1 / 5
1.わがまま
寒の戻りか、冷える廊下に身を縮めつつ歩き、リビングへと足を踏み入れた。ぼんやりとした頭で水でも飲もうかと考えていると。ふと。オレは違和感を覚える。
なぜだか部屋が暖かい? さらに見上げれば電気も煌々とついている……。オレは困惑しあたりを見回すと――。
「――え……っ兄さん!?」
どうしてだかこちらに背を向けダイニングテーブルに伏せる兄がいた。オレは早足に兄の座る椅子の左側へと回りこみ、瞳の閉じたその横顔を勢いよく覗きこむ。
スーッ……。
耳に入ったのはかすかな寝息だった。オレは止めていた息を吐く。寝ているだけなら、よかった。
腕を枕にテーブルで眠る兄のまわりを見れば、チューハイの缶が二本。とりあえず飲み残しを零さないようにキッチンへと回収しておいたが。
しかし、それにしても珍しい。
兄が自宅でお酒を飲むことはあるけれど、そのままリビングで寝てしまうのを目撃するのは初めてだった。お酒にはそこまで弱くないのかな、と思っていたのだが……。もしかしたら疲労で殊の外酔いが回りすぎたのかもしれなかった。
研究職の兄はこの頃忙しいみたいで帰りが遅い。じきに仕事は落ちつくから、と言ってはいたけれど。
天井近くのエアコンを見る。運転ランプが点灯しているし暖房が入っているのだろう。これなら兄が風邪ひくことはないはずだ。
壁掛け時計は朝七時を数分すぎたところ。今日は日曜日で、両親が起きてくるのはたぶん九時以降になる。
はからずも訪れた、兄と二人きりの静寂な時間。……オレは神にでも試されているのだろうか。
今度は腰をかがめてそろりと兄の横顔を見下ろした。久しぶりにまじまじと見る兄の顔。まつげは長く、鼻筋も通っていて相変わらず美しい人だ。
けれども顔色はよくないし、うっすらと隈もある。疲れが見てとれていっそう心配が募ったのだった。
やはり、一度起こしたほうがいいのか。兄も恐らく今日は休みだし、疲れているのならなおさらベッドで体を休めたほうがいいだろう。
……なんて考えつつも、視線は兄に向けたまま動かないオレ。
もう少しだけ、寝入る兄を見ていたいのだ。あと、ちょっとだけだから……。
あなたにおすすめの小説
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
出戻り王子が幸せになるまで
あきたいぬ大好き(深凪雪花)
BL
初恋の相手と政略結婚した主人公セフィラだが、相手には愛人ながら本命がいたことを知る。追及した結果、離縁されることになり、母国に出戻ることに。けれど、バツイチになったせいか父王に厄介払いされ、後宮から追い出されてしまう。王都の下町で暮らし始めるが、ふと訪れた先の母校で幼馴染であるフレンシスと再会。事情を話すと、突然求婚される。
一途な幼馴染×強がり出戻り王子のお話です。
※他サイトにも掲載しております。
上手に啼いて
紺色橙
BL
■聡は10歳の初めての発情期の際、大輝に噛まれ番となった。それ以来関係を継続しているが、愛ではなく都合と情で続いている現状はそろそろ終わりが見えていた。
■注意*独自オメガバース設定。■『それは愛か本能か』と同じ世界設定です。関係は一切なし。
罰ゲームって楽しいね♪
あああ
BL
「好きだ…付き合ってくれ。」
おれ七海 直也(ななみ なおや)は
告白された。
クールでかっこいいと言われている
鈴木 海(すずき かい)に、告白、
さ、れ、た。さ、れ、た!のだ。
なのにブスッと不機嫌な顔をしておれの
告白の答えを待つ…。
おれは、わかっていた────これは
罰ゲームだ。
きっと罰ゲームで『男に告白しろ』
とでも言われたのだろう…。
いいよ、なら──楽しんでやろう!!
てめぇの嫌そうなゴミを見ている顔が
こっちは好みなんだよ!どーだ、キモイだろ!
ひょんなことで海とつき合ったおれ…。
だが、それが…とんでもないことになる。
────あぁ、罰ゲームって楽しいね♪
この作品はpixivにも記載されています。
運命の番は僕に振り向かない
ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。
それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。
オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。
ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。
ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。
ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。
ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。
完結しました!ありがとうございました。
【BL】無償の愛と愛を知らない僕。
ありま氷炎
BL
何かしないと、人は僕を愛してくれない。
それが嫌で、僕は家を飛び出した。
僕を拾ってくれた人は、何も言わず家に置いてくれた。
両親が迎えにきて、仕方なく家に帰った。
それから十数年後、僕は彼と再会した。
運命の番なのに別れちゃったんですか?
雷尾
BL
いくら運命の番でも、相手に恋人やパートナーがいる人を奪うのは違うんじゃないですかね。と言う話。
途中美形の方がそうじゃなくなりますが、また美形に戻りますのでご容赦ください。
最後まで頑張って読んでもらえたら、それなりに救いはある話だと思います。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。