コーヒーの苦味に砂糖を一杯

茶雲

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人生最期に告白したのは君でした。

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2057年11月5日
滝雲遙
目が覚めたら真っ白い天井…何故か上を向くことしか出来ない…ここはどこ…
「ぁぁ、こ…こ…ぁ…。」
上手く言葉が出ない…何で…
目も上手く開けられない、身体も動かない…
頑張っていないと目が閉じていく…分からないことが多くて眠りたくないのに…
………
看護師A
「滝雲さんが一瞬だけ、意識が戻りました。
しかし、また眠りについてしまいました。」

医者A
「一瞬でも意識が回復したなら、あとは彼女の意志に任せるしかない…。」

風鈴奏多(ふうりんかなた)
「すいません。学校の実習生で何も知らなくて本当に申し訳ないのですが、質問して大丈夫ですか?」

医者A
「大丈夫だよ。何でも聞いてね。」

風鈴奏多
「あとは彼女の意思に任せるしかないとはどういうことですか⁇」

医者A
「彼女の身体は手術で治せたけど、回復するかは本当に彼女自身の意思に任せるしかない…。彼女自身で生きたいと願って、できなくなっている自分を受け入れて頑張ってもらうしかないんだ…。」
「私達にはそれしかできないんだ…。精神的ケアもしなきゃいけないが、こんなに田舎の病院だとそういう人がいなくなっちゃってね。精神的ケアの上手い人もどんどん都会の人にスカウトみたいに引き抜かれてしまって…。」
「奏多さんは確か介護の人を目指しているんだっけ?」

風鈴奏多
「頑張って目指そうと思っています。」

医者A
「それだったらなおさら申し訳ない。施設じゃなくて病院でごめんね。しかも田舎の。」

風鈴奏多
「実習の受け入れをしていただいて嬉しいです。」

医者A
「14日間しかないけど、どんな人を見てみたいとかある⁇」

風鈴奏多
「もし、できるならば滝雲遙さんを話してみたいです。私の目指してるのが精神的ケアも身体的ケアもできるような介護士を目指してるので。」

医者A
「基本的に同性介護だったけど、話しをするくらいなら大丈夫だよ。」

風鈴奏多
「ありがとうございます。」

滝雲遙
うるさいな…意味は分からないけど何かが聞こえる。最後に話した人の声はなんとか聞き取れるけど、他の人の声は全くわからない…
 
風鈴奏多
「滝雲遙さん。おはようございます。実習生の風鈴奏多と申します。短い期間ですがよろしくお願いします。」

滝雲遙
「奏多…⁇。」

風鈴奏多
「そうです‼︎奏多です。名前を呼んでくれて嬉しいです。滝雲さんが返信をしてくれました。」

医者A
「滝雲さんが話した‼︎本当に⁇。」

風鈴奏多
「私は24歳、奏多って言います。よろしくお願いします。」

滝雲遙
「よ…ろしく。」

相変わらず彼の声しか聞けないな…滝雲遙って私だよね。私について何か話してるのかな…身体も上手く動かないしはっきり顔も見れないし…何でこの状態なのかわからないけど、こんな状態になるんなら死にたかったな…。

「そ…そこの奏多…私を…殺して…。」


風鈴奏多
「一緒に心中したい⁇一目惚れした君とならしてもいいよ。でも、それはもったいないよ。遙さんくらい可愛いなら立派な美人局になれるよ。」

滝雲遙
モデルじゃなくてアイドルでもなく美人局って…
「ぶぶっ。」
……
そんな失礼なことを言う人の顔を見たい。今は身体が動かないけど、動くようになってこんなことを言ったやつを殴りたい。いつまでも横になっているわけにはいかないな。

風鈴奏多
「お父さんの許可も得られました。遙さん僕と結婚をしてください。」

滝雲遙
(意味が分からない…さっきは意味が分からなくて笑っちゃったけど、声しか分からないよ。目線の高さを気にしてるのかもしれないけど、君の顔を見せてよ。)
(って待ってよ。私、顔も分からない人と結婚させられるの…嫌だ…嫌だ…。)

風鈴奏多
「このくらいの距離からなら目を合わせても大丈夫かな。改めてこんにちは。風鈴奏多って言います。先程は言葉だけでごめんなさい。私は遙さんと初めて会い、一目惚れしました。君の隣で守っちゃダメですか。」

(プロポーズってこんな感じで大丈夫かな…。初めて会ってプロポーズは流石に引かれることだって分かってはいるけど、はじめてこんなにドキドキしたんだ。だから自分の気持ちを信じたい。)

滝雲遙
(あれ⁇若い…。はじめて会ったのに求婚なんて相続税狙いとか、結婚詐欺の人かと思ったけど若い…。でも、美人局って言葉知っていたしな…。怪しい…。)

