【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄

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1.わがまま


 寒の戻りか、冷える廊下に身を縮めつつ歩き、リビングへと足を踏み入れた。ぼんやりとした頭で水でも飲もうかと考えていると。ふと。オレは違和感を覚える。
 なぜだか部屋が暖かい? さらに見上げれば電気も煌々とついている……。オレは困惑しあたりを見回すと――。

「――え……っ兄さん!?」

 どうしてだかこちらに背を向けダイニングテーブルに伏せる兄がいた。オレは早足に兄の座る椅子の左側へと回りこみ、瞳の閉じたその横顔を勢いよく覗きこむ。 
 スーッ……。
 耳に入ったのはかすかな寝息だった。オレは止めていた息を吐く。寝ているだけなら、よかった。
 腕を枕にテーブルで眠る兄のまわりを見れば、チューハイの缶が二本。とりあえず飲み残しを零さないようにキッチンへと回収しておいたが。

 しかし、それにしても珍しい。
 兄が自宅でお酒を飲むことはあるけれど、そのままリビングで寝てしまうのを目撃するのは初めてだった。お酒にはそこまで弱くないのかな、と思っていたのだが……。もしかしたら疲労で殊の外酔いが回りすぎたのかもしれなかった。
 研究職の兄はこの頃忙しいみたいで帰りが遅い。じきに仕事は落ちつくから、と言ってはいたけれど。
 天井近くのエアコンを見る。運転ランプが点灯しているし暖房が入っているのだろう。これなら兄が風邪ひくことはないはずだ。
 壁掛け時計は朝七時を数分すぎたところ。今日は日曜日で、両親が起きてくるのはたぶん九時以降になる。

 はからずも訪れた、兄と二人きりの静寂な時間。……オレは神にでも試されているのだろうか。
 今度は腰をかがめてそろりと兄の横顔を見下ろした。久しぶりにまじまじと見る兄の顔。まつげは長く、鼻筋も通っていて相変わらず美しい人だ。
 けれども顔色はよくないし、うっすらと隈もある。疲れが見てとれていっそう心配が募ったのだった。
 やはり、一度起こしたほうがいいのか。兄も恐らく今日は休みだし、疲れているのならなおさらベッドで体を休めたほうがいいだろう。
 ……なんて考えつつも、視線は兄に向けたまま動かないオレ。
 もう少しだけ、寝入る兄を見ていたいのだ。あと、ちょっとだけだから……。
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