木望の葉っぱ 〜窓辺から世界へ〜

文字の大きさ
1 / 1

木望の葉っぱ 〜窓辺から世界へ〜

しおりを挟む
『木望の葉っぱ ~窓辺から世界へ~』

 わたしは、病院の庭に立つ一本のクスノキ。
 窓辺で本をめくる少年を、毎日そっと見守っている。

 小さな手にはチューブがつながれ、動くことも外に出ることもできない。
 それでも、窓の向こうに広がる空や風を、きっと心で感じているだろう。

 ——あの子の世界を、少しでも広げられないだろうか。

 わたしは動けないけれど、根を張れば土の奥で遠くの木々や植物と話せる。
 砂漠のサボテン、熱帯のラフレシア、森の大木たち。
 枝を揺らしながら呼びかければ、みんなの知恵が届くかもしれない。

 「病院の子に希望を届けたいんだ。どうしたらいい?」

 風に揺れながら声を乗せる。

 海の松が答えた。
 「歌や香りで励ますのはどうだろう?」

 ラフレシアは、花びらをゆらして言った。
「強く生きることを、そっと伝えてあげるのもいいね」

 みんなの意見は優しいけれど、少年には届かない。
 声だけでは、空気を越えられないのだ。

 そのとき、大木がゆっくり教えてくれた。
「人間には“つながる道具”があるらしいぞ。遠くの人と、言葉や気持ちを交わせるものだそうだ」

 ——“SNS”か。
 よくわからないけれど、きっと少年の世界を広げる“根”になれるに違いない。

 ある夕暮れ、風に飛ばされ葉っぱが窓にぴたりとくっついた。
 太陽の光が差し込み、壁にゆらゆらと影が揺れる。

 影には三つの文字が浮かんでいた。
 「人」「交」「楽」——

 少年の目がぱっと見開く。
 小さな手が、そっと葉っぱに触れる。
 その瞬間、心にふっと温かさが広がった。

 「……SNS、やってみようかな」

 小さな声が、部屋に響く。

 翌日から、少年は窓辺で少しずつ投稿を始めた。
 窓から見える空、庭のクスノキの姿、ささやかな発見。
 短い言葉と写真を世界へ届ける。

 知らない誰かが返してくれるやさしいコメント。
 少年の目は、初めて見る世界の色で少し輝いた。

 わたしは枝をそよがせ、葉を揺らす。
 ——窓辺から、世界へ。

 小さな葉っぱの魔法が、少年の心に根を張り、世界へと伸びていく。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

童話短編集

木野もくば
児童書・童話
一話完結の物語をまとめています。

松野井奏
児童書・童話
月とぼうやは眠れぬ夜にお話をします。

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

パンティージャムジャムおじさん

KOU/Vami
児童書・童話
夜の街に、歌いながら歩く奇妙なおじさんが現れる。 口癖は「パラダイス~☆♪♡」――名乗る名は「パンティージャムジャムおじさん」。 子供たちは笑いながら彼の後についていき、歌を真似し、踊り、列は少しずつ長くなる。 そして翌朝、街は初めて気づく。昨夜の歌が、ただの遊びではなかったことに。

そうして、女の子は人形へ戻ってしまいました。

桗梛葉 (たなは)
児童書・童話
神様がある日人形を作りました。 それは女の子の人形で、あまりに上手にできていたので神様はその人形に命を与える事にしました。 でも笑わないその子はやっぱりお人形だと言われました。 そこで神様は心に1つの袋をあげたのです。

イチの道楽

山碕田鶴
児童書・童話
山の奥深くに住む若者イチ。「この世を知りたい」という道楽的好奇心が、人と繋がり世界を広げていく、わらしべ長者的なお話です。

かぐや

山碕田鶴
児童書・童話
山あいの小さな村に住む老夫婦の坂木さん。タケノコ掘りに行った竹林で、光り輝く筒に入った赤ちゃんを拾いました。 現代版「竹取物語」です。 (表紙写真/山碕田鶴)

処理中です...