっとバラムに苦労をかけることも少なくなるだろう。……まったくかけなくなるとはいえない。

 ちなみにバラムはちょっとステップを踏んだらすぐに《舞踏》を獲得していた。
 なんなら技能を獲得する前からある程度踊れていた。

 バラムはフィジカルなアクションが全般的に得意で獲得しやすいということなのだろうか。
 《古ルートムンド語》などはかなり時間がかかっていたし。

 ……うーん、僕はむしろ踊る側よりダンスミュージックを演奏する側にまわったほうがいいのでは?

 などと考えながら、ほとんどバラムに抱えられるようにしてくるくるまわることしばらく。


〈これまでの行動から技能《舞踏》を獲得しました〉


《舞踏》
消費AP:-
テンポに合わせて舞うアクションに対して、正確さや効果が補正される。
常時発動。


 やっと望みの技能を獲得することができた。

「お疲れさまです、我が君。今日のところはここまでにしておきましょう」

 “今日のところは”……?

「……次があるのか?」
「ええ」
「そ、そうか……」
「それでは御前失礼しますわ」

 そういって一部の隙もなく優雅に膝を折ると、ノーナは闇に溶けるように姿を消した。

 ぼんやりノーナの去った場所を見ていると、首の後ろに大きくあたたかな手が添えられる。

「まぁ、俺の足を踏むようなことはほとんどなかったし、案外向いてんじゃねぇか?」
「う、ん……」

 バラムなりに僕を慰めてくれているのだろう言葉に胸がきゅうっとする。

 しかし。

「せめてバラムを煩わせないようになれるまで頑張ろう」
「別にほどほどでいいだろ」
「……そのレベルになるまでは」

 “ほどほど”のレベルも、人それぞれ認識に大きな違いがあるものだ。

『わたくしとしたことが、いい忘れておりました』
「むっ……?」
「あ?」

 ここで突然ノーナからウィスパーが入る。バラムも反応しているので、僕とバラムに向けられたものらしい。

『我が君、舞踏会に参加するにふさわしい装いを考えておいてくださいませ。もちろん、夜狗も我が君に恥をかかせない装いをするように。調和も考えるのですよ』

 そう用件だけいうと、ウィスパーがすぐに切れた。

「……好き勝手いいやがって……」

 バラムがこめかみに青筋を立てている。静かにだが激しく怒りをためているようだ。

「ま、まぁ、こんな機会でもないと、僕もバラムも新しい装備なども作らないから、気分転換に仕立て屋にいってみないか」
「……チッ。いいだろう」

 なんとかバラムをなだめ、つぎは舞踏会用の服を考えにいくことになった。

 ということで、日々シルヴァやノーナの手によって魔改造がされている城と最近できた城下町的なところの一角にある『シェイマスの仕立て屋』へと向かう。

「おや、トウノさまにバラムさま。ご機嫌麗しゅう」

 店に入ると、首に紐のような巻き尺、テープメジャーをかけた初老の羊獣人の男性が慇懃いんぎんに礼をとる。
 『羊獣人』の『仕立て屋』でおや、と思ったかもしれないが、彼はユヌで仕立て屋をかまえるベイヴィルという羊獣人の老婦人のいとこだ。

 闇の世界へのギルドの配備が進むにつれて、あまり大々的にはしていないがギルドの審査がおりたものはこちらへの出店や移住ができるようになっている。プレイヤーには悪いが、今のところ住民NPC限定で。

 そこでやってきたのが花と芸術の町『サンクシス』で仕立て屋を営んでいたベイヴィルのいとこのシェイマスだ。

 ベイヴィルから僕のことや持ちこむ素材について聞いていてとてもうらやましかったとか、闇の世界の未知なる素材にいてもたってもいられなかったとかで、すでに営んでいた店を娘夫婦に即座に譲って身ひとつでこちらに飛びこんできた。

 さすが花と芸術の町で店をかまえていただけある……のかはわからないが、なかなか情熱的な行動をする人物だ。

「本日はどのような御用向きでしょうか」
「実は今度ほとんどの異人が参加する催しがあって……」

 と、僕はシェイマスに『神に捧げる舞踏会』の内容と、それに参加する際の装いを見繕えないか相談にきたことをかいつまんで説明した。

 説明をきいたシェイマスが興奮気味に前のめりになる。

「なんと、そのような祭典が……! トウノさま、ぜひ私におふたりの服を仕立てさせていただきたく……!」
「あ、ああ、そのつもりだ」

 僕は勢いに気圧されつつもうなずいた。バラムが滑るように僕とシェイマスのあいだに身体をいれる。

「こほん。失礼、つい年甲斐もなく興奮してしまいました。私に任せていただけるとのこと恐悦至極にございます」

 我に返ったシェイマスがひとつ咳払いをしていつもの洗練された老紳士風の振る舞いをとりもどして礼をとった。……まぁ“こちら側”の者にしてはだいぶ慎ましいほうなのでなにも問題はない。

 そんなこんなでシェイマスとどんな装いを用意するか詰めていった。

 イメージのためだとかでその場でバラムとひと踊りさせられたり、僕の根を繊維状にしたものを布の素材として提供したりといろいろした。

 さらにはその後ノーナからも糸が提供されたとシェイマスが興奮気味に語っていた。


 ……ノーナの糸って……それ素材として使って大丈夫なやつなのだろうか?


 ノーナの提供した糸がだれかの運命だったりしないことを願いながら、どんな装いにするか詰めていった。





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6月21日の初投稿日(ムーンさんのほうで)まで毎日投稿予定です!
また少しの間ですがよろしくお願いしますー!(-人-)

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