最強竜騎士と狩人の物語

影葉 柚樹

文字の大きさ
上 下
10 / 105
原始の竜編

10話「ガルーダ国へ」

しおりを挟む
 原始の竜と共にアルスの故郷であるガルーダ国へ飛んだが、その道のりで思った以上の時間が掛かってしまった。ハルトに原始の竜がちょっかいを出してルーピンがそれに便乗するかのように甘え始めて飛ぶ事を拒んだのが原因ではあるのだが、原始の竜がハルトにちょっかいを出したのも本当なら竜騎士であり認めている存在のアルスが不在にしていたからだ。
 理由は簡単、ガルーダに戻ると家にするのと原始の竜の事を事前にガルガル本部に知らせておくようにと連絡をしていた為であり、アルス自身は連絡なんて不要だろうと考えていたがハルトが念の為に入れておくべきだ、と進言して連絡を入れる為に手紙を書いていたのが最大の理由ではあった。
 そうして通常なら2週間で到着するだろうガルーダへは1カ月を要して到着する事になる、ガルーダが見えてきた時原始の竜とハルトは初めて訪れる国である事も踏まえて興奮はしてないが、些か嫌な予感がしていたのは感じていたのだろう。

「不安そうだな?」
「不安、と言うか嫌な予感がしているんだ。何も起こらないならいいんだけれどさ」
『私も同意見だ。何かが起こるとしか考えれない』
「そんなのぶち当たってみないと解決策も考えれねぇだろ。考え過ぎるのも悪いが構え過ぎも疲れるぜ。もっと気楽に構えてみろって」
「アルスみたいに最強だって思えたら楽なんだろうけれどな。まずは本部に行く?」
「ある意味、俺は最強が似合い過ぎる男なんでな。あぁ、本部に原始の竜の事を報告しているし今後の対応を考えなきゃなんねぇ、ライオットの事もな」
『私の存在を認めればいいのだがな。人間は見た目で判断をする事もある、それが偽りの姿だとしたら滑稽ではあるものだが』
「竜様の言う通りだね。僕もこの童顔で年齢詐欺とかよく言われてイラッとする事も多いし、外見だけじゃその人間の本質を見極めれないだろって思う」
「(俺、何かハルトを怒らせる事したか?)」

 自分の背後で原始の竜と同調しているハルトにアルスは首を傾げていたが、ガルーダの中心地にあるガルガル本部の中庭にルーピンごと降りると、すぐに竜騎士達を統治している本部の竜騎士達である面々が出迎えてきた、皆が皆すぐにアルスの左肩に乗っている幼竜が原始の竜だと見抜き、竜語と呼ばれる竜騎士達だけに使われる言葉で原始の竜へ歓迎の言葉を紡いでいた。
 ハルトはルーピンから降りてぼんやりとルーピンの背に隠れている様な位置に立ってアルスと原始の竜を見つめていた、自分は少し場違いな場所にいるのは重々承知しているので気配を殺すのはハルトの得意技でもある。
 アルスが原始の竜の事をどうするかを話そうとしている時だった、建物の奥からアルスの事を呼ぶ声が聞こえてハルトも自然とそちらに顔を向けて声の主を確認しようとする。アルスは声の主にすぐに検討が付いたのかハルトにはまるで子供の様に喜んでいる様に見えてしまったが、アルスが深々と一礼している姿を見てアルスが敬愛している人物である事は伺えた。

「アルス、よく無事に戻った。原始の竜を孵化させ守り通した事も本当によくやった」
「サンキュ親父。あ、紹介しておくな。ハルト」
「あ、はい」
「ほう、彼が手紙に書いてあったお前が選んだ正真正銘の正妻に据える人か」
「そうだ。あんな女が正妻に居座られても迷惑だしな。その点ハルトはこの数年間で俺の動きも把握してサポートしているんだ。俺としてはハルトを正妻に据えて過ごした方が家の為にもなると思っている」
「初めまして、ハンターをしているハルトと言います。息子さんのアルスと旅をさせてもらい色々と学ばせてもらっています」
「うん、私はアルスの父のランドルだ。息子が君に無理をさせているかと思っていたが、見た感じではそんな印象もない。まだこのガルーダに来たばかりなのだ、少しずつ君の事を話してくれると嬉しい」
「はい。僕の事でよければお話はさせて下さい。アルス、ルーピンと待っているから色々と済ませてくるといい」
「あぁ、それじゃ親父真面目な話をするんなら中庭より部屋の方がいいだろう。ハルトとルーピンも休める場所が欲しい」
「分かった。すぐにルーピンとハルト君が休める部屋も用意しよう。ハルト君達を部屋に案内してあげてくれ」
「はい」