(けど、はじめは死にたいって思っていたけど、笑ったり反論的なことを考えたりずっと彼のこと考えてるな。彼と一緒なら死にたい気持ちから逃げることができるかな…。)

(そして、いつかこの気持ちを克服して幸せになれるかな…。そんなことを考えてたら彼ともっと一緒にいたいな。死ぬことしか考えていなかった私を前向きにしてくれたから彼が詐欺師だったとしても幸せだったって言えるよ。ありがとう。)

「私は…あなたの、美人局になります。あなただけの美人局にならせてください。」

風鈴奏多
「ありがとうございます。遙を必ず、幸せにします。」

その日から毎日、彼は病室に来てくれて一緒にリハビリや元気付けに来てくれた。

私は奏多が来てくれたから私の生きる目的となり毎日が楽しく感じることができた。

彼が来た時だけ頑張って元気そうに振る舞ったが、日に日に筋肉が落ちていき今では目を開けることすら難しくなってきた。
 
滝雲遙
(あぁ、もう次が奏多との最後の幸せな時間かな…。幸せな人生だったな…。目が覚めて何もできなくなった時にはすぐに死のうと考えたけど、奏多に出会えて本当に幸せな時間を送ることができた…。生きる喜びを教えてくれてありがとう。)

ガタン
凄い音で扉が開いた。

風鈴奏多
「遙‼︎。」

滝雲遙
(私の体力が尽きるまでに来てくれた…。本当に幸せだったな…。)
私の手足の先から感覚がなくなっていくのを感じ、視界に奏多の顔をいっぱいにして。
「奏多…あり、がとう…幸せ…でした…奏多のことが大好きです…お嫁さんにしてください…。」

風鈴奏多
「あぁ、俺のお嫁さんになってくれ…。」


私にはもう、何も聞こえなかった…

「………さん。」
「……さん。」
……
……
「……さん。」
「…さん。」

滝雲遙
聞こえないはずの声が聞こえる…
掠れた声だけしか聞こえないはずなのに、はっきりとした声が聞こえる
私は確かに死んだはず…

風鈴奏多
「遙。」

滝雲遙
ゆっくりと目を開けると奏多の顔がいっぱいにはっきりと見えた。
「奏多⁇。」
一度なくなった手足の感覚があり、時間が経つにつれて意識がはっきりとしてきた…
何で…
「私、滝雲…遙。」
声も出せるようになった…ここは天国…⁇

風鈴奏多
「天国じゃないよ。現実だよ。こうして遙と話すことができて嬉しいよ。」

滝雲遙
「何で…私、生きてるの…⁇」

風鈴奏多
「今の時代にはクローン技術が有効化されてるから遙が一度死んじゃったけど、意識だけをクローン体って言ったら変だけど、遙を生き返ることができたんだ。成功例はあったけど、確証が得られなかったから不安だったよ。」

滝雲遙
「どこからそんなお金が…。」

風鈴奏多
「誰にも言えなかったけど、宝くじで7億円当てて持っていたんだ。7億円で遙を助けられるならってクローン技術を使ったの。」

滝雲遙
「一生をかけて奏多に返済します。何でも言ってください。」

風鈴奏多
「僕が言いたいことは一つだけ。滝雲遙さん僕と結婚してくれませんか。自分が絶対に遙をもっと笑顔にします。そして、毎日が笑顔で溢れるような人生に一緒になっていきたいです。」
「僕と結婚してくれませんか。」

滝雲遙
「はい。私をあなたのお嫁さんにしてください。でも、返済もします。」

風鈴奏多
「はじめは美人局とか言ってごめん。遙の笑ってる姿を見てみたかったんだ。」

滝雲遙
「私はその時に思わず笑ったけど、笑えたからあの身体で少し長く生き続けることができたんだ。」

「でも、これからは笑顔で溢れる長い毎日が待ってるね。楽しみ。」

私は、作り笑顔ではなく久しぶりに心の底から笑顔が溢れていた。

風鈴奏多
「お父さん、僕と遙の結婚を認めて頂けますか。」

医者A
「あぁ、娘の笑顔を見せてくれてありがとう。遙と一緒にこれからも幸せになってほしい。」

滝雲遙
はじめはあんなに反対していたのに、奏多のことを信用してくれたんだ。

風鈴奏多
「ありがとうございます。遙と一緒にもっと幸せになります。」

2週間後私は病院を退院し、奏多の家に住むことになった。同じ時間を一緒に過ごせるなんてなんて幸せなんだろう。奏多に出会えて本当によかった。

幸せなことはこれだけではなかった。3年後私は新たな生命を授かった。

これからも幸せなことが続くように、奏多と一緒に助け合い苦難を乗り越えていきます。
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