おそらく、僕だけ違うゲームをしている。

鵩 ジェフロイ

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番外編

小話:1周年記念イベント -舞踏会(下)-

 先ほどまで流れていた華やかで弾むような音楽が終わったタイミングを見計らって、バラムとともにダンスホールへ降りて向かいあう。

 音楽が始まる前のなんとも言えない手持ち無沙汰感が落ち着かなくてほんの少し身じろぎをする。
 そんな僕にバラムが顔を近づけてささやく。

「緊張してんのか?」
「いや、そこまでではない」
「はっ、そうか。さっさと終わらせて帰ろうぜ」

 にやりと笑いながらそういうと、僕の手をとって口づける。
 バラムはたまにこういうキザなことをするが……まぁ、くすぐったいがうれしい。

「ふっ……そうだな」

 そうしているうちに、静かに、つぎの曲が始まった。

 出だしの雰囲気としてはしっとりと優美だが、深いところに重厚感が潜んでいるような旋律だ。

 曲に合わせてバラムが動きだす。
 手と腰に腕をまわされている僕も自然、それに合わせて足を動かす。

 練習の成果か、《舞踏》の補正のおかげか、割とスムーズに踊れている……気がする。
 まだゆったりとした曲調だからかもしれないが。

 ノーナによるとダンスとは、技量以前に相手の動きや呼吸を感じて信頼してゆだねていくものらしい。

 ほかの者とではむずかしかっただろうが、バラムとならばそれは自然とできる感触がある。

 自分のあらゆる感覚でバラムを感じとればいいだけだ。

 力強くもやさしくリードする腕、この程度の動きではすこしも乱れない呼吸、僕を捉え続ける瞳……僕もバラムだけを見つめ続けて呼吸に寄り添った。


「……ふっ」


 この吐息混じりの笑みはどちらのものだったろうか。
 どちらのものでもあったかもしれない。
 
 なにせ、踊っているとまるでふたりがひとつになったような感覚がして、身体が舞いあがってしまうのではないかと錯覚するほど気分がよかったから。

 きっと、相手も同じ感覚だろうことがわかるから。

「わっ」

 しかし、ここでバラムが大きく動き、僕はバラムに促されるままくるくると回りながら手が離れないギリギリまでバラムと離れる。
 
 それをきっかけに動きがどんどん大胆に、踊りの難易度があがっていく。《舞踏》の補正のおかげか今のところトチってはいないが、少しハラハラしてきた。

 そしてついに、手が離れて放られてしまう。

「う、わ……え?」

 しかしトチることはなく、バラムのリードなしでも流れるようにステップを踏み、無事、その先にいたバラムに受けとめられた。
 ……技能の補正ではないアシストを身体に感じる。

 周囲に目をめぐらせる余裕はないので《慧眼》で自分の視野外のようすをうかがうと────僕の周囲にものすごい数のピクシーが集まっていた。

 ……状況から鑑みるに、このピクシーたちが僕のダンスのアシストをしてくれているらしい。

 それどころか……。

「いや、ちょっと、まっ……」


 ────ピクシーたちに持ちあげられて、宙に浮かんだ。


 今まであまり気にしていなかったが、ホール全体が大きくざわついたのはさすがにわかった。

 ……まぁ、それはそうだろうな……。

 バラムはというと、こともなげに僕のところまできて当たり前のように空中で踊っている。
 直接的な戦闘技能ではないからか《月追い》という空中を地面と同じように踏みしめられる技能が使えているらしい。

 僕はというと、一応今も装備している『深根環柢の編纂士装束』の羽衣を《羽変化》させれば自力で飛べるが、《羽変化》させてしまうとそのまま月神の使者と同じ羽になってしまうので、せっかくミスリードを入れた意味がなくなってしまう。

 ……仕方ない、ここはもうバラムとピクシーたちに任せよう。

 ということで僕は最低限の姿勢維持だけして脱力し、されるがままの状態となった。

 浮遊状態はそれなりに慣れているし、なにより足の動きをそんなに考えなくていいのは気が楽だった。
 ……今さら理解したが、僕はどうやら下半身を動かすのがとくに苦手なようだ。


 いつの間にか、音楽もラストに向かってボルテージがあがっていっていて、それに合わせてバラムとピクシーの動きがさらに大きくなる。

 このころになるとバラムとだけでなく、この会場のピクシーすべてと一体化しているような感覚に意識がぼんやりとしてきていたが、自分を見失わないようにずっと赤みのある錆色の瞳だけを見ていた。

 そして、音楽が大きくうねりをあげてのぼりつめていくと同時に腰と手を強く引かれて、僕の上半身は後ろに倒れこむように落ちる。

 それを追ってくるようにバラムの顔が迫ってくる。


 ────そして音がいっせいに止んだと同時に、唇にぬくもりが落とされた。


 ……。

 …………ん?


 あ。


 ……会場にいる人のほとんどがこちらを見あげてポカンとしているのが視えた。
 まぁ……それはそうだろう。

 ちなみにダンスホールの隅でノーナはやれやれという感じで顔を振っていて、シルヴァは愉快そうにニヤニヤと笑っていた。

「バラム……」

 少し咎めるように未だ鼻同士が触れ合ってしまいそうな距離にいる相手の名を呼ぶ。

「はっ、さすがに奴らに見せちゃいねぇよ」

 ニヤリと笑いながらバラムがいう。

「うん? ……ああ」

 なるほど。
 まだ僕たちは宙に浮いている関係で、少し腕の位置を調節すれば、決定的な瞬間はうまく隠せているようだった。

 ……いや、周囲の反応からしてそれに意味があったのかはわからないが。

「そんなことより、ひと踊りして月神にも十分すぎるくらいいろいろと捧げてやったんだ。帰るぞ」
「それは……まぁ、今日のところはよさそうだな」

 バラムの提案にノーナに視線を向ければうなずきが返ってきたので、いったん今日はもう踊らなくてもよさそうだ。

「よし」

 帰宅許可がおりたことでバラムは機嫌よく僕の腰を抱き寄せる。

「ふぅむ……せっかくだし、去り方もひと工夫するか」
「あん?」
「ピクシーたち、頼む」

 僕がピクシーになんとなくしてほしいことを念じると、そのとおりに僕たちの周囲に集まって渦巻くように動いてくれた。

 外からは僕たちの姿が確認できなくなっているうちに、イベントエリアからでて、そのあとにピクシーたちに散開してもらえればいいだけだ。

 そうしたらなんかこう、いい感じに退場したように見える……はずだ。


 こうして僕は半ばヤケクソ気味に、バラムは機嫌よく舞踏会イベントエリアをあとにする。


 その後はたまに舞踏会イベントエリアで踊ったり、ほかの1周年記念キャンペーンやミニイベントなどを楽しんだ。



 ……今はまだ1年だが、これから何年、何十年とこの世界が続くように全力を尽くそう。

 そう、密かに決意を新たにした。



────────────

本日で初投稿(ムーンさんで)から1年でした!
楽しんでいただけましたら幸いです(*´︶`*)

21日まで投稿するといいましたが、明日あと1話投稿します…!(-人-)
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