 アルスと原始の竜がランドル達と共にガルガル本部の奥へと向かったのを見届けたハルトは、他の竜騎士達に案内されてルーピンと共に休める大きな部屋に連れて行ってもらった、アルスの予想では数時間は拘束されると事前にハルトに話していたのでハルトは時間を潰せる様に薬草の詳細が書かれている本を事前にガルーダに来る前に購入していたので、それを見て時間を潰す予定である。
 ハルト達が部屋に案内された頃に本部奥の指令室にランドルと数名の竜騎士達と共に訪れたアルスは、肩から原始の竜を左手に移動させるとライオットの事や原始の竜の誕生の事を隠さないでありのままに伝えていく。
 全てを話し終わるとその場にいた全ての人間達は沈黙し、原始の竜がバサリと羽根を動かして飛び上がりランドルの肩に乗るまで誰も動きもしなかったが、ランドルが自分の右肩に乗ってきた原始の竜を優しく包み込むようにして両手を使って目の前に降ろすと、原始の竜に問い掛ける。

「原始の竜よ、少し私の問いにお答えしてはくれんか。アナタが目覚めたのは魔戦争の前触れか?」
『そうだ。私は魔戦争が起こる時に目覚める。それは繰り返されてきた歴史が記しているだろう。私は魔戦争で神々と共に魔族達を退ける役目を持つ。人間と共に魔族と戦い、そして神々の理想とする世界を作る為に尽力する。それが私の、原始の竜としての役目である』
「それではやはりあの事例は……」
「何かあったのか親父?」
『その様子ではヴァンキンが襲った事はまだほんの些細な出来事として捉えている様だな。考えられるにサファイブでも目覚めたか』
「その通りです。ナルミラ襲撃の情報がこのガルーダに届いた頃と同時期に山の方角に巨大なドラゴンが目撃された。今の所活動はしていない様だが、その確認された姿は伝記に残されているブラックドラゴンと判断している。サファイブ、それはブラックドラゴンの長であり獰猛かつ残虐な性格を持つドラゴン。それがこのガルーダの山脈に居座っているとなればあまりにも暢気に構えている時ではない」
「サファイブ、か。面白いな。原始の竜が目覚めると同時に大陸全土に色々な歴史生物が甦ってくる。戦い応えがあって俺は楽しいけれど」

 アルスはそう言いながら舌なめずりしてニヤリと笑っているが父のランドルはそんな血の気の多い息子に呆れるでもなく、ある事実を静かに話し始める。それはアルスが戻るまでに犠牲にした者達の名前であり、その中にアルスの身内になる名前も刻まれているのをランドルは話す。
 アルスもブラックドラゴンのサファイブが目覚めたと聞いて戦いたいとは思うが、犠牲になった者達の名前の中に自分の身内が含まれていれば些か血の気も落ち着くものだ。そうランドルが告げた名前の中にあったのはアルスが竜騎士として目指すキッカケをくれた父ランドル側の祖父の名前であった。

「父さんも竜騎士としての最後を全うして本望だっただろう。最後にお前の姿を見れなかったのが心残りかも知れないが」
「そっか、爺さんも逝ったか。なんだかんだであの爺さんは俺が竜騎士として過ごしている姿を見てないもんな。残念な事をした気もする」
「だが、そのお前がこのガルーダ国で一番の竜騎士である事に誇りを持っていたのも父さんだ。その想いを無駄にするんじゃないぞアルス」
「あぁ、分かっている。最強をものにしている俺に迷いはねぇよ。爺さんの誇りだった俺の活躍でサファイブも仕留めてみせる」
「一筋縄では行かない。ハルト君も巻き込む事になるだろう……それが竜騎士として生きるお前の宿命だと言っていい」
「ハルトも俺も、この旅を始めて覚悟はしている。例えそれが過酷過ぎていつかは死に別れたとしても後悔しないって話し合っている。俺もハルトもある目的を果たすまでは死ねねぇよ」
「その覚悟、しっかりと見せてみなさい」

 ランドルも気付いている。ハルトがどうしてアルスに信頼を寄せているのか、そしてこの旅の目的についても知らない訳じゃないだろうが口に出さないのはそれだけアルスを信頼している証拠でもあった。現在の本部を仕切っているのはランドルらしいので、アルスは原始の竜を一時的にランドルに預ける事にして原始の竜にそう告げる。
 原始の竜と分かれて部屋を出てハルトの元に向かうアルスの脳裏にはある日のハルトとの会話が思い出されていた。ハルトが自分の人生をアルスに捧げると決めた時の日に話した会話。それがあったからこそアルスはハルトをパートナーとして認め、必要と認め、そして……愛した。
 2人の間で交わされた強い決意と約束、それがどんなものかは知る事が出来るのだろうか。そして、2人は何を目的に旅をしているのだろうか――――。
しおりを挟む

処理中です...